俺ガイルSS やはり俺の球技大会は間違っている。   作:紅のとんかつ

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 番外です!
 完全に蛇足ですがよろしければ見て頂ければ!
 11巻出てるらしいから早く買いに行きたいですね~。発売日に買いにいけないなんて……悔しいです!!!


 番外編 球技大会の慰労会はやはり間違った
番外1ー1 慰労会


 

 

 今日は休日。

 

 夕方の駅の、仕事やら遊びやらの帰りの人でごった返す人混みの中で、俺は携帯片手に1人待ちぼうけしている。

 

 待ち時間中、軒並み人間観察で時間を潰していた。何故携帯を開いているか、誰かと目があったりした時、別に貴方の事をジロジロなんて見てませんよアピールの為の携帯、その為の右腕。

 

 人を観察していると誰もが幸せそうかと言われればそうでもなく、半分位の人間は憂鬱そうな顔をして歩いている。こうして見れば自分が大変な目にあった時、半分の人間は俺と同じ不幸な気分を抱えて生きているんだ、そう思えば”なんで自分だけが”なんて塞ぎ混まずにすむ。自分だけが特別じゃない、そう思う事で俺は不幸を回避するすべを身に付けてきたんだ。

 

 

 

 

 だから、

 

 今こうして由比ヶ浜に誘われて二人で慰労会に行こうなんて言われても、俺だけが特別じゃないんだと理解しておく事で、勘違いだった時に不幸な気分に落ちる事を回避出来る。

 

 

 だから大丈夫、特別じゃない。

 

 こうして……待ち合わせ時間が一時間過ぎていようとも、その考えが俺の気持ちを楽にさせる。

 

 

 

 

 

 由比ヶ浜から電話が来たのは一時間前。

 由比ヶ浜は今日使うつもりで買った、新しいバックに財布やら何やらを昨日のうちに入れておいていて準備していた。

 が、待ち合わせ場所に着くか否かの所になって何時もの癖で普段から使っていたバックを持ってきてしまった事に気付いたらしい。

 

 電話ではテンパった由比ヶ浜から何度も謝られ彼女はダッシュで家に取りに戻った。タクシーで行くとか言い出したがそんな事に金を使わせるなんてとんでもないと、急がなくて良いから歩いていけ、と言ってやった。別に慰労会事態には遅れないのだから。

 

 

 

 とはいえボ~ッと待つのも飽きてきた。

 

 どこか店に入っておけば良かったとも思ったが、流石にそろそろ来るかもしれないから今さら動いても仕方ない。だから俺は再び人間観察をして時間を潰す。

 

 

 

 ふと、そこで休日の部活帰りらしい学生達がサッカーボールを片手に歩いているのを見かけた。

 

 

 

 ……あの球技大会から数日、休日練習までしたあの数週間をふと思い出す。たかが数日の練習だったが、キツかったな。

 

 記憶が甦る。

 

 

 上達したパス能力、味方ゴールにボールが入った時の爽快感。戸塚のシュートの時のへそチラ、由比ヶ浜の応援の声、戸塚の審判姿。

 戸部のハエタタキ、試合の激しい戦い、戸塚からパス出される時起こるアイコンタクト。雪ノ下の厳しい訓練、戸塚と組んだ円陣。

 一色が俺を差し置いてシュート入れた事、戸塚のドリブル姿、葉山の真顔、戸塚のナイスパス、戸塚の吐息、戸塚の笑顔etc……。

 

 

 

 悪い思いでばかりではなかったな。

 頭の中に広がる七色の戸塚メモリーが辛かった思い出を色つけていく。頭の中で待ち時間すら幸せにしてくれる戸塚M・T(マジ天使)。

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんヒッキー! 遅くなって!」

 

 思い出にふけっていると俺を呼びかける声が聞こえてきた。

 人ごみの先にいるパタパタと焦りながら走ってくる由比ヶ浜を確認すると、俺は寄りかかってた壁から体を起こし、携帯をしまった。

 

 

 ハァ、ハァと息を切らせながら頭を下げる由比ヶ浜。本当にごめん、と何度も頭を下げている。

 まあ、仕方ない。勘違いは誰にでもある。

 

 意図的にすっぽかされるより断然良いと思える位に俺は待ちぼうけに訓練されている。こうして急いで来てくれたという事実があるだけありがたい位だ。俺の今までの待ち合わせメモリーの中では寧ろ凄く恵まれているまである。思い出しただけで由比ヶ浜の優しさに涙が溢れそう!

 

 

「……じゃあ、いくか」

 

 

 俺が怒ってない事を態度で示し、これ以上罪悪感を持たせるのもアレなので次の行動に流れる。

 

 由比ヶ浜もその意図を感じ取ったのか、うん! と嬉しそうについてきてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人混みの中、俺が若干前を歩き、由比ヶ浜が後ろからついてくる。階段を登りながら後ろから由比ヶ浜の疑問の声が発せられた。

 

 

「それにしても慰労会7時からなのに随分早く集まったよね! なんかあったの?」

 

「聞いてないのか?」

 

 俺は由比ヶ浜の質問に対し、質問で返してしまった。怒られちゃう。

 

 由比ヶ浜がへ? と頭に疑問符を浮かべ首を傾げた。

 アホっぽい子がやると正直癒される動作だなそれ。微笑ましくなる。

 

 

 仕方なく俺は携帯の戸部のメールを読み上げてやった。

 

 

「慰労会はバーベキューやるからお肉とか皆持ってきて! 比企谷君は割り箸と紙コップよろよろ! おれとザイモクザキ君といろはすで肉焼く鉄串とか鉄の箸とか墨、固形燃料用意すっからさ! ではよろ~。……だそうだ」

 

 

「なんかヒッキーが戸部っち口調だとキモいね」

 

「突っ込む所そこかよ」

 

 

 それとアレだぞ? 男が言われてショックな言葉が”くさい”に次いで二位が”キモい”だからな? あんま乱発するなよ?

 

 いたずらっぽく笑う由比ヶ浜に恨めしそうな目線を送った。

 

 

 とにかく俺達はバーベキューに行く前に食材やら小物を買う必要がある。

 だから駅近くのスーパーに寄っていくむねを由比ヶ浜に伝えた。

 

「でもバーベキューだったんだ! ならもっと服考えてきたのにな~」

 

 確かに由比ヶ浜はバーベキューするには少し服の布面積が少ない。思わず吸い込まれるように服(以外の部分)を見てしまい、由比ヶ浜に視線に気付かれる。

 

 再び首を傾げる由比ヶ浜に俺は焦りながら誤魔化しのセリフを言った。

 

 

「なんて~か、服、可愛いな。似合ってる」

 

 

「ええ!? そ、そうかな。い、いや~昨日滅茶苦茶悩んだかいがあるな~! ひ、ヒッキーに誉められるなんて思わなかったよ!」

 

 

 誤魔化す為に言った言葉だったが、由比ヶ浜が思ったより嬉しそうで何よりだ。

 女性がデートに来たら服を誉める、ありきたりだが服を考えて選んで来てたなら、それを誉められて嬉しいのは当然かもな。

 

 

「今回はさ、美容室にも行ったし、靴も新しいの買ってきたんだよ! 後ね、アクセサリーもお気に入りつけて来たんだ~! この指環もさ、blueのさ……」

 

 

 わちゃわちゃ嬉しそうに今日のコーディネイトを語る由比ヶ浜。ニコニコわいわいと動く由比ヶ浜の表情は見ていて飽きない。

 上からどんな経緯で買ったのか、どういうコーディネートなのかを語る由比ヶ浜。内容は半分も解らなかったが楽しそうに話す言葉に静かに耳を傾けながらゆるやかな階段に足をかける。

 

「それでね! このバックは……あ!」

 

 

 へ~へ~、と返しながら階段を登っていると由比ヶ浜が足を踏み外し、階段から後ろ向きに落ちそうになる。

 

 

 ……!

 

 

 とっさに階段下に倒れそうになる由比ヶ浜に手を伸ばし、その前に手を掴み引っ張り出した。

 そのまま彼女を支える事が出来ずに、俺は後ろにバランスを崩し、倒れこむ。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ありがと……」

 

 俺に乗っかる感じに倒れた由比ヶ浜は、俺を見上げながらお礼を言う。

 

 

「……お前な、新しい靴なんだしさ、階段は気を付けて登れよ」

 

 そういうと由比ヶ浜の手を離し、俺は目を背けた。

 

「う、うん」

 

 顔を赤くして由比ヶ浜も目を反らした。

 

 あ、あの、早くどいてくんないかな……。

 

 近くで見ると、コイツ睫毛なげ~。

 やばいやばい。

 

 

「ひ、ヒッキー……」

 

 

 

 潤んだ目で由比ヶ浜は再びこちらを見上げる。

 そしてその小さな唇を開こうとした。

 

 

 しかしその時、

 

 

「おお!」

 

 

 

 そうしている俺達に、もはや聞き慣れた喧しい声がかけられる。階段の上から俺達を見て微笑みながら近付いて来る男、戸部翔だった。

 

 

 

「おお!! ヒキタニ君に結衣じゃんか! こんな所で会うなんて偶然じゃん! いや~、なんか運命感じるわ~!」

 

 

 

 

 ……由比ヶ浜はぷく~、と頬を膨らませ立ち上がる。

 俺もゆっくりと立ち上がり、ズボンをはたいた。

 

 

「二人もこの上のスーパーでバーベキューの買い物系~? 俺も俺も! 見てよこのお肉、超旨そうっしょ! 豚鳥牛全部入れて買ったんよ~。あとあと、ここだけの話、超良いお肉も少し買ったんわ~! 皆にはサプライズだから内緒にしてね!」

 

 

 お前絶対隠せないだろ。聞いてもいないのに俺らにバラしてる時点で。

 戸部の言う通りその両手には大量の肉、肉、肉が入っていた。

 

「戸部っちさ……」

 

 

 由比ヶ浜が戸部に恨めしそうな目を送る。

 しかし戸部はキョトンとしていた。

 

 由比ヶ浜は”何でもない”と肩を落とす。

 

「毎回わざとじゃないのがな~」

 

 

「なになに、どうしたのよ~! あ、肉ばっかりじゃ箸休めが無いって事っしょ! 大丈夫大丈夫、戸塚が野菜買ってきてくれるって話なんよ!」

 

 

 由比ヶ浜がぼそぼそ何かを言っているが戸部は止まらないマシンガントークを続ける。由比ヶ浜は何も言わず、しずしずと階段を登っていった。

 

 

「ヒキタニ君達は何買ってくの? 俺も固形燃料買い忘れたから一緒行くわ! 今日は思いっきり食べようね! いや~、今から楽しみだわ~!」

 

 

 

 そういうと戸部は振り返り、再び階段を登っていく。

 

 最近戸部は俺との会話の距離感を見付け、俺相手にはひたすら喋りまくる。

 ……まあ、気まずくないし、話題探さなくていいから楽でいいけどさ。

 

 戸部は戸部でずっと話を聞いてくれる人がいてくれるって良いね、との事だった。

 

 まあ学校での話題は基本、葉山葉山大岡葉山大和葉山、そして締めに必ず海老名の話をしてくる。

 葉山と偶々二人になった時”戸部がお前の話でしつこい”と文句を言ってやったらそうか。と少し嬉しそうだった。

 

 もうお前らで付き合えば? と思った。

 海老名も喜ぶしさ。

 

「ねぇ戸部っち、バーベキューやる場所は大丈夫なの? 今河原とかで勝手にやっちゃダメなんでしょ? 海じゃ寒すぎるし……」

 

 

「それが大丈夫なんよ! 雪ノ下さんにバーベキューの話した時もその事言われてさ! 場所にテントやストーブとか膝掛けまで貸してくれるキャンプ場を予約してくれたんよ! 念のためさっき俺とザイモクザキ君でしっかり現地で場所取りしてきたから大丈夫っしょ! ザイモクザキ君は今そこでラノベっての書きながら待っててくれてる!」

 

 

 成る程、雪ノ下さん流石だな。

 今は冬でもバーベキューをやってる所が増えたしな。俺は冬にバーベキューなんてしたくないけど、世間ではそうでも無いらしい。虫が少ないし、案外需要はあるみたいだ。

 

 ていうか、材木座と戸部で場所取りか。二人でいる時どんな話してんのか少し気になるな。

 

 

「と、戸部っち、中2と二人だとどんな会話してんの?」

 

 由比ヶ浜も同じ疑問を持ったらしく、恐る恐る尋ねてくれた。俺も耳を傾ける。

 

 

「ん? いや結構盛り上がってるよ! 好きな子の話とか、スラムダンクとか!」

 

 

 オタクとお調子者の垣根すら飛び越えるスラムダンク、マジ偉大。

 

 

「あとは……ヒキタニ君の話とかかな?」

 

 

 ……ん?

 何それ陰口? 陰口だろ絶対。

 確かに共通の嫌いな奴の悪口は感情や秘密を共有出来る上にほぼ滑らないから、誰かと仲良くなるにはうってつけだけどな。

 

 

「いやヒキタニ君の話題は結構盛り上がるんよ~! 結衣とか喋り出したら止まんな……

「わ~!!!!! もう、早くしないと時間無くなっちゃうから行こう!」

 

 由比ヶ浜が焦りながら俺と戸部の首根っこを掴みツカツカ歩き出す。

 

 何、お前らそんな俺の事なんか言ってんの?

 俺の話なのに俺が一番蚊帳の外とかどうなってんだよ……。

 

 引きずられながら俺はそんな理不尽に首を傾げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーー

 

 千葉の某駅から出てすぐ、件のキャンプ場の入り口に到着した。

 

 

 あれからスーパーで紙皿やら何やら買ってきた。

 途中で戸部が買い物かごに青椒肉絲とかいれ始め、どう考えてもバーベキューじゃ無理だとツッこんだり、由比ヶ浜がバーベキューといえばカレーとルーを買おうとしたりと変に大変だった。

 

 俺と戸部が両手に買い物袋を引っ提げ、予定の場所に到着する。

 

 

 

「着いた~! いや重かったわ~!」

 

 

「だから買いすぎって言ったろ。お陰で俺まで荷物増えたし」

 

 

 テーブルに荷物を置き一息つく。

 キャンプ場は人が少なく、ほぼ貸切状態だ。今日は風も少なく、まあ過ごしやすい方のようだ。

 ふぅ、と座り込むと由比ヶ浜が隣に腰かける。

 

「だから私も持つって言ったのに~」

 

 

 俺も戸部もいやいや、と首を降る。

 なんかアレじゃん? 女の子に荷物持たせるってなんか男としてタブーな気がしちゃうんだよ。まあ由比ヶ浜、靴も歩きずらそうだし。

 

 そこに1人、先んじて場所を確保していた男がたたずんでいた。

 

 

 

 

「うむ、待っていたぞ! ずっと1人で寂しかった我ぞ我!」

 

 

「いやお前いつも1人じゃん」

 

 

 場所取りを任命されていた材木座はふんぞり返りながら俺たちの到着を歓迎した。

 机の上に広げていたラノベを鞄にしまいながら俺の一言に材木座はフハハハと笑い出す。

 

「八幡、解ってないな。部屋で1人でいるのと、キャンプ場で1人でいるのではダンチの寂しさだぞ。マジで」

 

 

 ま、まあ確かにそうかもな。お疲れ材木座。

 

 

 

「おまたせ~!」

 

 そうしていると後ろから天使の声が聞こえてきた。癒しのガブリエル・ボイスにがばっと振り向くとそこには戸塚が笑顔で手を振って歩いていて、その横には雪ノ下。

 おお、と手を上げ答えようとすると天使の背後に悪魔が見えてしまった。

 

 

「ふぅ、野菜も数買えば重いね! 雪ノ下さんに拾って貰って助かっちゃった!」

 

 

「キャンプ場に車で向かっていたら、重そうに野菜を持って歩く彼がいたの」

 

 

 成る程、この不思議な組み合わせはそういう事か。奥を見ると車からバーベキュー資材を降ろしてくれている運転手さん。

 戸部はそれを見ると手伝いに走った。

 

 俺も手伝いに行きたい所だが、その前に確認しておかなきゃならない事がある。

 

 

「ひゃっはろー!比企谷君!」

 

 

 ニコニコと手をあげるこの人、雪ノ下陽乃さんが何故ここにいるのか、だ。

 

 

 

「いやなに? 雪乃ちゃんがバーベキューに行くっていうから? 私もお出かけするから車に乗せてきてあげたって訳♪ んで比企谷君もいるのに挨拶もしないっていうのもアレじゃない?」

 

 

 その言葉に雪ノ下は溜め息をつく。

 俺も警戒をあらわにした。

 

「こんばんわ。挨拶終わりました」

 

 

 俺の言葉にアハッと笑う陽乃さん。

 

 

 

「特別に良い肉差し入れしてあげるんだから~、そんな可愛い事言うなよ~♪」

 

 

 頭うりうりしないで下さい胸とか当たってます。ん?

 

 陽乃さんに差し出された袋を見やる。俺は体に電流が流れたような感覚に陥った。

 

 ……なん、だと……?

 陽乃さんの手には高級そうなお肉が入った袋があった。それ、明らかにスーパーに売ってるレベルじゃない、某高級牛肉じゃないですか!!

 

 思わず膝まずいてはは~っと言いそうになる。

 嘘、あんなの食べた事無い。

 

 悔しい、でもあんなの見せられたら……。ダメ! 負けない八幡!

 

 姫騎士のように葛藤する俺、でも内心殆ど落ちている。

 

「墨ここに置くわ~」

 

 俺が脳内悶絶していると、戸部がよいしょと荷物を置いていく。

 そして立ち上がるとふぅ! と息をついた。

 

 あ、危なかった。戸部に声をかけられなかったらこの人に屈伏する所だった。

 

 

「あ、ちす。えと雪ノ下さんのおねぇさんですか? 似てますね!」

 

 面白そうに陽乃さんに歩いてきて頭を下げる。

 材木座の小説といい、お前はすぐ危険な物に首を突っ込むな?

 

 

「あ、どうも~。雪ノ下陽乃です♪ あ~、君が雪乃ちゃんの弟子二号か~! 聞いてるよ~? 運動、得意なんだって?」

 

 

 突然の賛美に戸部はいや~、と照れながら襟足を引っ張る。

 ……二号って、一号が誰なのか気になるな。

 

「おねぇさん運動出来る元気な子好きだぞ~! 雪乃ちゃんのしごきにも耐えるなんて凄いね~! ……それに……プッ……雪乃ちゃんをフったんだってね。……ぷフッ。いや~、おねぇさん久し振りに腹抱えて笑ったよ! 面白い、君!」

 

 

 戸部の背中をバンバン叩きながら笑う陽乃さん。珍しく裏が無さそうな笑顔だ。

 戸部はハハッと苦笑い。雪ノ下からの無言の攻撃を受けていた。

 

 

「……姉さん、また私の日記を……」

 

 

 日記はその日の思い出を残すもの。

 雪ノ下はあの事を忘れる気がないようだ。雪ノ下の執念は怖いぞ、戸部。

 

 

「さぁて! 比企谷君も愛でたし、噂の弟子二号も拝めたし、そろそろ行きますか! じゃあまたね♪」

 

 

 散々騒ぎ立てた陽乃さんは満足そうに車に帰っていった。

 その後ろ姿を見送りながら溜め息を出す。

 

 

 

 

 

「……いや凄いお姉さんだわ~! 綺麗だし楽しい人だし。優しいし、めっちゃ誉められたし!」

 

 

「姉さんの言葉を全部真に受けてはダメよ。言ってる事の半分は本音じゃないんだから……」

 

「社交辞令みたいな物だ。相変わらずのあの外骨格のような営業スマイルや人たらし能力は正直怖い」

 

 陽乃さんの魔力、もとい魅力に吸込まれた戸部をたしなめる。

 まああの人だけじゃなくても、俺に向けられる笑顔は怖いんだけどな。内心はこうなんじゃないか? と、つい心の予防線をはってしまう。

 

 

 

「でも、社交事例や営業スマイルでもさ。その手間をかけても良いって思ってはくれてるんじゃん? それは普通に嬉しくね?」

 

 

 

 戸部の言葉に俺も雪ノ下も思わず目を丸くした。

 

 ふむ……、確かにそういう見方もあるのかもしれない、な。

 裏でどう思ってるかは結局、予想でしかない。しかし、そういう工夫をしてくれているという事実は確かに好意ともとれるのかもしれないな。一理ある。

 

 そう考えれば陽乃さんは結構俺が好きなのかもしれないな!考えただけで色々恐ろしいからこの思考は終了ですね。

 

 

 

 

「せんぱ~い! 重いです~!」

 

 そんな思考をしていると猫なで声を出す一色が袋一杯の何かを持って歩いてきた。

 小走りで迎えにいって、荷物を取ってやる。

 

 

「いや~、本当重かったです~! ありがとうございますね? 先輩!」

 

 

 ……あれ? さっきの理論でいけば一色超優しいじゃん。あざといは優しい。

 新しい理論に頭を閃かせると一色が

 

 ”やっぱ先輩便利ですね~”とか言い出したから頭の中で前言撤回してやる。

 

 

 袋の中を覗いて見るとそこには肉が入っていた。

 

 

「……お前も肉買ってきたのか」

 

 

「はい、バーベキューですからね。どうかしました?」

 

 

 ……嫌な予感がする。

 

 

 

 そうして皆でテントを組み立てようとした所で最後の一人、城山が両手に買い物袋(肉入り)を引っ提げ登場した。

 

 皆して気前良く袋一杯のお肉。絶対に食べきれないと確信した。合計7袋のお肉、野菜一割。

 

 

 ま、まあ残ったら持ち帰れば良いか。

 

 

 

 しかしバーベキューが開始されたら戸部が無計画に大量に肉を投入しまくり、温存も出来なくなるのだがそれは別の話。

 

 

 




続く

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