仮面ライダー Chronicle×World   作:曉天

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第二十五節 変身

風見志郎、結城丈二、神敬介、アマゾンたちが、倉庫の床に下り、戦闘員たちを蹴散らしながら、人々に避難を促した。

 

敬介は、相澤と吉塚の姿を見付け、泣きじゃくる彼女らに、倉庫から出るように告げた。

 

「させるかよ!」

 

と、改造魔虫たちも、ライダーたちに向かって駆けてゆく。

 

風見の元には、アルマジロンとアリジゴクが。

結城の元へは、クラブマンが。

敬介の元へは、サメ改造魔虫が。

アマゾンの所には、ゴリガンが、それぞれ走った。

 

 

 

 

風見は、手にしていたギターで、戦闘員たちを殴り、アリジゴクのパンチをいなして、アルマジロンを投げ飛ばした。

 

ギターのネックを逆手に持ち、肩に担ぐと、

 

「ひゅーっ」

 

と、甲高く口笛を鳴らし、空いた左の人差し指を、メトロノームのように左右に振った。

 

挑発に乗って、アリジゴクが殴りにゆくと、風見は近くに倒れていた戦闘員を盾にして蹴り飛ばし、アリジゴクの太腿に強かな蹴りを打ち込んだ。

 

 

 

 

クラブマンが、小太りな割には素早い動きで、結城に肉薄する。

結城はそれを躱しながら、クラブマンの腕を取って、投げ飛ばした。

立ち上がって来るクラブマンに、蹴りを入れ、距離を取る。

 

 

 

 

サメ改造魔虫が、敬介の顔に、貫手を打ち込んで来ようとした。

敬介は、左手でその右腕を払うと、同時に縦拳を相手の脇腹にめり込ませた。

ぐぇ、と、呻くサメ改造魔虫の腹に前蹴りを入れ、顔を何発か殴った。

 

 

 

 

力まかせのゴリガンのパンチは、アマゾンにとって、止まっているも同然だ。

アマゾンは、身を沈めて、ゴリガンの膝を、横から蹴り抜いた。

自重がある為、膝には特に負担が掛かる。アマゾンは膝の関節を掌底で押して、ゴリガンを地面に倒れさせると、馬乗りになって、顔を引っ掻き捲った。

 

 

 

 

茂は、ストロング・ゼクターの上から跳躍し、天井から伸びる鎖を掴んだ。

 

デッドライオンであった蟲毒が、突っ込んで来るストロング・ゼクターと揉み合っている。

 

茂は鎖を引き千切り、落下するさくらの身体を抱きかかえ、床に下りた。

 

「茂さん……」

 

さくらが、泣き出しそうな顔で言った。

茂はさくらの拘束を解き、上着を肩に掛けてやった。

 

ストロング・ゼクターの角で弾かれたデッドライオンが、茂の傍に下り立った。

デッドライオンであった蟲毒は、胴体から離れた時よりも、巨大化していた。

茂と、殆ど同じ体長の虫である。

 

かつて、ストロンガーが斃した、ブラックサタン大首領とそっくりである。

あれも、亦、ショッカーの創設者である何者かが組織に迎え入れた、蟲毒であった。

 

「やっちまえ!」

 

茂が、ストロング・ゼクターに指令を飛ばした。

 

仮面として装着される時には、邪魔にならない程度に縮むカブト・ショックが、こくんと頷き、倉庫の中を飛び回った。

 

壁に、甲鉄虫が体当たりをする。

魔法陣を描いた倉庫の壁が、ぼろぼろと崩れ落ちて行った。

 

「じょ、城茂――ッ‼」

 

デッドライオンであった蟲毒の、獅子の顎が咆哮した。

心なしか、眼の窪みが吊り上がっているようにも見える。

 

「貴様、もう、許さんぞ……!」

 

デッドライオンが、呪詛の言葉を述べた。

 

「俺が忠誠を誓った組織を裏切り、滅ぼし、そして、今、また俺の邪魔を――」

「――許さんだって?」

 

茂は、さくらをその場に下ろし、一歩、前に進み出た。

 

「許さんのはこっちだぜ、デッドライオン!」

 

茂の一喝と共に、その頭上に、ストロング・ゼクターがやって来た。

 

「糞……貴様は、一体、何なのだ!」

 

びくり、と、震えを走らせながら、デッドライオンが吼える。

 

充分に知り尽くしている筈の男の底が、見えなくなっていた。

 

茂は、デッドライオンを指差して、大きく見得を切った。

 

「――天が呼ぶ」

 

茂は、ユリ子の事を思い出した。

 

「――地が呼ぶ」

 

茂は、沼田の事を思い出した。

 

「――人が呼ぶ」

 

茂は、自分の背後のさくらを流し見た。

 

「悪を斃せと、俺を呼ぶ……」

 

ぎらりとした、稲妻の瞳が、デッドライオンを睨んでいる。

その声は、倉庫の中に轟いた。

改造魔虫たちも、ライダーたちも、手を止めて、その言葉を聞いている。

 

「聞け、悪人共!」

 

茂は、絶縁体のグローブを外して、放り投げた。

銀色の腕――コイル・アームを、頭上に抱えてゆく。

 

 

ばぢぃん!

 

 

と、コイル・アームの触れ合った所から、火花が散った。

 

ストロング・ゼクターの緑色の眼が、煌々と輝きを放つ。

茂はコイル・アームを擦り合わせ、電撃を迸らせた。

 

「俺は、正義の戦士――!」

 

電流を纏うその腕を、茂が、地面へと打ち付けた。

 

茂とさくらを中心とした円から、放射状に、稲妻の蛇が駆け抜けてゆく。

 

眩いばかりの白い光――

 

その中で、ストロング・ゼクターが、城茂の肉体を包んで行った。

その光の中から、赤い鎧を身に着けた、緑の瞳の戦士が現れる。

 

「仮面ライダーストロンガー!」

 

変身を遂げた城茂・ストロンガーに、デッドライオンが跳び掛かってゆく。

一〇本の触脚が唸りを上げて、ストロンガーに迫った。

 

ストロンガーは、その動きを全て見切り、背中に隠れるさくらを守った。

 

「茂さん……」

 

さくらは、その大きな背中に、声を掛けた。

 

「仮面ライダー!」

 

名を呼ばれ、ストロンガーが頷いた。

背中越しの頷きで、さくらには充分であった。

 

さくらは、その場をストロンガーに任せて、倉庫から立ち去ってゆく。

 

 

 

 

「待て、小娘!」

 

アリジゴクが、逃げようとするさくらを追った。

その前に風見が立ちはだかり、ギターの底で、アリジゴクの横っ面を叩く。

 

「そんな怖い顔をしちゃあ、いけないな」

 

風見は、切れるような笑みのまま、言った。

 

「何⁉」

「女の子には、もっと、優しくしてやらなくちゃな」

「黙れ⁉」

 

アリジゴクが、怪人の姿に変身する。

アルマジロンも、風見に向かって突撃していた。

 

「っと――」

 

風見は、大きくジャンプして、ギャラリーの手摺りに飛び乗った。

 

ギターを大きく振り回す彼の服装が、一変している。

 

緑色のスーツに、銀と赤のプロテクターと、白いレガート。

腰部には、二つの風車が回っている。

 

ギターの胴体を叩くと、底が開き、中から、仮面が出て来た。

中心に蛇腹を走らせた、赤い仮面。

 

それを被り、顔の下半分を保護するクラッシャーを装着した。

 

 

ぎゅおん、

ぎゅおんっ!

 

 

ダブル・タイフーンが回転した。

その中心にあるレッド・ランプが輝いた。

 

風見志郎は、強化改造人間第三号――仮面ライダーに依って改造された仮面ライダー、V3へと変身を遂げていた。

 

「ゆくぞ!」

 

V3は、アリジゴクとアルマジロンに戦いを挑む。

 

 

 

 

結城は、クラブマンを倉庫の隅まで誘導した。

 

変身したクラブマンの巨大な鋏が、結城を切り裂く心算が、壁を砕いてしまう。

 

砕かれた壁の向こう側には、一見すると、市販のオートバイにしか見えない、しかし、その実はライダーマンの為のマシンが、佇んでいた。

 

結城は、ライダーマンマシンのシートから、ヘルメットを取り出した。

蒼いヘルメットには、一対の触角が伸び、赤い複眼が備えられている。

 

ブレザーを脱ぎ捨てた結城は、強化改造人間のスーツを着込んでいた。

 

ヘルメットを被る。

そうして、神啓太郎の手術に依って与えられた、試作型パーフェクターをセットした。

 

こうして、結城丈二は、仮面ライダー第四号・ライダーマンとなるのである。

 

ライダーマンは、ベルトのホルダーから、カセットを取り出した。

それを右腕にセットする。

右手が、三日月型の、ぶ厚い刃に変形した。

 

パワー・アームである。

 

反り返った刃が、クラブマンの鋏を受け止めた。

 

 

 

 

サメ改造魔虫の背後から、クルーザーが迫っていた。

 

神敬介は、サメ改造魔虫を蹴り飛ばし、クルーザーに向かって走った。

ベルトの両脇から、レッド・アイザーとパーフェクターを取り出す。

 

胸の中でマーキュリー回路が目覚め、クルーザーに搭載されたスーツと共鳴した。

 

クルーザーと擦れ違いざまに、敬介の身体には、銀の強化服と、赤と黒のプロテクターが装着されている。

 

レッド・アイザーがXマスクを形成し、最後にセットされたパーフェクターが、走り抜けた風圧からエネルギーを取り込んで、神敬介の身体に送り込む。

 

変身完了したXライダーに、サメ改造魔虫が殴り掛かる。

 

だが、触れた相手を否が応にも傷付けるその肌も、Xライダーには通じなかった。

 

父・啓太郎が、息子・啓介を助ける為に、最後の力を振り絞って造り上げたその身体は、鉄よりも強い。

 

悪には敗けぬという、父の思いが、銀のボディには宿っているのだ。

 

Xライダーの黒い拳が、サメ改造魔虫の胴体を突き抜けていた。

 

 

 

 

馬乗りになったアマゾンの胴体を掴み、ゴリガンが立ち上がる。

 

アマゾンは、右手でゴリガンの左こめかみを、左手で顎を掴み、思い切り捻った。

ごぎり、と、嫌な音がして、ゴリガンの顎が、斜め上の方を向いた。

 

ゴリガンの力は緩まない。

改造魔虫たちは、例え頸の骨を折られても、死なないのである。

 

アマゾンは、剥き出しになったゴリガンの頸に、牙を突き立てた。

肉を引き千切り、床に吐き出す。

 

餓蟲で形成されたその肉と血は、本体を離れた途端、靄となって消滅する。

 

アマゾンはゴリガンから離れて、前傾姿勢を採った。

 

「がふぅ……」

 

と、獣のように唸る。

 

アマゾンの身体の表面に、ぞわぞわと、鱗が浮き出していた。

その下に、赤々とした血液の流れが、見て取れる。

 

「あぎぃぃ~~~~っ!」

 

アマゾンは胸を反らして、叫んだ。

 

大胸筋が、ごりごりと発達してゆく。

ボディ・ビルダーのような膨張を見せながら、その筋肉は、女の乳房の柔らかさを保っている。

 

ごつん、ごつん、と、背骨が歪に曲がり始めた。前傾が、ますます深まってゆく。

 

その前に傾いた背中の肉を、内側から、棘が突き破って来た。

棘の間に、膜が張られる。背びれだ。

 

両手を、地面に着いた。

四つん這いの姿勢が、似合っていた。

 

皮膚が、内側から色を濃くしてゆく。鱗が生じていた。

爪が伸びる。

腕刀からも、ぶつぶつと、刃のようなヒレが伸びて来た。

 

ぐりぐりと、鼻から顎に掛けてが、せり出している。

平らになった鼻の下から、唇が消失した。

ピンク色の歯茎の下で、ナイフのような牙たちが並ぶ。

瞼がなくなった赤い眼が、ぞろりと光る。

眉間に、小さな触覚が、盛り上がっていた。

 

「けぇぇぇぇ~~~~~~っ!」

 

アマゾンライダーは、叫び声を上げた。

 

野生の慟哭と共に、ゴリガンへと駆け出していた。


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