仮面ライダーというのは、そもそも、ショッカーの改造人間である。
人間と、他の動植物との遺伝子レベルでの融合を図っていた、今までの改造人間とは、別の方法で改造された、強化改造人間の事を言う。
肉体に人工の臓器や、培養した特殊繊維を埋め込み、脳神経を強化する為のユニットを取り付ける。
その上で、マスクとスーツから成る強化外骨格を装着し、ショッカーの人工衛星とのリンクで走行するマシンを用いる。
仮面とマシンを使用する事から、その改造人間は、S.M.R.と呼ばれていた。
System Masked Riders――それが、強化改造人間計画のプロジェクト名であり、誕生する改造人間の名前であった。
しかし、誰が呼んだか、S.M.R.は、仮面ライダーと呼称されるようになった。
その計画の第一期で改造されたのが、本郷猛である。
緑川博士の手引きで、ショッカーから脱走した本郷は、緑川や、彼にショッカーとの戦いを決意させた神啓太郎のお蔭で、ショッカーに敵対を始める。
彼を斃す為に、死神博士が、第二期強化改造人間計画を立案した。
そうして、六体の強化改造人間第二号が生まれた訳だが、ショッカー基地に潜入した本郷猛は、第二号の内の一体・一文字隼人を仲間として、ショッカーに牙を剥く。脳改造済みであった他の五体は、本郷と一文字を処刑しようとするが、返り討ちに遭って破壊された。
ショッカーと戦う道を選んだ二人の改造人間は、見事、ショッカーとゲルショッカーを壊滅させる。
その後、デストロンが誕生する。
デストロンは、先ず本郷と一文字を抹殺しようとするが、デストロンの暗躍を偶然にも目撃した青年・風見志郎の、命を懸けた妨害で失敗する。
風見志郎はデストロンに両親と妹を殺されており、その復讐の為に、改造人間となる事を、二人の仮面ライダーに望んだ。
改造人間の苦悩を知る本郷たちは、最初はこれを拒否する。
しかし、自分たちを助けた志郎の勇気に感銘した本郷・一文字の二人は、生命を助ける為に改造手術を施す。
そうして、三人目の仮面ライダーが誕生する事となった。
コード・ネームは、Variation 3……俗に、仮面ライダーV3と呼ばれている。
そのV3と、元はデストロンの科学者であったが、自分の出世を妬み、殺そうとした大幹部・ヨロイ元帥への復讐の為、結果的にデストロンに対峙する事となった結城丈二――この二人の活躍で、デストロンは滅んだ。
仮面ライダー本郷猛・一文字隼人は、ショッカーの改造人間である。しかし、脳改造前に脱出した事から、人類の自由と平和の為に、ショッカーと戦う宿命を背負った。
その本郷と一文字――仮面ライダー第一号と第二号に改造された、仮面ライダーV3・風見志郎は、仮面ライダー第三号と呼ばれるべきであろう。
ヨロイ元帥に奪われた右腕を、戦闘用の義手に換え、ライダーを模倣したヘルメットと強化服を纏って戦った結城丈二――ライダーマン。彼は、最初こそヨロイ元帥への復讐だけを考えていたが、最後には、東京に撃ち込まれようとしたプルトン・ロケットを、命を賭して破壊し、人々を守った。
風見志郎は、結城丈二の行ないに感動し、自らが受け継いだ仮面ライダーの名前を、ライダーマンに贈った。仮面ライダー第四号の誕生である。
しかし――
神啓介を殺したのは、ショッカーの系譜であるGOD機関だ。
とは言え、啓介を改造したのは、神啓太郎である。
深海開発用改造人間、カイゾーグX。
そのような肉体を手にした神啓介は、何故、仮面ライダーを名乗ったのか。
「何?」
アポロガイストが、怪訝そうな顔をした。
黒井が、突然、こんな事を言ったからだ。
「ちょっと、俺と、戦ってみよう」
「――」
アポロガイストは、黒井から、自分が神敬介・仮面ライダーXに敗れた事を聞かされた。
二度に渡り、だ。
一度、神敬介に倒されたアポロガイストは、どうにか生き延び、強化改造を施されて蘇った。
だが、復活したものの、アポロガイストの肉体は、強化改造手術の負担で、脆くなっていた。
一ヶ月というタイム・リミットが、宣告された。
それを逃れる為には、Xライダーのパーフェクターが必要であると言う。
風と太陽を、エネルギーに変換して吸収するデバイスだ。
アポロガイストは、パーフェクターを奪う為に策を弄したが、結局、神敬介に斃されてしまう。
それなのに、どうして蘇ったのか、どいう話をしていた。
黒井は、詳しい事は知らないようであったが、アポロガイストが復活したのは事実だ。
そして、これからもアポロガイストとして生きて行く心算があるのなら、復活した状態を見る為に、自分と戦ってみようと、黒井が言ったのだ。
「――分かった」
と、アポロガイストは頷いた。
「ここを出よう」
黒井は、アポロガイストが、兜以外の鎧を纏うのを見て、言った。
アポロガイストは兜を小脇に抱え、盾――ガイストカッターと、三連装銃剣――アポロマグナムを持って、黒井と共に、手術室を出た。
薄暗い通路を歩いて行くと、広い空間に出た。
床は、コンクリートだが、壁は、岩肌が剥き出しであった。
先程の、近未来的な手術室があった事が信じられないが、どうやらここは、地下らしい。
その広い空間は、まるで、闘技場であった。
闘技場に足を踏み入れると、
「よぅ」
と、ざんばら髪の男が、手を軽く持ち上げながら、歩み寄って来た。
赤いラインの入った、黒い革のジャケットを羽織っている。
「あんたが、呪さん?」
と、ざんばら髪の男が訊いた。
「アポロガイストだ」
「そうか。俺は、克己だ」
「かつみ?」
「松本克己――ま、あんたの先輩ってトコかな」
「先輩⁉」
「改造人間のさ。因みに、あっちは俺の後輩かな」
克己は、黒井の方を指差して、笑った。
黒井は、コートを脱いでいる。
黒いコートを放り投げた黒井は、いつの間にか、その身に強化服を纏っていた。
「ぬ――」
アポロガイストが、声を上げる。
黒井が装着していたのは、蒼いプロテクターとレガースである。
手首と足首に、銀のリングが填められていた。
黒いスーツの側面には、金色のラインが奔っている。
黄色いマフラーを巻いていた。
大きなバックルを有したベルトを巻いている。
バックルの中心には、バイクに跨るRの文字――
その姿は、アポロガイストの知るあの男と、何処か同じ匂いを感じさせた。
「仮面ライダー⁉」
ぎょっとなって、アポロガイストが言う。
黒井は、いつもの癖を見せながら、しかし、冷淡に鼻を鳴らした。
「忌まわしい名前だな」
「――」
「仮面ライダーを怨んでいるのは、あんただけじゃないのさ」
「何?」
「しかし、哀しい事に、俺の身体は奴らと同じ――言わば、兄弟なんだ」
黒井が言う。
と、何処に隠されていたのか、広大な空間の中に、クリーム色の車体が這い出して来た。
巨獣が、草むらから歩み寄るように、だ。
猛禽の瞳を、輝かせ、ド派手な自動四輪車がゆっくりと近付いて来る。
トライサイクロンである。
トライサイクロンのシートの下から、黒井は仮面を取り出した。
蒼い、人の頭蓋骨を思わせる、飛蝗の仮面だ。
牙――クラッシャーを押し出して、頭を入れるスペースを作り、すっぽりと被る。
クラッシャーを閉じると同時に、内装パッドが展開して、頭部と密着した。
その姿は、紛う事なき、仮面ライダーのそれであった。
黄色い瞳が、稲妻のように閃く。
アポロガイストの知る――仮面ライダーXとは異なっているが、やはり、共通の意匠が感じられた。
「アポロガイスト――」
黒井が、仮面の奥から呼び掛けた。
「君は、神敬介を――Xライダーを、怨んでいるか?」
「――」
アポロガイストは、脳裏に、神敬介の姿を思い浮かべた。
彼が装着する、深海開発用のプロテクターを思い出した。
アポロガイストの胸の内に、もどかしいような、切ないような、そんな炎が宿る。
「ああ」
と、アポロガイストが頷いた。
「俺と、同じだ」
黒井が言う。
「俺も、仮面ライダーが憎い」
「――」
「しかし、俺の身体は、仮面ライダーと同じものだ」
「――」
「君も同じだ」
「私も?」
「ああ。何故なら、君は、神敬介とは、鏡合わせの存在だからだ」
「――」
黒井がこのように言ったのは、神啓介と呪刑事が、改造人間となった経緯が似ているからだ。
神啓介は、GOD機関に殺され掛けたが、父・啓太郎の手術のお蔭で助かった。この時、GOD機関に立ち向かうのに、人間としての迷いを捨てるべく、父から貰った“啓”介の名前を、“敬”介と改めている。
呪刑事も、事件の最中に殉職し、父である呪博士の手術を受けた。そうして、薄汚い人間への怒りから、GOD機関に与し、改造人間アポロガイストとして二度目の生を選んだ。
だが、それだけではない。
「君は、仮面ライダーとも、兄弟なのだよ」
「何⁉」
「何故なら、アポロガイスト、君の身体は、強化改造人間のデータを基本に、改造されているのだからね――」