まず最初に・・・
一か月もの間放置しており、大変申し訳ございませんでした。
しかし、それでもこの『人外になった者』にお付き合い頂き、お気に入りが500件突破という事に驚きと途方もない感謝をしています。どうもありがとうございます。
では、どうぞ・・・・・
東の彼方が暁に染まる頃。
鮮血と流血と腐血に描かれた戦場へ一人の化物が推参した。
「WRYyy・・・」
その化物の髪は蛍火のように煌めき、肌は赤銅色に燃えていた。
その化物の眼は紅蓮に冷え切り、鋭利な牙がガチガチと音を発てていた。
そして・・・その化物の手には槍が握られていた。
その槍は鉄塊と見間違う程に大きく、大剣と見間違う程に鋭利であった。
槍は銀の光沢を纏い、山吹色の輝きを放っていた。
その輝きは正しく太陽のようであった。太陽そのものであった。
「SIyaa・・・」
それと対を為す様に、化物の眼前には怪物がいた。
その怪物の衣は鮮血に染まり、身体は流血に彩られていた。
その怪物の眼は蒼炎に熱せられ、噛み締められた歯がギリギリと音を発てていた。
そして・・・その怪物の全身には無数の棘が巻き付いていた。
棘は魂を削りながら、赤く咲き誇っていた。
その様は奇しくも薔薇のようであった。薔薇そのものであった。
そんな二人の周りを激闘を物語る炎が、犠牲となった人間と化物達の屍が、血だまりが囲んでいた。
「あア・・・KUAAAAAAAaaaッ!!」
ダッッ
化物は槍の切先を怪物へと目掛けて駆け抜ける。
「AAAAAAAAAAAッ!!」
シュバババッ
怪物は鋭く研磨された棘を向かって来る化物へと差し向ける。
しかして化物は差し向けられる棘に躊躇する事もない。
皮膚を引き裂かれようと、筋肉を貫かれようと、骨を砕かれようと、臓器を潰されようとも止まる事はない。
何故なら皮膚が引き裂かれれば、引き裂かれた処から・・・
何故なら筋肉が貫かれれば、貫かれた処から・・・
何故なら骨を砕かれれば、砕かれた処から・・・
何故なら臓器を潰されれば、潰された処から・・・
戦場にて散った人間の血を口から、鼻から、眼から、耳から吸収し尽くす事で回復した。
戦場から逝った化物の肉を手から、足から、毛から、爪から喰らい尽くす事で修復した。
その内に化物は鬱陶しくなったのか。向かって来る棘を槍で斬り払い、押し潰し、引き千切りながら進んで行く。
「WRyYYAAAaaaッ!」
化物は断末魔のような鬨の声を響かせ、渇望のような絶叫の声を轟かせる。
闘争から闘争へ。
一目散に怨敵へと向かうその姿と形相は余りにも『恐ろしく』。余りにも『滑稽』で。余りにも『哀れ』で。余りにも『美しい』ものであった。
怪物に近づいた化物は自らの腕を其の胸へと突き刺さし、ブチブチと嫌な音を点てながら人体の組織を引き裂く。すると其の掌の中には六角形の鋼の塊が掴まれていた。
「RYyyyyy!」
バギィイイッ!!
化物はその鋼を粉々に握り潰す。化物の・・・吸血鬼の力で破壊された鋼塊は、木端微塵に四散した。
「・・・ッ・・・!」
ドタッン・・・
弱点である術式中枢を破壊された怪物は、糸を切られた操り人形のように地へと力なく倒れる。
「ハァ・・・ハァッ・・・ハァ・・・ッ!」
「・・・・・」
終わった。
4年前から続いていたガキみたいな化物同士の喧嘩が今この時、漸く終止符がうたれたのだ。
それなのに・・・
「ハァ・・・ハァ・・・・・っく・・・」ギリリッ
化物の表情は優れなかった。それどころか、歯噛みをして『悔しい』顔をしていたのだ。
怨敵である筈の怪物に勝ったというのに、決着を着けたというのに、化物は今にも泣き出してしまいそうだった。
「・・・お前は・・・
悔しくて、悔しくて。悲しくて、悲しくて。哀れで、哀れで。そして、なによりも美しいその怪物の姿に化物はそう叫ばずにはいられなかった、そう嘆かずにはいられなかった。
「お前は『俺』だ・・・俺もこの通りの『
化物は静かに泣き叫ぶ。
地面に膝つき、大粒の血の涙をボロボロと流す顔を両掌で覆う。
「・・・ッハッハッハ・・・」
「ッ・・・!?」
其の時だ。静かに咽び泣く彼をあやす様な声が耳に聞こえて来た。
その声を化物は知っている。
「ラ・・・『ランスロット』・・・ッ!」
声の主は、化物の前に仰向けで倒れている怪物・・・『スカー・ランスロット』。彼は身体を斜め左右に斬壊されても尚、まだ息があったのだ。
ランスロットは息も絶え絶えに言葉を紡いでいく。
「『鬼』が泣くなよ・・・鬼が泣くな・・・・・」
「・・・ッ・・・」
化物は声を聞くと血涙を拭って立ち上がり、彼の空虚な眼を覗いた。
「泣きたくないから・・・『鬼』になったのだろう? 人は泣いて・・・涙が枯れ果てるから・・・『鬼』になり、『化物』になり果て・・・『成って果てる』のだ・・・ッ」
「・・・ならば・・・・・ならば、どうしろと・・・どうしろというのだッ?」
「・・・『笑え』」
「ッ!」
「傲岸に、不遜に笑え・・・明朗に、快活に笑え・・・いつものように・・・・・『あの人』のように・・・」
「・・・・・あぁ・・・」
ランスロットの言葉を受けた化物は微笑む。彼がよく見えるように。
化物が微笑むのを確認したランスロットの身体は徐々に崩れていく。活動限界が間近に迫ってきている証明だ。
「俺はもうすぐ逝く・・・・・だが・・・その前に・・・聞きたい事・・・がある・・・」
「なんだ・・・?」
「何故・・・あの日、あの時・・・あの人を・・・中尉を・・・・・『リップヴァーン・ウィンクル』を・・・どうして喰わなかったんだ・・・?」
「・・・それは・・・・・ッ」
化物はランスロットの問いに口籠もるが、答えは決まっている。『あの日、あの時、あの瞬間』からその答えは確実なものであったからだ。
「・・・それは彼女が『敬意』を持って『惨殺』した『愛しき敵』であったからだ。その姿が余りにも美しかったからだ・・・だから喰わなかった。・・・・・お前もそうだッ。お前も俺の『愛しき怨敵』だ」
「・・・そうか・・・そうか・・・・・ならば・・・頼みがある・・・『太陽の心臓』を持つ者よ・・・俺を・・・俺を・・・ッ」
「・・・・・あぁ・・・」
朽ち果てては崩れゆくランスロットの言葉なき頼みを受け取った化物は、携えた槍を天高く掲げると詠唱を綴り始める。
「『この槍は太陽の憑代。安らぎを与えたる魂の心槍。我が愛しき敵よ。貴殿を久遠の穏地へと還す其の名は―――』」
すると掲げた槍が山吹色の温かな光をもっと強く放ち始めた。
その光の中にランスロットの瞳は、先に逝った仲間達と想い人の顔がうつる。
「・・・あぁ・・・ただいま・・・皆・・・・・随分と・・・待たせたね・・・」
「『―――
シャッァァアアアッッン・・・!
掲げた槍をそっと寄り添わせるとランスロットの身体は温かな山吹色の炎に包まれ、燃えていく。
そのままランスロットは、安らいだ表情のままに燃え尽きて行った。
―――ありがとう・・・アルカード―――
宿敵に恩義を伝えて・・・
「あぁ・・・宿敵よ、いずれまた・・・・・」
ヒュォオオ・・・
燃え尽きた灰を吹き散らす一陣の風が戦場に吹きすさぶ。
奇妙な友情を悠久の彼方へと運ぶように。
―――――――
「アキトォオ! どこであろー!!」
爆発炎上する飛行大型戦艦デクス・ウクス・マキーネ号から脱出したヴァレンティーノファミリーが頭目『ドン・ヴァレンティーノ』は、共に突撃&脱出を果たした吸血姫『シェルス・ヴィクトリア』の背に乗っていた。
「あろォオオ!! 返事をするであろーッ!」
「泣かないでよ、ドン。鼻水が服に付くじゃあないッ」
「返り血満載の服に今更であろー! それよりもアキトはどこであろー!! 無事なのであろー?!!」
「喧しい! 今、探しているわよッ!・・・けど、アキトの気配がそこら中に溢れてわからない・・・!」
戦場と化した街には彼方此方で『零号解放』によるアキトの気配が蔓延しており、その中から本体である彼を探すのは至難の業である。
「あの・・・あのバカッ! 一体何所をほっついているのよ?! 本当にあの馬鹿野郎はッ!!」
「(涙目で今の台詞を叫んでも、ツンデレなだけであろー」ボソッ
「あ”ァ”? 何か言ったの、ドン?」ギロリッ
「な、なんでもないであろー!!・・・って、アレは何であろー?」
「え?」
ドンは未だ炎が燃える戦場の遠方に動く何かを確認する。其れは山吹色に光り輝く人並み大の球体であった。
「まさか・・・ッ!」キュッ
「ちょッ、シェル―――」
ダッンッッ
ドンの言葉も聞かず、シェルスは凄まじい勢いで駆けだす。背中からドンが落っこちようと関係なしに。
シェルス自身、炎上する戦艦内でとんでもない化物生物との戦闘で疲弊していた。しかし、今の彼女はそんな事など忘れさっていた。
「このッ!」
ズブリッ!
球体へと近づいたシェルスは其れ目掛けて手刀を突き刺し、ブヨブヨとした球体の表面を引き裂くとドロリとした血膿のような生臭い液体が流れ込んで来た。
「アキト・・・アキトッ!」
流れ込む血膿にホンのちょっぴりのデジャヴを感じつつも、シェルスは血膿を掻き出す。さすれば、球体の奥底から真っ白な顔をした想い人の顔が出て来た。
「・・・あ・・・・・おん・・・ッ?」
「アキト! 大丈夫なのアキト?!!」
「そう・・・やいやい言わねぇでくれよ・・・
「え・・・なッ!?」
アキトはそう言うと左眼辺りが、急に焼け爛れる。それは武装錬金使用の『後遺症』であった。
「ど・・・どうしてッ・・・!?」
普段の万全の状態ならば、自身の武装錬金の使用で後遺症は出ない。しかし、ニューヨークでの激闘並びにランスロットとの戦闘で途中、血液を摂取しようとも彼はかなり疲弊していた。
その状態で武装錬金を使ったものだから、ランスロットを見送った後に太陽と同じ波長を持った自らの槍で身を焦がされたのだ。
「心配すんな・・・少し休んだら・・・大丈夫だ」
「で、でも・・・」
「カカッ・・・泣き顔も可愛いな・・・」
彼女の眼に一杯に溜まった涙を人差し指で拭い、ペロリと其れを舐める。口に含んだ涙は薄荷のように清々しく身に染み渡っていった。
「・・・美味い・・・君の涙は、透き通るように甘いな・・・血とはまた違う美味なるモノだ・・・」
「・・・・・馬鹿・・・ッ」
「すまんすまん・・・・・終わったのか?」
「ええ・・・終わったわ。・・・そっちは?」
「・・・終わったよ・・・やっと・・・・・やっとな・・・」
「・・・そう・・・」
アキトの言葉にシェルスは静かに答える。
それだけで十分伝わった、それだけで通じ合った。血を吸い合った仲だけに余計に。
「なぁ・・・シェルス・・・ッ?」
「ん?」
「家に・・・家に帰ろう・・・・・俺達の家にさ・・・」
「ええ・・・帰りましょう、私達の家に・・・」
戦場と成り果てた街に朝を告げる本物の太陽が顔を出す。
こうして後に『飛行船事件』として語り継がれる惨劇は、終わりを告げる。
皮肉にもその日は、今回の騒動の発端となった発明品である世界初の
←続く
これからもどうか、今作をよろしくお願いいたします