文字通り絵に描いたような、あくまでドラゴンメインの高校生活 作:ぐにょり
「ドーモ、オデン=サン。お元気でしたか?」
兵藤邸の一室、北欧式の結界が張られた部屋の中に、それは何の前触れもなく現れた。
何の変哲もない、この国の若者がこの季節に着ているであろう衣服に身を包んだ、何処にでも居る、群衆に紛れたら探し出せないような印象の男。
軽薄そのもの、と言った軽い口調で自らの主神に片手を上げて挨拶をするその男を前に、戦乙女であるロスヴァイセは、警戒するよりも先に困惑を覚えていた。
「お主は何じゃな、まともに登場する事ができんのか」
「まともに入ってこられる場所に居てもらえればそうしますよ」
「オーディン様、そちらの方は……」
気軽そうに話す自らの主である主神への問いかけと共に、ようやく自らの立ち位置を思い出し突然の侵入者へ身構える。
しかし、当のオーディンはロスヴァイセに対してひらひらと手を振り警戒を解くように促す。
オーディンの個人的な知り合いなのだろうか、少なくとも既知の間柄ではあるようだが。
「そう構えんで良い。ワシの客じゃ」
「あ、お茶は結構ですのでお気遣いなく。それでおでんさん、前に話していた件なのですが」
耳元に口を寄せ、(ナイショ)と書かれた扇で口元を隠しながらオーディンに何事かを吹き込む怪しげな男。
確かに、お付きとはいえ一介の戦乙女に過ぎない自分では主の動向を直接的に左右する事はできないが、それにしたって目の前の男は怪しい。
いや、脅威かどうかで言えば、【そこいらの学生が紛れている】程度にしか感じられない。
だからこそ、ロスヴァイセにはその男が脅威であると理屈として理解できた。
偉大なる祖母の影響で多くの術を収めるロスヴァイセだからこそ認識し行動に繋げる事ができた違和感。
だが、違和感を得たとして、それを主であるオーディンに伝えてどうするのか、という疑問もあった。
主への意見こそ許されているが、それに意味があるのは普段の仕事にかこつけた観光の様な時のみ。
今回の様に何かしらの脅威がオーディンに迫っている事を伝えることに意味はない。
何しろ相手は世界の全てを知るとすら言われているオーディン、自分が気付けたことなど当然の様に理解している筈だ。
【どう見てもそこらにいる何の変哲もない少年】なのだから、万が一も有り得ないだろう。
「……と、そんな感じで、軽く当たって、後は流れで行きましょう」
「ほっほっほ、随分と無茶を言いよる。じゃが、出来るならやってみるといい」
「ええ、勿論、プロですから」
そんな自らの思考に最早疑問を抱くこともなく、ロスヴァイセは付き人として、静かにオーディンと侵入者の会話を見守っていた。
―――――――――――――――――――
さて、うまい具合にロキとの戦いを先延ばしに出来た私たちは、その直ぐ翌日にはイッセー先輩の家に集まり、オーディン様の会談を妨害しに再び襲来してくるであろうロキへの対策を考えていた。
メンバーはいつものオカ研、部長率いるグレモリー眷属+イリナさん。
同じ管轄という事で生徒会長率いるシトリー眷属。
オカ研顧問兼堕天使総督のアザゼル先生とその部下の堕天使さん(副部長のお父さんだそうです)。
今は別室で本国と連絡を取っているらしいオーディン様とその部下のロスヴァイセさん。
そして、互いの目的の一部一致から一時的に協力体制になった白龍皇チーム。
以上。
勿論援軍はありません。いつも通りですね。
各地の各勢力は禍の団の英雄派が行っている神器使いテロへの対処で一杯一杯、とのお話です。
本当のところがどうか、なんていうのは、考えるだけ意味のないことでしょう。
実際余裕がないにしても、単純に嫌われているから手が借りられないにしても、私達の力を見極めるために静観しているにしても、私達がやらなければならない事には何も変わりありません。
ええ、魔王としての仕事はあるにしても、他所の神話の神とかが出てきたのだからテロ対策とかは任せられる部下に任せて冥界最高戦力の魔王様が出てくればこんな『ややこしいこと』には成らずに済んだのに、なんて、考えるだけ時間の無駄なので。
……そして、現状私達、つまり、ロキとフェンリルへの対策でメインを張るだろうイッセー先輩や白龍皇を除いたメンバーはやることが殆ど無い。
連携を取る、なんて言った所で、あのレベルの敵を相手に何かしらの妨害や援護ができる程の力が全員にある訳でもない。
人里離れた山奥とかならまだ私も制御の難しくない高火力の魔術──例えば竜破斬とか竜破斬とか──で弱らせる事もできるのでしょうが、相手が会議の妨害をしてくると考えると会議場を巻き込んでしまいますし。
というか何故会議場が地球の悪魔の領地でも北欧神話の領地でもない日本の首都の高層高級ホテルなんでしょうか。
そんなわけで、今回、私はイッセー先輩とか白龍皇とかを盾にして背後から術をばら撒くとか、事前にコンビニのワンコインブックから仕入れた北欧神話知識で戦場での出来事をそれらしく解説する系のポジションに収まるはずです。
筈、なんですが。
「あの」
「────はい、なんでしょうか。……じゃにゃかった。なぁに、シオネ」
「白音です、あ、塔城小猫です。じゃなくて」
目の前に、姉様が……というか、姉様っぽい何かが居る。
姉様というか、少し前の姉様というか。
着崩した状態で見えそで見えない風に胸元を露出している辺りはいかにも少し前の姉様だ。
だけど、姉様は書主さんの元で衣服に関する習慣を徹底的に矯正されて、最近では休日のだらしないOLレベルにまで常識的な格好で落ち着いている。
だから、今更こんな格好で出歩く訳もない。
というか、諸々の暴露によって禍の団からは抜けている筈の姉様が白龍皇やお猿のレイパーさんと一緒に行動しているというのがまず有り得ないというか。
後、よくよく見ると顔も少し可笑しい。目が姉様よりもだいぶクリクリとしてつぶらな感じ。
そして口調が変。
実はこの偽物、真似る気は無いのではないだろうか。
それはともかく。
「あの、なんでさっきから私の事を……?」
「────失礼しました。ヴァーリ様が、魔王の模造品を下した魔術師であるとして貴女に興味があると仰られておりましたので。あ、ヴァーリ様じゃなくてヴァーリですね。……あ、にゃん」
もうぐだぐだじゃないですか……。
なんですかその思い出したように付けられたニャンは、語尾にそれつけてりゃ猫で通るとでも思ってるんですか。
「ていうか、口調……」
「────善処致しますが、不足分は脳内変換を推奨します。……語尾のニャンは省略しましょう。趣味ではありませんので」
努力の素振りまで消え始めた……!
ていうか普通に好き嫌いで口調変えてきた……!
「あの、黒歌姉様、家にいるんですけど」
無罪放免で指名手配を解除された黒歌姉様は、今は私の家で平和な生活を満喫している。
つまり特に生産性のある仕事に付いていない代わりに他人に迷惑をかけない人畜無害なうんこ製造機になった、と、そう思う人も居るだろう。
しかし、姉様は書主さんの家で厄介になっている間に激しい調教を受け、座っている時に限り手の届く範囲内限定でコロコロするやつで地面の埃を自主的に掃除する様になっている。
食事を取ってうんこしたりしつつも部屋をコロコロで掃除した後は残り時間を毛づくろいとかテレビ鑑賞とか毛糸玉にじゃれついた後に疲れて寝る系のマスコット役と化した姉様が、こんな場所に居るはずがない。
「────それはそうでしょう。……まぁ、それでもこの場では私が黒歌という体で話は進みますが。アイアム黒歌」
あ、わかったこいつ、最初から誤魔化す気とか無いんだ。
まぁ、それはいい……たぶん。
どうせ姉様が無罪になったのは冥界じゃあ有名な話だし、禍の団の中で姉様の振りをする理由もないのだろう。
もしかしたら彼女(女性なのかは知らないが)自身は白龍皇やエテモンキーさんと一緒に行動してるだけで禍の団に所属している訳ではないのかもしれない。
ここまで(見た目だけは)精巧に姉様に擬態できるのなら、禍の団に補足されないように行動するのも難しくはないだろうし。
それより、問題なのはヴァーリ某──白龍皇が私に少なからず目をつけているという話だ。
そりゃあ、あの場でシャブラニグドゥを倒したのは確かに私だ。
あの場面では私が決めるしか無かったし、それはあの場に正気のイッセー先輩が居ても変わりはしなかっただろう。
でもそれは単純にあの魔王を殺す術を偶然にも私が所持していたというだけの話で、私がバトルジャンキーに目をつけられる程に強い、ということでは絶対無い。
「……私、術が強いだけで戦って楽しくはないと思います」
「そんなん言われなくても知ってるぴょん。だから、その術の出処、貴女に術を授けた相手に興味があるらしいでござるだす。……いいですね、この2つを候補にしておきましょう」
「その顔でござるだすとか止めてください」
「まぁ、あの術の出処はもう知られてるから安心するノーネ」
「それは……」
「教えたのは私ザウルス」
えっ、と、戸惑いの声が喉から出て、納得する。
姉様が書主さん経由で私のもとにやってきたという事は、姉様を禍の団から連れ去ったのは書主さんかその関係者という事になる。
しかし、それでいて禍の団の中でもそれなりに便利な能力を持っていた、指名手配されてそれなりに名の売れていた姉様が消えて騒ぎに成らなかったのは、何かしらの対策を行ったから。
つまり、姉様を攫うと同時に、影武者を置いていった。
それがたぶん、目の前に居る姉様もどきなのだろう。
彼女がどんな理由で情報を白龍皇に流したのかは解らないが……。
「別に此方も、誰にも情報を漏らすな、とは仕込んでいなかったけど」
唐突な声。
部屋の中でそれぞれ話し合っていた皆が遅れて視線を向ける。
「よりにもよってあの白い人に言います?」
書主さん。
今回の騒動に一切関わる理由が無さそうな人が、私の背後から音もなく姿を表していた。
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とりあえずロキとフェンリルへの対策が話し合われている部屋にぬるりとフェードインしてみた。
が、以前に鯖歌さんと強制トレードした改造メタモンが微妙にして欲しくない事をしでかしていたので、少しだけツッコむ。
そもそもこれらの改造メタモンは擬態する一瞬で相手の記憶すらほぼ完全にコピーするので、此方の情報はほぼ持っていないのだが、実にピンポイントで嫌な情報を漏らしたものだ。
テロ屋さん達の目がないからか口調面での擬態を完全に放棄していたメタモンは、悪びれる様子すら感じさせない。
「ご友人に危害が及ぶ可能性を消す方が優先かと思いましたので。主は元々狙われておりますし」
「狙われる理由を増やされるのも嫌なんですが」
「遅かれ早かれ主は襲われるので問題は無いでしょう」
これである。
元々改造モンスターボールに入れていた改造メタモンは擬態能力の強化もそうだが、コピーした記憶を元にかなり高い思考力……アドリブ力を持てるように改造してある。
その為か、コピー元の思考形態が僅かながら反映されるのだ。
此方の友人である小猫さんを白い人から守るというのもあるが、コピー元のサバの妹に対する庇護欲とかに引きずられてのものだろう。
まぁ、なんやかや言って度々此方に熱い視線を送ってくる、というか、現時点で此方の話に割り込むかどうか迷っている風の雰囲気を漂わせている白い人をしばらく間近で見ていたこれの判断だ。
ポケモン化並びにイエネコ化していたサバミソですらそういう思慮深さを見せる場面は多く見られていた。
鈍る前をコピーして、その思考力を元に発生させた知性がそう判断したのなら割と的確なのかもしれない。
「別に俺も、そこの黒歌の妹に手を出そうなんて考えやしないさ。チームプレイでの勝利だって話は聞いていたからな。だけど」
ぺろり、と、舌なめずりをする音が聞こえる。
止めて欲しい。
美人の舌なめずりならともかく、バトルマニアの男の舌なめずりとか勘弁して欲しい。
仮に白い人がギャスパーばりの男の娘だったなら百歩譲って乾いた笑いでスルーできないでも無いが。
そうでないのは確認済みなので止めて欲しい。
止めて欲しい。
「ヴァーリ、話がややこしくなるからそういう話は後回しにしてくれ。……そんで? 厄介事が嫌い、なんて公言してみせたお前がこのタイミングで顔を出すなんてどういう風の吹き回しだ? 言っておくが、今回はテロリストの大群が現れるなんてこたぁ無い筈だぜ?」
うちの学校に赴任してきた普段何の仕事してるかよくわからん堕天使のおっさんが珍しく仕事してる。
と、驚いている場合ではない。
視線を向ける素振りで意識がアザゼルさんに向いている事をアピールし、事前にちょっとおでんと示し合わせておいた設定に沿う様に話を持っていこう。
「いや、何。今回の騒動の首謀者、実は此方の知り合いにとても因縁浅からぬ相手でしてね?」
「ロキがか? ロキと因縁がある奴となると……」
「まぁ、まぁ。正体に関しては一先ず置いておくとして、その知人がどうしてもこの戦いに一枚噛みたいと主張しておりまして、こうして夜分遅くに失礼した訳ですよ。あ、兵藤先輩、夜分遅く申し訳ありません。これお土産のおまんじうです。ご家族でどうぞ」
「お、おう。なんか悪いな態々」
序に兵藤先輩に土産を渡す。
此方が巻き込まれたとかならともかく、今回はおでんさんとの交渉の結果とはいえ、此方が勝手に兵藤先輩のお家に上がり込んでいるのだからして当然の気遣いだ。
これが兵藤先輩の家に侵入して家族全員惨殺して家に火を放つ系の忍務だったなら要らない気遣いではあるのだけど。
そういう忍務でない私的な時間である以上、礼儀は大切にしなければならない。奥ゆかしさ重点だ。
「それで、その知人ってのは一枚噛める程の力はあんのか?」
「んー、どっちかって言えば策略を巡らす系の方ではありますが、あのロキ相手ならどうにでもなりますよ。というか、その為に今は準備中の筈ですから」
嘘だけど。
準備は辻褄を合わせるために此処で細かい部分を詰めてからする話し合い程度だけど。
まぁ別にこいつらに嘘ついちゃいかんという決まりも無いし。
「ふむ……まぁ、良いか。どっちにしろ、こっちはこっちでフェンリル対策出来るんだ。手が増えるなら歓迎だぜ」
「随分とあっさりですね」
「策略系の奴なら、そう無茶苦茶なのは来ないだろ。……こないだのお前さんの知り合いみたいのじゃなきゃ断る理由も無いんだよ」
「あぁ……」
先日此方の腹をぶち抜いてきたバスケットボールと同じく、過剰戦力過ぎて関わり合いになりたくないのだろう。
この世界で対抗できそうなの、片手で数える程しか思いつかないし。
今はネカフェでこの世界特有のパチもん臭い漫画をマラソンしてるらしいし、その後にこの世界に留まっているのかは解らないから、そこまで乱入を心配する必要は無いのだけれど。
「輪ゴ……彼女はたぶん、介入はしてこないと思いますよ。ていうか、好き好んで介入なんてしないんじゃないですか? 今回みたいな形だと」
「だよなぁ」
ぶっちゃけた話、仮に此方を除くこの場のメンツが全員死んでも、困る人はそう多くない。
聖書系神話絡みの連中は困るかもしれないが。
仮にあのロキっぽい小者がこいつら全員を殺害した後に勢い市街地を破壊してふははここでラグナロクしちゃうぞー、とかやっても、実際の被害は最小限に収まる筈だ。
しかも輪ゴムさんはこの世界の人間ではない上に、仮にこの世界の人間だとしてもそれほど被害は気にしないだろう。
此方だってロキ入れ替えの件が無ければノータッチ案件だ。
アザゼルさんもその事を理解しているからか、安堵を含んだ声で頷いている。
「そうか、それは、少し残念だな」
「ヴァーリ、お前さんはちょっと大概にしとこうぜ」
白い人が猿臭い人に窘められているが、輪ゴムさんと何かしらの因縁でもあったのだろうか。
死亡フラグを立てた上で人数分のページ数で負かされたりした上で再戦を希望したりしているのであれば、なんとも度の過ぎたバトルマニアぶりだと思う。
いや、流石にボロ負けしたのなら自分の力を高めてから再戦を望む筈だし、一方的に目をつけたのか。
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夜が明けて。
イッセー先輩の家では私以外の眷属とか生徒会メンバーとかが集まって対ロキ戦の準備をしている、らしい。
「えー、本当にござるかぁ?」
些か登校するには早すぎる時間ながら、何故か登校時間が被った書主さんは、隣で疑わしそうな表情を浮かべている。
「イラッとくるからもう少しだけ真面目にして下さい。……疑う気持ちも分かりますが」
理由はと言えば、祐斗先輩から私に誤送信されてきたフルアーマー闇落ち騎士の中の騎士王装備祐斗先輩の姿見まで使って撮影した自撮り写メだろうか。
本来の送り先は書主さんだったらしく書主さんの方にも改めて同じメールが送られてきたのだけれど、少ししてから私の方にも『どうだろう』という感想求むメールが来た。
最近の祐斗先輩は何なんだろう。
『甲冑は頼んで作って貰ったものだけど、仮面とメイクは自力でね』とか、そんなんどうコメントするのが正解ですか。
元々メイクというか化粧に詳しい訳でもないのに、不健康そうな白塗り+何かに侵食されてそうな首筋から伸びる赤いラインとかどういう筋の人なら満足できるコメントを返せるんですか。
そしてその明らかにコスプレアイテムの域を超えてる禍々しい鎧は何なんですか誰に作って貰ったんですか。
心臓に毛が生えてるを通り越して心臓に野生の魔猪の剛毛がびっしりと生えているんでしょうか。
ていうかその黒カリバーって死んでいった嘗ての仲間達の魂の結晶的な感動的な武装じゃなかったんですか。
良いんですかコスプレとかに使っちゃって。
「だってあのメンバーの中で普通に高機動戦で撹乱とかできそうな、言っちゃえばグレモリー眷属最速で技量的にも割りと申し分なさそうな木場先輩が何時ものMKTより更に気合入れた一枚撮ってるじゃないですかー」
因みにMKTとはモーニング騎士王タイムの略語であるらしい。
たぶんこの知識これからの永い悪魔生の中で使う機会殆ど無いと思う。口にする機会はそれ以上に無いと思う。
ていうか何時ものMKTと比較できているって事は普段のMKTがどんなのか比較できる程度には見ているって事ですよね。
目をめったに開けない書主さんは何処に行ったんですか!
そんなもん見るくらいなら私の顔だってもうちょい見れませんか!
いや、それ言ったらなんか最近の書主さんは無理しても見てくれそうだからそれはそれで心苦しいので敢えて言いませんけど!
……いや、でもやっぱりイケメンとはいえ野郎がコスプレしてる自撮り写真見るくらいなら、こう、同世代の美少女の顔を見たいとは思いません?
「小猫さんは朝から表情が忙しそうだ」
「誰のせいですか誰の」
軽く足元に蹴りを入れようとして避けられる。
……話す内容が少し違うだけで、私だけは他の眷属の皆と違って普段通りに学校に登校する事を許されている。
学校生活は嫌いじゃないしどちらかと言えば好きなので嬉しいと言えば嬉しいのだけど、他の皆が今もロキ対策で忙しくしていると思うと少しだけ申し訳なくも思う(祐斗先輩は除く)。
では、眷属の中で私だけが何故、登校を許されたかと言えば。
「……それと、すみません。今日は多分、一日張り付く形になってしまうと思います」
軽く頭を下げる。
私に課せられた仕事は、端的に言えば書主さんの監視だ。
何か危険な事をするかもしれない、という疑いがあるのかどうなのか知らないけれど、やはり不確定要素を持ってくる書主さんを放置はしておけないらしい。
理屈では解る。
書主さんの立ち位置は、本人も言うように悪魔とも天使とも堕天使とも区切られた外にある。
決して完全に味方なわけではない。
「いいっていいって。後から話に割り込んでるのは此方なんだから」
「でも……」
完全に味方ではないけれど……。
それでも、書主さんは監視を付けなければならない程に危険な人ではない。
これまでの功績を考慮して、そう判断してくれてもいいと思うのに。
……友人としての個人的な贔屓目もあるかもしれないけれど。
私は具体的に『監視しろ』と言われた訳でもないし、『監視している事を伝えるな』とも言われていないので本人にこうして自己申告したけれど、そうでなければ、私は彼の友人としての立場を利用して、彼を危険人物として監視する事になっていただろう。
いや、監視自体はそのまま続けるのだから、現時点でも後ろめたさは消えていない。
「大体、普段の学校でも結構な時間つるんでるしさ。大差ないって、実際」
「……日影さんとの時間にも、お邪魔してしまうかもしれません」
「いやいや、元から学校じゃ一緒の時間もそんなに無いから」
家に帰ればどうせ時間は取れるし。
何でもない様にそう続ける書主さんに、私は再び口から漏れ出しそうな謝罪の言葉を飲み込む。
ここまで言ってくれているんだから、謝るほうが失礼なのかもしれない。
「それにほら、そういう仕事も何かしらの組織に勤めている以上は避けられないし」
「そう言ってくれると助かります」
あと何日かしたらオーディン様と日本神話の神々の会談が行われる。
それに合わせて、ロキやフェンリルと再び戦う事になるのだろう。
私は前衛としてではないけれど、それに参加しなければならない。
少なからぬ、というか、割りと洒落にならない程度の命の危険がある戦いを控えている訳で。
皆が皆、それを乗り越えるために、この瞬間にも何かしらの努力をしている、筈だ。
私だけがそれをしていない、いや、その時間を削ってまでいつも通りの平和な生活を続けている。
焦りが無い訳でもない。友達を見張らなければならない後ろめたさもある。
でも、これはこれで、戦う為の準備になっているんだな、と、そんな事を思う。
「それで小猫さん、文化祭での出し物って何するか決めました?」
「部での出し物は、何をするか決まってないんですよね……。みんなあんまり建設的な意見が出せる程出来た頭では無いので。かくいう私は謙虚ですから、皆を差し置いて名案を出すわけには行きませんし……」
「抜かしおる」
私を笑いながら腹を抱えて指差してくる書主さんに蹴りを入れる。
彼との何でも無いような下らない語らいは、私の平和な日常の象徴の一つだ。
彼と学校で過ごして、姉様の居る家に帰る。
当たり前の幸せを噛み締めて、失わない様に。
戦って、勝って、また戻ってこよう。
そんな、口にするには恥ずかしい事を、こっそりと、心の中だけで呟いた。
次回はロキとロキが戦って主人公たちの助力を得たり得なかったりするロキが勝ちます
そんでその次の話辺りでこの7巻はおしまい
一応ロキをロキと入れ替える事で発生する主人公側のメリットとかもその辺りで話せると
8巻は……たぶん5巻みたいな変則的ルート分岐になるかも
小猫さんのラブコメとかは9巻からが本番の予定
先は長いが8巻はある程度自由度が保証されてるから体感では短くなるかな?
先は長いですが気長に見守っていていただけると幸いです
2017/01/26追記
そういえば8巻は短編集でした
それに習って外伝的話をするか、それとも8巻のショート集に合わせた時系列の話にするか、それとも無視して9巻に進むか……