仮面ライダー Chronicle×World   作:曉天

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第二十七節 生死

「さて、どうするか――」

 

風見が、腕を組んで、唸った。

 

先程、レッド・ボーンでパワーを底上げした反転キックで頭部を砕いたが、効果はなかった。

 

アマゾンのヒレカッターも、Xのライドル・ホイップも、通じない。

ストロンガーの電気技も、無効化されてしまう。

 

「どうだ、結城」

 

風見が問う。

結城・ライダーマンは、首を横に振った。

 

「俺の最大の火力は、マシンガン・アームだ……」

 

ライダーマンのカセット・アームには、様々な種類のものがある。

 

ロープ・アーム

鎌アーム

パワー・アーム

スイング・アーム

ドリル・アーム

オクトパス・アーム

オペレーション・アーム

 

更に開発は続けられており、スキャニング・アームなどは、最近になって造られたものだ。

 

アマゾンが、インカの末裔たちの長老・バゴーから、日本へゆき、会うように言われた高坂博士――彼は、ゲドンの獣人に殺害されてしまったのだが、彼は、日本語を喋れないアマゾンの記憶を探るのに、脳波を映像化する装置を用いていた。

 

その装置を転用したのが、スキャニング・アームである。

 

先程、用いたスピーカー・アームも、最近のものだ。本来であれば、広範囲にミリ波を放射して、暴動などを鎮圧する兵器である。非致死性掃射型兵器の名の通り、生体に致命的な損傷を与える事はないものの、かなりの激痛がある。

 

結城の言ったマシンガン・アームは、その名の通り、カセット・アームを機関銃に変形させるものである。

 

サイズの事もあり、弾数も、決して多くはない。

拡張ユニットを装着する事で、弾数や射程距離を大きくする事は出来るが、その火力であっても、デッドコンドルを粉砕するには至るまい。

 

「第一、幾らパワーを上げても、あれを斃せるものだろうか」

 

結城が漏らした。

 

効果はない――そのようには言っても、攻撃自体が通じないではない。

肉体を破壊する事が出来ても、それがダメージに直結しないのである。

 

デッドコンドルの肉体は、餓蟲で構成されている。

餓蟲とは、空気中を漂うエネルギー体であるから、ほぼ無限であると言える。

 

それを完全に消滅させる事は、不可能であった。

 

「だが、俺は、ブラックサタン大首領を斃している」

 

茂が、通信で、他の四名に伝えた。

ブラックサタン大首領も、蟲毒で作られたものだ。

その肉体は、やはり餓蟲の筈だが、それでもストロンガーは打倒している。

 

ならば、同じ蟲毒を核としたデッドコンドルの打倒が、無理な事はない。

 

「どうした、虫けら共――!」

 

デッドコンドルが、上空から声を投げた。

 

「臆したか⁉ 焼き払ってくれようぞ……」

「――好き勝手言いやがって」

 

茂が言った。

仮面がなければ、唾を吐いていた事であろう。

 

「勝つ方法、ある」

 

そう言ったのは、アマゾンであった。

 

「何?」

「それは、何だ?」

 

風見が訊いた。

 

「あいつの中、一つだけ、違うもの、ある」

「違うもの?」

「あいつの身体、肉、ある。でも、肉、違う」

「うむ」

「あいつの肉、肉じゃない思えば、肉じゃなくなる」

「おう」

「けど、あいつの中、変わらないもの、ある」

「それは?」

「あいつ自身――あいつの、本体」

「つまり、それは、デッドライオンという事か?」

 

茂が訊いた。

 

あの肉体はデッドコンドルである。

しかし、その中核となっているものは、デッドライオンであるのか?

 

そのような問いであった。

 

「うん」

 

と、アマゾンは頷いた。

 

「では、あれか?」

「あれ?」

 

風見が思い出すように言い、敬介が問うた。

 

先程、頭を蹴り砕いた時――

 

「奴の頭の中に、他の部分とは違うものを感じた……」

 

風見は、デッドコンドルに掴まれてもいる。

その感覚を、踏み付けられたストロンガーと同じ程度には、分かっていた。

 

無数の形なき虫が群れて、一つの生命を造り上げている――

 

その手と、頭とは違う感覚を、頭蓋の奥深くに感じていた。

茂も触れていない場所であった。

 

「茂――」

 

風見に言われ、茂が頷いた。

 

ビデオ・シグナル機能を使う。

V3が、デッドコンドルの頭部に蹴りを見舞った瞬間を、スローで再生した。

 

天井を蹴る勢いで反転して、デッドコンドルの頭に、右足を突き込むV3。

飛び散る餓蟲さえも、良く見えていた。

 

その時、蹴り抜けたV3の背後に、餓蟲とは違うものが見えた。

さっきまで戦っていた、デッドライオンの正体である、蟲毒だ。

 

頭蓋の中――いや、あの位置は、口の中である。

 

そう言えば、と、茂は、その後、デッドコンドルが光線を放った瞬間も、再生してみた。

 

開かれた嘴の中が、黒く発光する寸前、ちらりと、獅子の顎が見えていた。

 

その映像を、改造人間同士で共有する。

 

「狙うのは、あの一点か――」

 

敬介が、デッドコンドルを見上げた。

 

しかし、その嘴は、硬く閉ざされている。

言葉を降らせて来る時であっても、小さくしか開かない。

 

あの程度の隙間ならば、ライドル・ロング・ポールや、V3ホッパーを突き入れる事は出来る。しかし、先にそれを気取られてしまえば、やはり、嘴は閉ざされてしまう。

 

デッドコンドル自身、自分の弱点が何処にあるのか、分かっているだろう。

だからこそ、ああして、ライダーたちの頭上を取ったのではないか。

 

ライダーたちを俯瞰していれば、その動きが見て取れる。

ジャンプして、デッドコンドルの頭上にゆこうとするのを、迎撃する事が出来る。

 

「方法は一つだな」

 

風見が提案した。

 

「奴に、あの光線を使わせる」

「口が開いた一瞬に、か」

 

結城が、風見を見た。

 

嘴は、あの光線――仮に、デッド・ブレスとでもして置こう――を放つ時、最大に開かれる。

 

「素早くやらねばならない」

 

敬介が言う。

 

デッド・ブレスが放たれる直前、或いは、放たれた直後だ。

嘴を閉ざされてしまう前に、斃さねばなるまい。

 

「強い、攻撃……」

 

アマゾンが呟いた。

 

先程、例に出したような、ライドル・LP(ロング・ポール)や、ホッパー、ライダーマンの持つ装備では、威力が足りない。

 

アマゾンには遠距離武器がなく、小回りが利くと言っても、口の中に入り込むのには、少々不安があった。

 

デッドコンドルの攻略には、速度とパワーが必要である。

 

デッドコンドルの嘴が開いている隙に口の中に飛び込めて、しかも、一撃で本体である蟲毒を消滅させる事が出来るパワー……。

 

連携で、デッドコンドルに、嘴を開ける隙を作るにしても、これらを兼ね備えているのは――

 

「――俺だな……」

 

茂が言った。

 

「俺のジャンプ力は五〇メートルだ。奴は、幾らなんでもそこまでは上昇出来まい」

 

古代生物のケツァルコアトルスや、それ以前には最大と呼ばれていたプテラノドン。

 

彼らの体重は、体長に反して、非常に軽量であった。

そうでなければ、飛翔する事が出来ないからだ。

 

デッドコンドルは、しかし、一〇メートル越えの全長の上、体重はトンに差し掛かっている。

 

そうであるから飛べないという事はないが、それには、かなりの筋肉とスタミナが必要である筈だ。

 

肉体を構成しているのが餓蟲であるという事もあり、同じ身長体重の生物よりは、幾らか空を飛び回る事は出来るかもしれない。

 

だが、デッドコンドルには、確かに質量がある。踏み締められたストロンガーは、それが分かる。

 

ならば、ストロンガーのジャンプよりも高い場所に位置し続ける事は、難しい筈だ。

 

「つーか、俺しかいねぇだろ」

 

茂が、その理由を、指折り数えた。

 

「ブラックサタンの大幹部だろ」

 

ブラックサタンは、沼田五郎の仇だ。

 

「デルザー軍団の生き残りみたいなもんだろう」

 

デルザー軍団は、岬ユリ子の仇である。

 

「なら――俺がぶっ潰してやるっきゃねぇだろう」

 

それを除いても、デルザーの改造魔人を確実に粉砕出来るのは、超電子の技である。

 

スペックも、この五人の中では、ストロンガーがずば抜けている。

 

三〇〇キロのボディから繰り出されるパワー。

それだけの重量を動かす電力が発揮させるスピード。

 

「先輩、俺にやらせてくれ!」

 

茂・ストロンガーが、叫ぶように言った。

反対する理由はない。

 

「よぅし」

 

と、風見・V3が、瓦礫の陰から立ち上がった。

 

「俺たちが奴の隙を作る」

「嘴を開いたら――」

「茂……」

 

結城・ライダーマン、敬介・Xライダー、アマゾンも、すっくと立ち上がる。

 

「超電子ダイナモの稼働時間は、一分だ」

 

それを超えると、自爆する。

茂は、しかし、それについて別の事実も知っている。

 

「だが、そのタイム・リミットが近付くに連れ――」

 

ストロンガーが発揮出来る力は、増してゆく。

限界に近付くたびに、その力は出力を引き上げてゆくのだ。

 

生存と自爆との、一瞬の境界を見極める事で、ストロンガーは、より強い力を発揮する事が出来るのであった。

 

「つまり――こういう事か」

 

風見が確認した。

 

「俺たちは、お前が、チャージ・アップしていられる限界時間までに、奴の口を開けさせる」

「おう……」

「いや、正確には、お前がその最大の威力で攻撃する時間まで、奴の口を開けさせて置く事、か」

「そうなる……」

「ふん……」

「――」

「面白い……」

 

風見が、小さく笑い声を上げた。

 

単に、一分間を稼げば良いという話ではない。それでは、ストロンガーが自爆してしまう。

 

ストロンガーがチャージ・アップしてから、デッドコンドルの嘴を、ストロンガーが攻撃する事の出来る角度にまで開けさせて置き、しかも、ストロンガーが最大の威力を出し切るのに必要な助走やジャンプの為の距離が適度に取れる位置に、デッドコンドルを縫い止めて置かねばならない。

 

デッドコンドルの位置が、数メートル違えば、必要な助走も大きく変わる。

 

走り出すのが、タイム・リミットの一〇秒前か五秒前かで、茂の生死が決まってしまう。

 

その困難な作戦を、しかし、風見志郎は――

 

「面白い」

 

と、言ったのである。

 

「結城――」

「おう」

「敬介……」

「はい」

「アマゾン!」

「がぅ」

「茂を、全力で、サポートするぞ」

「――」

 

風見志郎・仮面ライダーV3の言葉に、ライダーたちは頷いた。

V3はストロンガーを見やった。

 

頷き合う。

 

「作戦コードは“STRONGER”だ。ゆくぞ!」


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