ガンダムブレイカー2外伝 機動戦士ガンダムEX 異次元の救世主 作:ZEXT933
――しん、と静まり返る空間。
アークエンジェルクルーを含めた全員が、しばし惚けたように身動きひとつできず、
ただ呆然とその姿に目を奪われていた。
もちろん何らかの超常現象によるところではなく。
サルバドールの、そのあまりにも大仰で、場違いな登場ゆえに、である。
「――なぁンてな!」
へへっ、と冗談めかすように手を揉むサルバドール。
それを見たSinエクスは、ハッと我に返り立ちあがる。
「なんだ……貴様は!」
破損した右腕をかばいながら、Sinエクスはサルバドールを睨む。
その姿を見たサルバドールは、ぎょっ、としたように驚き。
「あれっ!? お前……? よく見たらちげーじゃん! なンだよ、"ヤツ"だと思ったのに」
「何を……わけの分からんことを!」
「あ、ゴメン。間違え……ん? いやよく見たらお前、
言うが早いか、Sinエクスは左腕のグレイプニールを、サルバドールに向けて発射していた。
高速で発射される鉤爪を、サルバドールは上半身をそらすことでひらりと躱す。
「おっと! やっぱお前、ヤツの仲間か! ちょうどいい、やるってンなら相手になるぜ!」
のけぞった姿勢のまま、Sinエクスに向かい、ビシッ、と指をさすサルバドール。
「――木偶共! かかれ! こいつを始末しろ!」
激昂したSinエクスが、その場にいる木偶MSに命令を出すと、停止していた操り人形が歪に動き、一斉にサルバドールに躍りかかった。
襲い来る木偶MSを、両手で払い、あやしながら、鼻の下をこするサルバドール。
「言っとくけどこの俺、ケンカは大得意! と・く・に、こんな……!」
寄ってくる木偶MSを蹴り飛ばし、身をかがめ、同士討ちを誘発させながら、サルバドールは腰のサーベルを二本組み合わせ、アンビデクストラス・ハルバードと形容される、両刃剣のような武器を形作る。
「――山盛りのザコ共とのケンカはなァ!!」
そう叫ぶと、両刃剣、正しくは――飛翔剣ディバイン・ネメジス、と呼ばれるそれを投げつける。
サルバドールの手から離れた飛翔剣は、旋風のようにひとりでに回転し、その名のとおり、神罰のごとく木偶MSの命を刈っていった。
ダメ押しに、サルバドールは右肩の小型榴弾砲――ディバイン・アポロニウス、を
破壊の嵐が過ぎ去り、
「まだいンのかよ、数だけは多い――や、多すぎンぜ」
辟易するようにつぶやき、弾丸の切れた榴弾砲をパージすると、恐怖を知らず飛びかかってくる木偶MSに投げ渡す。
「――ほらよッ、持ってろ」
投げ渡された三体の木偶MSは、そのあまりの重量に地面に縫い付けられ、身動きがとれず、
それでもまだ沈みゆくそれに圧し潰され、機能を停止した。
残りが数少なくなりながらも、Sinエクスの命令のままに、次々とサルバドールへと躍りかかる木偶MS達。
その軍勢を、主人のもとへ還ってきた飛翔剣がついでとばかりに切り裂き、サルバドールが予備のサーベル、予備の予備のサーベルまでも投げつけ、左肩のシールドをフリスビーのように放りだす頃には、動ける木偶MSはすべて殲滅され、その様子を驚愕の
「――君は一体……!?」
傷ついた体を起こし、消えいりそうな声でつぶやくエクスガンダム。
「あーとーは! ……お前だけだな!」
エクスガンダムの声は一切耳に入らず、Sinエクスのもとへ、拳を振りあげながら猛突するサルバドール。
――
その両の
彼の地、サルバドールの故郷――夢幻神界ミュトスにおいては、超常の怪物が自然発生的に出現するのは、ほぼ日常茶飯事のことであり。
ある時、体長が40メートルほどの、全身が
暴れに暴れる数百トンもの大イノシシを、そのうえで神々に祝福されたサルバドールの身体は、恐るべき力で真正面から受け止め、牙を手刀で叩き割り、その眉間を拳で貫き、即死せしめている。
――その、必殺の拳が。
突如として、Sinエクスの背後から、ぬるりと姿を現した黒い影に、いともたやすく捕獲されていた。
目の前に立ちはだかるその姿を確認した瞬間、サルバドールは全身が総毛立ち、加えてほとばしるような敵意をむき出しに叫んだ。
「
残った拳を黒い影――ダハーカの顔面に叩き込もうとするが、ダハーカはそれよりも遥かに俊敏に、蛇が絡みつくような正確さで、サルバドールの拳が形になる前に抑えこんでいた。
手四つの姿勢になる両者だが――、実力は伯仲していない。
サルバドールは、素手の戦いならばどんなときでも己に分があると考えていた。――が、
目の前の黒蛇は、己の膂力をふりしぼっても、岩のように動かず。
それどころか、じわじわとこちらを抑えこんでいることに、だんだんと気づきはじめていた。
「――第一級神造粛清官、サルバドール。神命に依り貴様を……あぁ!もーめンどくせえ!」
サルバドールは、ここ一番の力を発揮してダハーカを押し返すと、己の
「てめェをぶっ倒しにきたんだ! アジ・ダハーカ!」
ダハーカは、その無表情な顔を崩さず、目尻だけを少し、にやりと上げると、健気にも反骨心を燃やす幼き戦士を吊るように持ち上げ、
「――カ、ヨワイ、ナ。 コゾウ」
と、抑揚のない声で喋り、洗濯物をはたくがごとく、サルバドールを地面に叩きつけた。
「――――ッッ!!」
一言すら発することもできず地面にめりこんだサルバドールを尻目に、ダハーカはSinエクスのほうへと向きなおる。
ごう、と黒い竜巻を起こしたかと思えば、ダハーカとSinエクスは、その場からかき消えるように姿を消していた。
―――
ダハーカとSinエクスが、その姿を消したのち、応急修復機能によりどうにか動けるまでに回復したエクスガンダムが、レーアのクアンタの元へとにじり寄り、彼女の無事を確認していた。
「レーア、大丈夫かい?」
「なんとか……ね、あまりにも周りがうるさいから……意識を失わずに済んだわ……」
気丈にふるまうレーアだが、危険な状態には変わりない。
エクスガンダムは、最大限にゆっくりと、レーアをいたわるように、クアンタを横抱きにすると、アークエンジェルへ歩いていく。
「ルル、ハッチを開いてくれ。これからレーアを運ぶ、それから医療班も」
「――了解です。メディカルスタッフはすでに待機させています」
アークエンジェルのハッチの中に、クアンタを横たえると、すぐにメディカルスタッフが数人あらわれ、レーアを担架に乗せる。
「――さて」
ドッグ内を見渡すエクスガンダム。そこには先ほどまでの戦いの爪あとが色濃く残っている。
ライフルの弾痕、粉塵、MSの残骸、そして恐らくは気を失っている――白い戦士。
「よいしょっ…と」
エクスガンダムは、白い戦士――サルバドールを助け起こし、蘇生を試みる。
「おい、大丈夫か、起きるんだ」
何度かその体を揺らしつつ声をかけていると、やにわにサルバドールが意識を取り戻し、エクスガンダムの腕を払いのけ、翻るように立ち上がる。
「――お前……! そうか、お前とはケンカの決着がまだだったな!」
そうやって構えるサルバドールを、エクスガンダムは両腕で制しつつ、
「待て待て待て! 私は敵じゃない!」
己が知るかぎりの経緯を語ると、サルバドールは少し落ち着きを取り戻したようで、振り上げた拳をごまかすように頭の後ろへと回していた。
「なるほど、あンたは確かに敵じゃないみたいだ……。
「わかってくれて嬉しいよ。私はエクス、エクスガンダム。君は……?」
「俺はサルバドール! ミュトスの神サマの命令で、あの黒いヤツ――ダハーカを追ってきたンだ」
そう言うと――どうやら名乗りにはこだわりがあるらしく、キッ、とサルバドールは小さく見得をきる。
「ミュトス?」
「ん、ああ、こことは別の次元の……神サマと人間とバケモノが平和に暮らしてる。 ……俺の生まれたトコさ」
はたしてそれは本当に平和なのだろうか、という疑問を飲み込みつつ、エクスガンダムは続ける。
「さっきの2体、Sinエクスガンダムとその……ダハーカについて、君は何か知らないか?」
「あの白い奴は俺も見たことねぇな。ダハーカってヤツは、おたずね者ッていうか……賞金首? 指名手配犯? いや……そんな軽いもンじゃねえな。神サマによると、あいつはほっとくと宇宙を滅ぼすほどのとんでもねえバケモノだってさ。俺も戦ってわかったよ。あいつはヤバすぎる。
――そうだ、あンた……見てたんなら、あいつがどこに消えたか知ンねーか?」
「彼らは、君が気絶してすぐに姿を消した。どこに言ったかは私にもわからない」
「そッかー……」
肩を落とすサルバドールの精神年齢が、見た目よりも遥かに幼いことをエクスガンダムは看破しつつ、そのまま胸の内にしまっておいた。
「君はこれからどうするんだい?」
「決まってる! あいつを探しだしてぶっ飛ばす!」
「でも居場所が分からない」
「う……」
気合だけが先行したのか、言葉に詰まるサルバドール。
「あー、さっきまではこう……なンてーか強い反応があって、それを目印に来たんだ。で、見つけてみたらダハーカの野郎じゃなくて……まあ結局ヤツのことも見つけたんだけど、今はなンにも感じねえ」
「――! つまり君は彼らが近くにいればわかるのか?」
手がかりを見つけたとばかりに、がっしりとサルバドールの肩を掴むエクスガンダム。
「お、おう……」
「それなら私達と一緒に来ないか。私も、彼らには会わなければならない」
「へぇ……目的は同じ、ってやつか。 いーぜ! 一緒にいってやるよ」
「――ありがとう!」
二人の
敵の規模も、正体も、目的も、何もかもわからない暗中模索の旅路に、初めて一筋の光が
さした。
「――ルル、アークエンジェルの状態は?」
「――応急処置をすれば航行は可能です……それと、レーアさんの容態ですが」
「どう……なんだ?」
「打撲や内出血、そして内臓へのダメージが少々……ですが命に別状はありません。
意識もはっきりとしていますし、安静にしていれば大丈夫みたいです!」
「そうか、良かった……会っても大丈夫かな?」
「――はい、構いませんよ」
ルルへの通信に応答すると、やにわにエクスガンダムの身体が光を帯び、その姿が、ふっ、と消える。
「……は!? おい、どこに――」
こつ然とその姿を消したエクスガンダムに驚くサルバドール。
あたりを見回し、その場をひとまわりすると、足元から何者かの声がする。
「おーい、ここ、ここ!」
気づけばサルバドールの足元に、小柄で華奢な、青い髪の少女がいた。
「あ? なんだお前……」
「私だよ、えくす。えくすがんだむ!」
自らをエクスガンダムと名乗る少女の姿、その意味を理解した時――。
「――はああぁぁッ!?」
サルバドールは、にわかに飛びあがるほど驚いた、
<登場人物紹介>
・G-サルバドール
【挿絵表示】
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ミュトスの神々により、宇宙の平和と、ミュトスを脅かすものを撃滅するために作られた神造使徒。いわゆるメシア。
一応、ミュトス元老院直属第一級神造粛清官【救世主型】、という肩書を持つが、サルバドールは面倒で覚えていない。
一騎当千に等しい力を持つが、造反防止のためにあえて組み込まれたその幼い人格がリミッターとなり、真の力を発揮することはほとんどない。
しかしこの幼い人格のインプリンティングには、予定されたスペック以上の力を発揮できるかもしれないという、神々の願いが含まれているのも事実である。
ちなみに、ミュトスの神々には孫のように扱われ、可愛がられている。
・武装
ディバイン・ヘリオス
【挿絵表示】
眩き太陽神より、闇を照らす超感覚と、善悪を見定める加護を受けた、サルバドールの額、第三の目。
特定のエネルギーの波長を感知する能力と、知的生命体のアストラル体を色で判別し、その善悪を感覚的に察知する能力をもつ。
なお、額から、射程は極端に短いが切断に特化したレーザーを放つこともできる。
金剛真球アンドロギナス
【挿絵表示】
ミュトスの神々の力を結集し、1つの惑星に匹敵するエネルギーを凝縮した真球。放出したエネルギーを再吸収できる、完成された動力炉。
しばらく行動不能に陥るが、エネルギーの50%を使用することで、レイジング・ノヴァ・ユピテルスと呼ばれる破壊光線を撃つことができる。
ディバイン・アレウス
【挿絵表示】
荒ぶる破壊神より、目の前の障害をすべて圧し潰す力の加護を受けた、サルバドールの両腕。
その拳は不落の城壁を砕き、その手刀はあらゆる守りを切り裂き、雷光をも霧散させる。
ディバイン・ヘルメス
【挿絵表示】
疾き伝令神より、どんな状況においても全力で地を駆ける加護を受けた、サルバドールの両脚。
全身に力を伝える俊足と体幹を制御し、サルバドールが常にフルスロットルで行動するための要となっている。
ディバイン・アポロニウス
【挿絵表示】
輝く狩猟神より、敵を殲滅せしめる光の射手としての加護を受けた小型榴弾砲。
撃ちだされた彗星のような光弾は、高速で対象へと迫り、炸裂する。
すさまじい強度を誇る金属、神鉄アダマスによって作られたこの武器は強固かつ非常に重く、鈍器としての使用にも耐えうる。
ディバイン・ネメジス
【挿絵表示】
猛き刑戮神より、己に仇なす者を尽く断ち切る加護を受けた、自律式飛翔剣。
二刀一対の武器であり、予備を含めて6本装備しているこれらを組み合わせて使用する。
投擲すると回転鋸のように激しく回転し、使い手が敵と認識したものを根こそぎ切り刻むまで、その猛威をふるいつづける。
ディバイン・アテナス
【挿絵表示】
気高き戦女神より、消して曲がらず、そして砕けぬ加護を受けた、神鉄製対衝撃型防盾。
なお、投擲武器としても使用でき、投擲後は盾自らの意志で主人のもとへ帰ってくる。