前話の予告が大嘘になってしまいました。本来なら予告通りに進める予定でしたが思った以上に長くなり、今回またしても分割する形となります。
『やっぱり切断されちゃいましたね~。』
月光達の信号やスキットシステムは大方の予想通り途絶したが、活動拠点に残るアイラと青葉は事前に「魔法使いやダーカーに対しての警備を維持しつつ待機、あとは自由」という指示を受けていた。その指示の下、拠点周辺のパトロールしている青葉は対人・対魔力センサーを気にしつつのんびりと飛ぶ。
『現実時間で帰ってくるのは6時間後、魔法球内では72時間ですかぁ。どんなお土産があるんでしょうか?』
『分からない。その辺りは特に言ってなかったので。でも強化用の装備品とかは作りそう。』
拠点地下にいるアイラはナノクラでスクラップを分解し、不活性化ナノマテリアルを溜めていた。スクラップの山から鉄屑やプラスチック製品を引っ張りだしては分解する簡単な作業である。
しかしアイラ自身はこの動作を機体に記憶させ自動化し別の事をしていた。
『これ、見て欲しい。ダーカーの件も含めて警備体制とか見直したので。』
『むぅ~。改めて見ると結構範囲広いですねぇ。やはり警備要員を増やさないとダメそうですか。』
『人員を増やすのは難しい。だから加えてこういうのはどう思う?』
アイラが見せたのは爆発反応装甲の1ブロック分の様な機材の設計図。それは個人携帯が可能な対人レーダーで、これに対魔力センサーなどの高性能センサー類を追加して哨戒センサーを作って哨戒網を築こうと考えたのだった。これらの電源は活動拠点からケーブルを伸ばし念の為に擬装を施して供給するつもりだが、ナノクラと同時に稼働させるとセンサーの数次第では使用可能電力量がかつかつになってしまうのがネックであった。
『なるほどなるほど。これはいいですね!でもこれだけじゃ足りないような・・・。そうだ!これも追加で作ってみませんか!』
『これは・・・サイファー?』
『警備ということならこれが丁度いいと思います!MGS製なので高い安定性と静音性を持ってるのでオススメですよ!ちょっとサイズが大きいですけどね・・・。』
青葉の言うようにMGS2に登場したサイファーは夜間・悪天候の中、安定した飛行でソリッド・スネークの撮影に成功しているなど非常に高い性能を発揮していた。
陸空のこれら新たな装備を揃って運用すれば高い効果が得られると2人で判断し、青葉はパトロールを続けつつ設計の見直しを手伝い、アイラはそれを元に制作に取り掛かる。
一方の月光達。強い日差しの下、彼らは今いる場所は岬の小高い丘の頂上、幾つかの魔法陣が描かれた広場だった。
「ようこそ!ここが私達の秘密の箱庭ネ!」
「ここは人が入植する前の鹿児島県硫黄島を模しているそーですが、必要に応じて私達で手を加えてるんですよー。例えば発電設備や実験場と演習場とかー。」
「工場の類が見えないニャ?」
「あそこの風車とソーラーパネルの全部のケーブルが地中に向かってるみたいだニャ。」
「地下には何が?」
「フフフ、それはこれから案内してからのお楽しみ、ネ!」
魔法球の出入りするための一番大きい魔法陣から周囲を囲む5つの魔法陣の内の1つに乗った途端、どこかの部屋へ転移する。主要施設に設けられているという転移室は先日の会合時、月光(+アイラ)と超だけで行った隠し通路等の雰囲気ととても良く似ていた。
転移後、スピカが似たシチュエーションだったためか、ダイオラマ魔法球に入る前の事を思い出した様に聞いてくる。
「そう言えば隊長ー。ここに入る時、何か言いかけたニャ?」
「いやね、スイッチとかじゃなくて呪文、それも"開けゴマ"とは思ってもなくて。」
「正しくは声紋認証で転移する仕組みなんですよー。ちゃんとしたものはこういう仕組みは不要みたいですけどねー。」
「"Open Sesame"も元を辿れば、れっきとした呪文ネ。」
「それはそうなんだけど何かこう、"開けゴマ"だと違和感があるというか。」
「隊長、悶々としている所悪いが、着いたみたいだニャ」
転移室からここまで到着する。最初に案内されたのは何台かのディスプレイやキーボードによって占拠された壁二面とそれに囲まれるように座席のあるコントロールルーム。残りの一面はドアと大きなガラスによって隔てたサーバールーム。ここだけで島の全てを制御し、研究開発を行なっているという。
ちなみに通路を挟んで反対の部屋はマンションの一室のように衣食住が完備された生活空間があり、休憩部屋と呼ばれている。
葉加瀬が席に座ると慣れた手つきでコンソールを叩き巨大モニターに島の全景とその地上・地下の施設が3Dモデルで映し出される。
「はぇ~、すっごい大きい・・・。まるで要塞みたいだぁ・・・。」
「ならば火山にも地下通路と塹壕、それに隠し砲台も作らないといけないカナ?」
「決戦前の訓示は"敵十人を斃さざれば死すとも死せず"、で決まりだニャ。」
「アメリカ海兵隊とでも戦う気なんですかねぇ?」
「その硫黄島じゃニャいし太平洋と繋がって無いし、そもそもどこから敵が来るニャ・・・。」
「何のお話ですかー?」
地上の開けた土地や沿岸に目を向けると実在のものよりも大規模な飛行場と港、島中心部は山も含めて市街地のセットも作られた演習場と地下格納庫を繋ぐミサイルサイロの様な構造の大型エレベーター、火山周辺の地上採掘施設、風車やソーラーパネルなどの発電関連施設。
最大深度500mに達する地下にはコントロールルームとサーバールームを始め、各種発電・蓄電設備を備える発電所、大型エレベーターを中心に幾つもの階層・区画に分かれる格納庫、ナノマテリアルクラフターが数基設置されている生産工場、魔法球外からの物資を搬入出を行う大魔法陣を備える転送室と隣接する貯蔵庫、火山周辺の地下採掘場、島の北側は岸壁をくり貫き地下施設と海を直接行き来できる地下港など。そしてこれら施設の殆どには電動トロッコの線路が張り巡らされていた。
特に格納庫内では各階層・区画だけでなく中心の大型エレベーターと南北の壁にある補助エレベーターや、壁面に沿って螺旋状に各階を繋ぐスロープにまで線路が牽かれ、トロッコが地下施設内における重要な輸送手段となっている。
3Dモデルで島の設備について簡単な説明を受け、そのモデルデータをダウンロードし地下施設の見学に出発するが、広大な地下を移動するには徒歩は流石に大変である。そこで普段から使用しているという"シグウェイ"と名付けられた電動立ち乗り二輪車を使わせてもらう事になった。
「これどう見てもセグ○ェイだよね?」
「確かに外見はセ○ウェイですけど、中身は私が独自開発したジャイロシステムと自動操縦機能、そして非接触電力伝送方式をシグウェイとこの施設全体に採用しているので充電する必要なんて無く、最高速度は30km/h。はっきり言って別物ですよ。」
技術自体には興味があるものの理論についてはさっぱりで、葉加瀬の解説が理論関係にまで発展すると半分ぐらい話を聞き流す。
シグウェイにはTRIPOD3機で再び合体して乗ると主要施設を巡るため出発する。第1階層の格納庫はターミナルの様になって島内の各施設に通路が通じており、これより下の階層にはT-ANK-α3、通称田中さんや多脚戦車型ロボットBUCHIANAとその改良型SUPER-BUCHIANA、他数種のロボットの試作機が保管されているらしい。
発電所、空港、港、地下港と様々な施設を見終わり最後に向かうのは生産工場と貯蔵庫と転送室。これまでの施設と違い通路は短く、直ぐに重厚なゲートへ辿り着いた。この先が生産工場と関連施設だという。葉加瀬がゲート近くの端末を素早く操作するとその見た目とは裏腹に滑らかに動き出す。
「ここが私達の計画の根幹を成す施設ネ!」
開かれたゲートの先には、いずれも身の丈を超える水槽のような物を含んだ機材が、一番奥に天井まで届くぐらいの物が1つ、それに比べて中小サイズの物が奥に続く線路と通路の左右に並んでいた。
「
「君達にあげたのは持ち運び可能なタイプだが、ここにあるのはより大きな物を生産するのに効率が良いタイプだヨ。3Dプリンターで言えば光造形方式や粉末方式に近いカナ?」
「うーん、全くイメージが沸かないなぁ。」
「両方似てますし大雑把に言うと、素材を薄く敷いては作る物の形状に合わせてくっつけたり硬化させたりを繰り返す方法なんですー。この装置の場合ですとこの生成槽いっぱいにナノマテリアルを充填して、そこへデータと一緒にエネルギーを注入すると作りたい物が出来るんですよー。それで最後に余剰のナノマテリアルを回収して完成ですー。」
「あ~なるほど、なんとなく分かった。今日もらったのとは全く違うのか。」
月光達に譲られたナノマテリアルクラフターは正しくは"携行式小型極小物質分解・再構成装置"と言うらしいが、元々あの拠点に据え置く予定なので、持ち運びしやすかったとしても重要でなかったりする。
ここにある小型(とは言っても軽く2m強はある)で田中さんや武器・装備を、中型はBUCHIANAなど。大型ではBUCHIANAの派生機SUPER-BUCHIANAを作るとしても余りあるサイズだった。
続いて隣接する転送室と貯蔵庫、そしてそこに保管されているmod.GOD仕様のコンテナ"プライムコンテナ"を見に行く。ちなみに、プライムコンテナという名称はダイオラマ魔法球に入る直前の交信で、呼びやすくするために決められたものである。
大型ナノクラ前で行き止まりに見えた通路と線路は実は丁字路になっていて、向かって左に工場入口と同サイズの出入口があり奥で薄っすらと魔法陣が光っていることから、こちらが転送室であることが窺えた。となると反対側が貯蔵庫になるがその出入口は他に比べると半分程で、月光達の拠点のそれに近い大きさだった。
貯蔵庫の構造は入ってすぐ右側の中小型ナノクラ4基の裏に当たる場所には、不活性化ナノマテリアルが溜められている巨大な貯蔵槽とナノマテリアル濾過装置。
その反対の左側は資材の入った貨物船や貨物列車の他、偶に大型トレーラーなどに積まれるような20ftコンテナと廃材等が積み重ねられて、それらの直ぐ側に線路の終点と貨物の積卸場、解体用機材や無人運搬車が何台か置かれた広い空間にないる。
そんな貯蔵庫の一角、件のプライムコンテナは過去の物の中で最も大きく、資材コンテナより若干小さい。サイズ的にはサポーターが入っていそうで、外見もこれまでと同様で長辺側の中心、程良い高さに端末が付いていた。
「すごーく強力なプロテクトが掛けられたりしてて、私達では開けられなかったんですよー。」
「バラしてでもこじ開けようとしたが駄目だたヨ。これでも高性能な物ばかりネ。」
超は横目で大小様々な解体機材を見ながら、プライムコンテナのハード・ソフト両方の強固さに呆れたように言う。近づいて見るとコンテナの大きさは周りのコンテナより一回り小さい。ハッチの隙間にこじ開けようとした時に付いたと思われる傷があったが、意外と目立たないぐらいの浅いものが大半だった。
端末も目立った傷はなく、これまで通りにジャックにTRIPODのマニピュレーターを差し込み、アイラ達との交信が途絶した場合に備え事前に受け取っていたアイラ製の開放プログラムを起動させる。しかしこのプログラム、一部が未完成であり開放には少し時間が掛かる見込みだった。
「ところでーこのコンテナは誰が作って、なぜ工学部棟の裏庭に、どうやって人目に付かずに置いたのでしょうかー?」
「えっとそれは・・・。」
『しまった、コンテナの誤魔化し方全然考えてなかった・・・。』
『事故で世界中に飛び散ってしまった、とかでいいんじゃニャいか?』
『でもベナト君のだと超ちゃんなりに説明してて、それと食い違ってたら面倒ニャ。』
「ハカセ、そのコンテナについても昨日話した通りだヨ。詮索不要ネ。」
「少し興味がありましたが、そういう事ならー。」
月光の言葉が詰まったのを見て、察した超が口を挟む。後に知るが月光達についての説明は「超と似た境遇だが、詳しい素性は話せない。」という事になっているらしい。
転生後の制約から恐らく叶わないが、いつか包み隠さず話せる日が来て欲しいと思っていると、解錠が完了しハッチが開き始める。
プライムコンテナの中身に期待が膨らませるが、異様なモノがその中心にあるのだった。
今度こそ何かと理由をつけた奴ら+αが登場します。絶対です。