仮面ライダー Chronicle×World   作:曉天

60 / 140
第二十節 困惑

三崎美術館――

 

その崩壊したエントランスに、改造人間と改造魔虫が対峙している。

 

改造魔虫ハチ女は、天井に。

改造魔虫アルマジロンは、入り口の傍。

階段の下に、ストロンガー。

その隣に、Xライダー。

その場に、人間態のアリジゴク、サメ改造魔虫、ゴリガンが乱入して来る。

 

「何だと⁉」

 

神啓介・Xライダーが、ハチ女の言葉に対して、言った。

 

自分と茂が追うべき友達――つまり、仮面ライダーの仲間の中で、改造魔虫たちに斃されたのが、二名から、三名に変わったという言葉に対して、である。

 

「どういう事だ……」

「言葉のままさ」

 

改造魔虫アリジゴクが、異形の姿へ変身を遂げながら、言った。

 

「第三号と四号は爆死、第六号は砂の底に埋めてやったぜ……」

 

三号とはV3、四号とはライダーマン、六号とはアマゾンである。

 

「だから、残ってるのは、てめぇらだけさ」

 

サメ改造魔虫も、姿を変える。

 

「伝説だろうが、何だろうが、所詮残りは旧式よ……」

 

ゴリガンが言う。

 

先に斃されている三人と、この場のXとストロンガーを抜けば、仮面ライダーの名前を関する強化改造人間は、第一号・第二号の二人である。

 

始まりの男である第一号・本郷猛と、彼を斃す為に改造された第二号・一文字隼人。

 

ショッカー・ゲルショッカーを滅ぼした彼らが誕生してから、既に四年である。

 

その間に、どれだけ改造人間の製造技術が発達しているのか――それを考えると、最新型の改造魔虫と、旧型の強化改造人間では、勝負が見えている。

 

と、彼らは言いたいのであろう。

 

そうした改造魔虫たちに、敬介と茂は囲まれてしまっていた。

しかも、今は姿が見えないが、まだ、オオカミンとクラブマンも残っているのだ。

 

「茂――」

 

敬介は言った。

茂は、ストロンガーの銀色の顎を引いた。

少しは、冷静になったらしい。

 

「ゆくぞ」

「応――」

 

駆け出した。

 

Xライダーは、ライドル・スティックを構えて、サメ改造魔虫に向かう。

ストロンガーは、アルマジロンに走った。

 

「お話しする心算はないって事かい」

 

アリジゴクが、眼を細めて笑った。

サメ改造魔虫の前に、アルマジロンが出る。

ストロンガーを迎撃するように、ゴリガンが出て来た。

敬介は、防御力の高さの為に相性の悪いアルマジロンと、再び相対する。

 

「ちぃ――」

 

ライドル・スティックで滅多打ちにするも、肩からのタックルで吹き飛ばされてしまう。

 

「ご所望通り――」

 

アルマジロンの背を蹴って、サメ改造魔虫が、上空からXライダーに襲い掛かった。

 

頭上から落ちて来る蹴りを躱し、ライドル・スティックを袈裟掛けに振り落す。

 

身体を回転させて躱したサメ改造魔虫の、後ろ廻し蹴りが、敬介のボディを打った。

揺らいだそこに、アルマジロンが身体を丸めて突撃して来た。

ガードランが軋み、敬介がマスクの内側で呻く。

 

サメ改造魔虫は、そのモチーフ故にか、決してXライダーに有利ではない。

アルマジロンは、そのガードのぶ厚さゆえに、Xライダーに対して有利だ。

 

 

 

 

 

一方、茂・ストロンガーは、ゴリガンと真正面から組み合った。

 

コイル・アームの電流を、直に伝えるレガートと組み合っても、ゴリガンに通じた様子はない。

 

パワーは、互角であった。

 

「むぅ!」

 

ストロンガーはゴリガンの手を振り払って、前蹴りをぶち込んだ。

ゴリガンの腹筋が、ストロンガーの剛力を無効化する。

 

茂・ストロンガーは、ゴリガンの横に入り込み、脇腹に蹴りを入れた。

続けて、パンチを叩き付けてゆく。

 

「おぅ!」

 

 

ばりぃ、

 

 

と、左拳に電流が走り、ストロンガーの電パンチが炸裂した。

 

ゴリガンの、パンチをガードした腕に、焦げ跡が生じる。

肉の焼ける匂いが、ぷぅんと、その場に立ち上がった。

 

「くむ」

 

と、歯を噛む茂の足元が、崩れた。

 

アリジゴクの、戦闘空間形成だ。

陥没した床に、砂の擂り鉢が出現していた。

 

「お前も生き埋めにしてやるぜ……」

 

擂り鉢の中心で、アリジゴクが笑っていた。

 

「けっ」

 

ストロンガーはそう言うと、両腕を擦り合わせた。

 

「だったら、てめぇは砂の中で蒸し焼きにしてやるぜ」

 

エレクトロ・ファイヤーを、砂の中に叩き込んだ。

発生させた磁力で、砂鉄を浮かび上がらせ、導線として用い、電撃を叩き付けるのだ。

 

砂鉄の黒い筋が蜘蛛の巣のように張り巡らされ、蒼白い稲妻が、アリジゴクに進む。

だが、電撃の直撃を受けても、アリジゴクは揺るがない。

 

外骨格の表面に、幾らかの火花が散るのだが、効果はなかった。しかも、下半身を砂に埋めている為、電気は地面に流れてしまうのだ。

 

それがなくとも、改造魔人と同じ程度の肉体を持つ彼らには、通常の電気技は通じない。

 

その間にも、ストロンガーのブーツが、流砂の擂り鉢に潜り込んでゆく。

 

「ぬんっ」

 

ストロンガーは、カブト虫のパワーを再現した出力で、アリジゴクから脱出する。

アリジゴクと、ゴリガンを、同時に見る事が出来る位置に移動する。

 

その向こうでは、Xライダーが、サメ改造魔虫とアルマジロンの連携に苦戦していた。

 

――さぁて……。

 

と、茂は思考する。

 

通常の電気技の通じない相手に対しては、超電子ダイナモを起動させる事が必須だ。

そうすれば、超電子の力で、敵を粉微塵にする事が出来るだろう。

 

だが――ストロンガーが超電子の技を使う事が出来るのは、一分が限界だ。

それを超えると、自爆してしまう。

 

その間に、一体、この場の改造魔虫を何体破壊する事が出来るか。

そして、自分が斃すべきなのは誰か。

 

パワーと防御力に優れた、ゴリガンとアルマジロンであろう。

その二人を、一分以内に斃す事が出来るか――。

 

考えを巡らせるストロンガーに、ゴリガンが拳を向けた。

 

回避からの、反撃。

拳を腹に打ち付ける。

 

距離を取った。

 

――このまま、巧く誘導して……。

 

茂は、ゴリガンの攻撃を避けつつ、Xライダーと戦っているアルマジロンの傍まで連れてゆこうと考えた。

 

この二体の距離が近ければ、ダイナモの起動(チャージ・アップ)から一分以内に、二体を同時に斃す事が可能である。

 

その意思を、敬介に伝えようとした時であった。

 

「え――⁉」

 

と、驚きという感情が、ざわりと波打って、茂たちの身体を叩いた。

 

茂・ストロンガーは、ゴリガンの攻撃を、跳んで避けながら、それを見た。

 

美術館の奥に避難した筈の、さくらを始めとする客たちが、エントランスに戻って来たのだ。

 

 

 

 

 

美術館の裏口から逃げ出そうとした客たちであったが、何故か、その扉は固く閉ざされていた。鍵を開けて、ドアノブを回しても、びくともしないのである。

 

緊急用の斧などを使って、ドアをぶち抜いてみた。

 

すると、白っぽい壁が、扉のすぐ向こうにはあった。その白い壁が、裏口を封じていた。

 

窓も同じであった。

 

それが、クラブマンの放つ、空気中で硬化する泡だとは、誰にも分からない。

 

突如として自分たちを襲った非日常に、人々は、すっかり怯えてしまっている。

スタッフも、混乱していた。

泣き出す子供たちもいた。それを叱る大人まで現れている。

 

普通ならば入る事のない、建物の裏側に、人が群れていた。

電気が止まっている。従って、空調も効かなかった。

夏の陽射しが、建物の外側を焼き、内側に熱を伝えている。

じっとりと、脂汗が吹き出していた。

 

そんな中で、さくらが、周りの人たちのフォローに入っている。

 

べそを掻く子供を励まし、声を張り上げる大人たちをなだめ、スタッフと逃げ道を探した。

 

時折、エントランスから聞こえて来る衝撃音に反応する人々を、安心させる為に行動した。

 

それらの事を、一通り行なった所で、さくらは、吉塚と相澤の下へ行った。

他の人たちに遅れる形で避難して来た二人は、がくがくと震えている。

 

「大丈夫?」

 

と、さくらが訊いた。

二人は、歯をかちかちと鳴らすだけであった。

 

「さ、さくら先輩は……」

 

吉塚が、震える声で言った。

 

「怖く、ないん、ですか」

「――」

 

確かに、今の自分は、些か冷静過ぎるかもしれない。

 

だが、あの獅子の仮面の戦闘員には、覚えがあった。初めて見た時には、その異様さに怯えもしたが、今は、それ程の怖さはない。

 

友人・星河深雪の仇である――

 

恐怖とは対極に位置する、激しい感情――怒りが、さくらにはあった。

 

そして、その激情に任せて戦おうとした自分を、鋭く一喝してくれた神敬介の言葉で、冷静さを取り戻す事が出来ていた。

 

「怖いは怖いけど、平気だよ」

 

さくらには、何の根拠もなかった。

 

しかし――

 

あの赤い薔薇を思い出すと、どうしてか、そんな気になって来るのだ。

 

と、不意に声が上がった。

 

「開くぞ!」

 

誰かが言った。

スタッフの一人だったか。

 

裏口を封じていた、白い壁が、もう少しで突き崩せそうなのだ。

 

ドアを引き剥がし、コンクリートの硬さの壁を、斧でずっと叩いていたのだ。

小さな亀裂が入り、それが大きくなり、太陽の光が細い筋となって射し込んだ。

 

 

がつっ、

 

 

と、斧の刃が、白壁にぶつかってゆく。

 

 

がつっ、

がつっ、

がつっ!

 

 

と、喰い込んだ。

 

ぽろぽろと、人の腕が通る位の隙間が出来ていた。

 

後は、その周辺を巧く突き崩してゆけば――

 

その前にと、斧を持っていたスタッフが、隙間から顔を覗かせた。

 

大して時間は経っていないのに、太陽光を浴びるのが久し振りな気がしている。

 

そのスタッフは、外を見た。

けれども、そこには、不思議なものがあった。

 

球形のものが、何か、管に支えられて浮かんでいる。

その球系の中心で、ぐりりと、黒いものが動いた。

 

途端、スタッフの顔に、何かが吹き掛けられていた。

壁の孔から吹き込んだのは、白い泡だ。

 

その泡が、鼻や口を塞いで硬化し、スタッフの息の根を止めてしまった。

顔に白いものを塗りたくって、倒れるスタッフ。

 

何事かと騒ぎ出す人々の前で、白い壁が、紙を裂くかのように破かれ始めた。

 

壁の向こう――外側からやって来たのは、改造魔虫クラブマンであった。

 

その異形に人々はパニックを起こして、逃げ出した。

エントランスの方に、である。

 

クラブマンは、両手の大きな鋏を振り被って、人々を追い掛け始めた。

蟻の大群のように逃げる。

 

その中から幾らかの者たちが逸れて、やはり塞がれている窓の方へと走った。

 

窓が、外側からぶち破られる。

 

オオカミンであった。

 

女の身体を、灰色の獣毛が覆っていた。

イヌ科動物の特徴を持った頭部が、びゅんと走り、誰かの首筋にかぶりついた。

 

動脈が引き千切られ、鮮血が迸る。

 

「おおおおぉぉぉ~~~んっ」

 

雌狼の咆哮が、館内に木霊した。

 

客たちは、改造魔虫に追い立てられて、エントランスへと戻ってしまったのだ。

 

 

 

 

 

怪人たちに追われるようにして、エントランスへと足を踏み入れた人々であったが、そこで見る事になった光景にも、彼らは驚き、怯える事となる。

 

異形の人影が、七つも並んでいたのであるからだ。

 

それで、パニックが増大する。

その事を楽しむように、サメ改造魔虫と、アリジゴクが、一旦、戦線を離れた。

 

「待て!」

 

客たちの方へ向かったサメ改造魔虫に、Xライダーが制止の声を掛ける。

アルマジロンが、Xライダーの道を塞いでしまった。

 

その妨害にかっとなった敬介は、マーキュリー回路をフル回転させた。

 

アルマジロンに組み付いてゆく。

アルマジロンの腰で両手をクラッチして、マーキュリー回路から供給されるエネルギーを全身に行き渡らせ、自身の体重を遥かに超えるアルマジロンを持ち上げた。

 

「むぅんっ!」

 

と、背中を反らして、アルマジロンの頭部を、後方に打ち付けた。

 

Xライダーの銀の鎧が、床に橋を作る事となった。

 

マーキュリー回路のエネルギーで、一時的に増大したパワーでアルマジロンを投げ飛ばしたXライダーは、サメ改造魔虫を追う。

 

ライドル・ホイップで、サメ改造魔虫を切り裂く事は可能であった。

 

その前に、ハチ女が天井から落下して来た。

毒針フルーレを、ホイップで受ける。

 

ライドルを振り抜いて、ハチ女をやり過ごすと、又、人々に迫るサメ改造魔虫を追う。

 

アリジゴクも、サメ改造魔虫と同じように、人間たちに狙いを定めていた。

 

間に合わない――!

 

と、敬介が悲壮な表情を浮かべた。

 

だが、二体の改造魔虫の道を、床から噴き上がった稲妻の壁が防いだ。

人々を守る、蒼白い、実態なき壁であった。

ストロンガーが、床に電撃を伝わらせて、客たちの前で上昇させたのだ。

 

エレクトロ・ウォーター・フォールだ。

 

その電撃の壁に、サメ改造魔虫とアリジゴクが呆気に取られている間に、ストロンガーが駆け出していた。

 

その姿に、変化が起こった。

 

カブテクターが展開し、Sポイントと呼ばれる、胸のSのパーツが前方にせり出した。

一回り大きくなったカブテクターの中心で、Sポイントが高速で回転を始める。

ヘルメットの大きな角――カブト・ショックが、伸長し、銀色に発光した。

 

超電子ダイナモを起動させた――チャージ・アップ形態である。

 

「らぁっ!」

 

チャージ・アップしたストロンガーは、電流の壁の前で立ち尽くす改造魔虫二体に対して跳躍し、空中で身体を大の字にして、横に回転させた。

 

赤い大車輪が、放電しながら、サメ改造魔虫とアリジゴクに迫る。

 

Sポイントの回転で、身体から放出される超電子が、三〇〇キロのボディを回転させていた。

 

その脚が、改造魔虫たちを薙ぎ払ってゆく。

 

サメ改造魔虫は頭を砕かれ、アリジゴクは心臓の位置まで胸を削ぎ飛ばされた。

 

エレクトロ・ウォーター・フォールがやむのと、ストロンガーの着地及びチャージ・アップ解除は同時であった。

 

人々は、眼の前に佇む、赤い鎧の戦士に、困惑している。

 

そんな中で、

 

「城さん……」

 

と、そういう声を聞いた。

改造人間にしか聞こえない、か細い声だ。

吉塚と相澤である。

 

「え?」

 

さくらが、それに反応した。

人波を描き分けて、ストロンガーの傍までやって来た。

 

「貴方……」

「――」

 

ストロンガーは、戦場に戻る為、踵を返した。

 

咄嗟の事とは言え、チャージ・アップを、巧くやれば使う必要のない敵に対して、使い果たしてしまった。

 

「茂さんなんですか⁉」

 

さくらが、ストロンガーの背に問うた。

 

ストロンガーは答えない。

城茂・ストロンガーは答えなかった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。