ガンダムブレイカー2外伝 機動戦士ガンダムEX 異次元の救世主   作:ZEXT933

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【本当の始まり】

 ―黒海上空。

 グランドキャニオン基地を出発してから、2日間が過ぎていた。

 

「身体はもういいのかいレーア」

「まだ少し痛むけど、寝てるわけにもいかないもの……」

「少し、緊張するよ……」

「落ち着いて、私の言う通りにすればいいわ……」

 

 格納庫から、レーアとエクスガンダムのくぐもった声がする。

 

「そう……。その棒を、この穴に挿し込むの……」

「うまく出来るか自信ないけど……」

「大丈夫、私を信じて……」

「……挿れるよ」

 

 ―ギチッ……。

 

「少しキツいな……。 レーア、本当に大丈夫かい?」

「んっ……ぅ。 大丈夫だから、そのまま奥まで……一気に……」

「……いくよ」

 

 覚悟を決めたエクスガンダムは、ズズ、と、一息に奥まで挿入する。

 そう、2人は今……。

 

「左腕部、接続確認。肩関節ロック完了!」

 

 ダブルオークアンタの応急修理の真っ最中なのだ。

 

「ふぅ……。 こういう作業はあなた達がいてくれると本当に助かるわ」

「小さなネジを絞めるのは、この姿じゃ出来ないけどね」

 

 コクピットで取り付けられた左腕の調整をするレーアに、エクスが自嘲混じりで答える。

 

「それにしてもダブルオーライザーのパーツを残しておいて正解だったわ。 幸いクアンタとフレームが共通だったし、ここまで短時間で修復出来るなんて……」

「おーい、次はこれでいいのか?」

 

 作業を手伝っていたサルバドールが格納庫に置かれたオーライザーを指差す。

 

「あぁ、それで最後だ。 一緒に持とう」

「ああ、ほら、よっと!」

 

 ドッキングモードに変形したオーライザーをサルバドールと息を合わせて持ち上げる。

 クアンタには既にダブルオーガンダムのバックパックが取り付けられており、2人は位置を調整する。

 

「もうちょっと右……あぁ、行き過ぎ行き過ぎ」

「この変なカタチしたやつ、つかみどころがなさすぎるンだよ!」

「よし、そのままだ……」

 

 ―ガシン。と、オーライザーが接続され、程なくクアンタの応急修理は完了した。

 

 

          ――――――

 

 

「っだ~ぁ! こんな事してていいのかなぁ……」

 

 アークエンジェルの中央甲板に寝そべり、大空を見つめながらサルバドールは不満をこぼした。

 

「敵の手がかりが全く無いんだ。 仕方ないさ」

 

 青空を遮るようにエクスガンダムが顔を出す。

 手がかりが無い、そんなことは分かっていた。 あれからダハーカの気配も感じられない。

 やらなきゃならない事は分かってるのに、身動きがとれない状況にむしゃくしゃする。

 

「わぁーってるよ。 ただちょっと……元気がありあまって退屈なだけだ」

 

 隣に座ったエクスガンダムを食らいつくように質問攻めにする。

 

「あ、そだ。エクス、あンた……こないだ人間の姿になってたろ! あれ便利だな! なんて技なんだ!? どうやんだ!? どんな感じなんだ!? 教えてくれよ!」

 

 隣に座り込んだエクスガンダムに疑問をぶつける。

 自分と同じように機械の体を持っているが、自分にあんな芸当は無理だ。

 

「技じゃない。 この姿になった時から、私にはこの機能が備わっていた」

「なんだよ……、じゃあ俺には無理かよ……。 あ、そうだついでに。 あンたの生まれた世界ってどんなとこなんだ? これは教えられるだろ? な?」

「あまり話すようなことでもないんだが……」

「あ、それ私も聞きたいです!」

「私も」

 

 ブリッジで2人の会話を聞いていたルルとレーアが興味津々で会話に入ってくる。

 

「いつの間に君たちまで……。 大した話ではないんだが……仕方ない」

 

 エクスガンダムがブリッジの方を振り向くと、その両眼から青白い光が放たれ、何もない空中に画面が映し出された。

 

「わっ!?」

「プロジェクター!?」

「あンた、なんでも出来んだな……」

 

 驚く3人をよそに、エクスガンダムは淡々と自分の記録を再生し始めた。

 

 

          ――――――

 

 

「世界の全ての国家が統合された地球連邦政府が誕生し、人類が宇宙へ新たな一歩を踏み出した時代、G.C.(グランド・センチュリー)……ここが私の生まれた世界」

 

 画面に地球を囲むオービタルリングと、宇宙空間に点在するコロニー群が映し出される。

 

「なんだか、この世界と似てますね……」

「G.C.0060年代までに総人口の約半分がその生活圏を宇宙へ移し、月軌道まで人類はその活動の場を広げていた。 しかし、G.C.0070年代に入ると地球とコロニー間の経済摩擦により情勢が悪化し、連邦政府に対し各コロニーが同盟を組んだC.(コロニー)ユニオンが発足する。 G.C.0079年2月、悪化する事態を収集する為に派遣された連邦政府の大使が殺害された事を契機に、ついに開戦の火蓋が切られてしまった。 この人類史上初となる宇宙戦争で、人型の多目的作業機械にすぎなかったMS(モビルスーツ)が兵器として初めて実戦に投入された。 10ヶ月に渡る攻防の末、C.(コロニー)ユニオンの身を削ったコロニー落としにより北米デトロイト地帯にコロニーが落着、落下の衝撃と舞い上がった粉塵により多くの農地が消失し、地球の食料自給率は大きく低下した」

「どの世界でも、人間のすることは変わらないのね……」

 

 アイランドイフィッシュの戦いを思い出し、ルルとレーアの顔が曇る。

 

「しかし、C.(コロニー)ユニオン側に戦争を継続する余力は残っておらず、この攻防戦が最後の戦いとなりG.C.0080年1月、C.(コロニー)ユニオン側が譲歩する形で終戦協定が成立した。 これが私が生まれる15年前の出来事、それからG.C.0090年代までは大きな紛争もなく、比較的平和な日々が続いていた。 しかし、先の戦争特需で大量生産されたMSが傭兵、反社会組織などに多数流出し、MS(モビルスーツ)による犯罪が増加、一般市民にとってMS(モビルスーツ)の脅威はより身近なものとなっていた」

 

 画面には市街地で破壊行為を行うMS(モビルスーツ)、逃げ惑う人々の様子が映し出される。

 

「そんな情勢が続いたG.C.0095年5月、地球連邦軍極東基地に新鋭艦と共に2機の試作機が運び込まれた。 先の戦争で伝説的活躍を見せた、とある機体の名前を受け継いだ試作機、それが……」

「それが……エクスさん」

「その通り」

「今とは随分印象が違うわね」

 

 白と青、青と黄色を基調にした2機のエクスガンダムが映し出される。

 その形状は、今のエクスガンダムよりもスリムな体型で直線の部分が多く、より兵器然とした姿をしていた。

 

「続けよう。 白い機体が1号機、横の青い機体が2号機。 エクスガンダムは連邦軍の新フラッグシップ機開発計画に民間から参加したシュウジ・ヒラサカ博士のチームによって開発された。 彼が私の生みの親というわけだ」

 

 エクスガンダムが自身の生みの親と語るヒラサカ博士の風貌は、汚れた白衣にヒビの入った安物のメガネ、猫背気味でボサボサの黒緑色の髪を振り乱し高笑いを上げる、頬のこけた目つきの鋭い中年男性だった。

 

「な……、なんだか見るからにマッドサイエンティストって感じなんだけど……」

「本当にこんな人いるんですね……」

「今考えると確かに、独特な性格の人だったよ。 でも博士は私も含め、自分が生み出したモノに愛情深く接してくれた。 博士が万が一に備えて製作していた装備には幾度となく助けられたよ」

 

 次に映し出されたのはオレンジ髪で蒼色の眼をしたスレンダーな身体つきの少女と、幅広で筋肉質な身体つきの、頬に傷のある軍服を着た20代なかばの黒髪の青年。

 

「この人達は?」

「1号機のパイロットに選ばれた物静かな性格の少女、イクセリオ・クリアノン……通称イオと、2号機のパイロットに選ばれた破天荒な性格の兵士、カズ・ヴィシャス。 この2人とヒラサカ博士、そして1号機の管制AIとして組み込まれた私の4人で稼働テストが進められた」

「あれ? この女の子、眼も髪の色も違いますけど……エクスさんに似てませんか?」

「その通り。 私のヒューマノイドアバターは、パイロットだった彼女の姿を模倣したんだ」

「でも、どうしてこんな小さな()がパイロットに選ばれたの?」

「彼女は人間じゃない。 アンドロイドだ」

「アンドロイド!?」

「つまり、機械……なの?」

「正確には、アンドロイドに人為的な構造強化を施した生体パーツを組み込んで作られたバイオノイドだ。 私の生まれた世界はこの世界よりも義肢、人工臓器、組織生体工学の技術が発達していて、脳と脊髄以外を全て機械化したサイボーグも珍しくない存在だった。 作業用機械を経てMSが誕生したのも、神経接続によって脳波で機体を操作するには人型が適しているからだった。 そして、アンドロイドに生体パーツを組み込んで、人間とほとんど変わらない姿と構造をしたバイオノイドの作成に世界で初めて成功したのがヒラサカ博士、その第一号がイオだったんだ。 イオはエクスガンダム搭乗時に管制AIである私とリンクすることで、人間を超える情報処理能力と反応速度を実現し、その能力は非常に高かった。 実は彼女は、ヒラサカ博士がエクスガンダムの開発費の一部を横領して秘密裏に製作していた非常に個人的なものだった。 だがその事実が露呈すると、皮肉にもその完成度の高さからバイオノイドの兵士としての利用価値が検討されはじめ、軍は開発費横領の件を不問にする事を引き換えに、イオを試作機のパイロットにすることを持ちかけた。 軍の設備と資金のおかげでイオを製作出来たヒラサカ博士がノーと言えるはずもなかった。 だが、イオを単なる戦闘マシーンにしたくなかった博士は、決まっていなかった2号機のパイロットに理屈では測れない奇抜な戦法を得意としていたカズを抜擢し、感情を持たないイオの教育係を任せた。 最初はノリ気でなかったカズも、イオと共に稼働テストや模擬戦を繰り返すうちに公私共に連携がとれるようになっていった。 だが稼働テストも終盤に差し掛かったある日、整備中の2号機がC.(コロニー)ユニオン軍の残党に強奪される事件が起こり、イオとカズ、ヒラサカ博士はそのまま2号機の追撃部隊として実戦に送り込まれてしまう。 そして数度の追撃戦の後、エクスガンダムに関して開発者のヒラサカ博士ですら知らなかった問題点が明らかになった。 エクスガンダムに搭載されていたコズミウムドライブは、コズモナイトと呼ばれる希少物質を触媒にした新型の動力炉で、その出力は既存の核融合炉を遥かに超える膨大なものだった。 けれどもその制御は難しく、仮に暴走という事態に陥った場合、半径10kmを消滅させるほどの爆発を起こす危険性を孕んでいた。 バイオノイドであるイオは、万が一の際に人的被害を最小限にするのに最適だったんだ」

「そんな、いくら機械だからって……」

「酷いですぅ……」

「当然それが分かった際はカズもヒラサカ博士も、イオをエクスガンダムに乗せることに激しく反対した。 だが残党軍が強奪した2号機を爆弾に仕立てあげ、地球連邦首都への自爆攻撃を画策している事が分かりると、イオは自分の意志でエクスガンダムに乗り出撃した。 首都の中心でまさに爆発しかける2号機を、私とイオが捨て身で上空まで押し戻した事で街は救われたが、私達は爆発に巻き込まれた」

「そ、それでエクスさん達はどうなっちゃったんですか!?」

 

「私と2号機のコズミウムが相殺しあった事で大破は免れたが、ダメージで私もイオもオーバーホールが必要になった。 イオよりダメージが深刻だった私は、オーバーホールと共に改修される事が決まった。 この頃になると、イオにも少しずつ感情が芽生え始めていた。 だがそれからしばらくして、今度はイオが拉致される事態が起きた。 イオを拉致したのは残党軍に技術と物資を供給し、裏から操っていた武装組織ロッソブリゲードだった。 その拠点に囚われたイオはカズによって救出されたものの、助けだされたイオにはロッソブリゲードの手によって恐怖の感情がインストールされており、そのプログラムによって恐怖に支配されたイオは何に対しても怯えるようになってしまった。 ヒラサカ博士はイオの恐怖のプログラムを削除しようと試みたが、埋め込まれたそのプログラムはイオの中枢部分に喰い込んでいて、削除すればせっかく芽生えた他の感情まで消えてしまう可能性があった。 カズの必死の説得も通じず、恐怖に耐えかねたイオは艦から脱走し、街を彷徨っていたがそこで複数の暴漢に襲われてしまう。 その現場を目撃したカズは単身、暴漢達に立ち向かい傷だらけになりながらもイオを救い出した。 この時、イオはカズから恐怖に抗い立ち上がる心、自分を顧みず誰かの為に行動する心……勇気を教えられたんだ。 そしてイオは自力で恐怖のプログラムを抑えこみ、自らの意志で人々を守るために戦い続けた。 その戦いの中で、私と同じくコズミウムドライブを搭載したグラッドナイトとエクスハントにも出会った。 そしてついにロッソブリゲードの本拠地を突き止め攻略作戦を行っていた最中、突如その地に飛来した隕石から、機械とも生物ともつかない未知の機動兵器が出現した。 大地を蝕み、地球を侵食していくその敵を倒すために、私とグラッドナイト、エクスハントの3機は最大出力のコズミウムドライブを共鳴させ、自爆特攻を試みた。 だが、私達とイオの<生きていたい>という強い願いがコズモナイトに何らかの変化をもたらしたのか、コズモナイトは私達に機械生命体としての進化をもたらし、その力によって敵を倒すことが出来た。 その後、イオはカズと共にその世界で生きていくことを決め、未知の敵が別の世界からやってきた事を察した私達は故郷を離れ、様々な世界を巡る旅に出た。 そしていくつかの世界を巡った後、この世界にやって来たんだ……」

 

 ―ピシュン。

 映像が消える。 昔話は時間にして40分程だった。

 画面が消えた後もルルとレーアは言葉もなく、彼の壮絶な過去を知った2人はエクスガンダムという存在を改めて認識した。

 

「という訳なんだサルバドー……」

 

 エクスガンダムが振り向くと、そこには座ったまま熟睡しているサルバドールの姿があった。

 

「Zzz……」

「どーして寝てるんだサルバドール! キミが言い出したんだぞ!! 私の過去を知りたいって!」

 

 たまらず居眠り小僧に掴みかかる。

 

「――ん、なに? あー……」

 

 サルバドールは己の頭を軽くたたき、覚醒を促すと……。

 

「や、ごめん。 話ながくってさ!」

 

 すべてを台無しにした。

 

「あーでもアレだ。 話に出てきたあのほら……コズなんちゃら? あれ俺にもあンぞ」

「……なんだって!?」

「ほら、見てみな」

 

 サルバドールが指さした箇所は自身の胸、青く輝く金剛真球。

 その淡い光を覗きこむと、中にはゆっくりと回転しながら漂う、星形十二面体の物体がある。

 エクスガンダムの体内にあるものと、形や大きさはかなり違うが、それから伝わるエネルギーの波動は確かにコズモナイトと同じものだった。

 

「驚いたな……」

「ということは、サルバドールさんもエクスさんと同じように進化したんですか?」

「進化? や、俺は最初から俺だったぞ」

「答えになってないわよ……」

「……」

 

 ―ガシュン。

 エクスガンダムの胸部装甲が開き、心臓部たる翡翠色をした正八面体のクリスタル……覚醒輝巧ブリージンガ・メンが露わになる。

 その内部には記録映像にも登場したコズモナイトがサルバドールと同じように輝いていた。

 

「似てるわね……」

「もしかしたらお二人は兄弟とか?」

「キョーダイ!? 俺と、あンたが!?」

「兄弟とは違うかもしれないが、私達は互いに近い存在なのかもしれないな……」

 

 体内にコズモナイトを宿した機械生命体。

 自身と共通点のある別世界の存在と出会い、エクスガンダムは改めて自身の存在を定義付けた。

 現時点でそれに該当するのは自分とエクスハント、グラッドナイト、サルバドール。

 そして確証はないが、おそらく(Sinエクス)も……。

 

「まぁなんでもいいや、頼りにしてるぜ! エクスのおっさん!」

「おっさんじゃない!」

 

 珍しくエクスガンダムが吼える。

 そして何かに気づいたように振り向くと、はるか遠くの空に小さな船が見える。

 

「なんだありゃ」

「私の友、そして……キミの新しい仲間だ」

 

 エクスガンダムは甲板の上で手を振りながら、その小さな船(ガラージュ)を出迎えた……。

 

 




・コズモナイト
【挿絵表示】

エクスガンダム達の心臓部に組み込まれている結晶。
大きさ・形は様々だが、常に青白い光と共に微量のコズミウムを放出している。
また極めて堅牢で加工が難しく、例えコズミウムドライブが暴走・爆発してもコズモナイトが失われることはない。 どの世界でも産出がほぼゼロの極めて希少なもので、G.C.世界では3つしか発見されていない。 ある種の精神感応性を有しているとも言われており、MSを機械生命体へと進化させるなどまだ謎が多い。

・コズミウムドライブ
コズモナイトを触媒にすることで空間中のコズミウムをエネルギーとして利用する動力炉。
その出力は既存の核融合炉を遥かに超えるが、出力を上げると加速度的にエネルギー量が増大するため、暴走・爆発の危険を孕んでいた。 エクスガンダム達が機械生命体へと進化した後は暴走の危険はなくなったが、これが彼らの進化によるものなのか、コズモナイトの精神感応性によるものなのかは不明。


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