仮面ライダー Chronicle×World   作:曉天

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第四節 嵐斗

そのマシンは、黒尽くめ男たちを蹴散らして、黒井を解放させた。

 

「早く逃げるんだ」

 

と、滑らかなラインのバイクの上から、男の声がした。

低く、ドスの利いた声であった。

 

黒井は、男に言われるまでもなく、その場から立ち去っていた。

 

「ま、待て!」

 

チーター男が追おうとするが、その前に、バイクから降り立った男が両腕を広げる。

 

自分たちの邪魔をしようとする男に、黒尽くめの男たちが躍り掛かった。

彼らの顔面やボディを叩いたのは、緑のグローブであった。

 

闇の中に、身体の横を走る銀色のラインと、赤いマフラーと一対の楕円が輝いた。

 

「貴様、よくも、我々の邪魔をしてくれたな!」

 

チーター男が言った。

 

「仮面ライダー!」

 

骸骨にも似たヘルメットを被った男は、チーター男の前で、構えた。

 

「来い、ショッカー!」

 

仮面ライダーは、その瞬間に襲い掛かって来た黒尽くめの男たち――ショッカー戦闘員たちを、次々と打ち倒してしまう。

 

パンチが頭蓋骨を陥没させる。

 

ショッカー戦闘員とて、改造人間である。

普通の人間の、五倍の運動能力がある。

自らのパワーに耐え得る肉体を、持っている。

 

しかし、特殊な能力を持たない雑兵たちよりも、遥かに多くの金と時間とを掛けて造り出された仮面ライダーの敵ではなかった。

 

特にパワーに重点を置いて改造された仮面ライダーは、一つの拳で戦闘員の骨を砕き、一つの蹴りで内臓を破裂させてしまう。

 

戦闘員の五人や六人では、とても相手にならない。

戦闘員たちは、ナイフやサーベルを引き抜く間もなく、ライダーの為に叩き潰されていた。

 

残ったのは、チーター男だけであった。

 

「がぁっ!」

 

チーター男が、ライダーに咬み付いて行く。

 

仮面ライダーは、チーター男の胴体にしがみ付き、投げ飛ばした。

 

地面を転がるチーター男。

 

起き上がろうとする顔面に、脛を叩き込んだ。

 

又、怪人が転がる。

その腕を掴んで持ち上げると、もう片方の拳で、パンチを見舞った。

 

二発目。

三発目。

四発目。

 

チーター男の顔面の皮膚が切れ、血が飛沫を上げた。

 

仮面ライダーの、濃い緑色のグローブに、真っ赤な血が飛んでいた。

 

「とぅっ――」

 

ライダーがチーター男を投げ飛ばす。

チーター男は、空中で身体を捻り、近くのコンテナの上に着地した。

 

「ちぃ」

 

と、口の中で、長い舌を打ち鳴らす。

 

「仮面ライダー、この事は忘れんぞ」

 

捨て台詞を吐き、チーター男はコンテナの上から飛び出した。

 

ライダーは、怪人を追って、愛車に跨った。

 

サイクロン号――

 

二つのフロント・ライトに火が灯り、滑らかな車体が空気を後方に流しながら加速する。

 

空気の動きから状況を判断する超触覚アンテナが、チーター男の動きを読んでいた。

怪人との距離を、Oシグナルが、直接脳に教えてくれる。

 

――速い。

 

ライダーはアクセルを吹かした。

最高時速六〇〇キロのサイクロン号が、加速を強める。

 

しかし、チーター男は市街地に入ってしまった。

 

既存のどのようなオートバイよりも小回りが利くサイクロン号であったが、チーター男の加速に追い付く為に、最高時速を出すという事は、流石に町中では出来なかった。

 

結果として、仮面ライダーは、チーター男の逃走を許してしまった。

 

人目に付かない所で、マシンを停める。

 

Oシグナルは、チーター男が、ライダーから逃げ切った事を、点滅をやめて知らせた。

 

ライダーは、銀色の牙・クラッシャーと、緑の仮面を外した。

 

髑髏を思わせるマスクの内側にあったのは、一文字隼人の顔であった。

頬に、傷痕が走っている。

 

手術の痕だ。

 

ショッカーに捕らえられた一文字隼人が、飛蝗型のサイボーグ・仮面ライダーに改造される為、身体を切り開かれた痕である。

 

序でに言えば、この皮膚も、一文字隼人生来のものではない。

強化皮膚だ。

 

内側の筋肉も、培養された強化筋肉である。

飛蝗は、自分の身体の二〇倍の高さまで、跳躍出来るという。

それを人間が可能にする為の人工筋肉であり、その動きに耐え得る骨格が、一文字隼人の肉体を構成していた。

 

心臓や肺も、ショッカー製の機械である。

消化器も同じく、だ。

 

これらの、一見すると人間と変わらないように思える一文字の内側に埋め込まれた機械は、普段から一文字隼人を優れた人間に見せている。

 

しかし、その真価は――仮面ライダーとしての力は、ヘルメットを被る事で、発揮される。

 

スカルを連想させるヘルメットの内側には、特殊な電波を発生させるメカニズムが組み込まれており、その電波が一文字の脳波と同調する事で、ボディの人造臓器を起動させる。

 

そうすると、一文字の胸筋が開き、風を取り込むのである。

 

風が、仮面ライダーの動力であった。

 

しかし、全身のメカニズムが発動すると、幾ら強固な人工皮膚とは言え、その運動如何に依っては、自壊は免れない。

 

だからこそ、第二の皮膚を身に着ける必要があった。

大きなボディ・プロテクターを中心としたスーツである。

これが、一文字の皮膚と密着して、耐久性を引き上げる。

 

又、鉄のグローブとブーツも、攻撃に使用する拳や足を保護している。特にブーツは、底がスプリングになっており、一五メートルの跳躍力を誇る。

 

仮面ライダーが動力である風を取り入れるのは、そのプロテクターである。

コンバーター・ラングが、胸筋部分の、風の導入口と接続されている。

これは、風を取り入れるのと同時に、体内で生じた熱を放出する役割も担っていた。

 

そして、腰に巻かれたベルトには、大きなバックルがあり、バックルの中心には赤い風車が設けられている。

これは、仮面ライダーのエネルギーの、バロメーターであった。

 

一文字は、この肉体が好きではなかった。

 

ショッカーが造り出す、改造人間の身体であるからだ。

変身するメカニズムが、自分の肉体を引き裂いたショッカーを連想させるからだ。

人間を越えたものに、一瞬で造り変えられてしまうからだ。

 

そして――

 

ショッカーという巨悪を倒す為には、普通の人間の身体ではどうにもならないという、人間の肉体の脆さを、嫌という程、教えてくれるからであった。

 

それでも、一文字隼人は、往かなければならない。

ショッカーとの戦いに、だ。

 

――それにしても。

 

と、一文字は思った。

 

ショッカーに狙われていたあの男は、一体、何者だったのか。

 

それが、黒井響一郎である事を、一文字はまだ知らない。

 

そして、黒井響一郎が、やがて敵として眼の前に立ちはだかる事を、仮面ライダー・一文字隼人は、想像もしていなかった。




世界観は、タグにもあるように、萬画とTVのちゃんぽんです。

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