ガンダムブレイカー2外伝 機動戦士ガンダムEX 異次元の救世主   作:ZEXT933

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 太陽は黒く

 夜が来て黒く

 闇に沈んだ太陽は

 世界を照らせない

 太陽は暗く

 影よりも暗く

 蛇に呑まれた太陽は

 世界を照らさない



第1話
【終末の扉】


 

 地球圏全体を巻き込んだ地球軍とコロニー連合軍の戦争が終結してから半年。

 かつてのアークエンジェルクルーは各々が新たな道を歩み始め、しばしの別れを告げていた。

 

 ――ショウマ。

 彼は師匠フェズから教わった技を伝え広めるため地球に武者修行の旅へ。

 もっと強い奴と戦いたいとか、なんとか。

 

 ――エイナル・ブローマン。

 彼は部下とともにコロニー連合軍に復帰した。最近少し柔らかくなった……とか?

 みんな、それぞれの道にまっすぐだ。

 

 ――というのに。

 

 「はぁ……、私ってば何やってるのかしら」  

 

 ため息をつきながら不満を漏らす。

 

 「あれから半年もだらだらとアークエンジェルに残り続けて」

 

 夢を見つけるって約束したのに。

 

 「……はぁ」

 

 再びため息。

 ――約束、か。

 いけない。最近同じことばかり思い出す。

 こことは違う、別の世界からの来訪者。この世界を救って去っていった"彼"のこと。  

 

 『どうかしましたかぁ? レーアさん』  

 

 休憩室の机にうなだれているとルルが声をかけてきた。

 ――ルル・ルティエンス。

 彼女は終戦後もマトック副長とともにアークエンジェルの艦長を務めている。

 年下だけれど自分の道をしっかりと決めていて……私なんかよりよっぽどしっかりしている。 ――いけない。 ため息が、また。

 

 「なんでもないわ、ちょっと考え事していただけ」

 

 ――なんでもないのよ、と。

 

 『もしかして……エクスさんのこと考えてました?』

 

 ……なぜこんな時だけ鋭いのか。 この娘は。

 

 「どうしてわかったの?」

 『いえー、なんとなく。 私も最近エクスさんのこと思い出したりしてましたから』

 

 またいつか会いたいなー、とルル。

 

 「……そうね、私もまた会いたいわ。 彼には感謝しても、したりないから」

 

 エクスがいなかったら……あの戦いを生き延びられなかったかもしれない。

 

 『ほんとですねー。 それにしても別の世界から来た救世主(ヒーロー)だなんて、なんていうか……絵本の中の世界、ファンタジーです!』

 

 ルルは絵本の中のお姫様のごとく手を合わせうっとりしている。

 

 「……そういえば、例の事件の調査結果はどうなったの?」  

 

 ルルを正気に戻すべく、話題を変える。

 

 『あ、無人MSの暴走の件ですね。えー……』

 

 あれ、どこやったかなー。 と報告書の束をひっくり返すルル。

 ――片付けは手伝わないわよ。  

 

 ここ数ヶ月断続的に、廃棄予定やスクラップになったMSやMAが動き出し、無差別に破壊行為を行う事件が起こっている。

 規模は小さいけれども発生回数が次第に多くなっており、当然私達アークエンジェル隊もその対応に追われつつ、今は地球のグレートキャニオン基地で整備を受けている状態だ。

 

 『回収された機体の破片を調べても原因となるものは見つからなかったそうです。 スクラップが動き出す時に黒い煙のようなものが噴き出した、という証言がある程度で』

   ――黒い煙?

 

 「一体何がどうなってるのかしら。 撃墜しても粉々にしない限りスクラップからまた再生するから厄介極まりないし」

 『なんだか、アイランド・イフィッシュで戦ったデビルガンダムを思い出しますねー』

 

 アイランド・イフィッシュ。 大昔の廃棄コロニー。 ――碌な思い出がない。

 

 「それならDG細胞が検出されるはずでしょ?」

 『あぁ……。 でもそうなるといよいよ原因がわかりませんねー』

 

 やっぱり原因不明か。

 

 「ありがと。そろそろ仕事に戻るわ」

 

 すっかり冷えたコーヒーを飲み干し、席を立つ。

 

 『あ、はいお疲れ様です……何でこんなに報告書が散らばってるんですか!? レーアさんあの……レーアさん!?』

 

 ルルの叫びを背中に聞きながら、早足で仕事に戻った。

 

 

 

           ――

 

 

 

 その日の夜。

 

 「――ああもう何よ!」

 

 けたたましく鳴り響くサイレンに無理やり覚醒させられて飛び起きる。

 不機嫌に通信パネルを叩きブリッジに通信を繋ぐと、慌てた顔のルルが映った。

 

 『あっ、レーアさん大変です! 基地内のMSが突然暴走し始めました!』

 「暴走!? もしかして例の……」

 

 基地内のMSまで? こんなことは初めてだ。 しかも基地内には強力なMSが多い……。

 ――猛烈に嫌な予感がする。

 

 『レーアさんのクアンタは無事みたいですから、ただちに出撃をお願いします!』

 「了解!」

 

 嫌な予感を振り切り、汗ばんだ下着姿からパイロットスーツに着替えてクアンタに乗り込む。

 

 「まったく、パイロットには休む暇もないのね」

 『レーアさん聞こえますか? カタパルトは使えません、そのまま出撃願います』

 

アークエンジェルのハッチが開く。

 

 「了解。 レーア機、出ます!」 

 

 まずは隔壁の開放から。

 操作パネルの前に着地すると、艦船ドックの隔壁ごしに轟音がする。

 ――明らかな戦闘音。

 

 「隔壁を開くわ」

 

   開放スイッチを押す。 重い音をたてながらゆっくりと開く鉄の扉。

 じりじりと緊張が高まり、レバーを握る手にも力が入る。

 炎のゆらめきが垣間見えた……そこには。

 

 「うそ……!」

 

 ――なんて数。 予想よりも遥かに多い。

 無差別に破壊を繰り広げるそれらは、こちらを認識すると一斉に銃口を向けてくる……!

 

 「ソードビット!」

 

 フィールドを展開。 ――間に合う! なんとか直撃を防ぐ。

 ライフルで反撃……だめ、数が多すぎる!

 基地にはまだ人も残っているから大火力で応戦する訳にもいかない。 おまけに後ろには発艦できないアークエンジェル。

 

   「さすがに単騎じゃ厳しい……けど!」

 

 フィールドを展開しながらスラスターを全開。 敵集団に肉迫、GNバスターソードに切り替えて4体ほどをまとめて力任せになぎ……払う!

 いける!これなら――!    

 

 ――がくん、と

 激しい衝撃。

 視界が……いきなり高く。

 身動きも取れない。 なにが――!?

 全天周囲モニター越しに見えたそれは。

 巨大な――顔。  

 

 

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 「……PGサイズのガンダム!?」

 

 通常のMSの数倍の巨体を持つ、PG規格の機体。 おそらくは、前大戦の時に鹵獲されていた機体が動き出したか――。

 最悪だ。 自らがそれに掴まれていることに気付き、ソードビットや内蔵火器でやれる限りの抵抗を試みる。

 が、手応えを感じない。 ならば。

 

 「こうなったらトランザムで―――」

 

 ……っ!!!

 一瞬の浮遊感。

 直後に強烈な――G。

 猛烈な勢いで機体はドックの床面へ投げ――飛ばされ――しまった!

 

 「きゃああああああああああああああ!」

 

 体制を立て直す暇もない。 衝突の衝撃はGN粒子で相殺できる限界を超えている。

 

 「あ……ぐ……ぎ!」

 

 体はコクピット内で激しく叩きつけられ、激痛で身動きも取れない。

 激痛と脳震盪で朦朧とした意識に追い打ちをかけるようにMS集団からの一斉射撃。

 シールドビットの自動防御機能が働く。 が、それも多数の直撃弾を受け、爆散するのが見える。

 大量の粉塵の舞う中、攻撃による爆風と衝撃で機体は吹き飛び、今度は壁面にぐしゃりと叩きつけられた。

 朦朧とした意識が、さらなる激痛により少しだけ回復する。

 

 「が――ひゅ、あ――」

 

 必死に息を吸う。 ――血の味。

 

 「うご……か、ない、と……」

 

 ――死ぬ。

 機体は――メインカメラがかろうじて生きている程度で、もはや立ち上がることは出来ない。

 アークエンジェル――も敵機の攻撃により沈黙している。

 足音がする。

 巨大な足音。

 恐怖の足音。

 

 ――死の足音。

 

 諦めたくない。

 約束が、あるんだ――。

 

 唇を噛みしめる。

 レバーを引く。

 血の味がする。

 ペダルを踏む。

 動かない。

 眼前のそれはサーベルを大きく振り上げている。

 

 「……っ、……っ!」

 

 動け、動け……っ!

 懇願する。 無駄。

 サーベルが振り下ろされる。

 

 「――あ、」

 

 もう何も感じない。

 せまり来るそれを、

 死の、姿を……。

 その時は、

 

 ――――来なかった。

 

 轟音。 衝撃。

 目を開けば、そこには光があふれて――。  

 

 暖かい。

 この、光は。

 覚えがある。

 あの時の、約束の

 ――光。

 

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 目の前に現れたのは、見知った背中。

 蒼天を纏ったような、汚れなき青と白の装甲。

 私を、私達を何度も救ってくれた――。

 

 「―――エクス!!」

 『怪我はないか?』  

 

                  私達の 救世主(ヒーロー) が。

                    還ってきた。

 

 

   ―――救世主の物語が、いま再び。 


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