俺ガイルSS やはり俺の球技大会は間違っている。   作:紅のとんかつ

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その1 俺達の挑戦が始まり、厳しい訓練が幕をあげる。

 

 材木座の小説をようやく読み終え大きく伸びをする。雪ノ下はもう読み終えたようで、指摘する箇所を箇条書きでまとめていた。由比ヶ浜はまだ唸りながら小説を流し読みしているみたいだ。

 その隣には戸部鼻歌で良く聞くJーPOPを口ずさみながら材木座の紙束をペラペラと流し読みをしている。

 

 途中で戸部が”皆何読んでるの?”と首を突っ込み、材木座の自作小説だと伝えた所”面白そう! 俺にも見して!”と詰め寄り、材木座は困惑しつつも戸部に差し出したのだった。

 やめときゃよかったのに。

 

 由比ヶ浜が読み終えるのを待ってたらキリがないので、読み終えた俺と雪ノ下から感想をつげる事にした。雪ノ下のは感想というより指摘、指導といった感じだった。辛辣な物言いに戸部が軽くヒいていた。俺からはパクるならうまくやれ、と一言だけアドバイスを出しといた。回りから凄い白い目で見られたが気にしない。

 

 由比ヶ浜からは一言がんばってね。

 なんでがんばってという言葉は時と場合によっては凄い距離を感じるんだろうか。俺が中学の時の委員長に、クラスで一人でいる事を心配され話しかけられた時いかに一人でいる事が有用か説いた所、話を一通り聞いてから一言がんばってね、と言われた。あの時、俺は彼との関係に一線引かれた気がした。現にアレから話かけられる事無かったし。

 

 

 三人から感想を聞いて材木座はがっくり項垂れていた。俺も由比ヶ浜も雪ノ下もぐったりしている。

 

 こうして本日一人目の依頼は終わりだ。

 お疲れ材木座。

 

 そうして暗い空気が流れている中、戸部が紙束を持ち上げながら材木座に話しかけた。

 

 

「いやでも小説書けるってマジすごくない? 俺はそういうの無理だからリスペクトだわ~」

 

 

 材木座の耳がぴくりと動く。

 

 

「俺小説とか初めて読んだし、最初の方しか読んでね~けど、このタイムスリップ? ってのマジ新しいし! 主人公のヨシテル君の右手でどんな能力も無効に出来るとかオリジナリティってのあると思うわ~。ぶち壊すって台詞もカッケーし!」

 

 お前マジで言ってんの? と戸部を信じられない物を見るような目で見てしまった。ソレどう考えてもただのパクり……。

 

 しかしようやく誉められ、途端に元気になる材木座。立ち上がり高々と笑い出す。

 

 

「ふ、フハハハ! そうであろう! お前は選ばれた見る目を持つ者のようだな! 物語の真意を読む事の出来る目を! フハハ!」

 

 

 

 

 急にテンションを上げまくる材木座に、戸部が”お、おう。”とひいてる。

 

 ……まあ戸部はラノベとか見ないだろうし、知らない奴からすれば”新しい”と感じるのだろう。確かに読み手によって見方を変えれば評価は十人十色、知らない事は新しい。本ネタを知らない人ならソレが最初でオリジナル。

 

 

「皆の衆、感謝する! モチベ高いうちに修正してくるぞ! 完成品を楽しみにしておれ! ではサラバ!」

 

 

 ドタドタと材木座が部屋から出ていった。

 え、何また持ってくんの?

 

 ふぅ~っと三人が溜め息をついた。

 雪ノ下がカタッと椅子を下げ、立ち上がる。

 

「紅茶を入れるわ。由比ヶ浜さん、戸部君はいかが?」

 

 由比ヶ浜がありがと~っとお礼を言い、戸部がうすっと頭を下げる。俺は?

 

 仕方なくさっき買っておいたマッカンを鞄から取り出した。プルタブを開いた所で雪ノ下が紅茶を持ってくる。

 

 見ると俺用の湯飲みにも紅茶が入っていた。

 気まずい感じに目が合う。

 

 

「……」

 

 

「……い、いただきます」

 

 

 だって俺には聞かなかったじゃん?

 

 雪ノ下が席に付き、皆紅茶を一口飲み一息つく。……うまい。

 寒い教室で作業をし冷えきった体に温かい紅茶が染みていく。思わずふぅ~っと息をはいてしまった。それは皆そうだったようで、四人共タイミングが合ってしまった。

 

 

「……それで、戸部君の相談とやらは何かしら?」

 

 そしてようやく二人目の依頼に入る。もう今日は終わりでいいんじゃないかな?駄目かな?駄目だね。

 

 

「あ、うん。それな。……実はさ、体育の話なんよ」

 

 

 どこか言いづらそうに口を開く戸部は後頭部に手を組みながら椅子に寄りかかる。ぎしっという音が静かな空間に響く。

 

 

 体育……?このタイミングで体育の相談となると……。

 

 戸部の言葉に最近の出来事を考え、思い当たるフシが頭に浮かんできた。

 

 

「球技大会か?」

 

「おおそれそれ! 流石ヒキタニ君! 話解るわ~!」

 

 

 俺の簡単な推測は当たり、戸部が喜んだ。

 いや、ヒキタニって誰だよだから。

 

 

「……それで球技大会が何なのかしら? ヒキタニ君」

 

「……んフッ……」

 

 

 雪ノ下さん解って言ってるよね?由比ヶ浜も今笑ったよね?

 ちなみに球技大会とは体育の一貫で、2クラス混合で多数決で決めた球技を大会方式で争うというイベントだ。マラソン大会もやってそんなのまでやるとは狂気の沙汰だと思わないか?

 

 嫌な事を思いだし、さっきとは違う重いため息が出そうになる。そんな俺の心情はお構い無しに戸部の相談が続く。

 

 

「……その相談なんだけど、その、球技大会って、その、今の学年でやる数少ない見せ場ってか、イベントってか、解るじゃん。こう、なんていうかさ?」

 

 

 いやわかんねぇよ。その行事が嫌で嫌で仕方ない俺にとってマジで興味無いイベントだし。

 ついでにお前に興味が無い俺にはお前の言いたい事は解らん。本当今日は材木座の自作小説といい、興味が無いオンパレードだな。戸部の次の言葉を待つ。

 

 

「つまりそういう事なんよ」

 

 

 

 

 

 

 

 ………………。

 

 

 

 

 

 

 は? 説明終わり? マジでわかんねぇよ。

 雪ノ下も同じくイラついたようで少し目が怖い。

 

「相談に乗って貰いたいなら、相談した相手に解るように言ってくれないかしら?」

 

 

「いや~! もう伝わるっしょ! マジ恥ずかしくてヤバイ相談なんだけどさ! みなまで言わせないで欲しいのよ!」

 

 

 なんなのクイズなの?

 

 なんか照れた態度も男にやられてもイライラするからやめてほしい。雪ノ下も俺と同じ気持ちのようだ。

 

「相談したいのは貴方でしょう戸部君。その相手に理解を求めたいならハッキリしなさい帰るわよ」

 

 

 戸部がびくついたその後ろで由比ヶ浜がぽんっと手を叩く。

 

 

「解った! 姫菜に球技大会でかっこ良い所見せたいって訳だね!」

 

「それそれ!」

 

 戸部が両手で由比ヶ浜を指差し笑う。

 なにそれゲッツ?古いな。

 

 後ろで雪ノ下は感心する。

 

 

「……よく解ったわね」

 

「え~? だって前に来た相談の事もあるし今ので解るじゃんっ」

 

 いやわかんねぇよ。リア充は言葉が足りなくても何故か会話が成立する。もう通訳とか必要になったじゃないの?俺はもうリア充語通訳雇わないといけない。

 

 雪ノ下はこめかみを押さえている。

 俺も同じポーズをとっていたのでポーズをさり気無く変えた。

 

 ようやく相談内容が解った所で、ようやく相談の中身を聞ける。戸部は少し寂しそうな顔で語りだした。

 

 

「……ほら、来年は違うクラスになるかも知んないからさ。……少ないチャンス、活かさなきゃって思って……」

 

「……そうだよね」

 

 

 どこか悲しそうな表情で戸部は前かがみに座り直し、腕を前に組む。その戸部の言葉に由比ヶ浜が何か共感していた。共に頷き、俯き寂しそうな顔を浮かべる。

 

 しかし、俺はそこで疑問に思った事があった。

 

 

「それで、なんでそんな相談を俺達にするんだ?」

 

 

 戸部が”ん?”とこちらを見る。

 

 

「そんな相談なら友達にでもすれば良いだろ。なのになんでわざわざ奉仕部まできて相談するんだ?前の事、忘れた訳じゃないだろ?」

 

 

 俺の言葉に雪ノ下は顔を歪め、由比ヶ浜はハッとなる。

 前の事、つまり修学旅行の事だ。あの時俺は戸部から相談を受け、そしてその告白を台無しにした。

 

 戸部の決心を知りながらその告白を俺が奪った。にも関わらず何故また俺達に相談する?

 

 正直、馬鹿なのかとすら思う。

 しかし戸部はなんの抵抗も無く返答した。

 

「……前ここに来た時、三人とも本気で話を聞いてくれたじゃん。……相談した友達は、やっぱ俺にはマジな空気を求めて無いんだわ。だから茶化されるだけでさ」

 

 

 笑顔で後頭部を右手でさすりながら笑う戸部。その笑顔はどこか寂しそうに見える。その様相になんとなく俺も戸部の気持ちが理解できた。

 

 

 

 確かにそうだろうな。

 

 人は皆、その人間に一度キャラを付けると、それを演じる事を暗に強制する。

 

 優秀な人間には優秀な立ち回りを。

 ぼっちにはぼっちらしくわきまえた立ち回りを。

 

 そして戸部はお調子者で馬鹿な立ち回りを周りから求められているのだろう。

 だから何時だか由比ヶ浜が言った、友達の間でマジな空気は作れない。

 真面目な空気は楽しい空気を壊すから、マジになんなよと本当の気持ちを誤魔化す。そんな欺瞞に満ちた生活を強制される。

 

 雪ノ下も由比ヶ浜も、思う所があるのか黙っていた。静かに戸部の次の言葉を待つ。

 

 

「……あの告白は、確かにひでぇって思った。思ったけど、それまで俺の話を聞いてくれて、ダメ出ししてくれて、遠回しに援助してくれてたヒキタニ君は本当だしさ。隼人君も気まずそうに誤魔化しちゃう中そういう事してくれたのは……俺は嬉しかったんよ。……いや、それに海老名さん可愛いから、途中で好きになってもしゃあないっしょ!」

 

「とべっち……」

 

 

「……」

 

 

 戸部は俺の思惑も海老名の依頼も知らない。だから戸部には裏切り者のように見えても仕方ないのに、コイツはそう思ってないのだろうな。人懐っこい笑顔で仕方なさそうに笑う。

 それが、少しだけあの時の後ろめたい気持ちを楽にさせてくれた。コイツの軽い人間性に気分を軽くして貰う日が来るとは夢にも思わなかった。

 

 そのまま戸部は腕を組みながら頷き、そして口走る。

 

 

 

 

「それにさ! 今はヒキタニ君彼女いるし、ライバルじゃ無くなったしさ!」

 

 

「「……は!?」」

 

 

 戸部が何かを口走った瞬間、この部室には時空の歪みが生じたのか、時が止まったような感覚を覚えた。

 

 え?何それ怖い?そんな呪文聞いた時無い。俺は静かに震えていると、ガタッと椅子から立ち上がった由比ヶ浜が俺の胸ぐらを掴む。

 

 

「ヒッキー!! いつの間にそんな事になってたし!!! 私聞いてないよ!? 相手誰? いろはちゃんでしょ! いや、サキ? まさか……平塚先生なの!?」

 

 

「知らない知らない、何その人選。特になんで先生入ってんだよ」

 

 

 ぶんぶんと俺を振り回し真っ赤な顔で俺を問い詰める。苦しい苦しい。

 

 

「いつの間にそんな事になったのか知らないけれど随分急なのね、私には関係の無い話だけれど……」

 

 

 冷めた目で俺を見つめ、言い放つ雪ノ下。

 目が怖い気がしますよどこか。

 

 

「とべっち! 相手誰だし! 誰!?」

 

 凄まじい剣幕で叫ぶ由比ヶ浜に心底ビビる戸部、ひぃっ!という悲鳴と共に椅子から落ち、手を落ち着いてと伸ばす。

 

「い、いやいや誰って、ゆいっしょ?」

 

 

 

 ……。

 

 

 

 

「は?」

 

「は、はぁあああ!?」

 

 

 わちゃわちゃと由比ヶ浜の落ち着きが無くなり急に手を離すから俺が地面に崩れ落ちる。

 

 

「なななな何言ってんの!? ひ、ヒッキーとなんて、そそそそそんな訳無いじゃん!」

 

 いやいやそんな否定しなくても。

 そんなに嫌なん?傷つくわ~。

 

 

「つ、付き合うとか、ま、まだだし! 戸部っちテキトーな事言うなし!」

 

 由比ヶ浜の矛先が戸部に向かう。戸部は不味い事を言った自覚はあるようで焦って誤魔化しだした。

 

 

「いやだってクリスマスとかさ~、……あ、解った雪ノ下さんの方か」

 

 

「……は?」

 

「おい馬鹿やめろ」

 

 

 氷の刃のような目線でまばたき1つしない雪ノ下。その氷結の魔眼で戸部を射抜いていた。

 

 

「私がこの死んだ目をしたヒキガエル君と? 冗談は彼の顔だけにしてくれないかしら本当笑えない冗談だわヒキガエル君と私が付き合うなんてどういう理論かしら何をもってそう思ったのかしら無責任な事を言わないでまったく困ったものね私と彼が付き合う? 何を言ってるの第一クリスマスに一緒にいたから付き合ってるなんて貴方達はなぜそんな短絡的に考えるのかしらそういうなんでもかんでも恋愛に結び付けるのは本当にイライラするわまちがっている客観的から見ても彼と私は恋人になるなんて事無理だという事は伝わると思うのだけれど解るかしら解るわね戸部君」

 

 

 凄い剣幕に戸部があわわと後ずさる。

 

 お前いくらなんでも嫌がり過ぎだろ。

 泣くぞ。マジで。

 

 

「い、いやクリスマスに一緒にいたからクリスマスデートだとばかり! ……あ、もしかしてあの時一緒にいたザイモクザキ君の彼女?」

 

 

「「あ?」」

 

「ひ、ひぃ!」

 

「……ンフッ……」

 

 

 二人からプレッシャーをかけられ、短い悲鳴を上げて体をさらに仰け反らせる戸部。

 やるな、学校で俺を吹かせた奴は多分お前が初めてだ。

 

 その後凄まじい罵倒と怒りに戸部はしこたま攻められるが割愛。一言でまとめるなら酷かった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 30分後。

 

 

 ふぅ~。

 

 しばらく騒いだ後、既に冷めきっていた紅茶を飲みながら落ち着き、ため息をついた。

 

 どんだけ怒ってんだ、戸部の元気が無くなっただろうが。コイツの場合これ位で調度良いけど。

 

 そして落ち着いた空気の中、雪ノ下が俺を一瞬見て、戸部に向き直り優しく呟いた。

 

 

 

 

「……今回の依頼、受けるわ」

 

 

 その言葉に由比ヶ浜も頷き、俺も無言。

 

「マジで?」

 

 

 

「勿論だよ! 頑張ろう!」

 

 由比ヶ浜も微笑み、戸部に両手を掲げた。

 雪ノ下は二人には聞こえない位の声でぽそりと言う。

 

 

「私達は……もうあの時とは違うもの」

 

 

 ……やり直しをするつもりは無いし、出来るとも思って無い。だが、確かに前のやり方とは違うもので、やってみようと思う。

 

 そう心の中で意気込んでみる。

 

 

 

 

「それで、球技大会では何の競技をやるのかしら?」

 

 

 そして戸部の相談の主題に入った。

 

 

「……バスケだ」

 

 雪ノ下の質問に返してやる。なぜバスケになったかと言えば冬、雪が降っても出来て人気があった種目だったからだ。

 

 

「そう、チームは決まっているの?」

 

「うん!決まったよ!」

 

「それがまず問題なんよ~」

 

 

 

 戸部は項垂れながらあからさまに暗くなる。

 俺は何故そうなったか解ってる。

 

「チームが、ヤバイんよ」

 

 由比ヶ浜はムッとしたように戸部を見る。

 

 

「チームの何が問題なのかしら?」

 

「俺と材木座がいる」

 

 雪ノ下の質問に変わりに答えてやった。

 これがヤバイチームの理由だ。

 その言葉に雪ノ下は眉をしかめる。

 

 

「隼人君達とあぶれちゃってさ。ハァ、マジないわ~」

 

 そう、その戸部が組んだチームとは余り物チームだったのだ。

 何故そんなチームになったのか、それはチーム決めの日に遡る。

 

 俺は好きな奴でチーム組め、という

 ”俺生徒が楽しいようにしてやってるわ~”

 的な感じの満足げな体育教師によってぼっちにとっての悪魔の呪文を食らってしまい、いつものように材木座と集まっていた。(2クラス合同なので、交流も兼ねて2人、3人づつという制約はあったが)

 

 

 周りがどんどん楽しくチームを作る中、いつもなら二人いれば問題無かったのに五人で組まなくてはならない状況に、俺達はなすすべなく余っていた。二人でキョドる姿は相当キモかった事だろう。

 それを見かねた天使、じゃなくて戸塚がチームに加わってくれた。救いの声に思わず俺と材木座は跪ずいたまである。

 

 しかし無情にも三人では足りず、タイムアップとなってしまった。

 そこにチーム決めが決まらなかった俺達に、教師から他に組んで無い奴がいると告げられる。それが運悪くその日欠席していた男達、その一人が偶々風邪で欠席していた戸部であった。

 

 戸部のいつものメンバーは戸部が居なかった事でスムーズにチームを組んだ葉山、大和、大岡、そしてもう1つのクラス二人で組んでいて見事に戸部はあぶれてしまったのだ。

 

 こうしてリア充には辛い”余り物チーム”への所属が決まったのだった。

 

 

「いやマジ余りチームとか無いわ、本当チームもう一回組み直しして欲しいわ……」

 

 

 へいへいすみませんね。俺らなんかと一緒で。

 大袈裟に落ち込む戸部にジトーっと目線を送っていると、そこで由比ヶ浜が立ち上がり戸部に怒鳴りだす。

 

「ねぇとべっち! さっきからヒッキーとかに失礼じゃない!?」

 

「あ、いやそういう意味じゃないって!」

 

 

 戸部は弁解をするが解ってる。戸部に悪気はない。俺も戸部に興味無いしお互い様だから気にすんな。

 

 しかしこのチーム決めは失敗だけではない。

 

 

「でもまあ葉山と違うチームになれたのは良いんじゃねぇの」

 

「何故?」

 

 

 訪ねる雪ノ下に答えてやる。

 

 

「いや簡単だろ。今回の目的は戸部をかっこよく目立たせる事だろ? 葉山の横に戸部を置いたら、どうよ? どう考えても引き立て役にしかなんね~だろ?」

 

「そうね。いつもの付け合わせにしか見えないわね」

 

「二人も失礼だっ!」

 

 

 実際事実だししょうがないだろ。

 戸部もあ~って納得してるし。

 

 

「それでもチームが簡単に負けていたら、それはそれで格好悪いのではないかしら。比企谷君はバスケット経験はあるの?」

 

「スラムダンクを全巻読んだ」

 

「漫画じゃん!?」

 

 

 由比ヶ浜スラダンの凄さ知らないの?

 スラムダンクマジ面白い。

 何回も読んだ物だ、つまり何回も経験したような物だ。違うか。

 

 スラムダンクという単語に戸部は反応する。

 

 

「あ~、アレ面白いよね~。マジ三井カッケェ」

 

「は? リョータだろ? マジカッケェ」

 

「そのスラなんたらの話はもう良いから、話を進めましょう」

 

 

 雪ノ下がハァっと溜め息をつき制止する。

 何? お前もスラムダンク知らないの? 漫画今度持ってきてやるから見とけよ。

 

 

「ちなみに別クラスは中2さんでしょ? もう1人は誰なの?」

 

「あ~、城山だ」

 

「あの柔道部の?」

 

 

 その柔道部のだ。

 あの件以来気まずいんだが、あいつもあの日休みで余ってしまったらしい。

 雪ノ下が考え込んだ後口を開く。

 

 

「人選は解ったわ。じゃあ、後はやる事をやるだけね」

 

「やる事?」

 

 

 嫌な予感しかしない。

 俺はもう察しがついていた。

 

「あら戸塚君の時を忘れた? 私のやる事は1つ、死ぬ迄走らせて死ぬ迄練習、よ」

 

 

 戸部と俺はゲッと声をハモらせた。




続く

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