『原作』の方が公式的に誰も予想していない方向に舵をとり、そのまま完結に向かっていますが、どうなんでしょうか?
オリジナル路線を進む者、原作に添わせる者に別れて行っているとは思いますが、一体何が正解なんでしょうかね?
まぁ・・・私は『正解がないのが正解』というのが、二次創作だと思っていますがね。
では、どうぞ・・・・・
薄暗いマンホール下に広がる地下通路に弾ける水音が木霊する。
夏だと言うのに涼し気な空気と鼻を曲げる臭気が通路を走り抜ける生徒たちの肺を浸し、学園独特の白を基調とする制服が弾けた下水でシミを作った。
「ハァッ、ハァッ!」
「くぅ・・・ゥウ・・・!」
走りながらも先程の出来事に対しての恐怖心で瞳に涙を溜める者も少なからずいた。
だが、足を止めれば結果は知っての通りだろう。幾らISを纏った教師部隊が時間稼ぎをしているとは言え、あの気色の悪い餓えた化物共はすぐさま追っ手を必ず差し向けて来る。
あの不気味で不快な襲撃者達から逃れる為には足を止めてはいけない、動きを止めてはいけない。
逃げ切らなければ、専用機を持たない大半の生徒は確実にその若い身体を色々な意味で貪られる事になるだろうから。
しかし・・・。
「あッ・・・!」
ドシャッ
「大丈夫?!」
「え、ええ・・・ッ」
逃走という慣れない行動に生徒の一人が転ぶ。
周りにいた他の生徒が駆け寄り、無事な事を確認するが、その生徒の足からはジワリと血が滲む。
そんな彼女の他にも靴擦れによる擦過傷を負った生徒達が次々と出始めた。
まさか、天下のIS学園生徒である自分達が過激な武装組織に襲撃される等とは露にも思ってもみなかった彼女たちの危機意識が露呈した瞬間である。
そして、注目やパニックを避けるためとはいえ、護衛の数を敢えて増員しなかった事が今回の失敗でもあった。
「会長ッ、ここは」
「ええ・・・ここは二手に分かれて行動するのが良さそうね。・・・でも・・・」
行動が制限されていく中で、一人でも多くの生徒達を生還させる為にも教師部隊から一任された楯無はどうすれば追っ手を振り切れるのかを考察する。
『二手に分かれる』
敵の追手を分断するには良い手である。
だが、もし追手に追い付かれ、その追手に対処できる専用機持ちの生徒は楯無と彼女の妹である簪の『二人』だけ。
日本代表候補性とは言え、実戦経験の乏しい簪が敵と接触した場合どうなるか・・・考えたくもない楯無であったが、そんな事を言っている状況ではない事は確かであった。
「・・・・・なんか・・・おかしいな」
「どうしたの、圭くん?」
そんな楯無から離れた場所にいる圭は、自分達が走って来た後方彼方を鋭い視線で見据えていた。
「簪ちゃん・・・レーダー探知機に何か異常はない?」
「え・・・ううん、レーダーには何も映ってないよ」
「そっか・・・」
短絡的に答えを返す圭。
ISのレーダー探知機は、そこいらの軍用探知機よりも高性能。そのレーダーに何も引っ掛かっていないならば、問題はない。
「(でも、なんかおかしい。明らかに何かが近づいている・・・気がする。吐き気を催すゲロ以下の何かが俺達に近づいている・・・たぶん)」
所々、自信がない部分はある。
けれども、彼は今まであのふざけた『山羊』やら『吸血鬼』やらに振り回されて来た経験上、深く勘繰らずにはいられない性格になっていた。
「・・・更識会長、お話しがあります!」
「圭くん・・・ッ?」
用心をしたうえで、なんの手立てもしないのは愚の骨頂。
思い立った圭は急いで楯無に進言せんと通路に固まった人波を掻き分けていく。
「何かしら、野崎く・・・さん?」
「更識会長、爆破系統のIS武装を今持ち合わせてませんか?」
「「・・・は?」」
彼の脈絡のない言葉に楯無と虚の二人はキョトンとなる。
「圭くん・・・主語がないよ」
「あ、すいません。俺が言いたいのは、追っ手がこれ以上此方に近づかない様に今通って来た通路を破壊する為の武装はないかと言いたかったんです」
「は、破壊ッ!? 野崎さん、あなた何を言って―――――むッ///?!」
この提案に声が上ずる虚に対して、圭はすかさず自分の人差し指を彼女の唇へ縦に添わせる。
圭が女装しているとはいえ、傍から見れば実に百合百合しい光景だ。
「すいません、布仏さん。更識会長、もしかしたら敵は何らかのステルス能力を持っているんだと思います。ISのレーダーを掻い潜れる程のものを」
「そんなのは有り得ません。ISの高性能レーダーを掻い潜れるものなんて、それこそISでもない限り―――・・・まさかッ・・・!?」
「追手も『ISを保持している』・・・かもしれない。そう言いたい訳かしら?」
「え・・・あ・・・あぁ、そんな所です」
圭としては、その追手がただのIS乗りのテロリストならどんなに楽だろうかと思考する。
相手がISを主戦力に置いていてくれたら、こちらとしても対IS戦闘がやりやすい。しかし、圭が危惧しているのは、追手がISではなく『化物』であるという事だ。
「でも・・・どうしてそう思うのかしら? 相手がそんな能力を持っているなんて?」
「え・・・それは・・・」
楯無の言っている事は当然である。
協力者とは言え、圭は外部から来たよそ者。そんな彼がどうして相手の能力を、武装を知っているのだろうか。
「私達は街のすぐ下にある所にいるのよ。それを逃げる為とはいえ爆破するって・・・!」
「あ・・・ッ・・・」
通路を爆破すれば、確かに追手からの時間稼ぎにはなるだろう。しかし、この下水通路の上には街が並んでいる。
爆破を慣行すれば、無関係な民間人を撒き込んでしまうかもしれない。
「それにこの際、言いたくはないのだけれど・・・信用できる筋からの協力者と言っても私は、あなたを信じる事ができないわ」
「お嬢様ッ」
「・・・・・まぁ、そうですよね。俺の『勘』だけで、皆を危険な目には合わせられません。出過ぎた真似でした、すいません」
彼女から最もな事を言われてしまい、圭は自分でも考えすぎかと思い退こうとした・・・矢先。
「圭くん・・・これで足りる?」
「・・・え!?」
「「か、簪ちゃん/簪お嬢様ッ!!?」」
彼の振り向いた視線の先には、自らの専用機『打鉄・弐式』の武装を取り出した簪が立っていたのだった。
驚愕する一同を余所に彼女は、専用武装から取り出したミサイルの信管を慣れた手付きで解体していく。
「ちょ、ちょっと簪ちゃんッ!」
「なにやってるの、簪ちゃん?!!」
「・・・圭くん、私はあなたの事を信じてる」
「え・・・ッ」
「あの時・・・圭くんが叫ばなかったら、もっと大勢の人が怪我をして逃げ遅れていたかもしれない。だから・・・私は圭くんの案に乗る」
「ッ!」
ガチャリガチャリと音を発て、ミサイルを簡易的な時限爆弾に変えた簪は意思の籠った視線を楯無に送る。
そんな彼女の熱視線に楯無は戸惑いを隠せずにいた。
「しょ、正気なの、簪ちゃん?!」
「・・・はい。専用機としてISを使えるのは二人だけというこの状況なら、このままじゃあ追手に掴まる。それに私は悔しいけれど実戦経験に乏しい。・・・二手に分かれたところで、どちらか一方が餌食になる。だったら、ここは圭くんの提案に乗るべきだと思います・・・・・『更識会長』」
「ッ!! か・・・簪ちゃん・・・私は!」
血のつながった姉妹だと言うに楯無を冷たくあしらう簪に彼女はつい声を荒らげようとした、その時だった。
・・・ドドドドドッ
「な・・・なにこの音?」
「なんか、段々と近づいてきてない?」
遠くから地を揺らす様な轟音が響いて来た。
その轟音は徐々に近づいて行き、ついにはISの高性能レーダーに引っかかる事となる。
津波のような下水の濁流を。
「あぁ、最悪・・・やっぱり、『あの人』関係はこんなのばっかり!!」
「言ってる場合?! 皆ッ!! 早く何かに掴まって!!」
そのまま彼と彼女等は、汚濁した鉄砲水をまともに喰らう羽目となる。
ドバシャァア―――アアッアアアン!!
濁流の音が反響する生徒たちの悲鳴を洗い流していった。
←続く
・・・あなたはどちらでしょうかね?