仮面ライダー Chronicle×World   作:曉天

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第十節 忌昂

「で――」

 

アポロガイストが訊いた。

 

「お前たちの目的は、何なのだ?」

「目的?」

「私を蘇らせた目的だ」

「――」

「まさか、私に神敬介への復讐をさせたいと言うだけではあるまい?」

「それも理由の一つではあるけどね」

 

と、マヤ。

 

「俺は、仮面ライダーに復讐したいだけだ」

 

黒井が言った。

 

「それを、こいつらが、中々させてくれないのさ」

 

少し不快そうに、黒井。

 

ゲルショッカーが壊滅させられ、浜名湖の下にあった本部から脱出する本郷ライダーと一文字ライダーに対し、トライサイクロンで挑み掛かろうとした黒井を、克己は止めている。

 

そうしている内に、仮面ライダーV3や、ライダーマン、Xライダーが誕生して行った。

 

「色々と事情があるのよぅ」

 

マヤが言った。

 

「舞台は間違いなく用意して上げるから」

「――何度、それを聞いた事やら」

「黒井、君の事は、分かった」

 

アポロガイストは、マヤに眼をやった。

 

「で、何の為なのだ?」

「そりゃ、決まってるわね」

「決まっている?」

「ショッカーの大幹部としては、ショッカーの意思を継ぐ事よ」

「――つまり」

「世界征服――」

「――」

「今はね、その準備期間なのよ。貴方の事も含めてね」

「私を?」

「ええ。兵力の充実は、何よりも大事な事よ――」

 

そう言いながら、マヤは、ジャンパーのポケットから、小さな包みを取り出した。

包まれていたのは、回路である。

 

「それは?」

「ブラック・マルス――」

「ブラック・マルス?」

「貴方の為の強化回路よ」

「強化回路⁉」

「貴方は知らないでしょうけど、神敬介は、貴方が死んでから、マーキュリー回路というものを埋め込んで、強化されたわ。それに対抗する為の回路よ」

「――」

「これを装着すれば、貴方は今の何倍にもパワー・アップ出来るわ」

「――」

「勿論、昔の貴方が悩まされた寿命についても、克服出来るわよ」

「ほぅ……」

 

アポロガイストは静かに頷いた。

 

「で、協力するのかい、アポロガイスト」

 

克己が訊く。

 

アポロガイストは、すぐに答えた。

 

「無論だ」

「――」

「親父――呪博士に対して、私は、恩義さえ感じる事もない。けれど、GOD機関に与した時の、人間を薄汚いものと思う心は変わらない。そして、神敬介への復讐も、だ」

「――」

「その点で、私が、お前たちに協力しない理由はないという事だ」

「――安心したわ」

 

マヤは、にぃ、と、唇を吊り上げた。

 

「それじゃあ、早速、手術の準備に入りましょう――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの闘技場に、二人の男がいる。

黒井響一郎と、松本克己だ。

 

黒井は、修理が終わった、自分の強化服を着用している。

蒼いプロテクターとレガートを装着した、金のラインのスーツである。

黄色いマフラーも、アポロガイストの返り血は、すっかり落とされていた。

脇に、蒼い飛蝗の仮面を抱えていた。

 

克己も同じように、強化服を着込んでいる。

 

強化改造人間第三号である黒井の着ているものは、まだ、レーサーのそれに近い。

しかし、克己が着ているのは、飛行服を思わせる、深緑色のスーツだ。

 

その上に、銅色のプロテクターとレガートを着けている。

背面には、小型ではあるが、ボンベを背負っていた。

 

垂らした右手で持っている仮面は、ヘッド・セットを起点に、チン・ガードが後頭部まで持ち上がっており、被る時に下げて、その内側のプレートを展開する方式のものだ。

 

黒井とほぼ同じ時期に改造されはしたが、全く異なる方向で改造されている。

 

黒井は、第一号と第二号に勝る“速度”をテーマにしていた。

オートバイよりも馬力のある四輪車――トライサイクロンは、その象徴だ。

 

では、克己に設けられたテーマと言えば、次元を一つ上げる事だ。

 

今までは、オートバイ、スポーツカーと、陸上の事だけを考えていた。

克己は、縦横の二次元である地上から、そこに空を加えた三次元を手にしている。

 

克己のベルト脇のバーニアは、本郷から黒井に掛けての前三期に共通のものよりも大型で、出力が高い。

又、全身に小型のバーニアが備えられており、空中動体制御も可能だ。

 

それに何より、S.M.R.の柱の一つであるマシンは、プロペラ機である。

ここにはないが、スカイサイクロンという名であった。

 

あれから、一ヶ月が経っていた。

アポロガイストが、黒井と戦った日から、である。

アポロガイストが、ブラック・マルスを体内に埋め込む手術を開始されてから、だ。

 

その日、黒井と克己が、強化服を着用し、この闘技場にいるのは、アポロガイストの強化改造が終了するのが、間近であるからだった。

 

この闘技場を含めた施設は、勿論、ショッカーの遺産である。

 

浜名湖下の基地は、本郷猛と一文字隼人に襲撃され、自爆プログラムを発動した。

デストロン基地も、仮面ライダーV3に破壊されている。

GOD機関の場合は、巨大ロボット・キングダークが立ち上がる際に、自ら崩壊させていた。又、そのキングダークは、仮のGOD総司令であった、呪博士の要塞でもある。

 

その他、様々な場所にショッカーやそれらの系譜の組織のアジト・基地は存在していたが、その中で、手術環境の無事だった場所を選んで、マヤたちは自分たちのものとしていた。

 

黒井と克己が闘技場に入ってから、暫く経った。

 

そうしていると、強化改造を終えたらしいアポロガイストと、彼の手を引くマヤが、一緒に闘技場にやって来た。

 

「ほぅ」

 

と、黒井が漏らした。

 

「中々、さまになってるじゃねぇか」

 

克己が言う。

 

アポロガイストは、染み一つない真っ白いスーツを着こんでいる。

髪は短く刈り上げられていた。

堀の深い顔には、ふとましい笑みが浮かんでいる。

 

その手を引くマヤは、白いドレスを纏っていた。

隠すべき所は、白い生地が覆っているが、その布の裏側から、彼女が持つ官能的なものが溢れ出して来るかのようであった。

 

「――で、又、俺は彼と取っ組み合わされるのかな」

 

黒井が訊いた。

 

「どれだけやれるのか、確かめて置くには、それが良いな」

「――いや」

 

克己の言葉を、アポロガイストは、首を横に振って否定した。

 

「そんな必要はないよ」

「ほぅ⁉」

「今の私なら、君たちを優しい眠りに連れて行くのに、一分も掛からぬ」

「――」

 

アポロガイストの言葉を受けて、黒井と克己の中に、緊張が走った。

 

黒井は、フォーミュラ・カー・レースのチャンピオンだ。

克己は、改造人間の手術に耐え続けた身体に、誇りがある。

 

そういう自分に対して、微笑みながら、戦えば一分で自分が勝つと、何もしない内から言う相手を、気に喰わないと思ったのだ。

 

「試すかい?」

「試すだろ?」

 

黒井と克己が、仮面を被った。

 

黒井の、蒼いクラッシャーが閉じ、黄色い眼に光が灯る。

チン・ガードが回転し、克己の顎を覆うと、プレートが展開する。

 

黒井響一郎――強化改造人間(仮面ライダー)第三号と、松本克己――強化改造人間(仮面ライダー)第四号が、戦闘準備を始めていた。

 

アポロガイストは、マヤに目線をくれる。

マヤは頷いて、三人から離れた。

 

アポロガイストは、スーツの内側から、葉巻を取り出して、口に加えた。

右手を、葉巻の前に出し、指を小さく打ち鳴らす。

と、葉巻の先端が炎を帯び、白い煙を上げ始める。

 

アポロガイストは左手をポケットに突っ込むと、あっと言う間に吸い尽くしてしまった葉巻を右手で挟み、唇から放した。

 

「合図だ――」

 

葉巻を上空に投げ捨てる。

 

風を浴びて、残っていた火が、小さく、赤く光った。

 

黒井は、自然体から、左の開手を前に出した構えを採っている。

克己は左拳を顎の下に持ち上げ、右手を後ろに大きく引いた。

アポロガイストは、ハンド・ポケットのままである。

マヤは、その光景を、面白そうに眺めていた。

 

葉巻が――

――落ちる。

 

駆け出していたのは黒井だ。

 

黒井は、アポロガイストに肉薄すると、ローキックを叩き込んで行った。

太腿に直撃すれば、人間ならば、大腿骨ごと持って行かれる。

強化改造人間の鉄の骨格でも、歪む。

 

定石通り、脛で受けたとしても、同じ事だ。寧ろ、脛の方が硬い故に、綺麗に破壊される。

 

だが、アポロガイストは、膝を持ち上げて脛でガードし、黒井の蹴りを止めてしまう。

 

「ぬ――」

 

アポロガイストは、唇を持ち上げ、肩を竦めた。

 

黒井が、連続でパンチを打ち込んで行く。

それを、頭部を傾けたり、僅かに身体を開いたりするだけで、躱していた。

 

黒井は、左手を伸ばして、アポロガイストのスーツの襟を掴んだ。

投げに行くも、右手で殴るも自在である。

 

しかし、アポロガイストは、ポケットに手を入れたまま、腰を切るだけで、黒井を崩した。

 

黒井の左肘に、アポロガイストが右の肩を押し付ける。

 

「くっ」

 

と、呻いた黒井の脇腹を、アポロガイストが小さく蹴った。

 

よろめく。

ダメージとも言えないダメージ。

身体に痛みがない代わり、屈辱が、黒井を襲う。

 

アポロガイストは小さく笑む。

 

その頭上が翳った。

 

見れば、いつの間にか跳躍していた克己である。

 

克己は、アポロガイストに向かって、足を向けながら落下していた。

アポロガイストが動かなければ、その蹴りがアポロガイストを砕く。

 

これには、アポロガイストも回避行動を取った。

小さく跳ねる。

 

アポロガイストが立っていた地面を、克己の、銅色のブーツが踏み砕いた。

地面の破片が、克己とアポロガイストの周囲を漂う。

 

その破片に――

 

アポロガイストは、ポケットから抜いた拳を当てた。

 

破片が、克己へと飛んで行く。

 

しかし、アポロガイストの拳で投擲された瓦礫は、克己に到達する以前に、砕けてしまう。

 

恐らく、今のアポロガイストのパンチ力ならば、コンバーターラングをへこませる事も可能だ。

 

跳躍しての攻撃は控えるべきであった。

容易にカウンターを許す。

 

しかし、それは、空中での動体制御の左程優れていない、強化改造人間第三号までの話だ。

 

克己は、地面を蹴って跳び上がる。

 

アポロガイストが、地上で、迎撃の準備を始めていた。

 

克己は、ベルト脇のバーニアだけでなく、各部に設けられた小型の噴出口から、細かく空気を吐き出して、旋回した。

 

アポロガイストを撹乱して、予想だにしない方向から、拳を叩き付けて行く。

 

アポロガイストは、どうにかそれを回避した。

 

着地した克己と、戦意を取り戻した黒井に、アポロガイストは挟まれた。

 

「訓練だからな」

 

と、呟くと、スーツの前を開きながら、アポロガイストはそれを取り出した。

 

「使わぬ手はあるまい――」

 

その両手には、仮面を模した円形のユニットと、表面に段差のある角張ったデバイスがある。

 

円形のユニットには、楕円が二つ設けられていて、その色は緑である。

 

角張ったデバイスは、色こそ黒いが、Xライダーのパーフェクターと同様のものだ。

 

そして、腰にはベルトが巻かれている。

船のスクリューが、大きな、銀色のバックルには内包されていた。

 

アポロガイストが、円形のユニット――グリーン・アイザーを、自らの脳波で輝かせる。

 

すると、闘技場の暗闇から、進み出て来る機体があった。

 

見れば、重装甲の三輪バギーであった。

そのフロント部分には、日輪を模したマークが彫り込まれている。

 

三輪バギー――アポロクルーザーは、操縦者不在のまま、闘技場を駆け回り、黒井と克己を翻弄する。

 

アポロガイストがアポロクルーザーに乗り込むと、その全身に、マシンに積み込まれていた強化服が、自動的に装着されて行く。

 

白いスーツを、黒い強化服が覆う。

四肢に、黒鉄のレガートが装着された。

胴体には、緑色のプロテクター。

背中には、第四号のそれよりも巨大なボンベを背負う。

 

アポロガイストは、グリーン・アイザーを展開させ、ヘルメットを被った。

 

黒い円形に、緑色の炎が奔っている。

一対の楕円の間から、上に向かって緑色のVが伸びていた。

 

右手に持っていたパーフェクターを、口元に装着する。

 

アポロガイストは、セット・アップを完了し、新しい姿へと生まれ変わった。

 

アポロクルーザーの背に、一本の旗が立てられる。

日輪の中、バイクに跨るRの文字だ。

 

アポロクルーザーをドリフトさせ、アポロガイストはマシンを停める。

 

自らを象徴する旗を捥ぎ取ると、マントのように、身体に巻き付けた。

 

強化改造人間――第五号とも呼べる姿であった。

 

「これが、アポロガイスト、お前の――」

「――違う」

 

黒井の漏らした呟きに、アポロガイストが反応した。

 

「私は最早、アポロガイストでも、呪博士の息子でもない」

「――では、お前は?」

 

克己が訊いた。

 

「ガイスト――」

 

マヤが、三体の強化改造人間に歩み寄り、言った。

 

「貴方は今日から、ガイストと名乗りなさいな」

「ガイスト、か」

 

アポロガイスト――否、ガイストが、その言葉を反芻した。

 

「ええ。貴方は、ガイストライダーよ――」

 

ここに、GODの亡霊が、誕生したのである。

 

イレギュラー・ナンバーの仮面ライダーが、三人、揃った事になる。




第三章はここまでとなります。
あとがきは、活動報告にて。
第四章の開始まで、少々お待ち下さい。

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