人外になった者   作:rainバレルーk

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ドン「今回もワシが奮闘するであろー」

山羊みたいなドンはこんな感じですが、内容はシリアス気味です。

それでは、どうぞ・・・・・



彼らは戦い、彼らは来た

 

 

 

吸血鬼兵の襲撃によって惨劇の館と化したヴァレンティーノファミリー本部。

銃撃と剣戟、爆撃が繰り広げられる中、何処からかムシャリムシャリと何かを食べる音が聞こえてきた。

 

 

「曹長、そっちはどうですか~?」

 

「おお、ちょっと待てよ」

 

音と一緒に気の抜けた声も聞こえてくる。

その音の正体は、休憩がてらに殺した構成員の血肉を喰らう吸血鬼兵であった。

 

 

「この酸味は・・・お! A型のRHマイナスだ。どうだ今度は合ってるだろう?」

 

「おお、スゴイ。大正解です、大正解。よくわかりますね」

 

吸血鬼兵達は効き酒ならぬ『効き血』をしていた。

殺した構成員の血を飲み、その血が何型かを当てるゲームをしている。辺りにはバラバラにされた構成員の骸と効き血の正解に使われたドッグタグがゴロゴロ転がっている。

 

 

()()が違うよ、丸みが」

 

「そうですか、すごいな~」

 

()()()が違うよ。それになA型の血はこう、なんというか―――」

 

それから先の自称グルメ吸血鬼兵の言葉は紡がれはしなかった。

何故ならば・・・

 

グシャァアン

 

「ッ!?」

 

その頭を発射された砲弾によって、吹き飛ばされたからである。

 

ズダダダダダダダダダッ

 

「ギゃぶッ!?」

 

「ぐギャァー!!」

 

休憩していた全ての吸血鬼兵は立ち上がろうとするが、戦闘態勢を取らせまいと射撃を続ける。

 

 

「ウオオオォォオオッッ!!」

 

砲弾をぶっ放したのはアシストスーツに身を包み、2丁のハルコンネンを自由自在に操るガブリエラであった。

彼女は撃ちまくる。これでもかと、吸血鬼兵が肉片になるまで撃ちまくる。

 

タタタタタタタタタタタッ

 

「ん?!」

 

ガブリエラの銃撃を聞きつけ、仲間の吸血鬼兵が駆けつけて来た。

 

 

「この!」

 

「ガブリエラ様、我らにお任せください! 皆!」

 

『『『応ッ!!』』』

 

ズダダダダダダダッ

 

彼女の後ろから襲い来る吸血鬼兵の間に入ったのは、ガブリエラの部下であった。

彼らはガブリエラを守ろうと扇型の防御陣形をとると一斉射を行う。ズダダダと薬莢内で弾けた弾丸は、銃口から真っすぐに吸血鬼兵の身体を貫いた。

 

ガシャーンッ

 

「ヤァ―――!」

 

「わかってんだよ、糞ッタレ!!」ズダン!

 

「ガぁべらッ!!?」

 

窓を蹴破ってきた吸血鬼兵の頭を粉砕するとそのまま銃口を床へと向け、ズドンと撃ち抜く。

 

 

「ぐぎゃ!?」

 

床に撃ちつけられた弾丸は床を突き抜け、下の階でロケット弾を構えた吸血鬼兵の頭を破裂させた。

 

 

「ハァ・・・ハァ・・・」

 

「お見事です、ガブリエラ様!」

 

部下からの賞賛に返さず、ガブリエラは息を切らして辺りを見回した。

辺りは先も言ったようにヴァレンティーノファミリー所属構成員の屍の山が築かれている。そんな場景に彼女はどう思ったのか、敬礼をした。

 

 

「お前達・・・任務ご苦労・・・!」

 

「ガブリエラ様・・・!」

 

涙は彼女の瞳からは出なかったが、仲間を思いやる眼差しは部下達からは見て取れた。

 

 

「・・・行くぞ、お前達。先に逝った部下達の為にもやってやろう。アイツら全員ここから一歩も出してはやらない。全員、やっつけてやる!」

 

『『『・・・応ッ!』』』

 

静かにしかして、確実に闘志を燃やして彼らは駆ける。圧倒的不利なこの状況で、未だ勝利を信じて駆けて行く。

 

 

 

―――――――

 

 

 

オフェンスが屋敷内の吸血鬼兵を駆逐している頃。バリケードが敷かれた研究室前では吸血鬼兵共が集結していた。

部屋の前に人気がないのを確認すると一人の吸血鬼兵が腰にぶら下げていた手榴弾を扉の前に放り投げた。

 

ドゴォオッン!

 

『『『グわあぁあッ!!?』』』

 

手榴弾の爆発によって、まだ完全な状態ではないバリケードを一部破壊した。

 

 

「糞ッ、やられたであろー! ノア、負傷者の手当てを頼むであろー!」

 

「任せといてぇな!」

 

爆発の衝撃で飛び散った木片で怪我をした者をすぐさま奥へと退避させる。

 

 

「そっちの椅子を持ってこい! 早くッ!」

 

「塞げ、早く! バリケードだ、早くしろ!!」

 

「ハザァァァド!」

 

怪我が軽傷、または無傷な者は後ろに控えていたカイゴハザードと一緒にバリケードの修繕に取り掛かった。

 

 

 

「畜生ッ、畜生!」

 

構成員の一人が爆発で空いたバリケードの穴からカラシニコフを撃ちだした。

 

 

「馬鹿ッ! 身体を出さないでください!!」

 

ロレンツォが叫び、構成員の体を引っ張ろうとするが、時すでに遅し。

 

ズダダダンッ!

 

「ガはッ!?」

 

待ってましたとばかりに吸血鬼兵が構成員の頭を撃ち抜いた。

 

 

「おのれぇ・・・!」ヅダダダッ ダダダッ!

 

ロレンツォは撃たれた構成員の骸をどかすと頭を下げた状態でブラックライフルを撃ち、応戦する。

 

 

「もう・・・・・もうダメだぁ・・・!」

 

「もう嫌だもう嫌だ・・・もう嫌だッ!」

 

「死にたくない!!」

 

その時、地面に伏せていた構成員が悲痛な胸の内を叫んだ。またしても嫌なムードが場に流れていく。

 

 

「阿保言うな、ボケカス共!」

 

「ノア嬢・・・」

 

イヤなムードが漂う中、ノアが声を上げた。

 

 

「ウチらは勝つんや、勝てねばならんのや! 泣き言なんて聞き飽きたわ! それにウチだって死にとおないわ、ボケェッ! 生きるんや。勝って、必ず生きるんや!!」

 

「ノアの言う通りであろー! ゴチャゴチャ言わんと残弾を再分配するであろー!」

 

「クッソぉお! 絶対に生き残ってやるぞお!!」

 

「ノア嬢の言う通りだ。生きて勝つ、勝ってやるぞぉお!!」

 

下がったムードを持ち直し、彼らは銃に装填された銃弾を改めて分配する。

 

 

「首領にロレンツォさん、コイツを。コイツで看板です、硫化銀弾が尽きました」

 

「っち。何万発もあったのに・・・これで最後か」

 

「もっと作るか、警察に提供しなければ良かったですね、首領?」

 

「言うとる場合かいな。無駄口たてんと仕事や仕事!」

 

生き残った者すべてに弾丸がいきわたると防御陣形を整え、応戦を開始した。

 

ズダダンッ ダダンッ

 

響き渡る発砲音、起ち込める火薬のニオイ、飛び交う銃弾、そして聞こえてくるは苦しい呻き声。

 

 

「首領、思い出しますね」

 

「なんだロレンツォ?」

 

突然、ロレンツォがドンに語り掛けて来る。

 

 

「シチリアの空港、第2ターミナル。そこで敵対マフィアの襲撃にあった時もこんな感じでした」

 

「ああ、そんな事もあったであろー」

 

「あの時は偶然の爆発で逃げれましたが・・・今回は逃げ場がありません。ホントどうしましょうか?」

 

疑問文で語り掛けられた彼の言葉にドンはニヤリと笑って答えた。

 

 

「シャシャシャ、お主ほどの猛者でも苦しいか、ロレンツォ?」

 

「いいえ、ちっとも。首領が御側にいますし、なによりも・・・・・ね?」

 

「そうであろー、アヤツは絶対に来る。必ずやって来るであろー! そういうヤツであろー!!」

 

「ですね!」

 

ロレンツォもドンの言葉に満足して、カラリと笑う。

 

ヒュ―――――ン

 

そんな時だ。銃撃と共になんとも間の抜けた音がドンの二人の耳に入った。

 

 

「ッ!?」

 

「マズい! 皆、バリケードから離れるであろー!!!」

 

ズドゴォォオ―――ッンッッ!!

 

ドンの言い放った言葉と共にバリケードが吹き飛ぶ。手榴弾とは比較できない程の威力の爆発が彼らを飲み込んだ。

 

 

「ゲッホ、ゲッホ!」

 

「ケホ、ケホ! 皆、無事かいな?!」

 

部屋は土煙に覆われ、爆発の衝撃で怪我人が溢れた。その中で、軽い瓦礫に埋もれたドンが身を起こす。

 

 

「糞・・・連中はまだ、あんな物を! ロレンツォ、被害報告であろー!・・・・・ロレンツォ?」

 

ドンは見当たらないロレンツォを探して、振り向いた。

 

 

「ッ!? ロレンツォ!!」

 

「う、うう・・・!」

 

目線の先には腹部に木片やガラス片が突き刺さり、左腕が焼け爛れたロレンツォが苦しそうに息をしていたのだ。

 

 

「ロレンツォ!」

 

「ロレ!」

 

ドンはすぐさま彼に駆け寄った。他にもカイゴハザード達の防護壁で無事だったノアも駆け寄る。

 

 

「ど・・・首領・・・ご無事で・・・なによりです・・・!」

 

「うつけッ! お主はボロボロであろー!」

 

「騒ぐな、ドン! ロレ、立てるか? 見立て通りだと命に関わるような怪我やないけど・・・戦うには、もう無理やで!」

 

「し、しかし・・・!」

 

「喧しい! ここは医者の意見に耳を貸さんか! カイゴハザード!」

 

ノアは爆発で生き残った内のカイゴハザード2体を呼びつける。

 

 

「「ハザァァド」」

 

「ロレンツォを奥の方に連れて行って、他のカイゴハザードも重傷者を奥に! 急げッ!」

 

『『『ハザァァァド!!』』』

 

カイゴハザード達はすぐさま行動を開始した。

吸血鬼にも負けない素早い反応と動きで爆発に巻き込まれた構成員を奥へと運んで行った。

 

 

 

 

 

「命中です。突入しますか?」

 

バリケードから離れた後方にヤツらはいた。

貴重なロケット弾を発射した吸血鬼兵がすぐそばにいるゾーリンに指示を仰ぐ。

 

 

「いや、まだだ。もう一発ぶち込め!」

 

「対戦車ロケットは、あと1本しかありません。虎の子ですよ?」

 

「構わん、やれ。吹き飛ばしてやれ、哀れな連中を木端微塵にしろッ!」

 

「了解ッ」

 

命令を受けた吸血鬼兵は最後の虎の子である一発を装填した。

吸血鬼兵は構える。満身創痍のヴァレンティーノ一味に向かって、本当の止めの一発を構える。

ゾーリンは喜びで笑いを堪えれずにいた。命令違反をしてまでも実行した殲滅作戦がこのたった一発で終わるのだから。喜ばずにはいられなかった。

 

 

「やれ!」

 

遂に号令が下った。

吸血鬼兵はヴァレンティーノファミリーの命運を握った引き金に指をかけた・・・・・瞬間!

 

ヒュン

 

ドグシャァァアッ!

 

『『『なにィイッ!!?』』』

 

ロケットランチャーを構えた吸血鬼兵の上顎からすべてが木端微塵に吹き飛んだのだ。

 

ズダダッ ダダンッ

 

「ギえぇッ!?」

 

「グギャぷ!!?」

 

これだけでは止まらず銀の小塊が次々とゾーリンの周りにいた吸血鬼兵の身体を貫く。

これにはゾーリンもたまらずに上へとジャンプして、難を逃れる。対応に遅れた吸血鬼兵達はその間にも臓器や脳を破壊されていった。

 

 

「ッ・・・ダイレクトカノンサポート・・・貴様は!」

 

床に着地したゾーリンが銃弾が飛んで来た方向を見るとそこには、2丁の重々しいライフルを構えた人影とそれを取り囲む多数の人影がいるではないか。

 

 

「ど・・・首領・・・!」

 

「シャシャシャ、来たか・・・・・屋敷内の化物共を掃討し、挟み撃ちの体系を整えた。ここまで耐えた甲斐があるってものであろー・・・後でキスしてやるであろー、『ガブリエラ』ッ!!」

 

「んな気持ち悪いものいるか、バカッ!」

 

身体に化物共の血のミストを浴び、火薬の香水を纏ったオフェンス、ガブリエラ部隊が立っていた。

 

 

「おい・・・糞ッタレ」

 

「あぁん?」

 

彼女は睨む。

運が良いのか悪いのか、銃撃を避けてたった一人になった吸血鬼兵、ゾーリンに鋭い眼光を突き刺す。

 

 

「残ってるのは、お前だけだ。糞ッタレの出来損ないッ!」

 

「・・・フン」

 

ゾーリンはこんな状況でも不敵に笑う。味方の吸血鬼兵を全て殺されても尚、ゾーリン・ブリッツという吸血鬼はあざ笑うかのように堂々としていた。

 

 

「それが―――」

 

「ッ!? マズイ、何か来るであろー!!」

 

「―――どうしたぁあッ!!」

 

大鎌を軽々振り回すと右掌を床へと叩きつける。

床に掌が接触した瞬間、右半身に描かれた文字刺青が、真っ新な半紙にぶちまけた墨汁のように通路を、屋敷全体を侵食して、染み込んだ。

 

 

「ッチ、悪あがきを!」

 

「あ・・・あぁ!!?」

 

「う、うわぁアァァ!!」

 

「おい、どうした?!―――ッ?!!」

 

屋敷全体に刺青の侵食が完了するとガブリエラの部下達は身悶えはじめた。何が起きたのか起こったのか、わからず彼女は後ろを振り返る。

 

 

「ガブリエラ」

 

「ガブリエラガブリエラ」

 

「ガブリエラガブリエラガブリエラ」

 

「なッ―――ッ!!?」

 

振り返った先にいたのは、彼女の忌まわしき記憶であった、過去であった、トラウマであった。

 

 

「一族の恥」

       「暗殺者としては出来損ない」

   「恥さらし」

 

多くの虚像がガブリエラの周りを囲む。彼女よりも大きな体躯で迫っていく。

 

 

「幻覚だ・・・幻覚だ! これは幻覚だ!!」

 

ガブリエラは叫ぶ。

ゾーリンの能力を垣間見ている彼女には、目の前の者が幻だとわかっている。

 

 

     「お前は誰からも必要とされていない」

               「もう、やめろ。お前には無理だ」

「欠陥品のガブリエラ」

 

「やめろやめろ、やめろぉ! 私を見下すなぁアッ!!」

 

それでも幻覚は、彼女の心に沁み込んでいく。

その内、幻覚は彼女自身を飲み込んでいった。体は幼児期のそれとなり、目の前に迫る虚像はもっと大きくなる。

 

 

「やめろ・・・やめろ、やめてくれ・・・私は・・・・・わたしは・・・」

 

「アッハッハッハ! 心の内をちょいとひっかける位でこの様・・・・・脆い、脆すぎるんだよ、人間ッ!!」

 

未だ覚めぬ悪夢から銃から手を放し、泣き崩れるガブリエラにゾーリンは大鎌を振りかぶる。

 

 

「それじゃあそろそろ・・・死んでもらおうかねぇ! その首を輪切りしちゃいましょうかねぇえ!!」

 

「あぁ・・・あぁあ・・・ぁあ!!」

 

「死・・・ね!」

 

ゾーリンは振り下ろす。ガブリエラの首筋に向かって大鎌を振るう。中世の死刑執行人が罪人の首をちょん切るみたいに振るった。

 

 

 

 

 

その時ッ!

 

 

「五月蠅いですよ! 品性の欠片もない、糞ブスぅ!」

 

「ッ!?」

 

「チェエッストォォオッ!!」

 

バギィイイッ

 

刃がガブリエラの首に掛かる瞬間、ゾーリンの顔面にブラックライフルが叩きつけられた。

 

 

「・・・あ・・・あぁ!」

 

棍棒の要領でゾーリンの顔面にブラックライフルを殴りつけた人物をガブリエラは知っていた。自暴自棄になっていた時期に自らを導てくれた『麻袋』を被った師匠。

 

 

「『ロレンツォ』!」

 

「大丈夫ですか、ガブリエラ?」

 

ヴァレンティーノファミリー幹部、ロレンツォであった。

ガブリエラに向かって大鎌が振られる瞬間、ロレンツォは重傷を負った体で駆け込んだのである。

 

 

「こ、この死にぞこないがぁあ!」

 

「くぅッ!」ギィインッ

 

ゾーリンもこのままオメオメと倒れる者でもなく、ロレンツォの首目掛けて大鎌を振るう。

だが、その攻撃を彼はブラックライフルでガードし、衝撃の反動でガブリエラの首根っこを掴んで後ろに退いた。

 

 

「おまけであろーッ!」

 

ズダンッ

 

「なッ―――ッぐギぃッ!?」

 

すかさずロレンツォの背中に張り付いていたドンが、愛用の火縄銃でゾーリンの胸部を撃ち抜く。

銀製の弾ではなく鉛弾を使用している為に吸血鬼には効かないが、口径が大きいので後ろに吹っ飛ばすには丁度良い代物である。

 

 

「今や!」

 

カラン カランッ シュウゥゥウ―――

 

ノアの掛け声と共にスモークが焚かれ、一斉にカイゴハザード達が走り出す。カイゴハザードは幻覚で再起不能となったガブリエラの部下を引きずって退避する。

 

 

「他のはこっちで引き受ける! ドンにロレ、姐さん早うッ!!」

 

「首領、ロレンツォさん。早く!」

 

ノアを筆頭とした他の構成員もドン達を助けようと向かい、手を差し伸べる。

だが・・・・・!

 

 

ザクゥウッ

 

「あろッ!!?」

 

『『『なッ!!?』』』

 

「ど・・・首ォォオオオオオオオオオ領ッ!!!?」

 

ロレンツォに張り付いていたドンの背中に大鎌が突き刺さったのだ。

刺さった衝撃からか、ドンはロレンツォ諸共前のめりに倒れる。

 

 

「首領ッ、首領! しっかり、お気を確かに!!」

 

「ど、ドン・・・嘘だろ・・・?」

 

「いやや・・・いやや、イヤぁァアアアアッ!!」

 

「う、うぅ・・・あろぉ・・・・・」

 

ロレンツォは勿論の事、ガブリエラやノア、生き残った構成員全員がドンに駆け寄った。

 

 

「ハァ・・・ハァ・・・ご、ゴミ屑が気張りやがって!」

 

大鎌を投擲したのは紛れもないゾーリン本人であった。

ゾーリンは、ドンに火縄銃で撃たれた直後に部下の吸血鬼兵の屍で回復したのだ。

 

 

「ゴミの様な虫ケラの分際で、喧しく飛び回るからそうなるんだよぉ!」

 

「や、野郎―――ッ!」

 

「さて・・・よくもまぁ、やりもやってくれたねぇ? さて、どうしてくれようか?!」

 

構成員達はゾーリンに銃を向ける。

だが、土煙が晴れていくにつれて、ゾーリンの後ろに新たな吸血鬼兵の群れが姿を現したのだ。その数は、軽く10を超えている。

 

 

「え・・・援軍ッ!?」

 

「別動隊か?! まだこんなにも!!?」

 

「五月蠅い子虫は、平手で潰してしまいましょう!」ピキィッ

 

前に向けられたゾーリンの右掌に眼球が浮き上がる。そして、またしても呪文の羅列が屋敷全体を覆う。

 

 

「ああ! うわぁあ!」

 

「またか、またかチキショ―――ッ!」

 

幻覚術式の出現に構成員は絶叫する。

組織の頭目は攻撃で倒れ、応対できる戦闘員は敵の10分の1。戦いは終わり、これからはじまる虐殺にヴァレンティーノ一味は悲惨な場景を想像する。

 

 

『・・・おいテメェ、今・・・なんつった?』

 

「・・・あん?」

 

「え・・・?」

 

「グすっ・・・なんや?」

 

そんな時、声が聞こえた。

声はすすり泣くロレンツォ達の中心で聞こえて来る。ノイズ音混じりの怒気を含んだ若い男の声が聞こえて来た。

 

 

「あ・・・ろ!」

 

「「「首領ッ!」」」

 

「馬鹿なッ!? 確かに手応えはあったはず!」

 

声に反応したドンは意識を取り戻し、起き上がったのだ。これには仕留めたと信じていたゾーリンも驚きを隠せない。

 

 

「シャーシャシャ! 我がヴァレンティーノファミリー特製のマントのおかげで助かったであろー!!」

 

いつも身に着けているドンの黒マントは防弾防刃の優れ物にであり、回復直後で力が半減していたゾーリンの力ではマントに穴を開ける事は出来なかったのである。

 

 

「首ォォオオオ―――領ッ!!」

 

「この・・・心配させやがって!」

 

「良かったぁ! ドン、生きとった―――!」

 

「痛たた・・・皆、心配かけてすまないであろー」

 

心配していたロレンツォ達に抱きしめられドンは苦しそうであったが、嬉しそうでもあった。

 

 

「だ、だが、虫けら一匹増えたところで―――」

 

『また、言いやがったな糞野郎ッ!』

 

「こ、この声は・・・!」

 

またしても怒った男の声が聞こえて来た。その声はドンの胸元にある通信機から聞こえてくる。

声に聞き覚えがある者は口角を引きつらせ、百面相をした。

 

 

『人工の出来損ないが、よくも俺の・・・俺達の家族を傷つけやがったな・・・!』

 

「どこだどこにいるッ?!」

 

キィイ―――――――ッン

 

ゾーリンが辺りを見回すと同時に高い音が聞こえて来た。その音はまるで、刃で風を斬るような音であった。

 

 

「・・・あ、姐さん?」

 

「ああ・・・マズイ・・・!」

 

「皆、身を低くするであろー!」

 

音は段々と大きくなり、遂に音の正体が窓ガラスの向こう側へと現れた。

 

 

「なッ!?」

 

その正体とは戦闘機であった。

音の速度を超え、真っすぐに飛んでくるそれは―――

 

ドグォオオオオオオオンッ!

 

『『『えぇぇ―――ッ!!?』』』

 

ドンとゾーリンの間に割って入る様に屋敷に突っ込んだ!

 

 

「な、な・・・なんだ・・・なんだコイツは!??」

 

理解が追い付かないゾーリンを余所に戦闘機の操縦席ハッチが開く。操縦席から現れたのは、人工的に作られた異常など歯牙にもかけない常軌を逸脱した異常なオーラを纏う二人の―――――

 

 

「WRYyy・・・」

「URYYy・・・」

 

―――紅い吸血鬼であった。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





本格的に参戦。筆がノリノリ。
ウチのギャグキャラは、シリアスでも不穏なフラグは躊躇なく折ります。それはもう乾麺の様に真っ二つに。

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