仮面ライダー Chronicle×World   作:曉天

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第四節 神呪(子)

仮面ライダーというのは、そもそも、ショッカーの改造人間である。

 

人間と、他の動植物との遺伝子レベルでの融合を図っていた、今までの改造人間とは、別の方法で改造された、強化改造人間の事を言う。

 

肉体に人工の臓器や、培養した特殊繊維を埋め込み、脳神経を強化する為のユニットを取り付ける。

 

その上で、マスクとスーツから成る強化外骨格を装着し、ショッカーの人工衛星とのリンクで走行するマシンを用いる。

 

仮面とマシンを使用する事から、その改造人間は、S.M.R.と呼ばれていた。

 

System Masked Riders――それが、強化改造人間計画のプロジェクト名であり、誕生する改造人間の名前であった。

 

しかし、誰が呼んだか、S.M.R.は、仮面ライダーと呼称されるようになった。

 

その計画の第一期で改造されたのが、本郷猛である。

 

緑川博士の手引きで、ショッカーから脱走した本郷は、緑川や、彼にショッカーとの戦いを決意させた神啓太郎のお蔭で、ショッカーに敵対を始める。

 

彼を斃す為に、死神博士が、第二期強化改造人間計画を立案した。

 

そうして、六体の強化改造人間第二号が生まれた訳だが、ショッカー基地に潜入した本郷猛は、第二号の内の一体・一文字隼人を仲間として、ショッカーに牙を剥く。脳改造済みであった他の五体は、本郷と一文字を処刑しようとするが、返り討ちに遭って破壊された。

 

ショッカーと戦う道を選んだ二人の改造人間は、見事、ショッカーとゲルショッカーを壊滅させる。

 

その後、デストロンが誕生する。

 

デストロンは、先ず本郷と一文字を抹殺しようとするが、デストロンの暗躍を偶然にも目撃した青年・風見志郎の、命を懸けた妨害で失敗する。

 

風見志郎はデストロンに両親と妹を殺されており、その復讐の為に、改造人間となる事を、二人の仮面ライダーに望んだ。

 

改造人間の苦悩を知る本郷たちは、最初はこれを拒否する。

しかし、自分たちを助けた志郎の勇気に感銘した本郷・一文字の二人は、生命を助ける為に改造手術を施す。

 

そうして、三人目の仮面ライダーが誕生する事となった。

コード・ネームは、Variation 3……俗に、仮面ライダーV3と呼ばれている。

 

そのV3と、元はデストロンの科学者であったが、自分の出世を妬み、殺そうとした大幹部・ヨロイ元帥への復讐の為、結果的にデストロンに対峙する事となった結城丈二――この二人の活躍で、デストロンは滅んだ。

 

仮面ライダー本郷猛・一文字隼人は、ショッカーの改造人間である。しかし、脳改造前に脱出した事から、人類の自由と平和の為に、ショッカーと戦う宿命を背負った。

 

その本郷と一文字――仮面ライダー第一号と第二号に改造された、仮面ライダーV3・風見志郎は、仮面ライダー第三号と呼ばれるべきであろう。

 

ヨロイ元帥に奪われた右腕を、戦闘用の義手に換え、ライダーを模倣したヘルメットと強化服を纏って戦った結城丈二――ライダーマン。彼は、最初こそヨロイ元帥への復讐だけを考えていたが、最後には、東京に撃ち込まれようとしたプルトン・ロケットを、命を賭して破壊し、人々を守った。

 

風見志郎は、結城丈二の行ないに感動し、自らが受け継いだ仮面ライダーの名前を、ライダーマンに贈った。仮面ライダー第四号の誕生である。

 

しかし――

 

神啓介を殺したのは、ショッカーの系譜であるGOD機関だ。

 

とは言え、啓介を改造したのは、神啓太郎である。

 

深海開発用改造人間、カイゾーグX。

 

そのような肉体を手にした神啓介は、何故、仮面ライダーを名乗ったのか。

 

 

 

 

 

「何?」

 

アポロガイストが、怪訝そうな顔をした。

 

黒井が、突然、こんな事を言ったからだ。

 

「ちょっと、俺と、戦ってみよう」

「――」

 

アポロガイストは、黒井から、自分が神敬介・仮面ライダーXに敗れた事を聞かされた。

 

二度に渡り、だ。

 

一度、神敬介に倒されたアポロガイストは、どうにか生き延び、強化改造を施されて蘇った。

 

だが、復活したものの、アポロガイストの肉体は、強化改造手術の負担で、脆くなっていた。

 

一ヶ月というタイム・リミットが、宣告された。

 

それを逃れる為には、Xライダーのパーフェクターが必要であると言う。

 

風と太陽を、エネルギーに変換して吸収するデバイスだ。

 

アポロガイストは、パーフェクターを奪う為に策を弄したが、結局、神敬介に斃されてしまう。

 

それなのに、どうして蘇ったのか、どいう話をしていた。

 

黒井は、詳しい事は知らないようであったが、アポロガイストが復活したのは事実だ。

 

そして、これからもアポロガイストとして生きて行く心算があるのなら、復活した状態を見る為に、自分と戦ってみようと、黒井が言ったのだ。

 

「――分かった」

 

と、アポロガイストは頷いた。

 

「ここを出よう」

 

黒井は、アポロガイストが、兜以外の鎧を纏うのを見て、言った。

 

アポロガイストは兜を小脇に抱え、盾――ガイストカッターと、三連装銃剣――アポロマグナムを持って、黒井と共に、手術室を出た。

 

薄暗い通路を歩いて行くと、広い空間に出た。

 

床は、コンクリートだが、壁は、岩肌が剥き出しであった。

先程の、近未来的な手術室があった事が信じられないが、どうやらここは、地下らしい。

 

その広い空間は、まるで、闘技場であった。

 

闘技場に足を踏み入れると、

 

「よぅ」

 

と、ざんばら髪の男が、手を軽く持ち上げながら、歩み寄って来た。

 

赤いラインの入った、黒い革のジャケットを羽織っている。

 

「あんたが、呪さん?」

 

と、ざんばら髪の男が訊いた。

 

「アポロガイストだ」

「そうか。俺は、克己だ」

「かつみ?」

「松本克己――ま、あんたの先輩ってトコかな」

「先輩⁉」

「改造人間のさ。因みに、あっちは俺の後輩かな」

 

克己は、黒井の方を指差して、笑った。

 

黒井は、コートを脱いでいる。

黒いコートを放り投げた黒井は、いつの間にか、その身に強化服を纏っていた。

 

「ぬ――」

 

アポロガイストが、声を上げる。

 

黒井が装着していたのは、蒼いプロテクターとレガースである。

手首と足首に、銀のリングが填められていた。

 

黒いスーツの側面には、金色のラインが奔っている。

黄色いマフラーを巻いていた。

 

大きなバックルを有したベルトを巻いている。

バックルの中心には、バイクに跨るRの文字――

 

その姿は、アポロガイストの知るあの男と、何処か同じ匂いを感じさせた。

 

「仮面ライダー⁉」

 

ぎょっとなって、アポロガイストが言う。

 

黒井は、いつもの癖を見せながら、しかし、冷淡に鼻を鳴らした。

 

「忌まわしい名前だな」

「――」

「仮面ライダーを怨んでいるのは、あんただけじゃないのさ」

「何?」

「しかし、哀しい事に、俺の身体は奴らと同じ――言わば、兄弟なんだ」

 

黒井が言う。

 

と、何処に隠されていたのか、広大な空間の中に、クリーム色の車体が這い出して来た。

 

巨獣が、草むらから歩み寄るように、だ。

 

猛禽の瞳を、輝かせ、ド派手な自動四輪車がゆっくりと近付いて来る。

 

トライサイクロンである。

 

トライサイクロンのシートの下から、黒井は仮面を取り出した。

蒼い、人の頭蓋骨を思わせる、飛蝗の仮面だ。

 

牙――クラッシャーを押し出して、頭を入れるスペースを作り、すっぽりと被る。

クラッシャーを閉じると同時に、内装パッドが展開して、頭部と密着した。

 

その姿は、紛う事なき、仮面ライダーのそれであった。

 

黄色い瞳が、稲妻のように閃く。

 

アポロガイストの知る――仮面ライダーXとは異なっているが、やはり、共通の意匠が感じられた。

 

「アポロガイスト――」

 

黒井が、仮面の奥から呼び掛けた。

 

「君は、神敬介を――Xライダーを、怨んでいるか?」

「――」

 

アポロガイストは、脳裏に、神敬介の姿を思い浮かべた。

彼が装着する、深海開発用のプロテクターを思い出した。

 

アポロガイストの胸の内に、もどかしいような、切ないような、そんな炎が宿る。

 

「ああ」

 

と、アポロガイストが頷いた。

 

「俺と、同じだ」

 

黒井が言う。

 

「俺も、仮面ライダーが憎い」

「――」

「しかし、俺の身体は、仮面ライダーと同じものだ」

「――」

「君も同じだ」

「私も?」

「ああ。何故なら、君は、神敬介とは、鏡合わせの存在だからだ」

「――」

 

黒井がこのように言ったのは、神啓介と呪刑事が、改造人間となった経緯が似ているからだ。

 

神啓介は、GOD機関に殺され掛けたが、父・啓太郎の手術のお蔭で助かった。この時、GOD機関に立ち向かうのに、人間としての迷いを捨てるべく、父から貰った“啓”介の名前を、“敬”介と改めている。

 

呪刑事も、事件の最中に殉職し、父である呪博士の手術を受けた。そうして、薄汚い人間への怒りから、GOD機関に与し、改造人間アポロガイストとして二度目の生を選んだ。

 

だが、それだけではない。

 

「君は、仮面ライダーとも、兄弟なのだよ」

「何⁉」

「何故なら、アポロガイスト、君の身体は、強化改造人間のデータを基本に、改造されているのだからね――」


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