ご都合的に進めていくのもまた一興
ドオォォ――――――オッンンン!!!
PC画面には爆撃をうけ、上からジェンガのように崩れ落ちる映像が映っている。
「・・・クックックッ・・・アッハッハッハ♪」
そんな映像を見ながら、体全体を包帯でグルグル巻きにし、厚手のコートを着た男がオモシロおかしく笑っていた。
「・・・・・何がおかしい?」
男の向かいに座る青髪の美女『エスデス・サディラー』は眉間に皺を寄せて睨む。男は愉快に笑いながらも答える、「面白くなるぞ」と・・・
「・・・どういう意味だ?」
エスデスの疑問に男は笑うばかりで答えようとはしない。エスデスの目はドンドン鋭くなるが気にした事はないようにケラケラと笑う。口を大きく歪めてゲラゲラと笑う。
「・・・貴様は一体何が目的なんだ? 私から『人質』とっておいて・・・何故、こんな事をする? 貴様はあの『男』の部下なのか? 答えろ黒の記者『シュバルツ・バルト』!!」
男・・・シュバルツ・バルトは笑い声を抑え、ニヤリと口を歪めたまま答える。「君に答える事はない」と。
それでもシュバルツに噛みつこうとするエスデスだったがグッとそれを抑えた。
「・・・それで・・・・・」
「ん? なんだね将軍?」
「・・・それで・・・『タツミ』は・・・タツミは無事なのか?」
エスデスは項垂れるようにシュバルツに聞く。それをシュバルツはニヤついた笑みで答える。
「大丈夫、無事だとも・・・今日は早く帰ったらいい。家で愛しの旦那様が君の帰りを待ってくれているよ」
そう言ってシュバルツは椅子から立ち上がり、部屋の扉へと向かうとドアノブに手をかけた。その時、何かを思い出したように振り返った。なんだとばかりにエスデスは身を引き締める。
「将軍。さっきの質問だが、やはり答えてやる」
「・・・なに?」
「私はあの男の部下じゃあない。それに私の求める物はたった1つのシンプルな事だ」
「・・・なんだそれは?」
「フッ・・・『スクープ』だ」
シュバルツの言葉にエスデスはポカンと頭に疑問符を浮かべる。そんな反応を見て、シュバルツはまたクツクツと笑う。
「あ~、そうそうサディラー将軍? もう、こういう関係には関わらない方が良い。大切な者を失いたくなければな」
「え・・・?」
「それでは去らばだ・・・世界が変わる瞬間を見逃してはならないのでな」
そう言ってシュバルツは部屋から出ていく。あとに残されたエスデスは少しの間深く考えた後、家路を急いだ。
――――――――――――――――――――――
パラパラ、パラ・・・
爆撃をうけ無惨に倒壊したホテルに叫び声が響く。
「オォ――ッい!!」
「返事をしてくれぇ――!」
それは独軍のシュトロハイムの部隊の者だった。
爆撃の直前、シュトロハイム達の呼び掛けに答えたラウラだったがそれから3分もしない間に爆発がおこり、倒壊した。
瓦礫を退かす者、レーダーをかざす者、様々な者達が生存者達を探している。
「おい! ヴィクトリア孃!! 本当にボーデヴィッヒは無事なんだろうな!?」
「近くにアキトがいたなら大丈夫なはずよ・・・・・たぶん」
「なんだその曖昧な表現はぁッ!?」
目を反らすシェルスにシュトロハイムは食って掛かる。
「アキトは必ずに『仲間』と認めた者は決して見捨てないわ。それは貴様もわかっているだろうシュトロハイム?」
「そ、それは・・・・・」
「それに」
「それに・・・・・なんだ?」
「・・・わかるのよ。あの人に『血を吸われてる』から」
「・・・・・」
首もとの小さな『刺傷』に指を指し、弁解するシェルスにシュトロハイムは押し黙った。その刹那である!
「ウワァァアああ!?」
部下の一人が叫び声を上げた。なんだなんだと兵士達がその方向をみると
「フSYウアaaaaa!!」
瓦礫を押し退け、ボロボロの悲惨な姿の屍喰鬼が現れた。兵士達は戦闘体勢をとり、対吸血鬼武器を向ける。
「あの爆撃で生き残っていやがったのか?!」
「気を付けろ! 手負いの屍喰鬼程、面倒で危険な物はないからな!」
ジリジリと辺りに緊張が走る。そんな時、アームストロングが何かに気づいた。
(む・・・この屍喰鬼、何かに『怯えている』? )
「・・・Vaaaaa!」ダッ
「「「なっ!?」」」
ボロボロの屍喰鬼は突然、後ろへと走った。呆気にとられた兵士達だったが、すぐさま武器の照準を合わせ、追いかけようとする。・・・・・が
「ッ! 待つのだ!」パンッ
「「「・・・へ? あだァ!?」」」ベチィ
アームストロングは錬金術で追いかけようとする兵士達の前に壁をつくり止める。
「痛たた・・・」
「な、何をするんですかアームストロング少佐!?」
「このままじゃあ屍喰鬼が!」
「皆、落ち着け・・・アレを」
「は?」
アームストロングは焦る兵士達を諌め、逃げる屍喰鬼に指を指す。
足を引きづりながら逃げる屍喰鬼。しかし、瓦礫に蹴躓いて転んだ瞬間・・・・・
バクゥッ!!
「「「ッ!?」」」
形容しがたい『獣』が地面を突き破り、屍喰鬼に食い付き、グチャリグチャリと音を起てて咀嚼する。
「な・・・なんだ・・・コイツは?!」
兵士達はダラリと冷や汗をかき、顔が青ざめる。
獣は屍喰鬼だった物を飲み込み、ギロリと兵士達を睨む。兵士達は体が硬直し、泡を吹きそうになる。
「こ、コヤツ・・・・・!!」
アームストロングはこの得体の知れない獣に立ち向かおうと軍服を脱ぎ、ナックルを握る。だが・・・
「『ニコ』!」
「「「「ッ!?」」」」
アームストロングの後ろでシェルスが声をあげる。
「! クゥゥウ!」
獣は自分の名前が呼ばれるとアームストロングを通りすぎ、シェルスのもとへと這いよる。
「良し良し、イイ子ね」
「クゥゥ~♪」
「ヴィ、ヴィクトリア殿。その・・・化け物は・・・・・!?」
ニコと呼ばれた獣の頭を撫でるシェルスにアームストロングは恐る恐る確認をとる。
「この子は『ニコ』。アキトの・・・・・使い魔みたいなものよ」
「暁殿のですか?!」
「そう。ニコ?」
「クゥ?」
「アキトは何処かしら?」
シェルスがそう聞くとニコは自分の尻尾をたぐり寄せた。その尻尾の先は卵のように楕円形となっている。
シェルスは持っていたナイフでその尻尾を切り裂くとドロリと膿のような物が溢れでる。シェルスはその切り裂き口に手を突っ込み、何かを引きづり出す。
「ゲホッ! ゲホッ!!」
引きづり出されたのは朧に薄い膜のようなバリアで守られているラウラ達であった。
「大丈夫か! ボーデヴィッヒ!?」
シュトロハイムが近寄り、膜を破ると体を支える。
ラウラを筆頭に赤い髪のクラウス少年に顔面包帯のギルベルト、そして怪我人のウィルが出てきた。
急いで救護班を呼び寄せ、手当てを施すが・・・
「・・・カはッ・・・ヒデぇ目にあった・・・・・ランサーの真似なんかするもんじゃあないな・・・」
最後に自力で出てきたアキトは目も当てられない酷い状態であった。
朧を纏っていなかった為に全身は火傷で赤く焼けただれ、顔半分は識別できない程に変化しており、生きているのが不思議なくらいだ。
「アキト!!」
ヨロヨロと歩くアキトをシェルスは優しく抱き止め、アキトは全身の体重をシェルスに預ける。
「シェルス・・・血がついちまう・・・ぜ?」
「良いのよ・・・貴方を抱き締められるなら汚れても良いわ。それより早く血を―――っむぐッ!?///」
アキトは有無も言わさずにシェルスの唇を塞ぎ、舌を入れる。そのままアキトは肺に溜まった血を流し込む。
「ムグゥッ!? アキ―――っンン!?」
シェルスは驚いてアキトから口を離そうとするが強引にまた口を奪われ、血を胃に流し込まれる。
突然の事に混乱するシェルスだったがその内に大好物の彼の血を受け入れ、味わう。
余分な血を吐き出し、今度は彼女の新鮮な血を吸う。それにより傷が徐々に治っていく。
「わ、わぁ・・・///」
「な、なんと破廉恥な!!///」
「・・・何をやっているんだ貴様は!!」ゴチィッ
「「むげッ!?」」ガチィ!
呆れたシュトロハイムがアキトの後ろ頭を鋼鉄の拳で殴る。それによってアキトの歯とシェルスの歯がぶつかり、やっと二人は唇と唇を離す。
「痛ぇじゃあないかシュトロハイム・・・怪我人の楽しみを邪魔するんじゃあない」
「喧しい! ろくに連絡も寄越さないばかりか、ボーデヴィッヒを危険な目に合わせるなど!」
「そう言えばラウラは? アイツ、赤髪の坊やをかばって肋骨が2、3本折れてんだよ・・・・・」
「さっき救護班に運ばれた。他の生存者も無事だ」
「そっか・・・」
それを聞くとアキトは安心したのか、ホッと溜め息をついた。
「それよりA.A! 『ヤツ』は!?」
「わかってるよ・・・・・ここを主導してたのは『トバルカイン・アレハンブラ』。だが『ヤツ』はここには・・・この国にはいない」
「なんだとッ!? なら何処に?!」
喚くシュトロハイムにアキトはまたヨロヨロと動きながらラウラ達を守っていた朧を左腕にはめる。
『王よ、ご無事ですか!?』
「喚くな朧。吸血鬼舐めんな、こんなのすぐに治る。それよりもアームストロング少佐?」
「な、なんでござろう暁殿?!」
「確か・・・・・この近くに英国の最新鋭戦闘機が止まってたよな?」
「そ、それがなにか?」
困惑のアームストロングにアキトは真剣な眼差しでこう言った。
「それ貸せ。緊急にいるからよ・・・事情はあとで話す」
「・・・・・へ?」
この30分後、シェルスと共にアキトは戦闘機に乗って極東へと飛んだ。
――――――――――――――――――――――
ダンッ!!
「なんだコレはッ!?」
モニターを囲む円卓に座った人物が拳を降り下ろす。モニター画面には米国の最新鋭ISが素手の男になぶられる様が映し出されていた。
ここはIS委員会本部。円卓に座った主要人物達がザワザワとざわめく。
映像は今現在ネットで全世界に配信されている。この映像が原因で緊急集会が開催された。円卓の外には呆れた顔の十蔵がたたずんでいる。
「一体、この映像はなんだ?! エイプリルフールはとうの昔に過ぎているぞ!」
「配信を止めろ!」
「あの男は誰だ!? それにこの集団は?!」
驚く者、顔を青ざめる者、喚く者。そんな様々な者達がいる中・・・・・
「・・・クックック・・・・・♪」
口を隠しニヤリと笑う者が一人・・・・・
「・・・『ジェルマン』・・・・・?」
「ククク・・・ア――ッハッハッハ!」
モニターを見ていたジェルマンがゲラゲラと笑い出した。
周りの人間は怪訝な顔でジェルマンの方を見る。
「何がおかしいのですかジェルマン卿?」
「いやね・・・ククク・・・・・可笑しくて可笑しくて・・・・・クハハハ! もう可笑しくて堪んないの!」
「だから何が!?」
憤るグストにジェルマンは澄ました顔で笑って説明する。
「あの男は『吸血鬼』ね。しかも『石仮面』でなったパワータイプの輩ね」
「吸血鬼ィ? 何を馬鹿馬鹿しい事を!」
「『馬鹿馬鹿しい』? 馬鹿馬鹿しいですって?!」
「「「「「ッ!?」」」」」
澄ました笑顔から青筋をたてて、ジェルマンは叫ぶ。
「コレを見て馬鹿馬鹿しいなんて・・・・・やはりこの世界はどうしようもないわね。権威にしがみついた薄汚い糞にも劣る下朗共」
「なんだと!?」
ガタリと席を立ったジェルマンは懐から・・・
「なッ!?」
「ジェルマン卿?!」
「ジェ、ジェルマン!?」
カチッ
一昔前の先込め式の拳銃を取り出すと目の前にいた人物に向け、引き金を躊躇なく引いた。
引き金が引かれた事により仕掛けが作動し、撃鉄の火打石が擦れて火花が散る。その火花が火皿の火薬に点火し、銃身内に押し込めた火薬を爆発させる。爆発する事で込めていた鉛弾が銃口から吐き出され、目の前の人物の額を貫き、綺麗に柘榴を飛ばした。
「あ・・・・・あぁあ!?」
「な、な・・・・・なんて事を!?」
「フゥ~♪」
ジェルマンは一仕事終えたように銃口からでる煙を吹く。
「ジェルマン・・・何故・・・・・!」
十蔵は護身用の拳銃を抜き、ジェルマンに向ける。向けられたジェルマンは流し目で十蔵を見ながら答える。
「もう飽き飽きしたのよ」
「・・・なに?」
「ここにいる連中はISから出る利益で世界をまるで我が物にしたように笑ってやがる・・・・・実に気に入らない」
「まさか・・・それだけか?」
十蔵の驚いた顔にジェルマンは溜め息をひとつ吐く。
「んな訳ないじゃない。ただ世界を変わる瞬間が見たくなったのよ」
「どういう事だ?!」
「あの硝煙と汗と埃と焼けつく血の臭い・・・・・それが懐かしくなったのよ」
「!」
十蔵の顔は微かにひきつる。
「く、狂ってる!」
「前々から狂っているとは思っていたが・・・まさかここまで!」
「た、助けてくれ!」ダッ
円卓に座った一人が出口の扉に向かって走り出す。
「無駄よ」
ジェルマンの呟きを語るように扉はひとりでに開き・・・
ドオッン!
銃声と共に逃げ出した人物の頭が柘榴に散る。そしてゾロゾロと派手な服装の者達が入って来た。
「なッ・・・!?」
「ご苦労様、アンタ達」
派手な服装の者達は円卓会議の連中を囲み、十蔵にも銃を突きつける。
「お前達は!」
「おひいさま、だいたいの制圧は出来ましたわ」
「もう、遅いわよ! こうもっと派手に出来なかったの?」
「一応、ダイナマイトをここに――「危ないわよ! 馬鹿ッ!」――痛ッ!?」
ジェルマンは主犯格の人物の頭を叩く。
「ジェルマン卿・・・貴方の目的は何? この映像と何か関係があるの?」
グストの質問にジェルマンはまたニヤリと笑う。
「世界が未知を知る為よ」
←続く
中々にアンテーしないな・・・・・