人外になった者   作:rainバレルーk

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人間になる事は簡単なようで難しい。
化物になる事は難しいようで簡単だ。

深淵を覗けば、深淵もこちらを覗く。

アキト「人間と化物を分ける物って何かね?」

そしてあの名演説(改変あり)・・・・・行きます!



第柒章『血界狂騒曲』
諸君、私は―――!


 

 

コツン・・・・・コツン・・・・・

 

宙に浮いた巨大な飛行船、その内部のある空間。白い軍服を来た小太りの男が歩いている。

 

コツン・・・・・コツン・・・

 

男の履いた軍靴の音が静かに響く。男の前には黒軍服の兵士達がズラリと綺麗に並んでいる。

 

コツン・・・・・コツン・・・・・

 

兵士達はそれぞれ違った。

『性別』も『年齢』も『人種』も・・・ましてや『種族』さえも。

 

コツン・・・・・コツン・・・・・カツン!

 

男は階段を上がり、舞台へと立つ。そしてマイクの前へと歩みよる。その姿を確認すると兵士達は男の方を向き、敬礼を一礼する。

男は応えるように手を挙げる。そして、男はマイクの音量をあげ、その嫌にニヤつた口を開く。

 

 

「諸君・・・・・・・・私は『戦争』が好きだ」

 

一言・・・たった一言でその場所の温度は一気に下がったように寒くなる。何人かの兵士はガチガチと顎を震わせ、冷や汗をかく。

 

外からは飛行船のエンジン音が聞こえる。

 

 

「諸君、私は戦争が好きだ 。諸君、私は戦争が大好きだ」

 

甘美で恐ろしい男の声に兵士達は引き込まれていく。眼を艶やかせ、涎を垂らす者までいる。

 

 

「殲滅戦が好きだ。電撃戦が好きだ。打撃戦が好きだ。防衛戦が好きだ。包囲戦が好きだ。突破戦が好きだ。退却戦が好きだ。掃討戦が好きだ。撤退戦が好きだ」

 

ゾクリ、ゾクリと男の声が全体を包み込んでいく。

 

 

「平原で、街道で、塹壕で、草原で、凍土で 、砂漠で、海上で、空中で、泥中で、湿原で・・・この地上で行われるありとあらゆる戦争行動が大好きだ」

 

男の眼はどんどん輝いていく。

 

 

「戦列をならべた砲兵の一斉発射が、轟音と共に敵陣を吹き飛ばすのが好きだ…! 空中高く放り上げられた敵兵が効力射でばらばらになった時など心がおどるッ!!」

 

まるで大好きなアニメを見る子供のように興奮する。

 

 

「吸血鬼兵の操るティーゲルの88mmがあの『ガラクタ』を撃破するのが好きだ。悲鳴を上げて、燃えさかるガラクタから飛び出してきた敵兵をMGでなぎ倒した時など胸がすくような気持ちだった・・・ッ」

 

男の声とともに兵士達の前にモニターが出される。そのモニターには米国の最新ISがバーテン服の男に殴られる様が映し出されていた。

男は尚も続ける。

 

 

「銃剣先をそろえた我が吸血鬼兵の横隊が敵の戦列を蹂躙するのが好きだ・・・恐慌状態の新人吸血鬼が、既に息絶えた敵兵を何度も何度も刺突している様など感動すら覚える。IS至上主義の糞共を街灯上に吊るし上げていく様などはもうたまらない。泣き叫ぶ慮兵達が、私の振り下ろした手の平とともに金切り声を上げるシュマイザーにばたばたと薙ぎ倒されるのも最高だ・・・ッ!」

 

歯を見せて、男はひきつるように笑う。

 

 

「哀れな人間達が、雑多な小火器で健気にも立ち上がってきたのを貪り尽くした時など絶頂すら覚える・・・! 空挺兵団に滅茶苦茶にされるのが好きだ。必死に守るはずだった日常が、尊厳が、平和が無惨にも壊されていくのは悲しいものだ」

 

男の声に兵士達は力いっぱい拳を握り、歯を食い縛る。眼からは血が滴り落ちる。

 

 

「圧倒的物量に押し潰されて殲滅されるのが好きだ。ISに追いまわされ、害虫の様に地べたを這い回るのは屈辱の極みだ・・・!」

 

奮える声に応えるように兵士達もギリギリと歯軋りをたてる。

 

 

「諸君、私は戦争を・・・地獄の様な『戦争』と『変革』を望んでいる。諸君・・・私に付き従う大隊戦友諸君。君達は一体何を望んでいる?更なる戦争を望むか? 変革を望む闘争を望むか? 情け容赦のない糞の様な戦争を望むか? このどうしようもない世界を限りなく焼き尽くし、三千世界の鴉を殺す、嵐の様な闘争を望むか・・・?!」

 

男の疑問の声が兵士達の耳に伝わり、鼓膜を震わせ、情報が脳に到達した瞬間・・・・・!

 

 

『『『ウオォォォオオッ!!!』』』

 

歓声が、雄叫びが辺りを支配した。

 

 

「戦争!」

 

一人の兵士が叫ぶ。続けとばかりに叫びが轟く。

 

 

『『『戦争! 戦争!! 戦争!!! 戦争!!!!』 』』

 

幾十、幾百もの『化け物』達の叫びが徒然と響き、轟き、木霊する。

 

男は笑う。待ってましたとばかりに口を三日月に歪める。

 

 

「よろしい・・・・・ならば戦争だ」

 

男の声が馬鹿に良く響く。こんなに騒がしいのに馬鹿に良く響く。

 

 

「我々は満身の力をこめて、今まさに振り降ろさんとする握り拳だ…! だが!この暗い闇の底で屈辱の『10年』を堪え続けてきた我々に・・・ただの戦争ではもはや足りない!!」

 

男は腕を横にきり、声を張る。

 

 

「大戦争を!! 一心不乱の大戦争をッッ!!」バ――ッン!

 

化け物達は奮える。

 

 

「我らはわずかに一個大隊。千人に満たぬ敗残兵に過ぎない・・・・・だが、諸君は一騎当千の古強者だと私は信仰している。ならば我らは諸君と私で総兵力100万と1人の軍集団となる」

 

その『言葉』に奮える。

 

 

「我々を忘却の彼方へと追いやり、眠りこけている連中を叩き起こそう。髪の毛をつかんで引きずり降ろし、眼を開けさせ思い出させよう。連中に恐怖を味わわせてやる・・・・・・・・連中に、我々の軍靴の音を聞かせてやる・・・ッ! 」

 

その男に奮える!

 

 

「天と地のはざまには、ヤツらの哲学では思いもよらない事があることを思い出させてやる」

 

こことは別の部室から声が響く。

 

 

『『『始まりの地! 始まりの地の灯だ!!』』』

 

その部屋の窓からは明々と点滅する光が見える。

 

 

「一千人の吸血鬼の戦闘団で世界を燃やし尽くしてやる・・・ッ!」

 

『『『然り! 然り!!』』』

 

化け物達は嬉々と高らかに声を張り上げる。

 

 

「そうだ。アレが我々が待ちに望んだ光だ・・・私は諸君らを約束通り連れて来てやったぞ? あの懐かしの場所へ・・・あの懐かしの戦争へ・・・!」

 

『大隊長殿! 大隊長! 大隊指揮官殿!』

『大隊長殿! 大隊長! 大隊指揮官殿!』

『大隊長殿! 大隊長! 大隊指揮官殿!』

 

化け物達の声が、讃える叫びが一声に、一斉に揃う。

 

 

「そして・・・我々は遂に大洋を渡り、陸(おか)へと上る・・・!」

 

男はそこで息を少し吸った。そんな刹那でも長く感じる程に息を吸い、一気にそれを言葉と共に吐いた!

 

 

「レギオン大隊各員へ伝達!大隊長命令であるッ! 全フラッペン全開! 旗艦デクス・ウキス・マキーネ号始動! 離床!! 全ワイヤー全索引線解除! 吸血鬼大隊大隊指揮官より、全空中艦隊へ ! 目標、日本、関東上空!! 『アシカ作戦』状況を開始せよ。征くぞ、諸君 ・・・・・」

 

こうして序章からの第2幕がはじまる。

 

 

「良い夜だ・・・・・戦場を輝かせるには絶好の夜だ・・・! そうは思わないか・・・?」

 

男の呟きに誰も答える者はなし。ただ、空には月が輝くだけ・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





な・・・長かった・・・・・!

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