風見志郎、結城丈二、神敬介、アマゾンたちが、倉庫の床に下り、戦闘員たちを蹴散らしながら、人々に避難を促した。
敬介は、相澤と吉塚の姿を見付け、泣きじゃくる彼女らに、倉庫から出るように告げた。
「させるかよ!」
と、改造魔虫たちも、ライダーたちに向かって駆けてゆく。
風見の元には、アルマジロンとアリジゴクが。
結城の元へは、クラブマンが。
敬介の元へは、サメ改造魔虫が。
アマゾンの所には、ゴリガンが、それぞれ走った。
風見は、手にしていたギターで、戦闘員たちを殴り、アリジゴクのパンチをいなして、アルマジロンを投げ飛ばした。
ギターのネックを逆手に持ち、肩に担ぐと、
「ひゅーっ」
と、甲高く口笛を鳴らし、空いた左の人差し指を、メトロノームのように左右に振った。
挑発に乗って、アリジゴクが殴りにゆくと、風見は近くに倒れていた戦闘員を盾にして蹴り飛ばし、アリジゴクの太腿に強かな蹴りを打ち込んだ。
クラブマンが、小太りな割には素早い動きで、結城に肉薄する。
結城はそれを躱しながら、クラブマンの腕を取って、投げ飛ばした。
立ち上がって来るクラブマンに、蹴りを入れ、距離を取る。
サメ改造魔虫が、敬介の顔に、貫手を打ち込んで来ようとした。
敬介は、左手でその右腕を払うと、同時に縦拳を相手の脇腹にめり込ませた。
ぐぇ、と、呻くサメ改造魔虫の腹に前蹴りを入れ、顔を何発か殴った。
力まかせのゴリガンのパンチは、アマゾンにとって、止まっているも同然だ。
アマゾンは、身を沈めて、ゴリガンの膝を、横から蹴り抜いた。
自重がある為、膝には特に負担が掛かる。アマゾンは膝の関節を掌底で押して、ゴリガンを地面に倒れさせると、馬乗りになって、顔を引っ掻き捲った。
茂は、ストロング・ゼクターの上から跳躍し、天井から伸びる鎖を掴んだ。
デッドライオンであった蟲毒が、突っ込んで来るストロング・ゼクターと揉み合っている。
茂は鎖を引き千切り、落下するさくらの身体を抱きかかえ、床に下りた。
「茂さん……」
さくらが、泣き出しそうな顔で言った。
茂はさくらの拘束を解き、上着を肩に掛けてやった。
ストロング・ゼクターの角で弾かれたデッドライオンが、茂の傍に下り立った。
デッドライオンであった蟲毒は、胴体から離れた時よりも、巨大化していた。
茂と、殆ど同じ体長の虫である。
かつて、ストロンガーが斃した、ブラックサタン大首領とそっくりである。
あれも、亦、ショッカーの創設者である何者かが組織に迎え入れた、蟲毒であった。
「やっちまえ!」
茂が、ストロング・ゼクターに指令を飛ばした。
仮面として装着される時には、邪魔にならない程度に縮むカブト・ショックが、こくんと頷き、倉庫の中を飛び回った。
壁に、甲鉄虫が体当たりをする。
魔法陣を描いた倉庫の壁が、ぼろぼろと崩れ落ちて行った。
「じょ、城茂――ッ‼」
デッドライオンであった蟲毒の、獅子の顎が咆哮した。
心なしか、眼の窪みが吊り上がっているようにも見える。
「貴様、もう、許さんぞ……!」
デッドライオンが、呪詛の言葉を述べた。
「俺が忠誠を誓った組織を裏切り、滅ぼし、そして、今、また俺の邪魔を――」
「――許さんだって?」
茂は、さくらをその場に下ろし、一歩、前に進み出た。
「許さんのはこっちだぜ、デッドライオン!」
茂の一喝と共に、その頭上に、ストロング・ゼクターがやって来た。
「糞……貴様は、一体、何なのだ!」
びくり、と、震えを走らせながら、デッドライオンが吼える。
充分に知り尽くしている筈の男の底が、見えなくなっていた。
茂は、デッドライオンを指差して、大きく見得を切った。
「――天が呼ぶ」
茂は、ユリ子の事を思い出した。
「――地が呼ぶ」
茂は、沼田の事を思い出した。
「――人が呼ぶ」
茂は、自分の背後のさくらを流し見た。
「悪を斃せと、俺を呼ぶ……」
ぎらりとした、稲妻の瞳が、デッドライオンを睨んでいる。
その声は、倉庫の中に轟いた。
改造魔虫たちも、ライダーたちも、手を止めて、その言葉を聞いている。
「聞け、悪人共!」
茂は、絶縁体のグローブを外して、放り投げた。
銀色の腕――コイル・アームを、頭上に抱えてゆく。
ばぢぃん!
と、コイル・アームの触れ合った所から、火花が散った。
ストロング・ゼクターの緑色の眼が、煌々と輝きを放つ。
茂はコイル・アームを擦り合わせ、電撃を迸らせた。
「俺は、正義の戦士――!」
電流を纏うその腕を、茂が、地面へと打ち付けた。
茂とさくらを中心とした円から、放射状に、稲妻の蛇が駆け抜けてゆく。
眩いばかりの白い光――
その中で、ストロング・ゼクターが、城茂の肉体を包んで行った。
その光の中から、赤い鎧を身に着けた、緑の瞳の戦士が現れる。
「仮面ライダーストロンガー!」
変身を遂げた城茂・ストロンガーに、デッドライオンが跳び掛かってゆく。
一〇本の触脚が唸りを上げて、ストロンガーに迫った。
ストロンガーは、その動きを全て見切り、背中に隠れるさくらを守った。
「茂さん……」
さくらは、その大きな背中に、声を掛けた。
「仮面ライダー!」
名を呼ばれ、ストロンガーが頷いた。
背中越しの頷きで、さくらには充分であった。
さくらは、その場をストロンガーに任せて、倉庫から立ち去ってゆく。
「待て、小娘!」
アリジゴクが、逃げようとするさくらを追った。
その前に風見が立ちはだかり、ギターの底で、アリジゴクの横っ面を叩く。
「そんな怖い顔をしちゃあ、いけないな」
風見は、切れるような笑みのまま、言った。
「何⁉」
「女の子には、もっと、優しくしてやらなくちゃな」
「黙れ⁉」
アリジゴクが、怪人の姿に変身する。
アルマジロンも、風見に向かって突撃していた。
「っと――」
風見は、大きくジャンプして、ギャラリーの手摺りに飛び乗った。
ギターを大きく振り回す彼の服装が、一変している。
緑色のスーツに、銀と赤のプロテクターと、白いレガート。
腰部には、二つの風車が回っている。
ギターの胴体を叩くと、底が開き、中から、仮面が出て来た。
中心に蛇腹を走らせた、赤い仮面。
それを被り、顔の下半分を保護するクラッシャーを装着した。
ぎゅおん、
ぎゅおんっ!
ダブル・タイフーンが回転した。
その中心にあるレッド・ランプが輝いた。
風見志郎は、強化改造人間第三号――仮面ライダーに依って改造された仮面ライダー、V3へと変身を遂げていた。
「ゆくぞ!」
V3は、アリジゴクとアルマジロンに戦いを挑む。
結城は、クラブマンを倉庫の隅まで誘導した。
変身したクラブマンの巨大な鋏が、結城を切り裂く心算が、壁を砕いてしまう。
砕かれた壁の向こう側には、一見すると、市販のオートバイにしか見えない、しかし、その実はライダーマンの為のマシンが、佇んでいた。
結城は、ライダーマンマシンのシートから、ヘルメットを取り出した。
蒼いヘルメットには、一対の触角が伸び、赤い複眼が備えられている。
ブレザーを脱ぎ捨てた結城は、強化改造人間のスーツを着込んでいた。
ヘルメットを被る。
そうして、神啓太郎の手術に依って与えられた、試作型パーフェクターをセットした。
こうして、結城丈二は、仮面ライダー第四号・ライダーマンとなるのである。
ライダーマンは、ベルトのホルダーから、カセットを取り出した。
それを右腕にセットする。
右手が、三日月型の、ぶ厚い刃に変形した。
パワー・アームである。
反り返った刃が、クラブマンの鋏を受け止めた。
サメ改造魔虫の背後から、クルーザーが迫っていた。
神敬介は、サメ改造魔虫を蹴り飛ばし、クルーザーに向かって走った。
ベルトの両脇から、レッド・アイザーとパーフェクターを取り出す。
胸の中でマーキュリー回路が目覚め、クルーザーに搭載されたスーツと共鳴した。
クルーザーと擦れ違いざまに、敬介の身体には、銀の強化服と、赤と黒のプロテクターが装着されている。
レッド・アイザーがXマスクを形成し、最後にセットされたパーフェクターが、走り抜けた風圧からエネルギーを取り込んで、神敬介の身体に送り込む。
変身完了したXライダーに、サメ改造魔虫が殴り掛かる。
だが、触れた相手を否が応にも傷付けるその肌も、Xライダーには通じなかった。
父・啓太郎が、息子・啓介を助ける為に、最後の力を振り絞って造り上げたその身体は、鉄よりも強い。
悪には敗けぬという、父の思いが、銀のボディには宿っているのだ。
Xライダーの黒い拳が、サメ改造魔虫の胴体を突き抜けていた。
馬乗りになったアマゾンの胴体を掴み、ゴリガンが立ち上がる。
アマゾンは、右手でゴリガンの左こめかみを、左手で顎を掴み、思い切り捻った。
ごぎり、と、嫌な音がして、ゴリガンの顎が、斜め上の方を向いた。
ゴリガンの力は緩まない。
改造魔虫たちは、例え頸の骨を折られても、死なないのである。
アマゾンは、剥き出しになったゴリガンの頸に、牙を突き立てた。
肉を引き千切り、床に吐き出す。
餓蟲で形成されたその肉と血は、本体を離れた途端、靄となって消滅する。
アマゾンはゴリガンから離れて、前傾姿勢を採った。
「がふぅ……」
と、獣のように唸る。
アマゾンの身体の表面に、ぞわぞわと、鱗が浮き出していた。
その下に、赤々とした血液の流れが、見て取れる。
「あぎぃぃ~~~~っ!」
アマゾンは胸を反らして、叫んだ。
大胸筋が、ごりごりと発達してゆく。
ボディ・ビルダーのような膨張を見せながら、その筋肉は、女の乳房の柔らかさを保っている。
ごつん、ごつん、と、背骨が歪に曲がり始めた。前傾が、ますます深まってゆく。
その前に傾いた背中の肉を、内側から、棘が突き破って来た。
棘の間に、膜が張られる。背びれだ。
両手を、地面に着いた。
四つん這いの姿勢が、似合っていた。
皮膚が、内側から色を濃くしてゆく。鱗が生じていた。
爪が伸びる。
腕刀からも、ぶつぶつと、刃のようなヒレが伸びて来た。
ぐりぐりと、鼻から顎に掛けてが、せり出している。
平らになった鼻の下から、唇が消失した。
ピンク色の歯茎の下で、ナイフのような牙たちが並ぶ。
瞼がなくなった赤い眼が、ぞろりと光る。
眉間に、小さな触覚が、盛り上がっていた。
「けぇぇぇぇ~~~~~~っ!」
アマゾンライダーは、叫び声を上げた。
野生の慟哭と共に、ゴリガンへと駆け出していた。