人外になった者   作:rainバレルーk

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なんだかんだここまで書いて来ましたが・・・

ドン「戦の終盤はいつもあっけないモノであろー」

では、どうぞ・・・・・―――また加筆しました。



作戦は順調。されどあっけなく

 

 

 

「『終わり』であろー、大隊長ッ!!」

 

ドンは防弾ガラスの向こう側に鎮座している大隊長に向かって叫ぶ。

 

 

「最初はどうなる事かとヒヤヒヤしたが、『あの』状態になったアーカード・・・いや、アキトを止める事はエンバーミングを施した者でも最早敵わぬであろーッ!」

 

一人と一匹の前にあるモニターに映し出されていたのは、圧倒的な捕食者(プレデター)の姿であった。

赤銅色の肌に蛍火の髪と灼眼の眼。手にはまるで大剣のような槍を握りしめ、山吹色のエネルギー波を放っている化物が恐れる怪物が、怪物が恐れる化物がそこにはいた。

 

 

「素晴らしい。怪異の王、吸血鬼を越えた吸血鬼。化物の中の化物。我々の思惑なんて、すんなりと飛び越えてしまう存在。『吸血鬼アーカード』と『暁のアルカード』の二面を持つ存在。『暁 アキト』・・・・・彼は素晴らしい! 正に闇の英雄ッ!」

 

自分が一体どんな化物を目覚めさせたのか、理解しているのか理解していないのかどちらとも取れる言葉を並べながら相も変らぬ嫌な笑みを大隊長は浮かべている。

 

 

「だからこそ・・・英雄の末路はあっけない

 

「なにッ!?」

 

パパッン

 

大隊長はリモコンのスイッチを押すと他の情景がモニターに映し出された。

 

 

『MYAaaU・・・』

 

「あ・・・アレはッ、『アヤツ』はッ!!?」

 

そこには何処かのビルの屋上で舌なめずりをする少女のような少年、少年のような少女の姿をした『猫』が立っている。また、別のモニターには矢印の形をした血の線が『ある場所』に向かって伸びていく映像だった。

 

 

「この『血の矢印』は彼の兵だ。彼の城壁だ。それらを持って、彼はまた城壁を築きはじめた。私の勝ちだ

 

「まさか貴様?!」

 

ドンは大隊長の恐ろしい魂胆を理解した。頭ではなく、心からそれを理解したのだ。

 

 

「彼のあの状態での固有能力『エネルギードレイン』・・・・・周囲に存在する生物から生命エネルギーを奪い、自らの糧とする。これで彼は、彼単体で不死身の身体を得た。だが、『中身』はどうだろうか?」

 

アキトは、その場に存在するだけで周りの生命エネルギーの象徴である『血液』を取り込んでしまう。自分の意志とは関係なく『命』を取り込んだ彼は、『零号解放』以前よりももっと強大な吸血鬼となるであろう。しかし・・・

 

 

「その兵を戻し、再び城壁を築き上げていく最中に『異物』が紛れ込んだらどうなるだろうか? 『どこにでもいて、どこにもいない』という者の血が紛れ込んだら一体どうなるんだろうか?」

 

モニターに映ったその能力を持つ『シュレディンガー准尉』こそが、大隊長が切り札としている者であった。

エネルギードレインで喰らう大量の(いのち)にシュレディンガーの血が紛れ込み同化すれば、アキトは『どこにでもいて、どこにもいない』能力を得られる。だが、それは自らに取り込んだ幾百万の命の中で、自身を認識する事ができないという事だ。

そうなれば、彼は生と死という二つの矛盾する性質が混じり合っている中で己の存在を確立できない虚数の塊となって消滅してしまうのである。

 

 

「私は彼をはなから人だなどと思っていない。いや、むしろ吸血鬼とすら思っていない」

 

大隊長はクツクツと三日月に口を歪めながら語っていく。

 

 

「彼は城であり、彼は運動する領地だ。暴君の意志が率いる死の河という領民達だ。倒すにはどうすればいい。屠るには何をすればいい。私は寝ても覚めてもそればかり考える。それが私の、たった一つの戦争のやり方だからだ。戦争、戦争だ。彼と私との。全身全霊で戦わねばならん。私には何がある? 彼には何がある?」

 

己が掌を見つめて、彼は尚も語っていく。

 

 

「体を変化させ、使い魔を使役させ、力をふるい、心を操り、体を再生させ、他者の血をすすり、己の命の糧とする。それが吸血鬼(かれ)だ。私には何もない。なぜなら私は『人間』だからだ」

 

自らが何の施術も受けていない正真正銘の『人間』である事を吐露しながら、彼は見つめていた手を組む。

 

 

「きっと吸血鬼になれば素晴らしいのだろう。無限永久に生きて、無限永久 戦い続けられれば、それはきっと歓喜なのだろう。だが・・・私はそれはできない。それだけは決して・・・」

 

大隊長は羨んでいたのだろう。人間を越えた存在を、人を超越した存在を。しかし、それでは反するのだろう。己の『意志』に反するのだろう。

 

 

「全ては準備だ。この瞬間の為に何もかもが、この時のためにあったのだ。彼が『高速術式・零号』を開放し、全ての命を放出し、彼が『彼の城にただ一人』となった時にあの騎士は彼の者の心臓に剣を突き立てるだろうか? 私は『否』だと思う」

 

だからこそ彼は『人』として戦うのだろう。化物としてではなく、一人の人間として化物を指揮して彼を倒そうとしている。

 

 

「彼は、彼一人でも恐ろしい吸血鬼だ。たった一人で人間を震え上がらせた男だ。たった一人で化物を震え上がらせた男だ。そして再び彼が血を吸い始めれば、それでもう全て台無しだ。何というズルだ、何というチートだ。生も死も全てペテン。今がまさにその最中」

 

『戦争』という手段を用いて、一つの目的に向かって作戦を進行させている。

 

 

「そんな狂王を殺すにはどうしたらいい? 戦場で十重二十重の陣を踏み破り、無限に近い敵陣を滅ぼして首級を上げるか? 『否』ッ! 彼は再び血を吸うだろう。大飯喰らいの王様だ。その彼の最大の武器が、彼の弱点でもある。」

 

幾百、幾千、幾万の骸の上に成り立つ周到に準備された作戦。その作戦を今まさに決行しようとしている。

 

 

「古今東西、暴君は己の倣岸さ故に毒酒をあおる」

 

大隊長の言葉と共にモニターに映るシュレディンガーは、腰に提げていた近接戦闘用のナイフを取り出し、その根元を頸動脈に押し当てた。

後はこれを引き裂く事で彼女のような彼の首は麩菓子のように断ち切れ、肉塊と成り果てた体から血を吹き出しながら下に流れる血の河に落ち込むだろう。

 

 

王手(チェック・メイト)。お前の負けだアーカード・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・シャシャシャ・・・」

 

「・・・んン?」

 

大隊長が勝ち誇った笑みで最後の作戦執行に合図を出したというのに目の前のドンはほくそ笑んだ。不気味に面白可笑しくいつものような独特の笑い声で、笑った。

 

 

「なにが可笑しいのかね? ドン・ヴァレンティーノ?」

 

これには笑んだままだが、大隊長も眉をひそめる。

 

 

「大隊長・・・確かに貴様の言うようにアキトは、とんでもない化物であろー。アレを倒すのに我等ファミリーがどんな手をも使い尽くして、やっと仕留めた大物であろー。そして、ファミリーに入ってからも幾千、幾万もの命を啜って来たであろー」

 

ドドドドドドドドドドド・・・

 

ドンは自身特有のオーラを身体に纏わせながら語っていく。

 

 

「でもなァ、大隊長。アヤツは幾千、幾万もの命を奪って来たように同じ幾万もの命を救ってきたのであろー」

 

「?」

 

「まだ分らぬのか、大隊長? つまり・・・この戦場にアキトに『借り』がある者がいるというわけであろーッ!!」

 

「まさか・・・ッ!?」

 

大隊長は失念していた。

この戦場には『4年前』、アーカードと同じくレギオンに大打撃を与えた錬金術師がいる事を!

 

 

「すみませんね、戦争狂の大隊指揮官殿。私も一応、彼には借りがある(I owe him)もので」

 

ボッン!

 

「ぎニャッ!?」

 

首に押し付けたナイフを今まさに引こうとした瞬間。冷淡でどこか聞き覚えのある声と共に小さな爆発が起こり、シュレディンガーの持っていたナイフが弾け飛んだ。

 

 

「・・・ククク・・・そうか、君か・・・『君達』か」

 

新しくモニターに映ったのは、季節外れの所々焼け焦げた白いコートに少し焦げた白いハットを身に纏った紅蓮の錬金術師『ゾルフ・J・キンブリー』が立っているではないか。

 

 

「ニャオン!!」

 

「逃がしはしませんよ、迷い猫(ストレイ・キャット)?」

 

ジャラララララッジャギンッ!

 

「ギにゃグ!!?」

 

逃げようとするシュレディンガーにキンブリーが指を鳴らすと銀色に光る手錠と鎖がシュレディンガーの手首にはめられ、身体を拘束する。

 

 

「現行犯だ、猫!」

 

「ハァ・・・ハァ・・・あ、あなたを逮捕します!」

 

その鎖の手綱を操るのはブラックスーツに身を固め、ヒィヒィと息を切らす部下『剣持』を従える警視庁随一の鉄人刑事『荻野 邦治』であった。

 

 

「大隊長・・・貴様が倒そうとしたアヤツが、ここにいたのならこう言ったであろー・・・」

 

ヴァレンティーノファミリーが頭目、ドン・ヴァレンティーノは大隊長に向かってこう言い放った。

 

 

「『相手が勝ち誇った時、そいつは既に敗北している』・・・であろー」

バ―――――――ン

 

 

「・・・・・ククク・・・クハハハッ・・・アーハッハッハッハッハ!!」

 

「あろ?!」

 

渾身の決め姿で言い放つドンに対して、パチパチと大隊長は大手を振って拍手しながらゲラゲラと笑い出した。

いつもとは違う嫌に歪めた三日月の笑みではなく、何でもないような高笑いをする。

 

ドグォオンッ!

 

「ドンッ!!」

 

すると二人の後ろにある扉を赤毛の吸血鬼『シェルス』が自らの武装錬金、バルキリー・スカートでぶち抜いて突入してきた。

 

 

「シェルスッ、無事であったか!」

 

「おおッ、これはこれは峯麗しき吸血鬼のお嬢さん。君がここに来たという事は・・・大尉は逝ってしまったのかね?」

 

突然の来訪者を気にも留めずに彼は喜々とした眼で、されど寂しそうな口調で彼女に語り掛ける。

 

 

「ええ。死にたがりの戦争の犬(ウォー・ドッグ)なら、アンタ達の金庫で炎に包まれているわ」

 

「そうか・・・・・こんな美人と戦えたのだ。羨ましい限りだよ・・・」

 

ドンを庇うシェルスの返答に大隊長は嬉しそうにほほ笑んだ。

 

 

「大隊長。もう、今度こそ終わりであろー! 機会は永久に近く失った。千載一遇の・・・『吸血鬼アーカード』を物理的に打倒するたった2つの好機を失ってしまった。貴様らレギオンの4年は・・・いや、貴様の人生は『今』ッ、『台無し』になった。貴様の負けであろー!!」

 

「ククク・・・」

 

ドンは再度言葉を投げかけるが、相変わらず彼はほほ笑むままである。これにはドンもその笑顔を不気味に思う。まるで「これで良かった」とばかりの笑顔に。

 

 

「何が可笑しいであろー?!」

 

「ククク・・・ああ、そうだとも私の負けだ。私の負けだとも・・・だが、これでいいのだカチリッ

 

ボグォオオッッン!!

 

「「なッ!!?」」

 

大隊長はリモコンの髑髏マークの入ったスイッチを押した。

押すと共に至る所から地響きが大きく唸りを上げ、火柱を噴き出す。

 

 

「大隊長ッ! 貴様一体何をしたであろー?!!」

 

「ドン・ヴァレンティーノ。君は素晴らしい山羊だ」

 

動揺し、怒号にも似た言葉を投げ掛けるドンに構うことなく、大隊長は語り出していった。

 

 

「力だけの『獣』に心を与え、理性ある『化物』へと育て導いた・・・文字通りの迷える子羊を導く山羊だ。()()()()真祖とは全く違う真祖を育て上げたのだよ、ドン・ヴァレンティーノ」

 

「な・・・何を言っているであろー・・・ッ?」

 

まるで何を言っているのか、ドンはさっぱりわからない。目の前でガラス越しに語っている男の言葉に頭が追い付かない。

 

 

「真祖・・・『Dracula』ッ・・・『Alucard』!」

 

「なに! どういう事であるかシェルス?!」

 

「『ドラキュラ』の逆読み」

 

「ッ!」

 

吸血鬼であるシェルスには何となく理解できた。『アーカード』の逆綴り、それが『真祖(ドラキュラ)』を示している事を。

 

 

「そうだ、そうだとも。私はアーカード・・・あのお方を本気で倒そうとした試練なのだ」

 

「試練?」

 

「そう試練だ。彼が『今代の真祖』に相応しいかの試練。それがこの私と戦争だ」

 

彼は二ヤツいた笑みを惜しげもなく披露し、言葉を並べる。

 

 

「先代達・・・例えを上げるならば、『ヴラド』は国の為に真祖に成り得た。『エリザバート』は美しさの為に成ってしまった。ならば、彼は? 『暁 アキト』はどうして真祖に成り果てた? 一体何の為に?」

 

大隊長はアキトを初めて見た時から疑問に感じていた事があった。

 

 

「『4年前』の彼は真祖であって、真祖ではなかった。彼の言葉を借りるなら、『出来損ないの真祖』だった」

 

それでもアキトは強かった。出来損ないでも真祖の力を()()()()()()()化物だ、倒せなかった。いや、敢えて()()()()()()

 

 

「私は彼を見てみたくなった。彼が本物の真祖になった姿を! そして、今わかった! 彼は君達と君の為に真祖へと至ったのだとッ!! 私の二十年は無駄ではなかったのだと!!!」

 

ドゴォオオッッン!!

 

「あろッ!?」

 

「ドン!」

 

爆発は三人のいる指令室まで舞い込み、炎が周りを包む。もうすでに火の手は飛行艦全体を包もうとしている。

 

 

「ドン、もうそろそろここも持たないわ! 早く脱出しないと!」

 

「しかし!」

 

ドンは大隊長の方を見るが、彼は笑顔のまま声を発さずに口を動かした。『早く行け』と。

 

 

「ドン!!」

 

「くッ! わかったであろー!!」

 

バサァアッ

ダン!

 

シェルスはドンを肩に背負うと紅に染まった翼をはためかせ、天井を突き破って行った。

 

 

「行きましたね」

 

飛び立った二人を眺める大隊長の後ろに現れたのは、複眼のような奇妙なメガネをかけたレギオンの科学者『ドクトル』。彼の着ている白衣は所々焦げており、手にはブランデーの入った小瓶と二つのグラスを持っている。

 

 

「いやぁ。ここに来るまでに火の手がすごくて、お気に入りの一張羅が焼けてしまいましたよ」

 

「おお、それは済まなかった。なにぶん気分が高まってしまってな。あんな光景に魅せられたからといって、『自爆スイッチ』を押すのは軽率な行為であったよ」

 

「まったく、お茶目さんなんだから~」

 

彼は大隊長にグラスを渡すとそれにブランデーを自分のとあわせて注いだ。

熟成された芳醇な香りが炎の黒煙と共に立ち込める。

 

 

「ほぉ、アプリコットか・・・」

 

「はい。お好きでございましたでしょう?」

 

「流石はドクトルだ。乾杯」

 

「乾杯」

 

二人はグラスの酒を呷り、深々と息を吐く。炎はあっという間に二人を取り囲んでギィギィと嫌な音を発てている。

 

 

「もうすぐ日の出か・・・その前には焼け落ちるだろうな。どうだドクトル、君だけでも逃げないか? 逃げて、研究を続けると良い」

 

「それは出来ません。大隊長を置いて私だけ逃げおおせるぐらいならば、頭に鉛玉を喰らいましょう」

 

「ククク・・・嬉しい事を言ってくれるな」

 

「それに私ではあの研究は完成しません」

 

「ふむ。それは何故だ? 君は天才だろうに」

 

「『天才』だからです」

 

「ん、どういう事だ?」

 

大隊長はドクトルの言葉が引っかかり、グラスを傾けるのを止めた。

 

 

「かの有名な偉人がこう残しています。『馬鹿と天才の違い。それは前者に限度はないが、後者には限度がある』。ですから私は馬鹿にはなれません」

 

「ハッハッハッ! なら、もう()()()のか?」

 

「ええ、送りました。『アレ』と共に送りました。きっと・・・きっと誰かが私の研究を引き継ぎ、『奇跡のような化学を科学のような奇跡』を実現してくれるでしょう」

 

「そうか、そうか! ハッハッハッ!」

 

ご機嫌な彼らはグラスの中身を空にするとブランデーをまた注ぐ。

 

 

「ドクトル・・・『今回』はどうだった?」

 

「良かったです。『良い戦争』でした。大隊長は?」

 

「勿論・・・『良い戦争』だった・・・とても良い、戦争だった・・・」

 

ドボォグォオオオオオッッン!!

 

大隊長の呟きと共に指令室の天井が落下し、大規模な爆発が巻き起こる。

紅蓮の炎が舞い上がり、辺りを焼き尽くすと痕に残ったブランデーの小瓶がピシりと音を立てて砕けた。

 

 

 

―――――――

 

 

ドグォオオオッオオンッ!!

 

「ああ・・・ッ!」

 

鮮血に染まる戦場に白い白鯨の断末魔が響き渡る。

吸血鬼の大隊(ヴァンパイア・バタリオン)の大型戦闘飛行母艦デクス・ウクス・マキーネ号が轟音を上げながら、死に体と成り果てた吸血鬼兵達の目の前でその生涯を終えたのだ。

 

 

「大隊長・・・ッ・・・」

 

その艦が堕ちるという事はどういう事なのかをその場にいた憲兵少尉並びに自衛隊の面々と戦っていた吸血鬼兵達はすぐさま理解した。

 

 

「もう終わりだ・・・人に仇名す化物よ!」

 

「ハァ・・・ハァ・・・ッ!」

 

「フゥ・・・フゥ・・・!」

 

燃える艦を見つめる憲兵少尉の前にいる剣士、藤堂鏡志朗が叫ぶ。彼の身体は返り血と硝煙の香りに包まれ、憲兵少尉との戦闘で左腕を折られている。そんな藤堂の両脇には息も絶え絶えながらも得物を構える眞田兄弟もいた。

 

 

「貴様らの城は落ちた、あのイカれた男も冥土へ至ったろう。貴様らの負けだ! 貴様らの夢は遂に潰えたッ!」

 

「「ウオヲオオオッ!!」」

 

ザグッッ!

 

この隙を見逃すまいと化物と成り果てた憲兵少尉の横腹を眞田兄弟は得物で貫く。確実に二人の刃は体内の内臓を抉り、心臓をを串刺しにした。

 

 

「・・・ククク・・・ハハ・・・ハッハッハッ!」

 

「「ッ!?」」

 

しかしそれでも憲兵少尉は生きていた。

彼は肉を貫かれた事で表情を苦悶に歪める事も、断末魔を上げる事もない。それどころか、何だか楽しそうに朗らかな笑い声を上げる。

 

 

「・・・酷い御人だ。私よりも先にヴァルハラへ逝くとは・・・酷い隊長様だ・・・」

 

「マズイ! 離れろッ!!」

 

バキィイッ!

 

「「ゲふぁッ!!?」」

 

藤堂の声も虚しく、憲兵少尉は二人の腹に拳をめり込ませる。至近距離から放たれた吸血鬼の剛腕は少尉が弱っているとはいえ、二人の肋骨をへし折って吹き飛ばす位には十分であった。

 

 

「眞田!!」

 

「余所見とは頂けぬなァア!!」

 

ガキィイッン!

 

藤堂は少尉からの攻撃を自らの武装錬金で受け止める。金属が激しく当たる事で火打ち石のように火花が出た。

 

 

「極東の戦士よ・・・死に体の私に貴様は上等であった。感謝するぞ!!」

 

「ならば、その情念を抱いたまま・・・討ち果てろッ!!」カチッ

 

ガシュウゥゥウッ!!

 

藤堂の武装錬金『サムライソードX』は今までの戦闘で蓄積した疲労をエネルギーに変換して放出できる。

最大出力で放出されるエネルギーは少尉の身体を包み込み、細胞核の一片に至るまでをも焼き尽くしていく。

 

 

「クハハハ! ひゃハハハハハッ!!」

 

そのエネルギー波に飲まれる少尉は、姿形がなくなるまで歓声のような笑い声を戦場にどこまでも広く響き渡らせた。

 

 

「笑って逝くか・・・貴様ら化物は・・・どこまでも・・・ッ!」

 

命果てていく少尉の姿に藤堂はどこか哀愁を感じた。

 

もうすぐ夜が明ける。

東の最果てが、暁に染まっていっていた。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 







次回:『決着を着けようぜ。この戦いの決着をよ―――ッ!』

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