俺ガイルSS やはり俺の球技大会は間違っている。   作:紅のとんかつ

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 今回から試合です♪
 やってみて思う、文章で戦いを表現する難しさ。ラノベとか他のSS制作者様方の凄さ。

 文章とか、ここは違う、こうした方が、とかありましたら後学の為にもご指摘頂けたら幸いです♪







中章 俺たちの試合はこれからだ(打ち切り風)
その4 そして試合開始の笛が鳴る。


 

 

 球技大会当日。

 

 

 

 体育館が二つのコートに分けられ、ハーフコートで試合が行われる。初日は男子、二日目は女子にわかれトーナメント形式で様々な球技が学園の学年・クラス全員参加で行われる。他のクラスではテニス、女子ではバレー等様々だ。

 

 

 俺等のクラスといつもの合同の隣のクラスはチーム混合でバスケットボールが行われる。

 

 そこで俺比企谷八幡は何時ものようにぼっち力を発揮し、同じくぼっちの材木座と二人でチームを組めずにおどおどしていた所、天使のような天使の笑顔、天使戸塚がチームに加わってくれた。

 残りは風邪で欠席した戸部、そして何故かは知らないが同じく欠席していた柔道部城山の五人でチームを組み参加する事となった。

 

 俺はかったるいイベントに辟易しながら何時ものように奉仕部ですごしていたら、チームメイトとなった戸部翔が現れ一つの依頼を持ち込んだ。

 依頼の内容については今年、残り少ない二年生生活の中、同じクラスの女子である海老名姫菜にかっこ良い所を球技大会で見せつけたい、という事だった。

 こうして奉仕部部長は格好良い所を見せるならそれ相応の力が必要と判断し、部活終わりの夜や朝、休日等を利用した強化訓練が行われたのだ。

 

 俺と戸部は鬼コーチによりしごかれ、由比ヶ浜の協力に戸塚、材木座、一色という協力者も得て訓練を見事乗り切り、そして今日という日を迎えたのだった。

 

 そこに立ちはだかるはリア充の国の王子様葉山隼人率いる運動部のエース級軍団である。

 

 はたして、我々は奴等を乗り越え勝利する事が出来るのか、八幡達のこれからの活躍を祈って! いくぞぉ!

 

 

 

 

 EDテーマ♪

 

 

 

 

 

「……何をぶつぶつ言っているのかしら比企谷君」

 

 雪ノ下の冷たい声に、ベンチに寄りかかり現実逃避する俺が現実に戻される。

 

 嫌だ~、戦いたくね~。

 だって相手は学園のヒーローなんだよぉ?

 勝てっこ無いよぉ……。

 

 そんな俺のすがるような目線に雪ノ下は舌打ちした。

 

 え? 何この子、怖い。

 

 ……因みに他の選手についてだが、

 

 戸塚はそわそわと小刻みに震え、

 戸部はあーっ、あーっとブツブツ歩き回り、

 材木座は旅に出るとトイレの個室に閉じ籠り、

 城山は静かに椅子に座ってるように見せ掛けて尋常じゃない貧乏揺すりをしている。

 

 もう精神病棟にしか見えないチームヒキタニだった。

 

「昨日はあんなに決めておいて情けない男達ね」

 

「それを言うなし」

 

 因みに今日は男子の試合で、雪ノ下も試合は明日らしく、今日はフリーに応援してて良いのだそうだ。

 

 

 由比ヶ浜には海老名さん達をバスケの試合を見に来てくれるよう、頼んである。まあ、葉山がいる時点で三浦が引き連れてきそうだけどな。

 

 

「……はぁ、んじゃ行ってくる」

 

「何処へ行くの? 試合開始迄20分きっているわよ?」

 

「仕込みだよ」

 

 そういうと俺は立ち上がり、相手チームの方を睨み付ける。

 悪いが、俺たちの方が実力的に劣っている事は自覚している。ならば手段を選んでいられる立場じゃない。依頼達成の為になんでも使わせて貰うぞ。

 

「相手チームの飲み物に何か仕込んだり、人を雇って怪我をさせたりしては駄目よ」

 

「お前は俺をなんだと思ってんだ。そんな事は考えるだけでやらね~よ」

 

「考えはするのね……」

 

 雪ノ下が困ったように眉をひそめて首を振った。

 あくまでルールは守るさ。体育祭みたいな事は御免だからな。ルール違反はしない、だが汚い事はする。

 

 

 そして葉山チームを見やり、足を向ける。歩き出す俺の袖を摘まむ指。

 少し心臓が鳴った。頬を掻きながら、俺はゆっくり振り向いた。だからそういう男心をくすぐる動作はやめて欲しい。そう伝えるべく振り向くと、

 

 

「ヒキタニ君、マジ怖くなってきたっしょ!」

 

 

 やばーい、そんな風に首を振り俺にすがる戸部だった。離せ馬鹿。

 

 スタートをくじかれてしまった。雪ノ下に乙女な戸部を押し付け俺は向かう。

 

 

 

 

 

 相手チームの、弱点を突きに、な。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ? 比企谷?」

 

 相手チームのベンチに現れた俺に葉山は目を丸くする。葉山はチームメイトと一緒にストレッチをしていた。足を伸ばし、足首を回す。

 

「準備バッチリだな」

 

「ああ。怪我をする訳にはいかないからな。そっちの戸部にもしっかりやらせといてくれよ? 部活は今日も普通にやるから」

 

 にっこりと笑顔を向けてくる。

 相変わらずコイツの笑顔には花がある。見る者を魅了し引き付け、男の俺ですら魅力的という事が嫌というほど伝わってきた。

 三浦や一色、その他女子が引き付けられるのも解る。

 

 思わず葉山の顔をジロジロ見てしまっていた。

 葉山も頭に?マークを浮かべているような気がした。

 

「……少し良いか?」

 

 親指で少し離れた所に誘導する。

 一緒にストレッチしていた大和と大岡が眉をひそめた。

 

 葉山はわかった。と一言返し、皆にストレッチを指示すると一緒に少し離れた場所へと移動した。

 

「それで? 今回はなにかな?」

 

 葉山は困ったようにたずねる。

 確かに俺が葉山に話しかける時はろくでもない話ばかりだからな。今回もそういう話だと察したようだった。そうだね、そういう話でごめんね。

 

 

「……今回、戸部は俺達と一緒に沢山練習をしてきたんだ」

 

 唐突な話に葉山も疑問符を再び浮かべた。

 

「それで最近疲れてたのか。部活が終わると直ぐにいなくなったし、妙に付き合いが悪かったのも納得だな」

 

「雪ノ下にたっぷりしごかれてな。本当大変だったが、戸部はかなり頑張ってたよ。今回の球技大会は戸部にとって勝ちたい物みたいでね」

 

 

 俺が出す戸部の評価にしては少し高めだが、嘘は言っていない。俺の言葉を受け葉山は表情を固め、沈んだ声で聞き返す。

 

 

「……姫菜を振り向かせたいが為に、か?」

 

「さぁな。なんにしても戸部はどうしても今回の試合は勝ちたい、そしてその為にかなり努力をした。そちらはこの後の部活の方が大事みたいだけどな」

 

 

 先ほどの準備体操の時の言葉を引き合いに出しすと、葉山の顔がさらに険しくなった。

 

 

「わざと負けろ、と言いたいのか?」

 

 

 葉山の返しに俺は腕を振って否定するかのように振舞った。ニヤリと微笑みを浮かべながら。

 

 

 

 

「そうじゃない。ただ戸部の努力を伝えたかっただけだ」

 

「……相変わらず嫌な奴だな君は」

 

 苦笑いを浮かべる葉山に「試合、頑張ろうな」とだけ言い振り返る。

 

 

 後ろで葉山がどんな顔してるかは知らないが、俺は伝えるべき事は伝えた。

 自分のチームのベンチに戻ろうと歩を進めていると、戸部が此方に向かってパタパタ歩いてきていた。

 

 

「ヒキタニ君挨拶行くなら声かけてよ! もう終わった感じ? 宣戦布告とかしたん? ヒキタニ君意外に熱いわ~」

 

「俺は終わった。お前も五分前には戻れよ」

 

 戸部とすれ違いながら、俺は葉山達のベンチを後にする。

 

 

「いや~、隼人君マジ本気になんないでね! 俺もう緊張しまくりんぐでさぁ!」

 

「緊張し過ぎで怪我はするなよ。部活休む言い訳にはさせないからな!」

 

 部長きびしーわー! という戸部の大きな声に大和と大岡もよってきていつもの葉山組が完成していた。

 いつものメンツが揃った事でより一層騒がしくなる。まるでいつもの教室のように。

 

「お? 戸部、戦線布告か? やる気満々だな」

 

「戸部には負けられねぇな! 言っとくけど、負けた奴は勝った方にジュースだかんな!」

 

 

 アハハと笑う仲良し達。

 戸部も緊張が和らいできたようで良かった。

 

 

 楽しそうな彼等を尻目に、試合の準備体操でもやるかと腰を回した。

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 とうとう試合開始五分前。

 

 俺達は準備体操を終え、最後に各人の動きを確認していた。

 

「という訳なんで城山はゴール下メインで頼むわ!」

 

「わかった」

 

「ジャンプボールは宜しくね! 戸部君」

 

「かしこまり~」

 

 

 見渡すと会場にはかなりの人数が集まっていた。

 恐らく葉山目当ての連中が殆どで、此方のチームを応援してる奴なんて殆どいないだろう。

 

 こうして見ると本当葉山は女子に人気なんだな。男子もかなりの人数来ている。

 

 サッカー部なら解るんだが、他クラスで他の部活の連中とかとどうやって仲良くなってんだろうな。

 相手のチームのベンチを見ると葉山達は楽しそうに談笑し、その横に由比ヶ浜達を見付けた。

 

 しっかり海老名さんも連れてきてくれたみたいだった。三浦が葉山にエールを送っている。

 由比ヶ浜が此方に気付くとグッと拳を握り合図してきた。軽く手を上げ返事をする。

 

「いや海老名さん来てるっしょ……。やべ~、マジ緊張する」

 

「……戸部なら大丈夫だろ」

 

「ヒキタニ君、今までに無い位優しいわ~」

 

「気休めだけどな」

 

 ばっか、俺はいつも優しいっての。

 優しいから誰にも迷惑かけないようにあえて一人でいるのたがら!

 

 そして横にいる不自然な奴に目線を送る。

 

「お前はなんでここにいる?」

 

 

 

「私だけじゃ無いですよ~。私の他にも葉山先輩目当てで二年生の応援に来てる人沢山いますから。ほらあそこらへん一帯一年生……」

 

 え~? と首を傾げながら一色いろはは的外れな返答を返してくる。

 

 

「いや、だからなんで此方のベンチいるんだって話」

 

 葉山目当てなら葉山側にいかね? 普通に。

 

「ふっふっふっ。甘いですね先輩。葉山先輩のベンチはあっちですけど、ゴールはこっちなんですよ! つまりこの試合はどう考えてもあちらが押せ押せになるのは目に見えてますから、あえてこちらを陣取った方が葉山先輩の勇姿が間近で見れる訳です!」

 

 

「お~い、此方に敵応援してる奴が紛れ込んでるぞ」

 

 スラダンの豊玉応援席で湘北応援する徳ちゃんかお前は。

 

「まあ、練習付き合ったりもしたんで、愛着もあるんですけどね。ま、頑張ってくださいね? 先輩方!」

 

 

 ……全く最初からそう言え。

 

 戸塚も戸部も、ありがとうと御礼を言い材木座がテンパっていた。

 

「我、女子に応援されたのリアル初めて……」

 

「いろはす~、ありがと~! 良い後輩持ったわ~!」

 

「頑張ろうね? 八幡!」

 

 おう、頑張ろうか。

 

 

 ヒキタニチームは顔を引き締め、監督(雪ノ下)の方に振り向いた。

 

「カントク! 一言ください!」

 

「……監督になった覚えは無いのだけれど」

 

 少し戸惑う雪ノ下を囲むように円になる我がチーム。

 

「……まず、貴方達は色々足りない所が多いわね。戸塚君はパワーが足りないし、戸部君は集中力、材木座君は結局ドリブル出来なかったわね」

 

 戸塚があははっ、と頬をかき、

 戸部があれ~?とひきつり

 材木座がクベッと悲鳴をあげる。

 

「比企谷君は最後迄シュートがヒキガエルのジャンプみたいだったわね。城山君は、緊張してるみたいね。急な指示に対応してくれて助かるわ」

 

 城山がうすっと頭を下げる。

 何俺のシュートそんなんなの?

 

 ていうか試合前に士気下がる事言うなよ。

 

「色々あったけど、それでも貴方達は私のしごきに着いてきた。それはとても立派な事だし、誇っていいわ。だから、今までの苦労をこの試合にぶつけてきなさい」

 

 おうっ! とチームが答える。

 

 材木座が吼え戸塚が笑い、戸部が気合いを入れ城山は……変わらず。

 俺も、まあ気を引き締めていきますか。

 

 雪ノ下がぼそっと頑張って、と言っていた。

 

 俺にしか聞こえなかったかもしれないし、皆に聞こえたのかもしれないがとりあえず、適当に頑張るわ。

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーー

 

 

 

 試合開始の笛が鳴る。

 

 それと同時にうちの戸部と相手の大和がジャンプボールを行った。

 

 ジャンプほぼ同時、しかしパワーでラグビー部大和に押し負けこぼれ球を大岡が拾う。

 

「か~っ! 大和マジ大人げないっしょ!」

 

 大和があははっと笑う。

 ボールは大岡が運び走った。

 

 大岡は思った以上に素早く、すぐにゴール下に行きシュートを放つ。しかしシュートが外れボールがリングをバウンドする。

 

「リバンッ!」

 

「させないさっ!」ガンッ

 

 落ちてくるボールを掴むためゴール下に陣取っていたが、なんと葉山はその上からそのバウンドしたボールを押し込んでしまった。

 

 

 ワァアアア!!

 

 いきなりのスーパープレイに会場が沸き上がる。此方としても葉山チームの想像通りのハイスペックさに少し戸惑った。

 

 大岡からハイタッチを求められ葉山が答える。

 パチンッという音と共に再び歓声が上がった。

 

 すげぇよ。

 いや本当ヒーローみたいだな。

 

 

 

 

 

 

 しかし、そこがお前らの弱点だ!

 

 

 大岡がハイタッチを求めた時点で俺は戸部にパスを出し、葉山が気付く頃には相手ゴール側の戸塚にパスが出されていた。

 

 ジャンプボールの後後ろに下がっていた大和に阻止されかけるが、戸塚のシュートは見事に入る。

 

 相手も会場も唖然としていた。

 

 そう、これはバスケ部の大会とは違う、ただの学校の行事でありリア充の思い出作りだ。ならば奴等は面白おかしく参加し、葉山目当てで来た観客は試合の妨げにすらなる応援を送る。葉山君こっち見て~! とかな。葉山見たさに別クラスや違う学年からも集まったんだ。

 

 

 だが俺達にはそんな事関係無い。

 お前達は空気を読んでチームメイトからの仲良しアピールや観客のエールに答えるんだろうが、俺達にはそんな物は無い!

 寧ろ俺が戸部や戸塚とハイタッチなんてしたら顰蹙を買うだろう。

 

 だから徹底して俺達は空気を読まない。

 観客の応援も無い!それがお前達と俺達の差だ! ……俺らが下みたい。

 

 

 

「比企谷君らしい作戦ね」

 

 ベンチでは雪ノ下が呆れていた。

 

「いや~、ある意味観客を味方につけてますね」

 

「でも確かに相手チームが勝手にやっているのだから此方に非は無いわね」

 

 

 

 更に俺達はお前達の唯一であろう練習時間の体育中、ずっと観察しリサーチし続けた。

 

 大岡はドリブルが上手いがシュート等点数を稼ぐ手段が苦手、大和は逆にドリブルがあまり出来ないが持ち前の体格が厄介者。

 

 残り二人は運動部という事で警戒してたが、実は殆ど部活をサボって、放課後教室でいつまでも残って遊ぶタイプのリア充だったからか、動きに他の奴ほどキレがない。

 

 

 お前らは相手チームをリサーチだの、たかが球技大会でやるはず無いよな。

 そしてその対策でポジションを組む事も、その練習もたかが楽しい球技大会でやるはず無い。

 

 葉山が大岡にパスを出す。それを戸部がカットした。

 

 

「うわっ、戸部ビビったし!」

 

「わりぃけど、ジュースは頂きな!」

 

 戸部からのパスを受けると戸塚にパスして、戸塚はシュートを決める。まずは一点取り返した。いい調子じゃないか。

 

 

 

「パス早いな」

 

 急に葉山に話しかけられて少し驚く。

 まあ良いけどな。葉山が俺に話しかけてる間抑えてるのと同じだ。出来るだけ食い付かれるように挑発的に話す。

 

「言ったろ? 練習したって。お前らは大変だよな。部活に付き合いとかもあるんだからな」

 

「……お前が練習なんて、似合わないな」

 

 苦笑する葉山。確かに俺自身も似合わないと思うよ。だけど今回は本当に、初めて本気で練習したんだ。スポーツに対してチームの作戦を考えたのも初めてだし、なんならチーム戦も初めてだ。何故なら今まで形式で体育とかで組まされた寄せ集め、本気でやる理由は無い。そんな俺がこんな慣れない事してるなんて、驚いているのは俺も一緒だ。

 

 だけど、だからこそこの苦労を無駄にしない為にも色々策略を巡らせる。

 

 試合は上々の立ち上がりだった。

 初心者のボールに集まる現象を利用し、引き付けてから高速でパスを回し、 前に出しておいた戸塚と、体力の塊戸部を中心に点をとらせる。そして此方のゴール下には城山を陣取らせ中に入れない。

 

 オフェンス・リバウンドは無駄に運動量のある戸部に取らせて俺はひたすら練習したパスやドリブルでボールを運ぶ。

 

 学校の1イベントで楽しみに来てる奴等とは違う、しっかりとした作戦やそれに特化した練習をしてきた俺たちはその辺り上手くいき、しっかり点数を獲得していった。

 

 

 そして材木座には必殺技を伝授してある。大和の前で体を広げて密着する材木座を見やる。

 

 

「ふしゅる~、ふしゅる~」

 

「こいつ、近……、なんでずっと俺から離れないんだよ、近っ、うざっ」

 

 必殺”ボンビー擦り付け作戦”

 

 あいつには一人、葉山の次に厄介だった大和に試合の展開関係なく張り付きまくれと言ってある。いわゆる見よう見まねスッポンディフェンス。

 

 

 材木座は結局ドリブルは出来なかったしシュートも成功率が低いが、あの暑苦しい男がずっと近くで体一杯広げて付きまとわれたら、そりゃやりにくいだろう。邪魔でウザいだろう。イライラさせたらもうけもの。バスケ経験者なら抜けただろうが、お互いバスケ初心者だ。ラグビーと違って吹っ飛ばせないしな。材木座の体格は立派な武器だ。

 

 お前らの楽しいバスケは無い、空気を読まない俺たちの作戦を喰らうがいい。

 

 

 とそこで視界の脇で戸塚に怯む大岡がいた。

 

 

 

「う、はぁ……、はぁ……」

 

「う、ううっ!」

 

 

 

「えぃ!(ヘソチラッ)」シュート

 

「く、くそっ、やりにくい!」

 

 

 

 あそこの弱体化は予定外だったが、

 

 だが仕方ない、その気持ちは解るぞ大岡。

 確かに俺も戸塚をやっつけられない。

 

 

 さて、葉山も大人しいし、今のうちに点を取っておかないとな。

 城山から受けたボールを戸部にパスをして点数と相手選手を見わたした。

 

 

 

 

 

 一方、葉山ベンチでは三浦、海老名、由比ヶ浜が心配そうな顔をしている。

 

 

 

「……なに、隼人負けてんじゃん。ヤバくない?」

 

「だね~、なんかとべっち超点取ってるじゃん! 運動出来るよね~!(チラッ)」

 

 …………。

 

「そうだね~、がんばってるね」

 

(……なんか、全然伝わってないのかな。全然反応が無いよ)

 

 

 

 

 ーーーーーーー

 

 試合が進み12対16でこちらが有利。

 

 相手が此方の奇策に慣れられる前に一策投じるか。

 

 再び城山がリバウンドで取ったボールを受けとる。

 

「戸部っ!」

 

 シュートの為葉山チームがこっちのゴール付近に固まっている、今がチャンスだ。

 コート中央にいる戸部に合図を送る。

 

 比企谷「」イ゛イッ(変顔)

 

 葉山「」ビクッ

 

 

 戸部「……! イ゛イッ!(変顔)」

 

 

 よし……!

 ゴールめがけて思いっきりボールを投げ飛ばす。

 

 ボールはコート中央を越えた辺りで下降してバウンドした。

 戸部はボールを拾い上げゴールに走り、リングに飛び上がる。

 

「……! いっけぇとべっち!!」

 

 

 ダァン……。

 

 

 …………。

 

 戸部はロングジャンプしたのち、ゴールには届かず、綺麗に着地した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドッ……!

 

「戸部ぇwwwwwだっせぇwwww」

 

「今完全に行ったと思ったらwwww」

 

 会場が一気に笑いに包まれた。

 

 

「い、いや~、カッコ悪い~!! 今決めたと思ったんだけどな~!!」

 

 頭を抱えて悶える戸部は恥ずかしそうに会場に向けて悲鳴をあげた。俺も悔しい気持ちがあった。

 

 

 折角のチャンスが……!

 

 因みに今のは戸部のミスでは無い。

 本当はしっかりゴールまでパスが届き、アリウープさせるつもり作戦だったのだ。スラムダンクみたいに。

 戸部はゴールに走り出していたのに、ボールが届かず戻らせるハメになってしまい、助走や時間を大きくロスらせた。

 

 つまり俺のミス。

 実際やると遠くからゴール付近にボール投げるの上手くいかねぇな……。

 

 

 

 

「……今の顔、ズルくないか? 変顔で驚かすなんて」

 

 葉山が苦笑いしている。

 確かに俺が変顔したら今までに無い位真顔になったな。

 

「は? 何言ってんだ? 俺は戸部に微笑みかけただけだぜ? 人の笑顔を反則呼ばわりとはひでーな」

 

 さらに言えば試合中顔芸してはいけないなんてルールは無い、何故ならスラムダンクでやってたんだから間違い無い。

 え? 相手に失礼に当たる行為をしてもファウル? ……今のはただの笑顔だってば。

 

 

 

 

 

 

「……あんな作戦出した覚えは無いのだけれど。いつの間にアリウープなんて練習したというのかしら。見よう見マネで出来る訳無いでしょう。宮城君を甘く見てるわね」

 

「でも惜しかったですね~。試合もリードしてますし、予想が外れて大健闘じゃないですか?」(宮城君?)

 

「まあこれ位は当たり前だわ。私が鍛えたんだから」フンスッ

 

 自慢げに胸を張る雪ノ下に苦笑いを浮かべる一色。

 

「……でも、一つ気掛かりね」

 

「どうしました?」

 

「なんでも、無いわ」

 

 雪ノ下からポジションの指示が出される。今の勢いをころさないよう全体的に前に出るよう言われた。その指示を前の戸部に伝え、点数を見る。

 ……練習、やれば一応出る物なんだな。

 

 

 

 その後戸部がシュートを決め、再び点差を広げる。

 

 会場の予想が外れ、どよめく。

 まさかこんな余り物チームが葉山チームにリードするなんて思わなかっただろう。

 最初の歓声に比べ、葉山チームは活躍が少ない。若干気まずい空気が流れている位だ。

 

 だが今はこれでいい。

 このままリードしながら戸部にボールを集めて得点を取らせまくれば、嫌でも戸部の勇姿に会場の目が集まる。さっきの珍プレーだって、戸部には魅力に変わる。目立って笑いを取って、その上得点王となれば十分過ぎる位見せ場を活かせたと言えるだろう。

 

 

 

 そんな時葉山にボールが渡った。

 

 途端に葉山応援コールが沸き起こる。葉山は片手でコールにわらいかけ、応えると会場の女子がさらに沸き上がった。

 

 マークに付いていた戸部がふぅ、と息を付くと瞬間、葉山の姿勢が変わり低い姿勢に変わる。

 

 

 ダンッ……。

 

 

 …………!!

 

 

 

 一瞬の出来事で目が追い付かなかったが、葉山は低いドリブルで戸部を抜き俺の前に突き進んできた。

 

 俺は咄嗟に腰を下げ手を広げたがまるで俺の手をすり抜けたかのように後ろに走り去り、立ち塞がる城山の前に迫る。

 

「な……」

 

「うぉ……!」

 

 葉山は飛び上がりゴールにボールを叩き込もうとする、城山はそれを阻止する為に飛び上がるも葉山はその上を取り、ダンクでボールを叩き込んだ。

 

 ガァン……!

 

 

 テンッ……テンッ……。

 

 体育館は静まり返り、ボールが弾む音だけが響いた。

 そしてワンテンポ遅れて会場がワッと沸き上がった。

 

「す、すげぇええ!! 三人抜いた!」

 

「しかもダンク決めた! 格好ぇ!!」

 

 

 五月蝿い位の歓声の中、俺たちは少し固まっていた。

 

「……試合はわざと負けるなんて事はしない。君らは十分強いし、上手い」

 

 自陣に戻りながら葉山が話しかけてくる。

 

「だから、変な工作なんかしなくたって君たちが実力で勝てるって事に俺は賭けるよ。俺は戸部の事を信じてるからね。そもそも、俺は君にだけは負けたく無いんだ」

 

 

 

 そういう葉山にじとりと睨む位しか返せなかった。

 

「は、八幡」

 

 ボールを拾う俺を心配そうに戸塚が話しかける。

 

「すぐに取り返すぞ」

 

 

 ハッキリ言って想像以上だ。

 いかに運動神経が良かろうと、バスケ初心者の球技大会に、これ程上手く、ガチな奴がいると思ってなかった。

 点数はこちらがリードしていたが、今の1プレーで見事空気をかっさらってしまった。

 

「……全く、嫌な奴だ」

 

 俺はコートにボールを投げ入れ、また走り出す。

 

 パシッ!

 

 なに……?

 

 いつものように高速でパスを回そうとパスを出したら、葉山によってボールがカットされた。

 

「スティール!?」

 

「いつまでも慣れない訳無いだろ? 大岡っ!」

 

 葉山のボールは大岡に回されそのまま葉山はゴール下に飛び込む。

 

「うむっ!? くっ」

 

 城山も素人なりにスクリーンアウトを頑張るが葉山は軽々しいステップで内側に入ると大岡に合図を送る。

 

 大岡はシュートするもリングに弾む。

 

 しかしまたも葉山がそのまま叩き込んでしまった。

 

 

 お前も素人のはずなのになんだその動きは。

 

 葉山のハイスペックさは知っていたつもりだし油断したつもりは無いが、こんなに早く対応してくるなんて。

 

 

 

「やったな隼人君!」

 

 両手を上げて葉山に寄っていく大岡。

 

「まずは戻ろう! すぐ次が来るぞ!」

 

 指示を出され”おう!”っと元気良く守備に戻っていく大岡。

 もうスキは見せない、か。

 

 流石は空気を自在に操るゆとりの国の王子様だ。

 さっきのプレイと今の指示でチームの士気や動きだけでなく、本気で追い上げて良い空気を作ってしまった。

 

 

 他のチーム相手ならそうはいかなかっただろう。ムキになってキャラを崩したく無いだろうしな。

 だが葉山が居れば話は別だ。いつだって、学園カーストトップの人間がその場の空気の支配権を持っていくんだ。

 今は学園ヒーローチームが格好良く逆転する空気になった。

 

「がんばれ~! 葉山君!」

 

「いけ~!! 大岡ぁ!」

 

 

 

 こうなる前に、点差を広げて追い上げるのが馬鹿馬鹿しくなるようにしたかった。

 こう早く変えられるのは、不味い。

 

 

 思考する俺の前には戸部と葉山が話をしている。

 

「い、いや~隼人君マジ格好良すぎでしょう!!」

 

「いやお前にはやられたよ。これからはそうはいかないぞ?」

 

「いや~、本当手加減してほしいわ~!」

 

 

 

 ・・・・・・。

 

 

 

 

 あれから試合は進んで、葉山達がどんどん点数を入れてきた。どちらも素人である以上ディフェンスは不得手であるし、こちらも点をそれなりに取り返したがもはや勢いは止められず逆転を許してしまった。

 

 材木座の張り付きも体力が続かず、葉山の次に厄介な大和が自由になってきたのもあり、此方の圧倒的不利な状況だ。

 

 

「戸塚!」シュッ。

 

「あ!」

 

 

 戸部の放ったパスを戸塚が取り損ない相手ボールになる。

 そしてそのまま大和が決め、前半が終了した。

 

 

 ……前半終了のブザーが嫌に耳に残った。




続く


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