科学と非科学の歯車   作:グリーンフレア

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少しくらい内容削ってもバレへんか・・・


ACT.15 それぞれの得物

 スキッドシステムと無線に反応のないベナトナシュ・アルビレオの様子を確認するべく、エレベーターで地下へ向かう月光とアイラ。

 

 共同戦術ネットワークを始め各システム上には2人共オンラインで、それらの情報で分かる事は何か活動中という事ぐらいである。

 今ある共同戦術ネットワーク以外の通信手段は各自で回線を切断する事ができ、今回のような事態に備えて強制的に回線を開く手段を用意しようと相談している内にエレベーターは地下に到着した。

 

 件の2人はというと、貯め込んである資材を使い何かを作っているようだったが、月光らが降りてきたことに気付いたようで手を止める。

 こちらに話しかけてきていたようだが先のアイラの推察通りらしく、スキッドシステムに不具合があるようで音声を正常に出力できていないようだった。

 

 

 

『今2人の声が聞こえないから、もし自分の声が聞こえたら頷いてくれる?』

 

『───────。』

 

 

 

 スキッドシステムの状態確認を兼ねて質問するも、月光達にまだ何か話しているアルビレオから反応も無いことから自分達の声も届いていないと判断すると、音声の出力先を外部スピーカーへ切り替える。

 

 

 

「スキッドの方は全然声が聞こえないから、こっち(外部スピーカー)にしてもらえる?」

 

「あれぇ?成功したと思ったんだけどニャ~。」

 

「だから一言伝えておいたほうがいいと言ったろ。 隊長、心配を掛けてすまないニャ。」

 

 

 

 ベナトナシュが謝罪するとアルビレオもそれに続く。TRIPODで頭を下げるとなると3本全ての腕を地につけ、機体をうつ伏せにする形となる。

 

 

 

「確かに一言欲しかったかな。 まぁ、あまり気にしなくてもいいけど何かあったの?」

 

「それニャんだけど…。」

 

 

 

 現在のスキッドシステムは共同戦術ネットワーク大きく依存しており、各種交信はフルオープンであり、状況が違う者同士の会話が混線してしまう可能性が高い。一応その対策としてグループをスキッドシステム上に作り、声の届く範囲を制限しつつグループ間は無線通信のように交信するという手段をとっていた。

 

 いつも淡々とそれらを設定するアイラはともかく、この方法は慣れてない者からすると設定項目等々が多く若干面倒であった。そこでアルビレオは従来の機能に独自の混線防止用プログラムを組み込み簡略化を図ろうとしていたのだった。

 その仕様は距離や遮蔽物によって音量が自動調節され、特定の相手に向けた声は音量調節無しにこれまで通り届くという物。人間に置き換えると、要は肉声の会話とトランシーバーの交信を合わせた機能になる。

 

 

 

『確かにこの機能は良いかもね。 アイラ、これをスキットシステムのオプションとして実装出来そう?』

 

『大丈夫。致命的なエラーの修正だけで時間も掛からないと思うので。』

 

『よし、じゃあそっちは頼んだよ。 その間にこっちの用事に取り掛かってしまおうか。』

 

『他にも何かあるのかニャ?』

 

 

 2人のスキッドをデフォルト設定に戻し、本来の用事であった装備換装の補助をして欲しい事を伝える。

しかし、2人は装備を作っていた最中らしく、それが完成するまで待って欲しいと頼まれた。

 

 しばらくして出来上がった2人の装備は、アルビレオのはナイフと鉄パイプとその他で作った1m程の槍で、ベナトナシュはキャンバスや針金等で作ったとみられるマガジンポーチと、それぞれの戦い方に合わせての装備であった。

 

 

 

『アルビレオのはかなり持ち運びに困りそうだけど大丈夫?』

 

『それは……。 あ!隊長の邪魔にならない所に積むなんてどうニャ? ほら、ここなら!』

 

 

 

 そう言って月光に登り槍を置いたのはよく青葉が乗っていたスペースよりも後方、ボディユニットの後端部にある手すりのような部分。

 実際、鉄パイプ槍を積むには丁度いい場所で搭載にはやぶさかではなかったが、固定にはガムテープを使うと言うアイデアだった。これには見た目の問題から月光は不満を漏らすが、MGL140搭載RWSにダクトテープを使っていることをアイラに指摘され、反論できなくなり最終的にアルビレオの提案を受け入れる。

 

 

 

『ここに積むと使う場面は大分限られてしまうのでは?』

 

『んー、そうニャねぇ。』

 

『かと言ってアルビレオが持っておく訳にはいかないし。』

 

『それなら隊長の直掩として近接支援に就いたらいいんじゃニャいか?』

 

 

 

 ベナトナシュの提案は月光とアイラの死角を埋めるためになるべく側に付いて行動し、もしもの時は搭載された槍を使って支援するというもの。

 

 実際少々の死角があるもののそれは十分カバーできる程度で、自機の性能的に近接戦闘も難無くこなせると判断している月光は、原作においても槍の扱いに長けたアルビレオはこれまで通りに、リトルチェイサーの他2人と連携して活動してもらいたい考えていた。

 それにこういった装備が必要になるのは大体が戦闘になっているか、戦闘になりそうな状況であり、その中で集団戦法が得意なリトルチェイサーは、なるべく分散しないことが重要だった。

 

 

 

『ただでさえ少ないリトルチェイサー達にはまとまって行動して欲しいから、必要になったら青葉に運んでもらうっていうのは?』

 

『俺はそれでいいと思うニャ。』

 

『この間の作戦もだけど、なんだかいつも青葉ちゃんはいいように使われてる気がするニャ。』

 

『そりゃあ飛行能力は今のところ、青葉しか持ってないから"頼りにする"のは仕方ない。』

 

『モノは言いようニャね...』

 

 

 

 本人のいないところで計画は進み、やがて話は月光にサポーター達の武器弾薬を積んで武器庫とする計画も持ち上がる。しかし、スキットシステムの新機能の修正が済んだアイラに装備換装の件を促され、新しい計画は後日練ることで、ようやく地上へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、運搬係としての仕事も任せられることになった青葉と言うと、そんな事とはつゆ知らず、スピカをぶら下げて商店街の上空100m程と地上からは余程注意しないと発見されることのない高度を維持し、特に宛もなくぶらついていた。

 

 学園都市の土曜日ということで商店街の大通りは学生で賑わっていたが、よく見ると修学旅行の準備なのか真新しいキャリーバッグを引く者も目立つ。

 

 

 

『そう言えば修学旅行って明後日ニャ?』

 

『一部の学生はそうみたいですが3-A組は明々後日ですね。』

 

『いいニャ~、私も京都行ってみたいニャァ。』

 

『問題山積みできっと満足に観光できないですよ。』

 

 

 

 青葉の言う問題というのは見た目は勿論、交通手段や麻帆良学園からの脱出と再潜入などである。彼女も京都まで行くことがあったらその足で舞鶴市を観光したかったが、今はその時期ではないと理解しているため落ち着いた頃に行けないか考えていた。

 

 頭の片隅でそんな事を考えていたが、いつの間にか大通りを外れてしまっていた。現在地を確認すると、今、青葉とスピカがいる位置は3日前にダーカーと交戦した路地に近い所で、その場所が今どうなっているのか気になった2人は早速行ってみることにした。

 

 目的の上空に着くと、例の路地とその周辺に人気がないことを確認して降下し、その場の様子を調べ始める。

 

 

 

『あらー、見事に後始末されてますねぇ~。』

 

『弾痕ってかなり深く残ってなかったかニャ?』

 

『その筈なんですけど。魔法のお陰でしょうか?』

 

『まほうのちからってすごいニャ。』

 

 

 

 スピカは他のリトルチェイサーと一緒に暇な時間を使い、参考用にとアイラが用意した対ダガン戦の記録映像を観ていたのでこの路地の被害を知ってはいた。しかし今の路地は赤黒い砂や空薬莢、貫通した12.7mm弾が作った弾痕の他、戦闘の影響で崩れたり壊れたりしたはずの荷物なども元通りで、まさしく魔法にかけられたようだった。

 

 ものの見事に修復された路地は戦闘前の情景と全く同じというわけではなく、改めて見ると幾つかの商店が共有しているバックヤードのような場所になっているようで、廃棄物や入荷したての商品などが積まれていた。

 

 実際に魔法が使われたのか確認しようと手分けして調べていると、青葉が弓具店らしい店のスペースに設けられていた大きなゴミ箱にある物を見つける。

 

 

 

『ん~、これは使えそうですね。』

 

『クロスボウ?なんだかボロボロニャ。』

 

 

 

 「廃棄」と書かれたゴミ箱から釣り上げられたクロスボウは一見、ライフルのような形で狩猟用にも見えるが、塗装は明るい青や赤が使われ競技向けの印象だった。

 ただスピカの言うように弦が切れフレームも歪むなど目に見えてダメージが入り、使い物にならなくなったから廃棄されてたようだった。

 『見ます?』と差し出されたクロスボウを受け取り、スピカは細部をより詳しく調べる。

弦は無くなっていたので遠目には分からなかったが、どうやらコンパウンドクロスボウのようで弓の両先端に滑車があり、その辺りには大きな損傷は見られない。

 

 

 

『捨てるなら分解とか包んだりしないとダメなんじゃニャい?』

 

『そうですよ。仕方ないですねぇ、これは私達で責任もって処分しましょう!』

 

『持って帰るニャ!』

 

 

 

 散歩の手土産にと調査もそこそこに、クロスボウを抱えたスピカを吊るし一路拠点へ向け路地を飛び立つ。

 

それを見送る者が2人いるとも知らず。

 

 

 

「見つかってませんよね?」

 

「大丈夫だヨ、私達を探してた様子ではないネ。それでカメラの方は?」

 

「はーい、バッチリですよー。」

 

 

 

 青葉とスピカがいなくなった路地の一角の物陰から、空間が2つの人型に揺らぎそれぞれ"工学部 秘密の調査用"と書かれた中型ジュラルミンケースと"工学部試作 多機能デジカメ"のラベルが貼られたデジタルカメラを持ち、これまた"工学部試作 2003光学迷彩"か背中に書かれたフード付きコートを着込んだ少女が2人、姿を現す。

 

 目深に被ったフードを脱いだ2人の正体は月光達にとって当面の間の最重要人物である、超鈴音と葉加瀬聡美だった。

 

 

 

「映像と写真、両方共撮影できてますー。」

 

 

 葉加瀬はデータを見直し終えコートの下に装備していたポーチへカメラを入れると、青葉達が飛び去った方角を見つめる。

 

 

「偵察機でも持って来てたら追跡できたんですけどねー。」

 

「仕方ないネ。ここに来た理由は3日前に何があたかを調べる事だたからネ。」

 

 

 

 そう言うと提げているケースと軽く叩く。

月光達とダガンとの戦闘は表向きには、暗視装置を手に入れてはしゃいでいたサバゲーマー数人が調子に乗り騒いでいた、と言う事で処理され、グレネードの爆発痕はその騒ぎで起きたボヤによるもとされていた。

 

 説明は麻帆良学園の一般人にはこの内容で問題なかったが、騒動の後日に月光達からの接触があった超一味は彼らが関係していると判断し何が起きたかを詳しく調べに来ていたのだった。

 

 

 

「さて予想外の収穫もあたけど、お陰で彼らの正体についてまた一歩近づいたネ。」

 

「そうなんですかー?さっきの飛行型ロボットは米軍の21世紀型戦闘構想のイメージに近い物がありましたけど、三本腕の丸いロボットは見たことも聞いたこともないですよー?それに素材も技術も全くの別系統同士に見えますー。あ、でもあの二足歩行ロボットとは関係性がありそうですねー。」

 

「その辺りも含めて集めたデータと一緒に解析するネ。」

 

 

 

 着ていたコートを収納袋に仕舞った彼女達の服装は学生服で、先の袋を隠し持っていた学生鞄に入れて路地を出る。

 

 

 

「そう言えば、"肉まん君Z"の調子はどうカナ?」

 

「良好ですよー。後は修学旅行の間どうやって持ち運ぶかが問題ですが...」

 

「それなら簡単ネ!"肉まん君Z"を魔法で小さく、フィギュアの様にするといいヨ!」

 

 

 

 2人は数日後の修学旅行ついての話をしながら、何事もなかったように葉加瀬の研究室がある麻帆良大学の工学部棟へ向かっていった。




 次回予告と全く違う内容になってしまいました。
前話投稿してから大分経ってしまっていたので予定を変更して、切りの良い部分で今回投稿させてもらいました。
恐らく話し合いに入るのは次の後半か、その次ぐらいです。
一体あと何話で学園祭に行けるのでしょうね・・・。


次回こそ超達との顔合わせになるはずです。

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