ドン「彼の者の台無しの歌であろー」
いつ見てもあの場面は滾る。
それでは、どうぞ・・・・・
黒煙黒雲が覆う空の下、両軍は睨み合っていた。
一方は黒衣の戦装束を纏った化物の軍団。
一方は戦火に怒れる国の防人達。
両軍一歩も引かず、幅10mともない場所で眼光鋭く互いを射殺す視線を送り合っている。
ザンッッッ!
『『『ッ!!?』』』
そんな両軍の間に調度上空を通った飛行戦艦から何者かが着陸した。
硝煙臭い土煙の中から現れた『それ』は亜熱帯用の軍コートを羽織り、古臭い軍帽を深く被っていた。
「ゴクリ・・・!」
「た・・・『大尉』・・・ッ!!」
黒衣を纏った化物達は戦慄した。
目の前に現れたそれは、自分達では到底敵わないと理解できる程のオーラを纏った『本物』であったからだ。
その本物が自分達の『味方』である事に化物達はニコやかな表情を浮かべる。
「あ・・・あれは・・・!」
「なんだ・・・なんだアイツは!?」
防人達は怯えた。
自分達を睨みつける白髪赤眼で寡黙な敵に、彼等は無意識に体を強張らせた。
それが自分達の『敵』である事に防人達は歯をガタつかせる。
しかし・・・噂になっている当の本人は、そんな彼等の視線など眼中にもなかった。
ただ自分の見つめる視線の先から来る『彼』に、夢中であったからだ。
シャァアッン!
『『『ッ!!?』』』
またしても睨み合う両軍の間に何者かが現れ出でる。
軽快なステップで防人達から駆け抜けて飛び出た『それ』は黒のパンツにワイシャツを着こなし、その上に目が醒める程の紅いジャケットを羽織っていた。
「だ・・・誰?」
「なんだ・・・ありゃ?」
防人達は戸惑った。
突如として自分達の前衛から現れた黒髪紅眼で、笑みを浮かべている人物に大半の者が頭に疑問符を浮かべる。
「あ、あれは・・・!」
「出やがった・・・遂に出やがったッ!!」
だが、化物達は眼前のそれに愕然とした。
『4年前』、自分達の計画を
コツ・・・コツ・・・コツ・・・
彼等は両軍の視線など気にせずに歩み寄っていく。
白髪の男は無表情のまま、黒髪の男は笑顔のままに次第に距離を詰めていく。
コツ・・・コツ・・・コツン!
そうして二人の距離幅は30cmまでに詰め寄った。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド・・・
「・・・・・」
「・・・・・」
両者、無言のまま。目線を逸らさずに互いを見つめる。
愛おしそうに、見定めるように、狩り殺す様に、お互いを見つめた。
「我らは漸く相対した・・・」
感慨深く地上の情景を飛行戦艦の屋上ブリッジから見ながら大隊長は呟く。
「反インフィニット・ストラトス組織『レギオン』所属、吸血鬼化装甲擲弾兵戦闘団『
彼は口を三日月に歪め、クツクツと笑いながらこの場に集結した兵員戦力を述べていく。
「『皇家特設武装親衛隊』+『東部方面陸上自衛隊』。現総兵力2875名・・・そして、『ヴァレンティーノファミリー』。残存兵力2名と1匹・・・」
戦場に推参した個々と個々を大隊長は賛美する。
「斯くして役者は全員演壇へと登り、暁の
これから始まるであろう侵略者と防人達との闘いを・・・・・いや・・・これから始まるであろう一方的な『虐殺』を今か今かと彼は待ちわびていた。
「・・・・・」
「・・・・・」
地上では未だ膠着状態が続いていた。
防人達を背にする『本物』と化物達を背にする『本物』は、未だに目線をぶつけている。
「・・・
ここで薄ら笑みを浮かべていた黒髪が突然眼を大きく見開き、自らの『主』の名を呼んで命令を請う。響く声は後ろに佇む防人達の間を抜け、彼等の後ろに建っているビルの屋上へと届く。
「我が息子・・・吸血鬼アーカードよ! 命令するであろー・・・」
その屋上には『山羊』がいた。赤い紅い髪を持った『
「我らに刃向かう化物には力を以って、朱に染めよ! 我らを襲う怪物には技を以って、緋に染めよ!」
山羊は人語を喋り、
「一木一草尽く我らの敵を赤色に染め上げよ!
我らが愛する国に攻め込んで来た化物を殲滅する為の命令を下す。
「総滅せよ! 彼らを生かしてこの島から帰すな!!!」
「了解・・・認識した・・・・・我が首領・・・」
下された命令に満足したアキトはクスリと笑う。その笑顔に呼応する様に戦場に一迅の風が吹いた。
「『拘束術式零号』解放ッ! 帰還を果たせ! 幾千幾万となって帰還を果たせ!!
―――――――謳うであろー!!!」
「・・・スゥウ―――――――・・・・・」
アキトは大きく息を吸い込んだ。冷血なる彼の瞳に眼前の化物達が映りこむ。
「私はヘルメスの鳥」
『『『ッ!!?』』』
短く謳った彼にその場にいた全ての者が背筋を凍らせた。視覚で、聴覚で、嗅覚で、触覚で感じた。
「私は自らの・・・羽を喰らい」
『『『ウオオオオオオオオオオッ!!!』』』
ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!
化物達は目の前の男に『恐怖』をその身に感じ、こう思った。
『殺さなくてはならない。言葉が、何かが出てきてしまう前に、あの男を殺さなくては』と。
化物の軍団はアキトに殺到する。
大尉は岩をも砕く強烈な一撃を頭に入れ、吸血鬼兵達は一斉射撃を行う。
「た・・・退避! 退避ィイッ!!」
『『『うわぁああああああああああああッ!!』』』
人間達は眼前の男に『狂気』をその身に感じ、こう思った。
『逃げなくてはならない。言葉が、何かが出てきてしまう前に、あの男から逃げなくては』と。
「ここにいる全てが感じた事だ。『恐ろしい事になる』と。この怪物を倒さなければ、逃げなければ、恐ろしい事になると!!」
「言ってる場合ですか藤堂さんッ! 退避しますよ!!」
人間達が退避する中、吸血鬼兵達は恐怖の根本へ攻撃の手を緩める事はなかった。
「飼い・・・慣らされる」
銃撃が貫き、剣戟が突き刺し、爆撃が焼く。
されど、それは意味が無かった。燃え盛る業火を前に、水滴を掛けるような物でしか無かった。
「来るぞ・・・・・『川』が来る・・・『死の川』が!」
大隊長は戦々恐々としながら、嬉々と地上を眺める。
「死人が舞い・・・『
楽しそうに笑う彼に吊られて、周りにいたドクトルやシュレディンガーらも笑う。
「撃ち方止めぇ! 撃ち方止めぇッ!!」
漸く吸血鬼兵の攻撃が止まる頃には、謳っていたアキトの身体は粉微塵のそれとなっていた。
血が辺りを濡らし、肉が散り散りに飛び散っている。
「や・・・やった!」
吸血鬼兵は安堵を漏らす。
だが、彼等は知らなかった。その漏らした安堵が盛大なフラグを建てた事に。
ビシュゥウッン!
「へ?」
ズルリと一人の吸血鬼兵の頭が落ちる。
ザシュッキィッ!
「ひ、ヒギャッ!?」
その隣にいた吸血鬼兵は胴体が半分になった。
「な、なんだぁあ!!?」
「うギャァアッ!?」
『血』で造形された剣が、槍が、斧が、獣が彼等を襲ったのだ。このモノ達はどこから現れたのか? それは極めて簡単な事。
「WRYyy・・・」
人の形さえもなくなったアキトの血肉から現れたのだ。
飛び散った血肉から容量を大きく超えた血が泉の様に湧き出てくる。その『意志』を持った血は濁流の様に流れ、津波の様に吸血鬼兵共に襲い掛かった。
←続く
人間をやめちまった者の歌が戦場に響いた。