ガンダムブレイカー2外伝 機動戦士ガンダムEX 異次元の救世主 作:ZEXT933
「……ふう」
――ライフルを冷却モードに移行。 リミッターは300秒。ならびにコズミウムのリチャージを開始。
コズミウムエネルギーの爆発が、花火となって夜空を照らす。
その光につられたかのように、
――まだいたか。
息つく暇もなく。
どこから湧いてくるのか、再び木偶共が集まりつつあった。
先手を取るべく、ゲートからディバイダーを召喚し構え―――その時。
「――止まれ」
冷たく無機質な声。
この空間を支配しているかのように響くその一言で、全ての木偶が動きを止めた。
「……誰だ!」
ディバイダーを展開し、戦闘態勢に入るエクスガンダム。
彼が人ならば、冷や汗を流すほどの張りつめた空気。
ジャキッ、ジャキッ、という連続した金属音が、木偶MS達の後ろから近づいてくる。
時間の流れが遅くなったかのような重たい緊張感。
「――どけ」
木偶の群れが二つに割れ、道を作る。
悠々とこちらへやってくる重圧の正体を見極め――。
――バカな。
「何だ……お前は……?」
エクスガンダムの意識は凍りつく。
その姿は。
エクスガンダムに似ていた。
――いや、似ているというのは誤りで。
似すぎていた。
そっくりだった。
瓜二つだった。
エクスガンダムと鏡写しのガンダムフェイス。
氷のような白に、深海のような青のボディ。
両腕には禍々しさを放つ特殊武装。
そして背中には骨格のごとき翼。
ただ似ているというだけではない。
エクスガンダムを光とするなら、謎の機体は影。
まるで同じものから生まれた双子のような……。
――存在そのものが同一のような。
エクスガンダムの体はぴくりとも動かない。
――否。
動けない。
目の前の事実から目を離せない。
――なんだ、この感じは。
「お前は――」
「――フンッ!」
疑問よりも速く、影は疾走する。
残像すら残さない。目にも留まらぬ一瞬の肉薄。
「がっ!?」
喉元を掴まれたまま勢いよく壁に叩きつけられ、ディバイダーを取り落とす。
メキリ、と。
あまりに強大な力に、装甲が音を立てて軋む。
――なぜ。
「!?」
「なぜ……戻ってきた……!」
影(ドッペルゲンガー)は絞りだすような声でつぶやく。
同時に、エクスガンダムを抑えつける腕にさらなる力を込めた。
「お前は――!」
一体誰なんだ。
その言葉を吐き出す前にスラスターに点火。
エクスガンダムは押さえつけられた体を無理やり引き剥がし、己を拘束するその腕を蹴り上げて脱出。
四足獣の如きしなやかな動きで、対手との距離をとった。
「お前は一体誰なんだ!」
プレッシャーを吹き飛ばすように、再び疑問を口にする。
影は答えない。
代わりにその体から黒い霧のようなものが吹き出し、木偶MSの残骸にまとわりつく。
「――バカな!」
あろうことか。
破壊された機体の残骸は、その霧を己の血肉とするがごとく1つに集まり。
――合体し。
――結合し。
屍人のように不格好で不安定な形――だが。
その体に再び火を得たのだった。
―――
――ピピッ。
突然のコールが入る。
発信源は――アークエンジェル。
どうやらルル達は無事のようだ。――通信ON。
「エクスさん! 聞こえますか!? ルル・ルティエンスです!」
「――やあルル。 久しぶり……いや、それどころじゃないな。 ごめんよ、こっちはもう少しかかりそうだ」
ライフルを構え、木偶共を制止しつつ、少しづつ後ずさる。
「よくわからないけど……どうやら敵は
「まさにそのことです! こちらの解析によるとあのエクスさんにそっくりな機体から、
黒い霧みたいなエネルギーが網目のように伸びてるんです! だから……」
エクスガンダムと、その
――つまり。
「あいつを倒せ――ってことか!」
「その通りです!」
――通信OFF。件のドッペルゲンガーにライフルを向ける。冷却完了、セーフティ……解除。
「お前の目的はなんだ、なぜこんな事をする!」
ドッペルゲンガーは答える代わりに木偶MSの動きを手で制する。
それだけで、木偶共の動きはピタリと止まり、微動だにしない。
「人間を……人間の作ったものも……全て消去する」
「――何を!」
ドッペルゲンガーは一歩前に進むと、エクスガンダムに手を差し伸べて言う。
「同じ機械生命体同士――どうだ、俺と組まないか」
――あまりに唐突な申し出。
悩むまでもない。
人間を消去、滅ぼすことに手を貸せというのか――!
「――断る!」
これまで人とともに幾多の死線を乗り越え、その絆によって己を進化させてきたエクスガンダムにとり。
その提案は到底受け入れるものではない――!
ドッペルゲンガーは差し出した掌を握りこぶしに変えると、力なくその腕を下ろした。
――まあ。
「……だろうな!」
そう口にすると同時。
右腕の複合兵装からビームを放つ。
「――っ!」
転がりつつの緊急回避でそれを躱すエクスガンダム。
ドッペルゲンガーは、ゆっくりと歩きながら距離を詰める。
「なぜ人間を滅ぼそうとする!」
「……簡単なことだ。 人間こそ最も邪悪な存在。 自らの利益のために他者を踏みにじり、意に介すこともしない。
やつらはいつか必ず、この宇宙を滅ぼす!」
――バカな。
「人間はそんなものじゃない――!」
言うが速いか、エクスガンダムもライフルの照準を合わせ、コズミューム光弾を発射する。
「――フン!」
だがその高速の光弾はドッペルゲンガーの複合盾により、こともなげに払われる。
弾かれた光弾が、後方に整列する木偶MSに直撃し爆発。
ドッペルゲンガーの背後を明るく照らした。
「無垢な奴だ、お前はまだ何も知らない。 人間の醜さも、その愚かささえも」
「知ってるさ! そればかりじゃないってことも!」
――いや。
「お前こそ――、人間の何を知ってるっていうんだ!」
そう言い放つエクスガンダム。
人の美しさも、愚かさも、そういうものだと知っている。 エクスガンダムの偽りのない本心。――だが。
――みしり、と
空気が音を立てる。
――目の前に立つ、鏡写しの機体。
その機体が纏う禍々しいプレッシャーが、さらに別のものへと歪み、捻れ、変化する気配が――した。
「何を、知っているか……だと?」
「……!?」
一瞬の、わずかな逡巡。
まばたきほどのその隙に。
謎の機体はその姿を消していた。
「ぐぁっ!」
エクスガンダムの身体に、突然の衝撃とダメージが走る。
――幾度も。
――幾度も。
――幾度も幾度も幾度も。
「――がっ! なん――だ、どこから――!」
センサー類に一切の反応はない。だがこのダメージの主は確実にここにいる。
――見えない! これは……!
「貴様に!」
声がした。
左、右、上、後――どこから!
「――そこっ!」
声の方向へライフルを撃つ。
光弾は虚空へと吸い込まれ、代わりにカマイタチにでもあったかのようにライフルが破壊された。
「――貴様に何が分かる!!」
斬撃。
打撃。
射撃。
あらゆる攻撃が、たえまなくエクスガンダムを襲う。
――高速移動!? 速すぎる! センサーでも捉えきれない!
衝撃がエクスガンダムの頭部を襲う。
体制を崩し、仰向けに倒れたエクスガンダムの顔を踏みつけるかたちで、ドッペルゲンガーはその姿を現した。
「聞かせてくれ……」
踏みつける。
「お前が!」
踏みつける。
「人間の!」
踏みつける。踏みつける。踏みつける。踏みつける。踏みつける。
踏みつける。踏みつける。踏みつける。踏みつける。踏みつける。
「何を知っていると! いうんだ! ええ!?」
血を吐くような叫び。
「――ぐ、あ――」
エクスガンダムの装甲に亀裂が入る。 ――ダメージが限界を超えつつある。
「――俺は知っているぞ兄弟」
――なに?
踏みつける。
「同じところから生まれたモノ同士……わかってくれると思ったが。
――とんだ見込み違いだったようだ」
――残念だよ、と吐き捨てるように言う。
「お前は……!」
「んん?」
「お前は……何者なんだ……!」
――ひひっ、と。
それは笑った。
「俺は……、俺はお前だよ。 エクスガンダム! そしてお前も俺と同じ、エクスガンダムさ!」
――そんな、バカな。
「本当のことだ! 俺とお前は同じ、同じものだ! ……ああいや、違う。違うな。俺とお前は違う。
――お前はあまりにも無知すぎる。そうだ。俺とお前は違う。違いすぎる。見えているものも、背負っているものも!」
その身の禍々しさを、狂気へと変化させながらもう一人のエクスガンダムは叫ぶ。
『俺が……俺が背負っているものは罪だ。裁かなければならない罪と……裁かれるべき罪!
俺は宇宙を滅ぼすものも、その脅威も知っている! だからこそ……! 俺が、俺こそが宇宙の守護者たりえる!
――わかるか! 俺こそが
それこそがエクスガンダムに課された
――そうだ、俺こそが真のエクスガンダム。
『――俺の名は
―――
唐突に吹き出した狂気と、その身に刻まれた度重なるダメージにより、エクスガンダムは動くことができなかった。
――もう一人のエクスガンダム。
Sinエクスガンダム、と。
それは名乗った。
人間と共存し、その絆を以って己の力にするエクスガンダムの思想とはほど遠い。
人間を滅ぼし、消滅させることによって宇宙を滅びから救おうとする魔人、Sinエクス。
両者の正義は、決して交わりはしない。 ――そして。
「そんなこと――!
そんなことは絶対に許さない……!」
この双星は、決して倶に天を戴かない――!
その身に残る最後の力で、Sinエクスの足をがっしりと掴む。
――ブレイザーの力を、使うしかない。
エネルギーが尽きた後のことを考える余裕はもう……無い。
こいつを――倒さなければならない。 戦士として、守護者として、■■■■■■から産まれしものとしての、本能の叫び。
体内の覚醒輝巧ブリージンガ=メンをオーバードライブさせようとした――その時。
「――ギィッ!」
エクスガンダムを踏みつけにする魔人、その脇腹に突然の衝撃が走り、身体をくの字に曲げる。
声を上げるやいなや、その身体に次々と光が突き刺さり、吹き飛ばされ――いや、翻るように体制を立て直し、エクスガンダムから離れて着地した。
Sinエクスが正面を見やる。――そこには。
――エクスガンダムを挟み、Sinエクスと対面するように。
大口を開けたワーム・ホールが出現していた。
「なんだ……これは!」
Sinエクスは吠えた。彼にとっても想定外の事態らしい。
瞬間、ワーム・ホールからSinエクスに向かい、さらなる光の矢が襲いかかった。
――シッ!
1発目は後方に身を引いて躱し。
2発目は複合盾で受け流――せなかった。
光の矢は、受け流そうとした盾を深くえぐりながら炸裂。 右腕を破損させ、そのままSinエクスの体を地に這わせた。
「な――! ぐあっ――!」
エクスガンダムを圧倒する魔人が苦悶の声をあげる――その時。
――ワーム・ホールから何者かが飛び出し。
Sinエクスの前に立ちふさがった。
――その体は閃光の如く。
――その体は夜闇の如く。
――その体は燃える太陽の如く。
――その体は導く月の如く。
右肩に聖痕。胸に星の光を蓄えた、お伽話の英雄を思わせるその姿。
白磁の戦士は、地べたを這う魔人を一瞥すると。
「――聞いて驚け!」
両手を合わせ、舞うようなポーズを取る。
「天 が 怒 れ ば、俺 が 来 る !
悪 に 容 赦 の 二 文 字 な し !
俺 は 無 敵 の
身体全体を動かしながらそう叫ぶ。
くるん、と後方に一回転すると、ダイナミックで大仰なポーズをとり。
「お 呼 び と あ ら ば 、即 参 上 !」
――止まった時間の中。
――あまりにも場違いなその調子で。
異次元からの救世主が降臨した。