ガンダムブレイカー2外伝 機動戦士ガンダムEX 異次元の救世主   作:ZEXT933

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<これまでのあらすじ>
デビルガンダムとの戦いを終えたガンダムブレイカー2の世界。
そこで突如無人のMSが暴走する原因不明の事件が多発。レーア達、アークエンジェル隊も巻き込まれ窮地に立たされる。 再び次元を超え現れたエクスガンダムはそこで、真のエクスガンダムを名乗るSIN・エクスガンダムと邂逅、戦闘になる。 戦いの最中、新たに次元を超え現れたG-サルバドール、黒い謎の機体α'G-ダハーカも加わり、事態は混迷の一途を辿っていく。

そのころ日本では、
エクスガンダムと共に次元を超えたエクスハントガンダムと、彼らの新たな仲間であるG-フレスヴェルグが、暴走するMS相手に苦戦するショウマを救援していた。


【ショウマとハント:Ⅰ】★

 「グラ達のとこまで12時間ってとこだな。それまでゆっくりしようぜ」

 

 熱光学迷彩を展開した小型宇宙戦艦ガラージュは、ショウマとハント、フレスを乗せ、夕焼けの空に溶け込みながら進んでいく。

 その格納庫で、損傷したゴッドガンダムを眺めるショウマにハントが話しかける。

 その胸元にはまるでぬいぐるみのようにフレスが抱き抱えられている。

 

 「こっち来い。ずっと立ってるわけにもいかないだろ」

 「あぁ……」

 

 ショウマは後ろ髪を引かれる思いで、ゴッドガンダムの方を振り返りながらついていく。

 格納庫奥の扉が開き、中に入ると、ハントが正面のエレベーターを指差す。

 

 「そっちがブリッジへのエレベーター。で、こっちがオレたちの家だ」

 「……家?」

 

 戦艦の中で出てくるはずのない単語に困惑しつつ、ハントが指差した方向を向くと、そこにあったのは一部がガラス張りになっている茶色い木目調のドア、というよりこれは……。

 

 「え、これ……玄関?」

 「ふぃ~」

 「……うぉっと」

 

 呆然としていたところに飛んできたフレスを抱き抱える。

 ハントがドアノブに触れると、ガチャッと鍵が開く音がした。

 鍵を使って開けた感じはしなかった。指紋認証か何かだろうか?

 

 「お、おじゃましまーす……」

 

 恐る恐る中に入る。

 靴箱、黒いタイル張りの土間、それに続く明るい色のフローリング、壁には姿鏡。

 いたって普通の、洋風な玄関だ。だが、戦艦の中にあるという状況がその普通をとてつもない違和感に変えていた。 

 

 「靴はここで脱げ。 あ、フレスの靴も脱がしてやってくれ」

 「あ、あぁ……わかった」

 「ふぃ~」

 

 抱えられながら脚をぷらぷらさせているフレスを、フローリングの床に腰掛けさせる。

 

 「ふぃ~♪」

 

 靴を脱がすと、フレスはまたパタパタと飛び、待っているハントを追い越して廊下の中ほどにある部屋へと入っていった。 自身も靴を脱ぎ、ハントと一緒にその部屋に入る、と……。

 

 「…………」

 

 目に飛び込んできたのは、白い壁、床に敷かれたカーペット、ソファーにテーブル、テレビ、奥にはキッチン。 窓が見当たらない以外は、どこにでもあるようなリビングだった。

 フレスがふわふわと冷蔵庫からジュースを取り出し、飲み始める。

 

 「……なぁ、ここ戦艦の中だよな?」

 「そうだけど、どうした?」

 「なんで戦艦の中に家が入ってんの……」

 「なんでって、文字通りここがオレたちの家だし」

 「…………」 

 

 数分前までいた戦場とは、全く逆のゆるやかな雰囲気。

 ソファーにはしわくちゃになったタオルケット、テーブルにはマグカップ、床には無造作においてあるファッション誌、ゴミ箱にはポテトチップスの空き袋まで入っている。

 彼女たちの、機械生命体という正体に似つかわしくないほど人としての生活感に溢れた空間に、ある種のカルチャー・ギャップに陥る。

 アークエンジェルにも温泉があったが、流石に家が丸ごと入っているのは理解を超えた状況だ。

 

 「もしかしてお前ら、いつもは人間の姿で暮らしてんの?」

 「んあぁ、この姿なら生活スペースも小さくなって、人間用の物も使えるだろ? 水とかの消費も少なくなるしさ。 この船だって人間の姿で使うこと前提で作ったから、こんなに小さく出来たんだぜ?」

 「あぁ……、たしかにあの格納庫、MSが3機も入ればギリギリな大きさだったな」

 

 確かに、彼女らがMSの姿で生活するなら、アークエンジェルよりも大きなサイズの船が必要になるだろう。 船が巨大になればその分、推進剤などの燃料を多く消費する。

 人間の姿でいることにデメリットがないのなら、船を小さくするのは理に適っている。

 

 「ふぅ……」

 

 ふと、ハントの方に目をやると、束ねた髪に手を回していた。

 するりと髪がほどけ、少しウェーブのかかった長髪が腰まで伸びる。 髪を後頭部で束ね、快活な雰囲気だった先程までとは逆に、しとやかな雰囲気になった彼女に目を奪われる。

 

 「…………」

 「お前、風呂入るか?」

 「あ……、うん」

 

 その問いかけに我に返り、反射的に返事をしてしまう。

 

 「先に入っていいぞ。場所はそこだ」

 

 ハントが風呂場のドアを指差す。

 

 「お、おぅ」

 

 風呂もあるのか、そう思いながらショウマはいそいそと洗面所に入っていった。

 

           ――――――――――

 

 (……普通の風呂だな)

 

 新築のように綺麗なシステムバス、シャンプーやボディソープもちゃんと置いてある。

 どう見ても普通に人間が使う風呂にしか見えない。

 

 「シャワーは……これか」

 

 シャワーを出すと、すぐに適温のお湯が出てきた。

 身体を濡らし、シャンプーを髪に付け、目を瞑って泡立て始めた。

 その時だった。

 

 ――ガララ。

 

 (……!?)

 

 背後から聞こえてきた音に、身体が硬直した。

 おそらく、今のは風呂場の扉を開ける音。

 そして、この船には自分とハントとフレスの3人だけ、つまり……。

 

 「よーし、身体流すぞフレスー」

 「ふぃ~♪」

 「ちょっちょっちょっと待て! なんで入ってきてるんだよ!?」

 

 予期せぬ事態に目を瞑ったまま後ろを振り返……ろうとしてやめる。

 

 「なんでって……オレ達も身体洗うから」

 「いやいやいや、そういう問題じゃなくて……!」

 「なに慌ててんだよ」

 「だって男と女……」

 

 その時、ショウマはハッと気づいた。

 ハントとフレス、この2人は人間ではない。

 機械生命体が人間の姿をしているだけなのだ。

 

 (もしかしてコイツら、男とか女とかそういう感覚がないのか!?)

 

 「目ぇつぶってろよー」

 「ふぃ~」

 

 バシャア……と、後ろで2人が身体を濡らす音が聞こえる。

 

 (きっとそうだ。コイツらから見たら、人間の男も女も同じに見えてんだ……いやいやいや、そっちからしたら男と女が同じ風呂に入っても問題ないかもしれないけど、こっちは大ありなんだよ! 本当の姿がMSだろうが、俺から見たら今のオマエらはただの女の子なの!)

 

 ――ガシガシガシガシ。

 めまぐるしく思考を重ねるスピードと同じく、猛烈な勢いで髪を洗う。

 

 (どうする俺、どうやってこの状況を乗り切る!? さっさと髪を洗って風呂から出るか? ダメだ、アイツらが後ろにいるから振り向いた拍子に見えちまうかもしれない。 ……いや待てよ? アイツらに男女の区別が付いてないなら、見ても問題ないのか? ……ダメだダメだ、なに考えてるんだ俺!)

 

 戦いなら何度も死地をくぐり抜けてきた。

 だが、女の子が一緒の風呂場に入ってくるなんて、師匠との修行中時にも無かった。

 

 (落ち着け俺、こういう時こそ明鏡止水の心だ。心を無にして、無にして、無に……)

 

 髪を洗う手を止め、深呼吸する。

 雑念を振り払った、澄み切って落ち着いた心、それこそが明鏡止水。

 その境地に達すればこんな状況でも冷静に切り抜けることが出来るはず……。

 

 (…………)

 

 ひたすら無の境地を目指し心を静め続ける。

 そして瞑想に費やすこと約一分、ついにその時が……。

 

 (見えた、雫の一滴……!)

 「いつまで髪洗ってるんだよ」

 

 明鏡止水の境地寸前で、ハントに両肩を掴まれた。

 その拍子に、背中に大きく柔らかな感触がぽよんっ……と押し当てられる。

 

 「わっひゃああああああああああ!」

 「うわぁっ! なんだ突然!?」

 

 自分の声だと信じられないほど甲高い絶叫が出た。

 不意を突かれ、明鏡止水作戦は完全に失敗に終わった。 いや、それどころではない。自分の両肩に置かれたハントの手、そして背中に押し当てられている柔らかい感触。

 

 (こここここ、これってまさか……)

 

 ハントの体勢を考えると答えは1つしかなかった。

 理解した瞬間、顔が沸騰するように熱くなり、心臓の鼓動が自分で感じられるほど大きく速くなる。

 

 「あ、あ、ハント……サン?」

 

 ガチガチに緊張した身体で声を絞り出すと、ハントが肩や腕をにぎにぎと触ってくる。

 

 「へぇー、男の身体ってこんなに固いんだな」

 

 男の筋肉の付き方を確認するように、背中からふとももにかけて、掌が優しく這う。

 視界のない状況ゆえに、その感触が普段より鮮明に脳に伝わって、息が止まりかける。

 

 「ふーん、へぇー……」

 「はぁっ……はぁ……。 なぁ、もういいだろ?」

 

 これ以上好きにさせると、ヤバい部分まで触られる。

 そう直感し、身体をよじり抵抗を見せる、が……。

 

 「あ、お前まだ身体洗ってないだろ? オレがしてやるよ」

 「いやいやいや、いいって!自分でやるから!」

 「そう遠慮すんなって♪」

 

 僅かな抵抗も無駄に終わった。

 視界ゼロのまま、泡立ったスポンジで背中を洗われ始める。

 同時に背中から柔らかい感触が無くなり、安堵しつつも少し残念に思った。

 それよりもゴシゴシゴシ……と、見かけによらず力強く擦ってくるハントのせいで背中が痛い。

 だが、その痛みのおかげで緊張がほぐれ、多少気持ちに余裕が出てきた。

 

 「なぁ……、お前らって人間の時は全員女の姿してるけど、なんでだ?」

 

 純粋な疑問をぶつけてみた。

 

 「考えたことねえな……。 この姿はエクスのを真似してみただけだし」

 「真似って……。なら人間の時の姿って自由に変えられるのか?」

 「んー、わかんねえ。 もともと人間の姿になれるのはアイツだけだったんだよ。 オレとグラはエクスからその機能をコピーさせてもらって、自分なりにアレンジしたのがこの姿ってわけ」

 

 アレンジという言葉に釣られて、ハントの身体つきを思い出してしまう。

 

 「……アレンジにしちゃデカくなりすぎだろ」

 「ん、なんか言ったか?」

 「なんでもねえ」

 

 漏れた小言が聞かれなくてホッとしたのも束の間。

 

 「ひぅっ……!」

 

 ふたたび情けない声が出た。

 背中は洗い終わったと判断したのか、ハントの腕が脇の下から差し込まれ、腹のあたりが洗われ始めたのだ。

 

 「あ……が……」

 

 前は自分で洗う。

 そう言えないのは、再び背中に押し付けられた、やわらかな感触に意識が完全に奪われてしまっているからだ。 顔面が燃えるように熱くなり、心臓の鼓動はより激しく、全力疾走した後に匹敵するほど速く大きくなる。

 

 にちゅっ……ぬちゅっ……。

 

 ボディソープでぬるぬるになった双球が、ハントの動きに合わせ、舐めるような動きで背中を移動する。 そして、その大きくやわらかな感触の中に潜む、少し固さのある突起が、背中をぬるっと擦った瞬間。

 

 ――俺の中で何かが切れた。

 

           ――――――――――

 

 ポタポタッ……と、ショウマの身体を洗うハントの腕に雫が垂れた。

 

 「……ん、なんだこれ?」

 

 ハントは手に付着した赤黒い液体を、その指先と眼に備わった機能で分析(アナライズ)する。

 導き出された結果、それは人間の体内を循環し、傷を負った際などに外部に流れるもの。

 

 ――血。 

 

 「……ショウマ?」

 

 不審に思いショウマの肩に手をかけると、そのままショウマの身体が後ろに倒れこんできた。

 

 「うおっ!?」

 

 風呂いすから倒れこんだショウマの下敷きになる。

 

 「な、なんだ!? どうしたショウマ、ショウ………!?」

 

 覆い被さるショウマの身体を脇にどかし、ショウマの顔を確認すると、白目を剥き、鼻血をどくどくと流し、気を失っていた。

 

 「うおおおおおおおおおぉ!?」

 

 突然の事態に驚愕の声を上げ、慌てふためくハント。

 

 「どうしたショウマ! おいショウマ! おい、しっかりしろー!!」

 

 自分がなにか悪いことでもしたのだろうか。

 ただ身体を洗っていただけ……のはずなのにどうして。

 

 (強く擦り過ぎたのか? でもショウマ、何も言ってこなかったし……第一、鼻には全く触ってない。 ……シャンプーとボディソープが身体に合わなかった? いやコレ、ちゃんと人間が使ってるのと同じものだし……)

 

 ハントにはショウマが倒れた原因が全く分からなかったが、とにかく彼が危険な状態だと言うことは見て分かった。

 

 (だって血ぃ出てんじゃん!)

 

 排水口がショウマの鼻血で赤く染まっている。

 ショウマの身体にシャワーを掛け、身体中の泡を洗い流し、タオルで鼻血を拭うが、目を覚ます気配はない。 呼吸と心臓の鼓動を確認する。 鼓動は少し速いが、呼吸はしっかりしてる。

 

 「気絶してるだけか、良かったぁ……」

 

 ほっと胸を撫で下ろす。 しかし、このまま風呂場に寝かせておく訳にもいかない。

 ショウマの身体を担ぎ上げる。

 

 (男って、こんなに重いんだな……)

 

 MSの姿でなら、人間ひとりを抱えるなんて指先で出来る。

 だが、この姿での筋力は、人間の女性の平均値より少し高い程度だ。

 不便を感じつつ、ショウマを抱え、重い足取りで風呂場を出る。

 

 「ふぃ~」

 

 ハントとショウマがいなくなった風呂場にはそんな状況など知らぬがごとく、

 浮き輪を付け、湯船でくつろぐフレスだけが残された……。

 

 


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