仮面ライダー Chronicle×World   作:曉天

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キャラの出典の作品名を間違えるという醜態を晒し、活動報告で堂々と次話の投稿に関する嘘を吐きながらも、再開致します。


第五章 DraGOn MemoriAl
第一節 黒鳥


見事な月が、空に掛かっていた。

 

黄金の円である。

円やかなその内側に、黒い影が映り込んでいた。

 

星の民衆に戴かれた夜の女王が、煌々と、大地を照らしているのである。

 

夜の冷たい風が、森の中を吹き抜けてゆく。

 

その乱立する木々に囲まれるようにして、廃墟がぽつんと存在していた。

天井は崩れ、瓦礫の山となっていた。

ばら撒かれたり、割れて溶かされたりした硝子が、冷たい光を反射する。

 

その中に、四つの人影が浮かび上がっていた。

瓦礫の中から、何かを探し出そうとしているような動きをしていた。

 

黒井響一郎、松本克己、呪ガイスト、そして、マヤの三人である。

 

黒井は、シャツの袖を捲り、瓦礫を軽々と退かしていた。

克己は作業着のような服を着ている。

ガイストは、簡単なジャケットを羽織っていた。

 

マヤの格好と言えば、チャイナ・ドレスである。服の合せ目がぐぐっと盛り上がり、深いスリットの間から、肉付きが良いながらも、すらりとした足が伸びている。黒い長髪を、お団子に纏めていた。

 

瓦礫の撤去作業には向かない格好からも分かる通り、マヤは、三人の男たちの動きを見守っているばかりである。

 

「勿体ねぇなぁ」

 

と、ガイストが漏らした。

 

腕が回り切らない程の瓦礫を、片腕で持ち上げて、放り投げる。

克己が、自分の横に落ちて来そうになったその瓦礫を、蹴り砕いた。

 

「何が?」

 

克己が訊く。

 

「俺たちさ。まさか、強化改造人間を、こんな風に使うとはねぇ」

 

じっとりと、マヤの方を眺めた。

 

マヤは、剥き出しになった鉄骨の上に腰掛け、脚を組んでいる。

 

月光を背にする中華服の美女は、妙にさまになっているが、それだけに、ガイストも不満を漏らそうというものであった。

 

「仕方ないじゃない」

 

マヤが、ガイストの愚痴に、頭上から答えた。

 

「戦闘員だって、タダじゃないのよ。デルザーだって壊滅しているし、ネオショッカーの戦闘員を、こんな事で喰い潰す訳にはいかないでしょう?」

 

デルザーとは、ショッカーの創設者・大首領の直属の改造魔人部隊の事である。しかし、一三体の改造魔人から成るこの軍団は、既に、七人の仮面ライダーの為に全滅していた。

 

又、ネオショッカーとは、大首領が新たに立ち上げた組織の名前だ。デルザーの一角を担い、かつてはショッカーの母体となったナチス・ドイツの将校であった暗黒大将軍=ジェットコンドル=ゼネラルモンスターを大幹部としている。

 

しかし、ネオショッカーは、まだその組織を確立している訳ではなかった。

 

「だからってなぁ」

 

ガイストが、作業を止めて、マヤの方を見上げた。

彫りの深い顔に、不機嫌な色が浮かんでいる。

 

克己は、その傍で、黙々と作業を続けている。ざんばらの前髪の間から覗く眼は、ガイストがこのように不平不満を言っている事が、理解出来ないといったものであった。

 

ガイストと克己は、肉体としては、強化改造人間のものであるが、精神面では大きな異なりがある。ガイストは自由意志でマヤの傍にいるが、克己はショッカーの時代に脳改造手術を受けており、現在ではショッカーの代表格であるマヤには、絶対服従をしているのだ。

 

殆どショッカーのロボットである克己には、ガイストがマヤに反逆――ではないにしても、愚痴をこぼす事が、信じ難いのである。

 

「ま、良いか……」

 

と、ガイストが作業に戻る。

 

「所でよ」

 

しかし、作業を再開しながら、ガイストはマヤに語り掛ける。

 

「何かしら?」

「あの暗黒大将軍……ゼネラルモンスターと言ったか。彼は、何なのだ?」

 

ナチス出身であり、ショッカーの改造人間であった頃もあり、改造魔人としてもライダーと戦い、そして、今、新たな組織の幹部となった男……

 

ガイストとて、些か複雑な経歴を持っているが、何度となく生と死を乗り越えて姿を変えているゼネラルモンスターに比べると、少しばかり、見劣りする。

 

「特殊体質の持ち主よ」

「特殊体質?」

「“人狼化現象”の事は知っているでしょう?」

 

マヤが言った。

 

ナチス・ドイツで研究されていた、“超人兵士”を作り出す為の技術である。

 

脳下垂体に特殊なホルモンを分泌させる事で、肉体を強力なものに変化させる。

強靭な筋肉と、獣毛や爪が、その人間に宿った事から、“人狼化現象”と名付けられたのだ。

 

その“人狼化現象”を起こした兵士たちは、殆どが拒絶反応で死亡したが、たった二人だけ、生き延びた者がいた。

 

ショッカーの大幹部・ゾル大佐と、ゼネラルモンスターその人である。

 

ゾルが率いていた、第二次世界大戦終盤のナチスのゲリラ部隊の名を、“人狼部隊”というのは、その為である。そして、ゼネラルモンスターも、かつてはその部隊に在籍していた。

 

「彼は、ゾル大佐以上に、“人狼化現象”をコントロール出来た男なの」

「コントロール?」

「ゾル大佐は、確かに拒絶反応に耐えはしたけれど、彼の“人狼形態”……黄金狼のスタイルが確立したのは、ショッカーの改造技術を施されてからの事よ」

 

ショッカーの技術は、日本で密かに開発されていた不死身の兵士・ヨモツヘグリの開発と、ナチスに協力していたイワン=タワノビッチ――死神博士の延命治療技術などが融合して、完成されたものだ。

 

それまでは、ゾルも、薬などで拒絶反応を抑制していたのであり、改造人間たちのように戦闘を行なう事は、難しかった。

 

一方、ゼネラルモンスターは、そのゾル以上に拒絶反応が少なかったのである。

 

「と言っても、逆に、“人狼兵士”としての能力は、そこまで高いものではなかったけど」

「――」

「その為かは分からないけど、彼の身体は、あらゆる改造手術に耐える事が出来たの。普通は、同じ身体に何度も改造を重ねてゆけば、否が応にも、色々な部分が擦り減ってしまうのだけれどね」

 

マヤは、ちらりと、克己の方を眺めた。

 

克己も、死神博士の助手として、自らの肉体を改造手術の実験台として捧げて来た。

 

克己自身のオリジナル部分は、最早、脳やその周囲の神経しか存在しない。それでも、克己の脳と神経に刻み込まれた身体操作技術は、些かも衰える事はなかった。

 

五体を刻まれ、薬物漬けにされ、それでも保たれ続けて来た肉体である。

 

ゼネラルモンスターの身体は、克己のそれと似ているという事であった

 

「それは、随分と、重宝された事だろうな」

 

ガイストが、マヤと同時に、克己に対しても、言った。

 

「成程、だから、二度もやらかして置いて、生き延びていうという訳か……」

 

トカゲロンであった頃は、任務であった原子力研究所の襲撃に失敗。

ジェットコンドルであった時は、ダブルライダーの来日を許してしまった。

 

失敗の許されないショッカーや、その系統の組織にあって、ゼネラルモンスターが生き延びて来られたのは、その特異な体質に因るという事であった。

 

「そうね。でも、次は流石に不味いかもねぇ」

「次?」

「ええ。若し、次に重大な失敗をすれば、流石に首領も擁護出来ないと思うわ」

「――」

「例えば、組織を壊滅させるきっかけを造ってしまうとかね……」

 

マヤが、にぃ、と、唇を吊り上げた。

ぞっとする程の美貌に、蛇の笑みが浮かぶ。

 

ガイストは、彼女のこの笑みに、いつも、薄ら寒いものを感じていた。

 

彼女は、何を見ているのか――

 

自分を見透かされているような、決して良いとは言えない気分になるのだ。

 

と、ガイストがマヤの笑みに怖気を感じた時であった。

 

「マヤ――」

 

瓦礫の向こうから、黒井が声を掛けて来た。

 

「探していたのは、これか?」

 

マヤが鉄骨から下りる。

チャイナ・ドレスの裾が、ふわりと広がり、下着が見えそうになった。

瓦礫の上に功夫シューズで着地すると、黒井の方へと歩いてゆく。

 

ガイストと克己も続いた。

 

黒井がマヤに見せたのは、干からびた植物の根のようなものであった。

巨大な昆虫のミイラのようにさえ、見えた。

 

「ええ、これよ」

 

マヤは、黒井からそれを受け取ると、掌で、数度、撫でた。

 

表面が炭化していたらしい。

マヤが表面から炭を払い落とすと、それは、歪な形ながらも、美しい光沢を持つ、石のようなものであった。

 

その石の内側から、植物の根のような、昆虫の触脚のようなものが、生えているのだ。

 

「何だ、これは?」

 

ガイストが訊いた。

 

「改造魔人の素……」

「え?」

「ショッカーの種子とでも言おうかしら。ゼネラルモンスターが、デッドライオンに与えたものよ。これに、あの曼荼羅で餓蟲のエネルギーを注入して、デッドライオンと共鳴させて、あの進化を齎したの」

 

あの進化とは、デッドライオンが、改造魔虫たちを取り込み、外法の曼陀羅の儀式で得たエネルギーを動力に、デッドコンドルへと変身した事である。

 

デッドライオンが、コンドルをモチーフとした、つまりは、本来のモチーフである獅子とは別の姿に変身したのは、この“ショッカーの種子”と呼ばれた石に、鳥類の因子が込められていたからに他ならない。

 

「それが改造魔人の素という事は、デルザーの連中は、皆、それを持っていたという事か?」

「ま、そういう事ね」

 

黒井の問いに、マヤが頷いた。

 

「尤も、デルザーだけって訳じゃないわ」

 

ふふん、と、マヤが笑った。

 

「で、それを、どうするんだ?」

 

ガイストが言う。

 

「こうするの」

 

マヤは、その石を両手で包み込むと、ぼそぼそと何かを唱え始めた。

呪文のようなものだ。

 

黒井たちが聞き取れた言葉に、

 

「ワカフ・カン」

「ユム・キミル」

「シバルバ」

 

などが、あった。

 

マヤが呪文を唱えていると、不意に、石が光を帯び始めた。

 

黒井たちは、その石に、この周辺の生命らが共鳴しているのが分かった。

石は、自然のエネルギー……餓蟲を吸収しているらしかった。

 

そうしていると、マヤが呪文を止める。

 

マヤが、石をすっぽりと両掌の中に隠してしまっていた。

 

その手を開く。

恰も、蓮の花が開くかのように――

 

マヤの手の中から現れたのは、一羽の黒い鳥であった。

その黒い羽毛に包まれた身体の中で、眼だけが血のように赤かった。

 

「むぅ⁉」

 

黒井が声を上げた。

ガイストも驚いている。

 

マヤは、薄く微笑むと、掌から黒い鳥を飛び立たせた。

黒い鳥は、マヤの肩に留まり、マヤは、その頭を指で撫で上げた。

 

「さ、それじゃ、ゆこうかしら」

 

マヤが言った。

 

「それは、何だ?」

 

黒井が質問する。

 

「さぁて、何でしょう?」

 

マヤは、あの蛇の笑みを浮かべて、答えをはぐらかした。

 

黒井たちは、マヤの肩に留まった鳥が、マヤと同じ笑みを浮かべているのを見た。

 

「あんたは、いつもそうだな」

 

ガイストが、ぽつりと言った。

 

「え?」

「肝心な事は、いつも、ぼかしてしまう」

「――」

「あんたの目的は何だ?」

 

ガイストが訊いた。

 

「俺を蘇らせ、改造魔人を呼び出し、その欠片を回収する……」

「仮面ライダーを斃す事、じゃあ、駄目かしら」

 

マヤが言った。

 

「ショッカーの人類統治を邪魔する仮面ライダーを斃すのに、貴方たちのような強化改造人間を造り、改造魔人に新たな力を与える……」

「――」

「それでは、説明が不足していると?」

「その他に、何か、考えている事があるんじゃないのか? という事さ」

「――」

 

マヤが、軽く唇の端を持ち上げて、ガイストに歩み寄った。

彫りの深い顔を、黒い瞳で見上げた。

 

夜の空や、大地の底を想起させる黒さの眼であった。

それが、ふとした調子で、蒼く輝いたようにも見える。

 

つぃと、マヤが手を持ち上げた。

突き出した人差し指を、ガイストの唇に当てる。

 

「女は、ミステリアスなものよ……」

「――」

「その謎を愉しみなさいな……」

 

くすくすと笑って、マヤは、踵を返した。

 

ぐぁ、と、マヤの肩に留まった鳥が、一つ鳴き声を上げた。

 

ガイストは、黒井と克己に眼をやって、軽く肩を竦めた。

 

どうやら男というものは、女の掌の上で転がされるしかないようである。




今更ですが、私個人の解釈により設定を変更している点が御座います。

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