”C”   作:イーストプリースト

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プロローグ いつかの時

 燭台の火が揺れる。夜も深まり、次第に空気もひんやりと冷えていく。

 部屋の中には寝台が1つ置いてあり、少女がもう一人の少女の首に腕を巻き付け、引き寄せるかのように抱きしめていた。

 

「12年前からあなたの顔は始終忘れたことはないって言いましたわ。愛しいあなた」

「もう、そんなこと言って……。私を見ながら、別の好きな人を思い出しているんでしょう?」

 

 少女の胸に抱かれる形となった彼女から拗ねる様な声が聞こえた。それに少女は苦笑しつつ、ポケットから1つの指輪を取り出す。彼女の小作りな右手を取ると、細い薬指に指輪をはめる。

 

「もうしょうがない子ね。この指輪は誓いの証。あなたが私を想い続けてくれるなら、もし私が灰になってしまっても帰ってくるわ。だから、これを私自身だと思ってもってちょうだい。お願いよ」

 

 少女はそう言って、彼女を再び愛おしそうに抱き寄せると、頬を寄せて、そう囁くのだった。

 

 

 遮光のための網の状の布を、女性の指が少し引く。快晴の空、昼時、青々とした海に太陽の輝きを波に合わせて返していた。ゆらゆらと波が上下している。今日の海は穏やかだ。

 窓から海を眺めながら、女性は眩しそうに眼をしかめた。

 歳は中年あたりだろうか、金色の髪には幾分か白い色が混ざり始めている。

 幾分か肌は衰えているものの、布を押さえている指は白く繊細だった。

 薬指には指輪。落ち着いた銀色の指輪には、薔薇が巻きついた十字架の紋章が彫られている。

 中年の女性は部屋にいる少女に話しかけた。

 

 

「いよいよね。いよいよ始まるわ」

「肯定、夜会が開始されるのにそう時期は開かないと断定します」

「ふふ、これまで長かったわ。長かった」

「保留、貴女の主観時間についての答えを私はもっておりません」

「あなたの真面目なところは好きだけど、硬すぎるのも考えものね。」

「保留。話題転換。身体の維持のための食事を要請します」

 

 女性はくすりと薄く笑うと、振り向く。

 少女はまったく感情を感じられない、興味の薄い視線を女性に向ける。赤色の瞳は女性を映していた。

 女性は先ほどまで遮光の布をそらしていた手で、右襟首をつまみ、右へ軽く引っ張る。白く、滑らかな肌。ほっそりとした首元が電灯の光の下に晒された。

 少女の視線が動き、晒された首元を捕える。少女の腕が女性の肩に伸ばされ、抱きしめるかのように添えられる。二人の間にある身長さを埋めるために女性が少し体を倒して屈み、少女がつま先立ちとなる。女性の腕が少女の背に回され、抱き上げるかのように少女を引き寄せる。

 少女の結ばれていた唇が動き、小さな口がゆっくりと開いていく、光沢を纏った歯が外気に晒された。小振りな口と同様に小さな歯であったが、それだけに鋭く尖った左右の犬歯がなおさら強調さていた。

 女性の首元へと少女の顔が近づく、口元がさらに大きく開かれ、女性の首元へ歯が添えられ、噛みついた。

 


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