俺ガイルSS やはり俺の球技大会は間違っている。   作:紅のとんかつ

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お久しぶりです。

最近再び舞い戻りました!
リクエストのあった海老名さん側の視点が見たいという嬉しいお言葉を頂きまして、なんとか最後まで話のイメージが出来たので投稿させて頂きました! 遅筆ですがお付き合い頂けたら凄い嬉しいです!

海老名さんを筆頭にキャラのイメージが違うと思われる方がいらっしゃいましたらすみません!
海老名さんは文章が難しい!

また御指摘ご感想等は大歓迎です^_^


ストーリ開始は2年生になりたての彼等です。




番外2 球技大会 サイドE
番外2-1 平和な変わらない日常の私の一つの間違い


 

 

 

 

 

 

 声が大きい目立つ人。例えクラスが同じであっても私が関わる事の無い平行線。住む世界も感性も違う人。

 

 それが彼の第一印象だった。

 

 

 

 

 優美子と話をしてて、教室で響く彼の笑い声で私の言葉がかき消された事は一回や二回じゃない。彼が教室の入り口で友達とじゃれあい塞がれた為に部屋に入るのを遠回りする事になった事だって何回もある。二年生になってからすぐ、喧しいクラスになっちゃった、と彼を筆頭に少し疎ましく思った事も無かったと言えば嘘になる。

 

 

 基本的には自分の世界が一番大事。

 私の日常をいつも通りささやかに幸せに過ごせればそれで良い。だから、その世界に嫌でも割り込んで来るその大きな声には困ってしまう時が多かった。

 

 彼は自分が興味がある事があると誰にでも声をかけ、自分の世界では無く他人の世界に自ら入っていくタイプ、まさに私と正反対だ。

 

 そんな人がまさか、そんな彼が私の世界の内側に入って来る事になるなんて思いもしなかった。

 

 

 

 優美子が気になっている葉山隼人君。その彼に紹介される形でその人は私たちの前に立っている。

 葉山君とは違う意味で良く目立つ彼は、遠くから目に入っていた時と変わらない態度で軽々しく敬礼して挨拶をしてきた。

 

 

「あ、チョリーッス! 俺、戸部翔言います! 隼人君とサッカー仲間ってか? 友達やってます! 女子に紹介とか、マジテンアゲ? いやこれからよろよろ!」

 

 

「うわっ」

 

 

 私が思わず口から漏れそうになった声を押さえ付ける中、優美子はその言葉を隠す事なく吐き出した。隣で結衣も”あははっ”と苦笑いを浮かべている。

 しかし彼はまるで気にする気配も無くニカッと笑った。そんなやり取りに葉山君はフッと笑顔を漏らす。

 

 

「同じサッカー部でさ、落ち着き無くて騒がしい奴だけど、まあ結構良い奴なんだ。良かったら仲良くしてやってくれ」

 

 

 しゃっす、とテヘペロして敬礼のような動作をする彼。

 イラッとしたのは私だけじゃなかったようで左から舌打ちが聞こえた。

 

 舌打ちの実行者は腕を組み、彼を値踏みするかのように下から順に見上げ、怪訝な顔で否定を口にする。

 

 

「え~? 正直嫌なんだけど。だってコイツ見るからに、めちゃくちゃ軽そうじゃん。あ~し友達間での会話とか、簡単に誰かに言い触らされるの嫌なんだよね」

 

 

 ま~、いるよねそういう人。

 

 特に優美子みたいな美人が相手だと、どんな話したんだとか周りに自慢したくなるだろうしね。

 

 あからさまに嫌そうな顔をする優美子に彼は片足を一歩引き、頭をぺしっと叩く。

 いちいち見せる三流アメリカドラマのようなオーバーなリアクションに、優美子はまたまた舌を鳴らした。

 

 

「ちゃけば、実は意外に俺軽くないんよ? なんてかマジ誠実剛健? って奴よ。マジで」

 

 

 質実剛健を改編した言葉かな。

 見た目によらず国語応用能力高いんだね。

 本当に間違えて口にしてる可能性あるけど。

 

 あまり良い顔をしない優美子に、その隣から空気を読む事に定評のある結衣からフォローが入る。

 

 

「まあ、その、大丈夫じゃないかな? 確かに、いや、かなりちょっと見た目チャラそうだけど……、ほら、なんてか、うん。隼人君の紹介だから! だから信頼出来るよっ! ね? 戸部君!」

 

 

 それは隼人君への信頼であって、彼への信頼では無いよね。なんか、”そうそう!”と言って嬉しそうだけどさ。

 そして隼人君が彼の肩に手を乗せて優美子に優しく微笑んだ。

 

 

「大丈夫。態度や言葉は軽薄だけど、コイツは意外に思いやりがあるから。優美子達を傷付けるような事は絶対しないって保証出来るよ」

 

 

 二人の言葉に優美子も渋々納得したようで、よろしく、と挨拶を交わした。

 

 私も、

 

 なんとなく、だけど隼人君から伝わってくる彼への信頼の気持ちが伝わってきて、警戒心は薄れてきた。

 

 あの隼人君が人をうるさい、とか態度が軽薄とか、そんな言葉を言える相手なんて初めて見たから。人との距離感を大事にする隼人君に対してはその点において親近感を持っていた私もそれが意外で、少しだけ接してみようかな、と思えた。

 

 

 

 

 それに、なんていうか、隼人君から注がれる並々ならぬ信頼に対して凄く”そういう事”という風に見えてきた。

 

 ”そういう事”なら全く文句は無いよ!

 と笑顔(笑が汚)で彼を受け入れた。

 

 でもなんていうか、戸部くん×隼人くんはイマイチ、こう、ぐっとこないかも。やっぱり隼人くんが似合うのはクラスでいったら、あのヒキタニくんとか良い感じだよね!

 

 

「私もよろしくね? 戸部君」

 

「しゃっす! 海老名さん!」

 

 

 眩しい笑顔で敬礼する彼に敬礼で返す私。

 そうして、決して関わる事の無いだろうと思っていた彼が、この日からまさかの知り合い以上になった。

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 それから彼は、私の学校での日常には常に存在していた。

 

 いた、というより嫌でも飛び込んでくる、というのが正しい。

 

 この数ヵ月で皆、彼の扱いが解ってきて優美子なんかは結構キツイ言葉をいい放つ事も多い。

 

 なのに優美子は彼が嫌では無いようだ。

 今までは厳しい言い方をして他人に嫌煙されたり、後から陰口を言われたりした事も少なく無いのに、彼の場合はそれも笑いにしてしまう。

 

 

「戸部うざい」

 

「優美子マジきびしいわ~!」

 

 

 そんなやり取りは最早鉄板と化している。

 その尖った言葉の裏には、そんな言葉を言える優美子なりの信頼があり、そして安らぎもあるのだろう。

 

 彼も優美子のキツイ言葉が自分のキャラ的に助かってる所も多いらしく、ふと優美子がいなくなると”優美子どっか行ったん?”と毎回聞いてくる位なついていた。彼も優しく流されるより厳しく言い返してくれる方が楽しいのだろう。

 

 良く言う彼の

 ”俺ってマジパネくね?”のネタフリに対して、

 

 ”うん、凄いよね~!”と心にも無いお世辞を困り顔で言われるより”は?なにが?”と返された方が会話も弾むし。

 

 もはや二人は友人として相違無い関係と言えるようになった。

 

 

 

 結衣の方も、最初の内は距離感が解らず当たり障りの無い優しい言葉や態度で接していたのだが、積極的過ぎる彼のスキンシップの前にそれはあまり意味が無い事を悟り、今ではあの結衣すら彼には言葉をあまり選ばず、思った事を口にするようになった。

 

 その内大和君や大岡君が混ざり、色々越えて新たなグループが形成されていく。

 

 

 でも、私はまだ計りかねていた。自分の世界が思ったよりどんどん変化していく様に、戸惑ってしまった、が正しいだろう。

 

 優美子がいて、結衣がいて、趣味があれば完結していた私。それ以上には特に望んでいなかったからこそ彼を積極的に受け入れる必要が無かったのもある。

 でも、そんな私も少しだけ考えを変える出来事がおこった。

 

 

 

 

 それは、ある日の期末試験の話。

 

 その時の試験は、全体的に難しく平均点も低かった。クラス全体がどんよりとした空気で答案とにらめっこしている。その結果に結衣も優美子も頭を抱えていた。

 

 

「ねぇー、今回のテスト、マジ難しくなかった? 点数、結構やばいんだけど」

 

「そうだね~。結衣も席で頭抱えて落ち込んでたし。二人とも気にしすぎじゃないかな~。今回たまたま難しかっただけで、次に活かせれば良いじゃん」

 

 

 優美子も結衣も、割りと本気で落ち込んでいるらしい。必死に励まそうとするも、選びに選んだ言葉では彼女等の心を癒せばしない。

 

 

 しかも、今回は私は点数が悪くなかった。

 

 だから答え会わせでなら力になれるけど、”姫菜はなん点だった?”みたいな話になったら色々逆効果になる。何か良い方法は無いか、そんな風に困っていると、彼は葉山君の所から空気を読まずハイテンションで近付いてきた。優美子の座る机に飛びついて、いつも通りの楽しそうなテンションで声をかけてくる。

 

 

「ええ~、何々!? えらい落ち込んでんじゃん! どしたん、なんの話? 俺の話?」

 

「戸部には関係無い話」

 

「おっと~!」

 

 

 相変わらずオーバーに反応し、頭にぺしっと手を叩かせる。こっちは落ち込んでる暗い空気だからこそ異質感が半端無い。

 すると、彼の目に優美子のテスト答案が目に入る。あれ? と呟いた彼に優美子はハッとなり、テストの答案を胸に隠した。 

 

 

 …………。

 

 

 

 私たちの間に嫌な沈黙が入る。

 優美子もどこか気まずそうに視線を反らし、その態度に彼も自分がまずい物を見てしまった事に気付いたのか、焦ったようにオロオロ見てなかったよアピールを始めた。

 

 そんな彼を余所に、優美子は教科書を広げて問題の見直しを始める。その目には涙がこぼれそうになっているように見えた。顔を赤くし、静かに震える優美子を私は痛ましい物を見た感覚で視線を送ってしまった。

 

 

「……マジでヤバい。今回少し油断し過ぎてた」

 

「き、気にする事無いよ! それに優美子の点数、言うほど悪く無いよ? それに、数学以外だって高得点じゃん」

 

 

 しっかり平均点以上は取ってるし、今回の数学は本当に難しかった。全体の平均点が低いのだから、それを証明している。でも、負けず嫌いの優美子には許せなかったのだろう。乱暴にノートや教科書を並べていく。

 

 

「気にするよ。アタシ馬鹿って思われるのはマジ嫌なんだよね」

 

 

 彼に、というか他人に点数を見られた事で恥ずかしいという気持ちが溢れてしまったのだろう。みるみる顔に余裕が無くなっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 すると彼は、気まずそうに襟足を引っ張り、何も言わずに振り返り、自分の席に戻っていった。

 

 優美子に対して特に何も言う事無く。

 

 

 ……なるほど、彼も流石にこれ位の空気を読む力はあるらしい。

 彼が離れていく背中を見届け、事態を重く見すぎてる優美子をどうやって励ますかを考える。

 

 気にするな、と言っても意味は無い。

 考え過ぎ、というのも今の優美子には大変な事態なんだ。言える訳が無い。

 

 さて、この空気をどうすれば……。八方塞がりのこの状況に私は指を噛んで頭を悩ませる。

 

 

 

 

 

 ……ポンッ。

 

 

 

 すると私と優美子の肩に誰かの手が乗っかる。振り向くと、自分の机の中をひっくり返し引き出してきたテスト用紙を持って、彼が笑っていた。

 

 

「てかさ、それよりこれ見てやばくない? 実はさ、俺国語マジ良い点取ったんよ!」

 

 

 クラス全員に聞こえるような声で私たちに答案を見せびらかした。そこには赤く染まったテスト用紙が広げられている。

 

 そして点数は11点(イイ点)。

 

 テストの余白に国語担当の平塚先生から

 ”お前追試補習休日通学を覚悟しておけよ”と赤で書かれていた。

 

 

 

 なぜか満面の笑みでソレを見せびらかし彼は笑う。

 

 あっけに取られる優美子。何をしているのかわからず二人で口をポカーンと開けてしまった。

 そして彼の耳は答案用紙と同じくらい赤くしている事に私は気がついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……クスクス。

 

 

 

 教室から笑い声が聞こえてくる。

 

 すると彼から少し離れた所で笑う相模さん達を見付けた。

 

 その沈黙を破る笑いに、彼はぱぁっと明るい笑顔に変わり、彼女等にまでテストを見せびらかして”ね?すげくね?”と自慢し始めた。

 

 

「自慢する事じゃないっしょ~」

 

「やば~!」

 

 

 そして彼は相模さん達の所にまで入り寄り、答案に書かれた平塚先生のコメントを見せ、また笑いを取っている。

 次第にその笑いは彼の大きい声が届く教室中に届いた。

 

 すると今回の難易度が高いテストの結果でそれぞれが”ヤバイ”とか”私はバカかも”と広がっていた彼女等が、教室が少し明るくなっていくのを感じる。

 

 ”あいつよりはマシだな”

 

 という安心と共に。

 

 

 

 

 

 そんな暴走を始める彼を見て、信じられない物を見るかのように視線を送る優美子。ようやく自分の答案から視線を外してくれていた。

 

 教室でウケを取り、ヒキタニ君にひとしきり絡むと彼は頭をかきながら優美子の所に戻ってくる。

 困ったようなオーバーリアクションで腕を動かし、そしてパチンと腕を合わせて頭を下げてきた。

 

 

「だからさ、悪いんだけど漢字とか教えてくんね? 優美子確か今回国語良かったっしょ? ヤバいわ~、英語どころか日本語解んないわ~」

 

 

 ぷっ。

 

 その言葉に、私と優美子はついつい笑いを吹き出してしまった。

 

 

「アッハハ! そりゃアンタ普段から日本語怪しいもんね! 知ってた知ってた!」

 

「マジ? やべぇわ~、大人になったらサラリーマンとかなって、”なんだ! その口の聞き方は!”とか言われるわ~」

 

「それ光景が目に映る~! アハハッ」

 

 

 会社員になって上司に怒られる彼を想像したらまた笑いが込み上げてきた。

 ようやく笑顔が戻った優美子に安心して、私も彼も素直な笑顔になった。

 

 

 ……そして沢山笑った後、優美子は隣に座る彼に国語の答えを教えてあげ始める。

 

 自分の数学の答案を鞄にしまって。

 

 優美子は面倒見が良く、頼られると実は弱いタイプだ。だから結果として、テストの結果にとらわれて重く考え過ぎていた優美子を、ようやく他に目を向けるようにする事が出来た。彼がそこまで考えていたとは思えないけど。

 

 彼は優美子の教えかたに”やべ~。やべ~。”

 と称賛なんだか批難なんだか解らない反応を返しながら答えを直し始める。同じく点数で悩む結衣を巻き込みながら。

 

 

 その日の放課後、彼は隼人君も巻き込みファミレスで勉強会を開催する。

 

 難問だった数学を優美子に隼人君が教え、彼と結衣には私が教えた。

 

 

 帰る頃には幸せ一杯な顔して帰った優美子と一緒に帰る私達を見送りながら元気に手を振っている。

 

 

 

 前は鬱陶しくて仕方なかった彼の元気も動きも、今では楽しいとすら思った。

 

 

 

 

 戸部っちは、

 彼なりに私が大切にしている世界に対して良い影響を与えてくれる。

 

 そして私の大切な世界の日常に、気がついたら戸部っちもその一部になっていて、

 それからいつからか大和君に大岡君が加わって、二年生での私の世界が新たに出来上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だから私は間違った。

 

 誰であろうとフレンドリーで、

 コミュニケーション過剰で、

 人懐っこく、

 弄られキャラな戸部っちに対し、つい油断していたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 戸部っちは驚く位ノリが軽く、解りやすい人だった。

 

 そう言えば悪く聞こえるかもしれないけど、すごく人間が薄っぺらだった。

 

 

 だけど薄い人間性だからこそ見えるその優しさ、純粋さ。

 会話でお互いを牽制して空気を読んで、とかを強要される現代の人間関係の中で、戸部っちにはそんなものが無かった。

 

 ハッキリ言って一緒にいて楽だった。

 

 隼人君もそんな彼だから安心するのだろう。

 

 

 

 だから私はつい油断して間違ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーー

 

 

 

 ある日の放課後。

 

 

「ん~、この問題はさ」

 

 

 

 場所は教室、いるのは机で頭を抱える戸部っちと、たまたま出くわした私だけ。

 

 優美子が風邪で欠席して、結衣が部活があると解散した後に私は先生のお手伝いで遅くなり、教室に戻ると戸部っちが一人で国語のプリントを前に唸っていた。

 

 

 

 平塚先生に渡された国語の補習用プリントをやっていたようで、彼はその問題に苦戦していたみたいだった。

 

 

「いや、本当に駄目だわ~! 文字だけ読んで、その人物の気持ちを答えろって意味解らなくない? だってその人の気持ちなんて、その人にしか解らないっしょ、普通!」

 

「アハハッ♪ まあ現実ならそうだけどコレは物語だからね。だから、作者が作るキャラクターには当然こんな気持ちがあるっていうのを文章の中で伝えてくれてるんだよ。だから、そんな文章が無いかもう一度読み返してみなよ♪」

 

 

 国語の問題に対し、妙な誠実さを見せる彼に可笑しくなりながら私なりのアドバイスを出す。

 

 隣に椅子を近付けて文章を指で示しながら彼に読ませる。

 

 

 すると彼は”あっ”と嬉しい喜びの声を漏らし、文章を声にした。

 

 

「この、”私は変化が怖かった”って奴じゃね?主人公の気持ち!」

 

 

 ようやく見付けた答えに、彼は目を輝かせながら私に報告する。

 そしてせかせかと答えを答案用紙に書き記した。

 

 

「物語そのものは読む人の解釈しだいで変わっていく物だけど、作者がどう伝えたいか? の所については国語の問題に出るような話なら、絶対ヒントはあるんだよ。こういう問題のコツは、答えは必ず文章の中にある、という事かな」

 

 

 おぉ~、とか

 そんな裏技が!

 とか騒ぐ戸部っちに微笑ましくなりながら一緒に笑う。

 

 

「人によって物語の解釈は変わるって言ったけど、私のこの物語の解釈だと、主人公と従者の少年がデキてると思ってるよ!」

 

「え!? 姫じゃないの!?」

 

「違うよぉ! 姫の為に戦ってはいるけど、常に一緒にいるのは従者でしょ!? 物語を通じて育まれる二人の気持ちが、もうテスト中は”何この夫婦、御馳走様です!”って感じでもう大変で……!ぶはっ!」

 

「どんだけテスト楽しんでんのよ! マジ海老名さんパないわ~!」

 

 

 優美子がいないので、ツッコミ不在の為の脱線。

 

 私は、他の男子とは違って、戸部っちはなんか、友情らしき物だけで接してしまっていた。

 他の男子とは違い、普通に接して、普通に助けて、普通に助けられて、普通に振る舞った。

 

 好きやら、好きじゃないやら、

 カーストやら駆け引きやらおべっかやら

 評価やら、そんな面倒な気遣いを必要としない彼との会話が楽だった。

 

 

 

 

 再び続きの文章を読んで貰うべく、文章を指でなぞっていく。その時、彼の文を読む声が止まった。

 

 

 

 あれ?

 

 そんな風に思い顔を上げたその時、

 ようやく自分の過ちに気付く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「海老名さんってさ、実はめちゃ優しいよね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時発せられた言葉は、軽いばかりのいつものソレとは違った、嫌な重さがある事を感じた。

 

 彼の横顔を見る。

 

 ……失敗した、その顔で私はようやく理解する。

 

 

 

 

 彼のキャラクター性でそういう風に見てなかったのもある。

 

 優美子や結衣なんて魅力的な女の子達の間にいて、まさか私が、なんて考えていたのもあった。

 

 だから私は失敗した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「実はってなんだよ~! 普段から優しいでしょ~!」

 

 

 私はいつものように笑う。

 すると彼もハッとなり、少し戸惑った後に私が求める通りのお調子者の彼に戻った。

 

 

「いや、そういえばいつも優しかったわ~! 気付かなかった~!」

 

 

 そう言って大袈裟に驚いている彼の顔はもう、私の知る彼の顔じゃなかった。

 

 良く作られてるけど。

 

 パッと見ただのお調子者だけど。

 

 いつも通りの世界を作ってくれているけど。

 

 それはもう、私の良く知る仮面の顔だった。

 

 

「今気付いたの~?? 国語より先にもっとデリカシー勉強しなよ~。彼女出来ないよ~? ほら、サッカー部のマネージャーに可愛い子きたじゃん。頑張って格好つけないとね!」

 

 

 ああ、自分が気持ちが悪い。

 

 彼との接し方に、もう新たな距離を作り出してしまう自分が、そしてそんな今が気持ち悪い。

 

 

 

「いろはす~? いやアイツ良い奴だけどそういう対象じゃねぇって!」

 

「うわ~、戸部っちなんかにフラれたって知ったらその子超怒るよ~! ある意味傷付く~!」

 

「い~やそれマジ厳しいわ~! でもさ、俺が見るに、アイツ隼人君が好きなんよ。だから、俺も応援しなきゃって意味でさ~。俺誰が誰好きか解るんだよね。すげくね?」

 

「え~? じゃあ真美ちゃんは?」

 

「隼人君!」

 

「じゃあ幸枝は?」

 

「それも隼人君!」

 

「アハハ! 裏技だねそれ!」

 

 

 

 

 少しづつ、少しづつ距離を取る。

 然り気無く自分の鞄を手に取りながら。

 

 

 

「だべ! だからいろはすは隼人君にマジだね! だから、優美子といろはすどっち応援すべきか解んなくなりそうでさ~」

 

 

「……それ優美子に言っておくね?」

 

 

「それは無いっしょ! ……アレ? 海老名さん帰んの?アレ国語の続きは?」

 

 

「いや~、もう今日は疲れちゃった! だから帰るね。頑張って~!」

 

 

「それも無いわ~! アレ? マジ? ちょ、海老名さ~ん!」

 

 

 

 彼の言葉を待たず扉を閉める。

 

 そして、私はその場から足早に逃げ出した。

 

 

 

 

 

 男と女の間に友情は存在しない。

 

 

 

 

 いつだったか、漫画で見た言葉を思い出す。

 

 だけど私は、

 昨日迄の私は、彼との関係に確かにそれを感じていた。

 

 

 

 そしてグループの男女が、恋愛が絡んだ事でめちゃくちゃになるという事は嫌というほど知っている。

 

 私は今が幸せだ。

 それの変化など望んでいない。

 

 

 

 

 一時期は存在していた友情。

 そして今の幸せ。

 

 私はそれを守る為に、

 

 彼の気持ちを受け入れない。

 

 

 

 

 その思いを痛む胸に抱きながら、私は廊下を走り抜ける。

 

 

 これは修学旅行の事件よりも、もっと前の話。

 

 

 

 

 




続く

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