ドン「『狼』はワシの不倶戴天の敵であろー!」
だが、この『狼』はただの狼ではない。
では、どうぞ・・・・・
コツ・・・コツ・・・コツ・・・
藤堂達が石仮面の力によって、出来損ないではない吸血鬼へと変貌した憲兵少尉としのぎを削っている頃。飛行戦艦『デクス・ウクス・マキーネ号』内部へと進んで行った二足歩行山羊『ドン・ヴァレンティーノ』と彼を背中に担ぎなおした吸血鬼『シェルス・ヴィクトリア』は、この戦争狂の一団を統率する長の元へと殺気立ったオーラを携えて進んで行っていた。
タッタッタッタッタッ・・・
『『『ウヲオオオオオオオ!!』』』
二人が指令室へと通じている廊下を進んでいると奥から大隊長の護衛として残ったであろう吸血鬼兵小隊が、アサルトライフルを構えながら走って来る。
ズガガガガガガガガガガガガッ!
彼等は引き金をこれでもかと引き、機械仕掛けの撃鉄が薬莢の雷管を撃ち叩く。撃ち叩かれた雷管は発火。そのまま薬莢内のガンパウダーに火を着けて、先頭に込まれた鉛玉を銃口から吐き出す。吐き出す嗚咽音は、まるで電動ノコギリのようにけたたましく廊下に響いた。
「・・・」
ドンを背中に負ったシェルスは、自らに迫りくる弾丸をものともせずに進む。
ギャギャッギィインッ!!
そして、自分諸共ドンを貫くであろう弾丸を身体に受ける一歩手前で武装錬金『バルキリー・スカート』の刃で斬り弾いていく。
「ドン、振り落とされないようにね?」
「了解であろー!」
ダンッ
シェルスは弾丸を斬り弾いたと同時に床を蹴り踏んだ。
吸血鬼保有の脚力で踏まれた床は瞬く間に陥没し、その反動でシェルスは時速100kmなんて目じゃない速度のまま前へと飛び出す。
「WANABEEE!」
「ッッ!?」
ドグシャァアッ!
時速100km以上のスピードに乗った彼女から繰り出されたパンチは吸血鬼兵の頭をスイカのように割る事などいとも容易い。
ザシャァアン!
『『『ぐギィヤァアアアアアアッ!!?』』』
拳を振り抜いた体勢で体を回転させる事によって、バルキリー・スカートの切先が吸血鬼兵共の身体を捌く。
「GURYYYYYY!!」
「むッ?!」
攻撃によって出来た隙に付け入ろうと先程の斬撃で生き残った吸血鬼兵が、後ろからシェルスの頭目掛けて戦斧を振り上げる。
「させんであろーッ!」チャキッ
ドオゥウッン!
そうはさせまいと彼女の背に張り付いていたドン愛用のフリントロック式単筒火縄銃が火を噴き出す。黒色火薬の爆発によって、33口径ソフトポイント弾が銃口から飛び出した。
「ぎゃべプッ!?」
現代の銃に比べて威力も性能も劣ると認識されがちである火縄銃だが、弾丸の鉛部分を硬い金属で覆っていない事と現代の小銃や散弾銃と比べると口径が大きい為に弾丸自体がかなり重い。しかも1mと離れていない至近距離での発砲ともあってか、頭蓋を五万ピースのパズルの一片のように粉々に砕く事など簡単であった。
「・・・・・」
「長かった・・・長かったぞ・・・!」
バルキリー・スカートの斬撃で片足を斬り落とした吸血鬼兵に止めを刺そうとシェルスは近づいて行く。するとその吸血鬼兵は口に巻いていたマスクをおろし、三日月に歪めた口を晒した。
「お前が俺の『死』か? 『俺達』の『死』か?!!」
バッシュッ!
彼女は少しの躊躇も微塵もなく、吸血鬼兵の頭をバルキリー・スカートの鎌で胴体と分離する。勢い良く振り払われた刃は、その吸血鬼兵の首の他に既に息絶えた吸血鬼兵の骸までもを斬り刻んだ。
斬られた衝撃で肉片と血が廊下をベッタリと濡らし、後に残ったのは
「・・・・・皆笑って死んでいくであろー・・・そうだ、ヤツらは死ぬためにやって来たのだからな」
「そんなに死にたきゃ・・・ッ!
ドンの言葉にシェルスは我慢ならなくなった怒号を上げた。あまりにも感情的な為につい出てしまった彼女の流暢な母国語が艦内に響き渡る。
ピピッ・・・ガガッ・・・
『そう言う訳にはいかんのだよ、
「「ッ!?」」
シェルスの怒号に答える男の言葉が艦内放送で聞こえて来た。
『ただ死ぬのは真っ平御免なんだ。それ程までに度し難いのだ。我々は、世界中の全ての人間が我々を必要となどしていない。世界中の全ての人間が我々を忘れ去ろうとしている・・・』
男は悲しそうに、哀しそうに唄う。
『それでも我々は、我々のために必要なのだ。ただただ、死ぬのなんかいやだ。それだけじゃいやだ!』
そして、潤滑油を注したタービンのように勢い勝手に楽しそうに、嬉しそうに語り出す。
『私達が死ぬにはもっと何かが必要なのだ。もっと・・・もっと!!とそうやってここまでやって来た、来てしまった!! もっと何かをッ! まだあるはずだ! まだどこかに戦える場所が!! まだどこかに戦える敵が!! 世界は広く!! 驚異と脅威に満ち!! 闘争も鉄火も肥えて溢れ!! きっとこの世界には、我々を養うのに足るだけの戦場が確実に存在するに違いないと!!』
カツンッ・・・
「はッ!?」
「あやつは・・・ッ!!」
捲し立てられた大隊長の言葉に合わせるように一人の兵士・・・いや、熱帯雨林用のコートに身を包み、古びた軍帽を深く被り、真紅に輝く眼を白髪から覗かせる一匹の『狼』が二人の前に現れた。
『我々が死ぬには何かが・・・もっと何かが必要なのだ。でなければ、我々は無限に長く歩き続けなければならないッ! 死ぬためだけに!! だから君達が愛おしい、君達はそれに価する!! 欧州裏組織筆頭格『ヴァレンティーノファミリー』・・・・・君達は私達が死ぬ甲斐のある存在であり、君達は私達が殺す甲斐のある存在なのだから!!』
『吸血鬼』と並び称される最上格の
「ドン、先に向かって!」
「シェルス?!」
シェルスは直感した。
眼前に立ち塞がるこの狼は、自分の全力を持って相手にしなくてはならない極上の怪物だと彼女は判断したのだ。
それに・・・
「早く・・・あの男の元へ! あの男に・・・あんな戦争狂いにこれ以上ッ、もう一言だって喋らせちゃあいけない!!」
あの戦争狂いの人の皮を被った化物にこれ以上の我慢が出来なかった。
シュタッ
「・・・うむ・・・死ぬなよ? 許さんぞ、絶対に許さんぞ・・・!」
ドンはそんなシェルスの意図を汲み取ったのか、その背中から降りるとクスリと笑いながらドンは愛銃に新たな弾を装填した。
「・・・・・」スッ・・・
「「?」」
すると二人の前に立っていた人狼こと『大尉』が無言で通路の壁に貼ってあるプレートを指差す。プレートには『指令室行』の文字と矢印が描かれていた。
「フン・・・律儀な狼であろー・・・」
コツ・・・コツ・・・コツ・・・
指令室が何処にあるかを教えたという事は、大尉はドンと事を構える気はないという意思表示だ。
「ワシの不俱戴天の敵である狼にこれを言うのは癪であるが・・・まぁ、良いであろー」
「?」
ドンはそのまま歩みを進めて行くと指令室へ繋がる通路の一歩手前で止まり、大尉に語り掛ける。
「ご苦労であろー」
コツ・・・コツ・・・コツ・・・
それだけ言うとドンは指令室へと繋がる薄暗い通路を一直線に進んで行った。
「・・・・・」
「・・・・・」
あとに残されたのはお互いを点と点が結んだ線のように睨み合う二体の
外からは藤堂達と出来損ないではなくなった少尉との戦闘であろう銃撃音と爆発音が聞こえている。しばらくするとその戦闘で出たであろう炎が飛行船に引火し、二人のいる通路まで燃え広がって来た。それでも二人は睨み合ったままに動こうとはしない。
ガチャッン
ふと・・・シェルスが足元に転んだ吸血鬼兵共が使ったであろう二丁の機関銃を蹴り上げ、掴みあげた。
機関銃にはまだ弾が残っており、セーフティーも外されている。
「・・・」
「・・・」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド・・・
だが、これでも二人は動かない。西部劇のガンマンの決闘のように二人は、お互いを殺す勢いで睨み合う。拳と拳、牙と牙で戦うだけが闘争ではないのだ。
自らの覇気で相手の覇気と殺し合う。今、正に二人は己の覇気をぶつけ合い、殺し合っている。
・・・されど、この戦いは長くは続きはしなかった。
ジャキィイッッン!!
炎が通路を、二人を完全に囲んでしまったその時・・・!
シェルスは機関銃を大尉は愛用のモーゼルを構えて、引き金に指をかけた。
←続く
アキト「俺、忘れられてない?」
大丈夫、これからだよ。
ドン「次回もシリアスであろー」