今回は短いです。
MSは出てきません。
アキト「それでは、どうぞ・・・・・」
「や、やったッ!」
『『『オォォ―――ッ!!』』』
勝鬨の雄叫びを上げたアキトの後ろで、一部始終を見ていた構成員達はガッツポーズをし、彼の勝利に歓喜する。
「・・・いや、まだよ」
「え・・・?」
「ま、まだって・・・!」
歓喜の声が上がる中、ゾーリンの始末を終えたアキトを見ながらシェルスが静かに呟く。彼女の言葉に構成員達は動揺した。
「そうだ・・・まだであろー。コヤツらは斥候、まだ本隊はあの街にいるであろー・・・」
「そ、そんな・・・!」
「そうだ・・・まだいるんだ。あの街にヤツラが!」
そう。ヴァレンティーノ本部を襲撃したゾーリン・ブリッツ小隊は、本隊の一部でしかない。まだ本隊にはこの倍以上の戦力が存在し、今も街を蹂躙している。大本を叩かない限り、幾らでも襲い掛かってくるのだ。
「そうだ・・・ドンの言うように根本は、あの街にいやがる」
「若ッ!」
「若旦那!!」
討ち果てた仲間の血で敵を殴殺し、傷を治したアキトがゆっくりと野戦病院と化した研究室に入る。
「行くのですね・・・?」
「行くしかあるめぇよ、戦うしかあるまいよ。でなけりゃ、繰り返しだ」
「アキト・・・」
「ヤツらを叩いて潰す、根本まで斬り潰す・・・!」
鋭い眼が光っていた。紅い眼がギラついていた。仲間を、家族を傷つけられた怒りと闘争の快楽が彼の心を支配していた。
「行ってくる。構わないよな、ドン?」
「・・・・・うむ。ならば、ワシも連れていくであろー」
『『『なッ!?』』』
ドンの言葉に構成員達は唖然となった。
「な、なにをおっしゃっているのですか首領!!?」
「今、ヴァレンティーノファミリーは未曾有の大打撃を受けました! ここで首領の身になにかあったら!」
「それに街の状況をご覧になったでしょう?! 今、街はここよりも酷い状況で、本部を襲った化物も倍以上いるんですよ!!」
残存戦力の殆どを失ったヴァレンティーノ一味。そんな状況にも関わらず、この山羊は自ら戦場にヴァレンティーノファミリー最大戦力と共に乗り込むと言ったのだ。
街には化物が我が物顔で跋扈し、火の手は凄まじい勢いで拡大している。とてもじゃないが、ただの二足歩行で人語を喋る山羊には荷は重すぎる。
「それでも行くのであろー! ワシ自ら、仲間の仇をとるであろーッ!!」
「しかし!!」
「・・・首領・・・・・」
ドンと構成員達が言い争う中、床に寝かされているロレンツォが怪我を負った体を起こし、ドンに目線を向ける。
「ロレンツォ・・・」
「ロレンツォ隊長からも何か言ってください!」
「このままでは首領がッ!!」
「皆さん・・・少し、黙っていなさい」
『『『え・・・ッ!?』』』
酷い怪我を負いながらもロレンツォは独特のオーラを纏う。そのオーラに当てられ、騒々しかった構成員達の口は塞がれる。
「本当に・・・行くのですか、首領?」
「うむ。お主もワシを止めるのか・・・ロレンツォ?」
二人から出される覇気と覇気。二つの覇気が互いにぶつかり、研究室という空間に重々しい空気が降り積もった。
ドンとロレンツォの間に言葉はなかった。互いの眼を見つめ合い、自らの思いをぶつける。
「フフ・・・首領、くれぐれもお気をつけて」
『『『なッ!?』』』
沈黙の後、行動を起こしたのはロレンツォであった。彼は袋を被った状態でもわかるほくそ笑みを浮かべたのだ。
「ロレンツォ隊長、何を言っているのです?!」
「いいのです。いいですか? 我々ヴァレンティーノファミリーの頭目は、このドン・ヴァレンティーノです。その頭目の決めた事に私は逆らいはしません」
『『『ッ・・・・・』』』
「ロレンツォ・・・」
ロレンツォは長年に渡り仕えて来た一味の頭目の言葉を了承した。構成員達も一味のナンバー2であるロレンツォならばと口を塞いだ。
「ですが、首領・・・これだけは守ってください」
「あろ?」
「必ず・・・必ず生きて帰ってきてください!」ギュッ
麻袋を被っている為に表情はわからないが、ロレンツォの心情をドンは感じ取った。握られた手から感じられる、大切な人を失ってしまうかもしれないという心とその人が決めた事柄を尊重しなければならない心との葛藤を。
「大丈夫よ、ロレ」
ロレンツォの感情を感じ取ったのはドンだけではない。シェルスもその気持ちを汲み取った。
「ドンには私達が付いている。だからロレ・・・心配しないで」
「・・・わかりました・・・なら頼みましたよ・・・シェルス、アキト!」
「あぁ・・・任せてくれよ、ロレさん」
「ならば、行くであろー! ヤツらを叩き潰す為に・・・!」
「その前に・・・ノア、これを頼む」
「え・・・こ、これは!」
アキトがノアに渡したのは銀色の手甲である。この手甲は彼の専用IS『朧』の待機状態なのだ。
「アキト、アンタッ!」
「向こうで、えらく無茶な使い方しちまってな。エネルギーが切れちまったんだよ」
「エネルギーが切れたって・・・アンタ、どんな使い方したんや?!!」
朧のエネルギーは空っぽになっていた。
ニューヨークでの戦闘の後、AIの補助バッテリーを含めたすべての動力が0となったのだ。その為、朧はシャットダウン状態となった。
「でもアキト、朧がない状態でどうやって戦うつもりや?! 武装は全部、朧に収納してあるんやでッ!」
ノアの言う通り、アキトは丸腰である。ニューヨークでの戦いに使った刀や輻射波動機構は朧に組み込まれている為、朧が再起不能となった今、全ての武装は使えないのだ。
「構わんさ」
「な、なに言って!・・・・・あぁ、そうか。そうやったな」
それでも彼は大丈夫と言い放つ。ノアは何を言っているのだと反論しようとしたが、ある事を彼女は思い出した。
「俺の・・・俺達の武器はここにある」
アキトが親指で刺したのは右胸であった。その場所に何があるのかノアのみならず、ドンもロレンツォもガブリエラも、彼に関わる全ての者が知っていた。
『暁 アキト』が、何故にあのマッドジャーナリストから異端の吸血鬼と呼ばれるかの所以がそこにはあった。
「それじゃあ行くか。しっかり捕まってろよ、ドン」
「わかったであろー!」
「ガブリエラ、皆を頼むわ」
「任せておけ」
「じゃあ・・・行ってきます!」
タッタッタッタッタッタッタッ バサァアッ!
アキトとシェルスは通路を駆けて行くと破壊された窓から飛び出す。
そして、背中から翼竜の様な赤黒い翼を生やして飛び立つ。遠くから見るとそれは、紅い流星の如くである。
「頼みましたよ・・・」
そんな紅い流星にヴァレンティーノ一味は敬礼をする。夜が白み始めた、暁の空が待つ方向に向かって、全員が敬礼をした。
←続く
紅い流星と言っても、赤い彗星とは関係ありません。