仮面ライダー Chronicle×World   作:曉天

3 / 140
第三節 オーバーロードの惑星―ほし―

黄金の果実――

 

戦極凌馬が、オーバーロードに見た、神の力の根源だ。

 

ヘルヘイムが世界に出現するたびに、一つだけ生成される。

その力は、創造と破壊である。

 

そもそも、何故、ヘルヘイムが誕生するのか。

 

それこそ、貴虎が言うように、“理由のない悪意”である。

ヘルヘイムに関しては、そういうものであるという事しか分からない。

 

そこに実る黄金の果実は、理由なく繁殖する森の、王を選定する為のものだ。

それを得た者が、その力で以て、森の覇者となる。

 

創造と破壊という、対にして不二であるその力をどのように使うかは、王の意志一つだ。

 

ヘルヘイムの王として、新しい世界を創るか。

それまでの世界を守る為、ヘルヘイムを壊すか。

 

何れにせよ、王の往く道は、孤独であった。

 

創造主となれば、その頂に独り座す。

破壊者となれば、超常の力を恐れられる。

 

その選択を、戦いの最中で、紘汰は迫られる事となる。

 

人類を守る為の力を欲した紘汰は、黄金の果実の力の片鱗を受け取る。

それが、極ロックシードであった。

 

オーバーロードに匹敵する力を得る代わりに、その肉体を次第に人間とは違うものに変えて行く紘汰――

 

願う事は、人類の救済であった。

 

しかし、それを叶える事は、破壊者としての道を往く事である。

 

一方、駆紋戒斗は、自ら進んで、黄金の果実を欲した。

 

強さに虐げられた幼少時代を持つ戒斗は、力に対する執着が凄まじかった。

ダンスでのランキング上位を目指し、アーマードライダーとなり、戦極凌馬に近付き、オーバーロードに接触したのも、力を求める故だ。

 

誰もが虐げられない世界の為に、今の世界を強さで滅ぼす――

 

一見、矛盾とも取れる思想の中には、揺らぐ事のない決意が存在した。

 

人類の存在を守る為、紘汰は、黄金の果実を求める。

人間の尊厳を守る為、戒斗は、黄金の果実を求めた。

 

それが――

 

最後の戦いであった。

 

結果として、勝利を収めたのは紘汰である。

 

黄金の果実を託された舞が、“始まりの女”となったように、舞と共に果実を得た紘汰は、“始まりの男”となった。

ヘルヘイムの全てを掌握する事が、出来るようになった。

 

その紘汰と舞に接触したのは、ヘルヘイムの意思であった。

 

サガラ――

 

そのような名前で、ビートライダーズや、ユグドラシル、そしてオーバーロードの動向さえも監視していた。

ヘルヘイムそのものと呼べる存在だ。

 

“理由のない悪意”そのものが、紘汰に問い掛けて来た。

 

神の力を得た今、お前は、どうするのか――

 

創造主となるか。

破壊神となるか。

 

紘汰の答えは、

 

“俺は、どちらも選ばない”

 

であった。

 

ヘルヘイムを、愛する姉や友のいる地球上に蔓延らせたくはない。

しかし、ヘルヘイムという一つの巨大生命を殺す事も、出来ない。

 

結論――

 

生命の存在しない惑星に、ヘルヘイムの種子を余す所なく連れて渡り、そこで、新しい世界を創る。

 

そういう事になった。

それが、今、紘汰が立っている星であった。

 

元々、只の土塊であった星だ。

太陽もなく、水もない。

そこに、自然と繁殖するヘルヘイムが持ち込まれた事に因り、生命が生まれた。

 

侵略は許さない。

 

オーバーロードとなった紘汰が、ヘルヘイムの植物を全て制御し、異世界へと渡る事を防いでいるのである。

 

平穏であった。

かつて、“鎧武”として戦った過去が、嘘のようだ。

 

姉の晶を思う。

友の光実を。

理解者の貴虎を。

チャッキー。

リカ。

ラット。

自分にドライバーを託すように死んだ、裕也。

ザック。

ペコ。

城之内。

初瀬。

シャルモンのおっさん。

坂東さん。

ロシュオ。

ラピス。

戒斗。

 

彼らを思う気持ちが、かつての戦いの哀しみや痛みを現実のものとして思い出させ、そして、今の世界の平穏に感謝させてくれた。

 

「紘汰――」

 

と、感傷に浸っていた紘汰の横に、舞がやって来ていた。

 

黄金の果実を、“始まりの男”に託す巫女である“始まりの女”となった舞は、紘汰と同じ金の髪と、左右で色の異なる瞳を持っている。

 

「舞……」

「どうかしたの? とても、不安そう」

 

舞が訪ねた。

 

紘汰は、空を見上げながら、答えた。

 

「夢を見たんだ」

「夢?」

「ああ――」

 

眼を閉じる紘汰。

 

その身体の各部に、あの怪人の感触が残っていた。

もう少し強く思い出せば、仮面を貫通して皮膚を引っ掻いた、あの爪の痕が、顔に浮かび上がって来るかもしれなかった。

 

「嫌な夢だ……」

 

紘汰は、予感していた。

 

新しい戦いを――

新しい、痛みを。

オーバーロードである自分の惑星には、まだ届かない、黒々とした意思を。

 

ヘルヘイムにも勝る脅威が迫っている事を、紘汰は、感じ取っていたのである。




次回から、本編に入ります。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。