ガンダムブレイカー2外伝 機動戦士ガンダムEX 異次元の救世主 作:ZEXT933
アークエンジェルの通路を、一人の少女が駆け抜ける。
誰かの身を案じているような表情を浮かべた彼女は、医務室のドアを勢いよく開け、叫んだ。
「レーア!」
ベッドで呼吸器を付けているレーアは、自分を呼んだ、懐かしい声の主に目を向ける。
そこにはかつて、共に死線を乗り越えた彼女がいた。
「……エクス」
翡翠色の瞳、幼さを残した端正な顔立ちに、後頭部で束ねられた、尻尾の様にたなびく蒼い髪。
とても軍人には見えない、小柄な肢体。 胸元に赤いリボンのある、白いラインが入った蒼いブレザー、赤いミニスカート、白のニーソックス、小さな金の髪飾り。
その鮮烈な色使いの服装は、どことなく彼女本来の姿を連想させる。
この少女こそ、エクスガンダムの対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドモードである。
「間に合ってよかった」
「ギリギリだったわよ……?」
安堵するエクスに、レーアが皮肉混じりに答える。
「ごめん……」
申し訳無さそうに謝るエクスの胸元を見て、レーアはあることに気づいた。
以前のエクスは、良くて小学生高学年にしか見えない、起伏のない平坦な身体つきだった。
しかし、今の彼女の身体には、発育の良い中高生のように立派な起伏が存在していた。
「身体、少し……大きくなったんじゃない?」
「身体機能をアップデートしたんだ。 それでも、まだレーアよりは小さいよ?」
ふふっ、とレーアが笑う。
しばし二人は見つめあい、レーアが、先にその言葉を口にした。
「おかえりなさい」
「……ただいま」
再開を喜ぶ2人を、やわらかな空気が包んだ。
――――――
薄暗い、どこかの施設。
そこにズオォ……と、黒い霧を纏った白と黒の機体、Sinエクスとダハーカが転移してくる。
「……なぜ邪魔をした」
強引に撤退させられた不満を、Sinエクスがダハーカに漏らす。
「ア、ノ、コゾ、ウ……」
返すダハーカの言葉は、片言ばかりで言語の体を成していない。
「相変わらず……お前では会話にならん、ヤツはいないのか?」
ダハーカに呆れた様子を見せ、Sinエクスが踵を返そうとした。
――その時。
「ガ、ギ………」
ズワァッ……と、ダハーカから黒い霧が吹き出し、その頭上で人型に固まっていく。
「ハーハーハ、私だ」
「出てきたか」
黒い霧がSinエクスに喋りかける。
この黒い霧の正体、それはSinエクス自身ですら知るところではない。
ただ、あの地獄とも呼べる絶望の中で、自分に力を与え、この姿にしたのはこの存在だ。
「なぜ撤退した。 あのまま戦えば奴らを倒せたものを……」
「いやーハハ、すまなかった。 予定にない客がいるとは思わなくてね」
黒い霧はダハーカとは打って変わって、軽口を交えつつ流暢に喋る。
「あのサルバドールとかいう奴のことか?」
「おそらく、君の胸のソレを取り返しに来たのだろう」
黒い霧が、Sinエクスの胸のクリスタルを指差す。
その中には、何重にも重なった黄金の輪が、その中心にある光を護るように回転していた。
「ソレは、私がミュトスから奪ってきたものだからね」
「それで……計画を変更しろと?」
「いやいや……君は君の計画を予定通り遂行したまえ。 奴らの相手は……私の
――ウオオォォォ!
黒い霧の言葉に、ダハーカが勇ましい唸り声を上げる。
「……お前が何者でどんな存在なのか。 そんなことはどうでもいい。だが、協力するというなら利用させてもらう」
「ハーハーハ、それで構わんよ。 私も、君たち二人の戦いには、とても興味があるからね……ンフフ」
そう言って黒い霧は消えた。
君たち二人、それはおそらく、自分とエクスガンダムのことだろう。
そうだ。 この計画には、奴との決着も組み込まれている。
Sinエクスは自身の計画を遂行するため、施設の電源を入れる。
目の前の巨大モニターに映し出された宇宙空間。
そこには彼の計画の要たる、巨大なパラボラアンテナのような建造物が浮いていた……。
――――――
「わぁー! エクスさん、なんだか大人っぽくなりましたね♪」
アークエンジェルのブリッジを訪れたエクスを、ルルが笑顔で出迎える。
「マトック副長もお久しぶりです」
「君にはまた、危ないところを救われたね」
マトックが感謝の言葉を述べると、ルルがエクスの頭頂部を見ながら身体をくっつけてくる。
「ん~?」
「え……なに、ルル?」
ルルが、エクスの頭に掌を乗せる。
そのままゆっくり掌の高さを保ちながら、自分の頭上に移動させると、少し隙間が出来る。
「副長、見てください! エクスさんったら、私より背が高くなってますよ!」
「ははは、半年で随分伸びましたな」
目の前でぴょんぴょんと跳ねるルルと、マトックのボケのような受け答えに、エクスはあはは……と苦笑する。
「それで、これからどうするんですか?」
「敵の手がかりが何ひとつない。 だから、まずはハント達と合流しようと思う」
「あ、お二人も来ているんですね!」
その言葉を聞いたエクスは、ニヤッとした表情で言葉を返した。
「二人じゃない」
「え?」
予想していなかった返事に困惑するルル。
少し溜めた後、エクスは言った。
「新しい仲間がいる」
――――――
地球軍 旧日本領――。
「くそっ、数が多すぎる!」
師から受け継いだ技を伝えるため、地球に降りていたショウマも暴走MSと戦っていた。
だが、圧倒的な数の飛行型MSに上空から攻撃され、劣勢を強いられていた。 乗機のゴッドガンダムがいくら高性能なMFであるとは言え、空中での機動性、射程ともに勝る飛行型MSを複数相手にするには限界があった。
着死した瞬間を狙われ、一斉砲撃が加えられる。
「ぐわあああああああああああぁ!」
モビルトレースシステムにダメージがフィードバックされ、全身に激痛が走る。
一瞬意識が途絶れそうになり、爆煙の中に膝をつく。
「ちくしょ……ぐぅっ!」
立ち上がろうとすると、鈍痛が走った。
ファイティングスーツの右手首、右肘、左足首が赤く発光している。
それは今のダメージで、機体の至るところが損傷している事を告げていた。
「こんなところで、終われねえ!」
それでも立ち上がろうとする。
敵機の群れが、獲物にトドメを刺し、屍肉を貪ろうとするがごとく迫る。
その時だった。
――ピィィィィィィィ――!
甲高い鳴き声とともに目の前を突風が過ぎ去り、眼前の敵機が斬り刻まれ、爆散した。
「な、なんだ……?」
上空を見上げると、風とともに猛スピードで舞い上がる影があった。
(鳥……?)
薄緑色のボディに、猛禽類を思わせる鋭い鉤爪と、赤く巨大な4枚の翼を持った機械の鳥。
それは突風を巻き起こしながら急降下し、再び敵機に襲いかかる。 敵機の攻撃をひらりとかわし、すれ違いざまに敵機の右腕を食いちぎる。 その巻き起こす突風のあまりの強さに、周辺にいた敵機も次々にバランスを崩し、その隙を突かれ一体、また一体と喰いちぎられていく。
翻弄される敵機は、まるで鳥籠の中で追い回される獲物のようだ。
そんな中、それを援護するかのように、どこからとも無く撃ち出されたビームが敵機を貫く。
爆炎をバックに飛来する真紅の戦闘機。 その戦闘機にショウマは見覚えがあった。
「あれは……!」
「ショウマ!」
戦闘機は空中で変形し、人型となって降りてくる。
それはかつて、短い間だったが共に戦った仲間、エクスハントガンダムであった。
「大丈夫か?」
「これくらい、なんともねえよ、……ぐぅっ!」
意地を張ってみせるがダメージは深刻だ。
エクスハントに肩を貸してもらい、立ち上がる。
「アイツは?」
上空で戦い続ける、あの鳥の事を尋ねる。
「新しい仲間だ」
「仲間……」
「おい、フレスヴェルグ!そいつら全部喰っていいから、一気に片付けろ!」
――ピィィィィィィィ――!
エクスハントの言葉が届くと、フレスヴェルグの目が光り、一瞬にして人型にその姿を変えた。
「変形した!?」
「ショウマ、こっち隠れろ!」
「え、なんで?」
「いいから!」
エクスハントに連れられ、そそくさと物陰に隠れる。
「なんだよ一体……」
「まぁ見てろ」
上空で静止するフレスヴェルグ。
すると、風が吹き始め、辺りの小石や、小さな物がフレスヴェルグに吸い寄せられるかの如く、地面を転がり始めた。
風は次第に旋風に、旋風は暴風になり、フレスヴェルグを中心にした巨大な竜巻を形作る。
敵機を始めとした、周囲のあらゆるものが竜巻に飲み込まれ、上空に巻き上げられていく。
「うおおおおおおおおおおおぉ!?」
「オイ! やりすぎだフレス!」
竜巻に巻き込まれないよう、必死に岩肌にしがみつくショウマとエクスハント。
歯を食いしばりながら、微かに開けたショウマの眼に映ったのは、竜巻から放たれた鋭い緑の閃光が、敵機を次々に斬り刻んでいく光景だった。 敵機が全滅すると、竜巻は消滅し、巻き上げられていた物が雨あられのごとく地上に降り注いだ。
「ふぅー、終わった」
エクスハントが機体に積もった埃を落としながら、ホッとした声を出す。
ショウマは状況が飲み込めず、固まったままだ。
「な、なんなんだよアイツは……」
「さっき言ったろ。 俺達の新しい仲間の、G-フレスヴェルグ」
「そうじゃなくて、アイツのあの力だよ」
フレスヴェルグは再び鳥型に変形し、地上に降りてくる。
その周りに散らばるのは、斬り刻まれた無数の敵機の残骸。
「アイツはな、風を操れるんだ」
「なんだそれ、滅茶苦茶な力だな」
「アイツは前の世界で……」
「お、おい……」
「ん?」
エクスハントが説明しようとした矢先、フレスヴェルグを見てショウマはあることに気づいた。
「アイツ、なんか喰ってないか?」
ショウマの言うとおり、フレスヴェルグは敵機の残骸をガツガツと、そのクチバシでついばみ、飲み込んでいた。
「あぁ、アイツは金属とか、色んなもの喰って成長するタイプらしくてな」
巨大な機械の鳥が、機械を貪り喰っている光景と、それを当たり前のように話すエクスハント。
ショウマは湧き出てくる数々の疑問と質問を、そういうものなんだと考え、無理やり自分を納得させた。 考えてみれば、彼ら絡みで驚かされない方が珍しいのだ。 ショウマは彼らが自分を助けに来た意味を考え始めた。
「お前らが来たってことは、エクスとグラッドナイトも来てるのか」
「おう、エクスはアークエンジェル、グラ達は知り合いのところ。 で、オレたちはお前を助けに来たってわけ」
「他のみんなは無事なのか?」
「分からねえけど、多分大丈夫だろ」
「多分って……」
「信じろよ。 お前と、オレの仲間をさ……。 お、来た来た」
何かを感知したようにエクスハントが空を見上げる。
「来たって何が?」
「船だよ、オレたちの」
「船って……どこにだよ」
ショウマが夕焼けの空を見渡すが、船らしきものは影も形もない。
だが、どこからとも無く、轟音が響いてくる。
音の大きさから、その出処は近いはずだが、辺りにはまだ何も見えない。
そして、音はますます大きくなっていき……。
「熱光学迷彩解除、着陸シーケンス」
エクスハントがそう言うと突如、頭上の景色が歪み始めた。
歪んだ景色から徐々に姿を現したのは、四枚の羽を持った全長40mほどの、青白赤の三色で塗装された宇宙戦艦だった。
いきなり頭上に現れた巨大構造物に、ショウマが驚嘆の声を上げる。
「うおおおお!?」
「これがオレたちの船、ガラージュだ」
ガラージュは垂直着陸でエクスハント達の前に降りると、格納庫へ通じるスロープを展開する。
「宇宙に廃棄されてた戦艦をオレたちが改造して造ったんだ。 宙海空、海の底から次元の壁まで超えられる万能艦だぞ、すげえだろ」
「でも……なんかちっちゃいな」
ショウマの指摘通り、ガラージュの全長は、同じ戦艦であるアークエンジェルの五分の一ほどしかない。
「あぁ、それも理由があってな。 まぁ、まずはお前の機体を載せようぜ」
エクスハントに支えられながら、ショウマはゴッドガンダムを格納庫に収納する。
ハンガーへの固定が完了すると、ゴッドガンダムから降りたショウマは格納庫を見渡す。
ゴッドガンダム一機で格納庫の三分の一が専有されている。 MSが3機も入れば、ぎゅうぎゅうになってしまうだろう。
「……あれ、ハント?」
ふと、エクスハントの姿が消えていることに気付く。
外を警戒しているのかと思い、格納庫から外に通じるスロープを行くと、スロープの下から誰かが歩いてくる。
「身体は大丈夫か、ショウマ」
「…………」
自身の前で立ち止まった一人の女性を見て、ショウマは固まった。
後頭部で短く束ねられた、宝石のように鮮烈な紅い髪、神秘的な蒼い瞳。 黒のパンツにスポーツブラ、スニーカーのみという、外を出歩くには不適当な、もはや下着と言っても差し支えない服装には、彼女の豊満なボディラインがそのまま曝け出されていた。
そんな破廉恥な格好をした彼女に、ショウマは見覚えがあった。
「え……、もしかしてハント!?」
「おう、オレだ」
先ほどまでの男らしく低い声とは全く逆の、女性らしい澄んだ声でハントが答える。
その返答にショウマは困惑する。
「え、いや……え!?」
以前のハントは、エクスとグラッドナイトの、三人まとめてそっくり身体つきで、小学生のような姿だったはず。 だが、今の彼女の身体つきは、それとは真逆の、大人の色気に溢れていた。 特にハントが動く度にたぷんっ……と揺れ、胸元でその存在を主張する大きな双球。
以前の容姿との、そのあまりの違いにしばし呆然となる。
「どうした?」
「い、いや……なんでもない!」
顔を覗きこんでくるハントに我に返り、慌てて背を向ける。
どうしてそんな格好をしているのか、とハントに問う余裕はショウマには無かった。
「んー?」
ハントには、ショウマが慌てている理由が全くわからなかった。
「……まぁいいか。 おーい、フレスー! そろそろ出発するぞ―!」
そんなショウマを尻目に、ハントがフレスヴェルグを呼ぶと、ズシン!と格納庫前にフレスヴェルグが降りてくる。 ショウマも振り返り、フレスヴェルグの姿を確認する。 だが次の瞬間、フレスヴェルグの姿がパッ……と、一瞬で消失した。
「へ? 消えた?」
「あそこだ」
困惑するショウマに、ハントがフレスヴェルグが消えた辺りに指をさす。
目を凝らすと、パタパタと小さく動くものを見つける。
だんだんと降りてきたソレは、突き出されたハントの腕に、ぴょこんっと止まった。
「……は?」
「ふぃ~」
ハントの腕に止まったソレを見て、ショウマは再び固まった。
二頭身ほどのちんちくりんな体型、後頭部で束ねられた黄緑の髪、光がなく、何を考えているか分からない大きな目。 幼稚園児が着ているような緑色の服に、羽根のような赤いマント。その姿はもはや人間というより、ぬいぐるみに近い。
「誰、それ?」
「誰って、フレスヴェルグ」
「…………」
おかしい。
先程までのフレスヴェルグは、猛禽類のような鋭い目つきをして風を操る。
野生という言葉が相応しい獰猛な存在だったはずだ。
そのフレスヴェルグが変身した姿が、このちんちくりんな体型の幼稚園児だという。
戦闘の疲れと、衝撃の事実の連続で、ショウマを軽いめまいが襲う。
「よし、出発するぞ。 まずはグラ達と合流だ」
ハントが艦のシステムに指令を出すと、格納庫のハッチが閉まり、轟音を響かせガラージュが離陸し始める。 頭を抱えるショウマと、楽しそうに会話するハントとフレスを乗せたガラージュは、離陸とともに熱光学迷彩を展開し、夕焼けの空にその姿を完全に消した……。
<登場人物紹介>
・エクスハントガンダム
【挿絵表示】
【挿絵表示】
エクスガンダムと行動を共にする仲間。
戦闘機形態への可変機能を持つ、ヒット・アンド・アウェイを得意とする高機動型MS。
・G-フレスヴェルグ
【挿絵表示】
【挿絵表示】
【挿絵表示】
新たにエクスガンダム達と行動を共にするようになった、鳥型に変形する能力を持つMS。
コズミウムを介して大気を操る力と、金属や機械を食べ、その力を取り込む性質を持つ。
武装は剣状に変化した右手、左手から出す触手と、矢のように飛ばす事ができる尾羽根。
・エクス
【挿絵表示】
エクスガンダムの対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドモード。
・ハント
【挿絵表示】
エクスハントガンダムの対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドモード。
・フレス
【挿絵表示】
G-フレスヴェルグの人間態。
この状態でも大気を操れるため、その力を利用して宙に浮ける。
眉毛の動き以外に感情表現はなく、鳴き声しか発さない。