俺ガイルSS やはり俺の球技大会は間違っている。   作:紅のとんかつ

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先の試合が終わり、試合後の話です!


終章 戦いの終わり
その8 試合は終わり、そしてその依頼は終わりを迎える。


 

 

 

 

 

 

 

 わー!

 

 コートを走り回り、一つのボールを取り合う男達。

 

 

 

 葉山チーム対チームヒキタニの試合は壮絶な物だった。まさかの逆転劇、葉山のアクシデント、チームヒキタニの暴走。

 

 

 

 今はもうあの激しかった試合が終わり、決勝戦の最中だ。

 あれから勝ち進み、様々な試合があったが正直、あの試合ほどの接戦は無く苦戦もさほどしていないだろう。のびのびとプレイをしている。

 仲間同士、苦難を乗り越えた事でより団結した。

 もはや言葉が無くても連携が取れるようになったし、お互いが信頼しあっているからこそ遠慮のないプレーが出来ていて、一体感といる物を感じる。

 

 この球技大会を得て、絆というものが深まったのだろう。

 

 

 

 

 …………葉山たちが。

 

 

 

 ワァアアア!!

 

 

 

 3Pシュートが入り、観客達が一斉に沸く。

 チームメイト達も大盛り上がりで葉山に集まっていく。

 

 

「隼人! ナイスシュート!」

 

 大岡からのハイタッチに葉山は応え、パチンと音がなる。

 

 

「キャアアアア!!」

 

 

 葉山達の活躍に、会場はこれでもかという位大盛り上がりだ。あの試合とは違い、会場はまさに青春の球技大会といった輝かしい試合が続いている。

 あんな気まずい試合は一切なかった。楽しそうに皆がハイタッチし、空気を読んで楽しい思い出作りにあけくれている。

 

 そりゃそうか。

 運動の出来る、リア充どもばかりが勝ち進み、あまり目立たない人間らは軒並み一回戦で沈んでいったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……因みに、あの時の材木座のシュート、なんと見事にゴールリングをくぐった。

 

 

 

 材木座も初めてのシュート成功にわき、大声で吠えた。

 その材木座の所に戸塚や戸部が走りより、その健闘を称えた。

 

 

 

 しかし、流石はチームヒキタニ。そうすんなり事は運ばれない。審判により戸部が壁に激突し、危険があって皆停止した中のプレイだったから取消、と審判に言われた。バスケの試合でも、誰かが怪我をした場合は試合と時計が止まる物らしい。

 

 

 だがそんな事、俺と雪ノ下は納得いかなかった。何故ならあの時審判は戸部に目を奪われ思考停止し、笛をならさなかったからだ。

 よって俺たちはかなり本気で審判を論破しにかかった。

 

 俺からは審判の制止がなかった以上はプレイは有効だと騒ぎ立て、雪ノ下は審判の職務怠慢について延々と語る。葉山が仲裁に入る事すら躊躇う程の国語一位と三位からの言葉のリンチに学生審判は息も堪え堪え、涙目になりながらその点数を認める事となる。

 

 

 

 

 

 だが結局、残り時間数分で葉山による逆転劇により点数をひっくり返されてしまったのだった。

 

 まあ、俺も材木座もスタミナ切れでほぼ棒立ちだったからな。

 葉山チーム一斉にゴールに詰め寄られ、城山も戸塚も頑張ってくれたが葉山のシュートが入った時点で試合終了の笛が鳴らされた。

 

 

 

 

 

 

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「……ヒキタニ君、マックスコーヒーわけて」

 

 

「もうない」

 

 

 俺達は体育館のステージ横でぐったりと背中合わせに座っていた。もう、立つ元気も無い。

 

 

 戸塚は今、俺らの代表で決勝戦の審判をやってくれている。自分も疲れているだろうに、マジ天使。

 城山は試合が終わると何も言わずに体育館を出ていった。別れ際に御礼を伝えた所、城山は無言で親指を立て微笑み返しながら去っていったのだった。

 ウホッ、良い男。

 

 材木座は、俺達の横で寝そべってピクリとも動かない。死んでないよね?

 

 

 そして俺と戸部はベンチを追い出されてからはここでグッタリと座り込んでいた。

 

 

 

「いや~、きち~っしょ。人生の中で一番疲れたわ」

 

 

 その人生で一番、コイツこれからも何回も言うんだろうな。そんな気がする。

 なんでもその時が一番になる。今を全力で頑張ってるんだ、と取れば言葉に軽薄さが感じなくなるのかもな。

 

 そんな俺たちに、神の恵みがもたらされた。

 

 

「はい、お待たせ」

 

 声の方向に顔を上げると、雪ノ下と由比ヶ浜、そして一色がスポドリを抱えて現れた。

 

「はい、ヒッキー! お疲れ様!」

 

 

 飲み物をきらした所、動けない俺達に変わり、コイツらは飲み物を買ってきてくれた。

 彼女らが今は天使に見える。

 

「あんがと~!! もう、体に水分残ってないっしょ!」

 

「それ死ぬだろ」

 

 

「中2せんぱ~い、生きてます~? 飲み物、ここ置いときますよ~」

 

 

 スポドリを片手に一気飲み。

 背後で戸部も同じように飲んでいる。

 

 くぅううう! 悪魔的だぁあ! こんなスポドリが、試合で火照った体に染みわたる、乾いた体を癒す! 旨すぎる!

 カイジの気持ちが、今は心から解る気がする。あのビール飲むシーン流せばそこらのCMより売れる気がするんだけど。本当おいしそう感凄い。

 

 

「……なんかCMみたいな絵面ですね」

 

「あら、比企谷君みたいな目をしながら飲まれても不味そうにしか見えないから、あまり宣伝効果は無さそうね」

 

 

 背中合わせにスポドリをラッパ飲みする姿がそう見えたようで一色が感想を漏らすと、雪ノ下が意地悪そうに笑い指摘する。

 一色は思いついたかのように”はたっ!”と手を叩く。

 

 

 

「先輩を起用するなら、飲んだ瞬間CGとか使って目を超輝かせるとかやれば面白そうですよね! うまいぜ~! キラキラッみたいな!」

 

 

 ゴフッ!!

 ゲホッ……ゲホッ……!

 

 一色の言葉で後ろで飲んでた戸部が口からスポドリを吹き出す。きたねぇな。

 しかも何、俺の目はCGまで使わないと駄目なの?

 

 

 ふと気が付くと、雪ノ下が下を向いて動かない。

 小刻みに震えている。由比ヶ浜は俺と目を合わせてくれない。超真顔でプルプルしてる。

 

 

 

 

 

 

 

「……うまいぜー」

 

 

「ブハッ! やめ、止めてよヒッキー! あは、アハハハハ!!」

 

「ウハハッ! ヒキタニ君! それあるわっ! アハハハハ!」

 

 

 大爆笑する二人。雪ノ下はとうとうしゃがみ込み、下を向き小刻みに震えている。声は意地でも出さないらしい。表情をかくしてはいるが、もう解ってる。

 

 

 クッソ……、キリンメッ○辺りに応募して出てやっかな。

 戸部も顔ふけ。スポドリ口からたらしながら笑ってんじゃねぇ。

 

 そして一色、お前が言い出したんだ、指差して笑うな。

 

 

 

 

 

 

 ピィイイイイ!

 

 

 そんな馬鹿話をしていると決勝戦が終わっていた。

 

 

「隼人! やったな!」

 

「イエエエエ!!」

 

 結果は葉山チームの優勝。

 勝利を喜び、皆葉山の所に走り出す。

 

 

 点差を見ると、六点差つけて勝っていた。

 

 ちなみに葉山チームはどのチームにも大差を付けず勝っている。考えたくはないが、軋轢を生まないように、調整とかしてんじゃないかとか疑ってしまう。

 

 

 ……こうして俺達の球技大会は終わりを迎えた。見れば、葉山の所には三浦も、そして海老名も集まっていた。

 

 

 

 

「いや、悪いね皆」

 

 

 

 コートの中で笑う、葉山チームや海老名達を見ながら戸部は俺達に謝罪する。

 

 

 

「皆、超協力してくれたのに、こんな結果しか出せなくてさ。魚の取り方教わったのに、釣竿落としたみたいな?」

 

 

 戸部は微笑みを浮かべながらも何処か後悔を感じられた。多分、今になってああしとけば良かった、とか色々浮かんでいるのだろう。

 

 しかし、だ。

 戸部は大きな勘違いをしている。

 

 

 

「何を言っているのかしら?」

 

 

 雪ノ下がきょとんと首を傾げる。

 アレだな、雪ノ下がそんなとぼけた動作するとなんか心がくすぐられる。

 

「今回の依頼は、勝つ事ではないはずよ。そうでしょう?」

 

 

 

「そうだよとべっち! 今回の依頼は、とべっちをかっこ良く目立たせる事でしょ? なら、大成功じゃん!」

 

 

 ……そうだな。

 試合に負けはしたが、俺達は大健闘、そして戸部はMVP級の大活躍だった。

 

 例えるなら某野球クソゲーオブザイヤーの、センター前までゴロを取りに走るキャッチャーばりに、ポジションも糞も無く戸部は走り回って得点を上げまくった。

 あれから見ても、葉山チームをあそこまで追い詰めた奴はいないし、あの時個人で上げた点数で戸部以上に点を取った奴はいない。

 

 

 

「今回の依頼は、戸部君をかっこ良く目立たせる事。……後半戦の戸部君は、とても魅力的だったわ。そうでしょう?」

 

 

 そういうと雪ノ下は戸部に微笑みかけた。

 戸部は顔をあげ、そして笑う。

 

 良かったな、戸部。

 この学園で、この雪ノ下雪乃に”魅力的”なんて言わせた男子はおそらくお前だけだ。

 それは、物凄い事だと、いつも罵声をあびる俺が保障する。

 

 

「……そっかな? あんがと」

 

 

 戸部の笑顔に、思わずこちらも笑みが溢れた。

 雪ノ下は満足そうに頷き、由比ヶ浜は笑った。

 一色もやれやれとその様子を見守っていた。

 

 

 

 

 

 

「けれどごめん雪ノ下さん、俺、海老名さんが好きだから……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………。

 

 

 

 

 

「……は?」

 

「ンフッ!」

 

 

 思わず吹き出した口を押さえる。

 

 まるで今、戸部は雪ノ下をふったかのような素振りだった。

 やるな戸部! この学園で雪ノ下をフッた奴はお前が初めてだ。

 

 

「なんでそんな簡単に恋愛に結び付けるのかしら勘違いとしても屈辱的だわやはり訂正するわね相変わらず貴方は薄っぺらいわ恋愛ごとになんでも結び付けるのはいかがな物かしらふざけないで称賛と告白の区別もつかないのかしらなんで私がフラれたみたいにならなくてはならないの我慢ならない」

 

 

「ひ、ヒィ!」

 

 戸部が雪ノ下の威圧に再び圧倒される。

 

 まさかコイツに二度もふかされる事になるとは思わなかった。

 

 由比ヶ浜がアハハ……、と頬をかく。

 

 一色は雪ノ下の後ろで下唇をかみ、虚空をながめながら真顔で小刻みに震えていた。

 

 

「雪ノ下さん! ごめん! 冗談、冗談だから!」

 

「私に向かって冗談とは良い度胸ね……。そして比企谷君に一色さん、何を笑っているのかしら?」

 

 

 ギクッと二人で跳び跳ねた。

 

 

 

「ハロハロー!」

 

 

 そんな時、ナイスタイミングで来客が来てくれた。良かった、今あまりのプレッシャーに体が動かなくなっていたから。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「いや~、なんか戸部を怒らせる事したかな? ってマジ不安になったぞ!」

 

「ごめん大岡! 俺も必死でさ~!」

 

「戸部にしては超マジ顔だったもんな」

 

 

 試合を終えた葉山グループが、戸部の所に集まってきたようだった。

 

 戸部は大岡や大和とじゃれあい、それを三浦や海老名が微笑んで見ている。

 

 

 普段通り、その風景に俺はなんだか安心したような心持ちだった。

 彼等を遠目に見ながら俺はスポドリを飲み干す。

 

 

 ……戸部、お前の周囲の関係は、一度空気を読まなかった位で壊れる物でもなければお前がマジになることで離れていく奴らでも無かったみたいだな。

 それには葉山のフォローがあったのかもしれない。そこまでする相手とすら見て貰えてもいなかっただけなのかもしれない。

 だが、彼らは戸部が頑張って作った人間関係で、その努力の成果なのだと俺は思わなくもない。

 

 空になったペットボトルをぶら下げ、俺はひと仕事終えたため息をついた。

 

 

 

 

「やぁ」

 

 そんな中、戸部達から離れたゆとりの国の王子、葉山隼人は何故か俺に話しかけてきた。どこか、とても安らいだ表情で。

 なんかその顔が癪に触ったのでイヤミを込めて賞賛を送ることにした。

 

 

「お疲れ。優勝おめでとさん」

 

「ハハッ、心にも無い事言うなよ」

 

 

 そう言いながら葉山は俺の横に立つ。その姿からは疲れてグッタリとしてる俺達とは違い余裕しゃくしゃくで、ムカついた。

 

 

「……余裕だな」

 

「いや? そうでも無いよ。もうクタクタだし、腕も上がらない。ただ、態度に出してないだけさ」

 

 

 ……ムカつく奴。

 

「……いや、君達との試合、一番キツかった。正直あそこまで追い詰められるとは思わなかったよ」

 

「それは良かった。こっちもお前等が一番キツかったよ」

 

 

 だってお前等としかやってないからな。お前に負けたから。

 ジトリと視線を送りながらお返しの言葉を伝えた。

 

 

「全く、君は裾を引っ張るわ心理攻撃を仕掛けてくるわ、あの変顔は特に汚かったな」

 

「だから笑顔だって。それにな、得意分野を活かしてるだけだよ、俺らは。そうでもしないとお前らに勝てないと思ったからな? 結果それでも負けたけど」

 

 くそ。やっぱりあれだけやって負けるのは悔しいな。

 

 

「……けど、楽しかった」

 

 急に葉山の声が優しくなり驚き、顔を見上げるとそこには普段の誰からも好かれる外交的笑顔の葉山では無く、まるでジブリ映画を見た後の子供のような笑顔の葉山がいた。

 

 

「全力で倒そうとしてくれて、楽しかった。忘れられない球技大会の思い出になったよ。ありがとう」

 

 

 ……まぁな。コイツ相手に勝とうとする奴はそういないよな。実力的に、またはトップカーストへの接待的に。

 

 葉山は葉山でそういう気苦労があるのだろう、そういう同情を持ちかけると葉山は悪戯っぽく笑いだした。

 

 

「やっぱり、勝とうとしてくる奴を倒すのが一番楽しいな。君との戦いはそういう所も楽しいよ」

 

 

 ……コイツ、良い性格してやがるぜ。

 

 

「隼人~! 表彰式いくよ~!」

 

 いつの間にか話を終え離れていた大岡達から声をかけられる葉山。また、と軽く手をあげると葉山はいつもの外交的な好ましい笑顔に戻り、仲間の所に走っていった。

 

 俺も軽く手を上げ答え、横で戸部がぶんぶん手を振っている。どうやら他の皆も表彰式に向かったらしい。今体育館には俺達と死にかけの材木座しかいない。

 

 こうして、今回の長くて辛い依頼は終わりを迎えた。玉縄の時はひたすらメンタルにキたが、今回は体力にキた。今後はこういう依頼は断ろう。絶対断ろう。そう心に誓ったのだった。

 

 

 

 

 

「あ~、とべっち」

 

 表彰台に向かう葉山チームの中にいた、1人の女の子が此方を向いていた。

 

 

 ペットボトルの空を集めている戸部と、さっぱり起きない材木座を起こす俺が顔を向けると、その女の子はとても魅力的な笑顔で手を振ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……結構、かっこ良かったよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一言だけ残し、そうして女の子、海老名姫菜は葉山の隣にいた三浦の所に走っていった。

 

 

 

 ……これで、本当に依頼は終了だな。

 

 

 ガシャ。

 

 物を落としたような音に振り向くと戸部は、ペットボトルの空を集めていたゴミ袋を手放し、放心していた。

 

 

 「戸部?」

 

 

「俺、明日海老名さんに告白するわ」

 

 

 おい馬鹿やめろ。

 

「いやこれ完全に脈ありでしょうマジで! やるならいつ!? 今でしょ!」

 

 

「まだでしょ! いちいちネタが古い。いやお前な、女子の言葉にいちいち告白してたらな。黒歴史が増えるだけだぞ!」

 

 

「歴史っていうのはな! 傷を積み上げていく物なんだぜ! ヒキタニ君!」

 

「何かっこ良い事言ったみたいになってんだよ、いやマジで止めとけ。今のお前は冷静さを失っている」

 

 

「恐れてたら恋愛なんて出来ないっしょ!」

 

 

 

 表彰式にみんなが向かう中、暴走したコイツのせいで俺と戸部、そして材木座は出後れ、遅刻を体育教師に怒られる事になったのだった。

 

 

 

 

 

 学校行事で人の恋愛を手伝わされ、そして教師に叱られる最後。

 

 ……やはり、俺の青春の球技大会は間違っている。




次でエピローグです。
よろしければ最後迄お付き合い下さい!

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