仮面ライダー Chronicle×World   作:曉天

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第二章開幕です。ほぼオリジナル……謎の作者の妄想暴走。


第二章 Time
第一節 復活


ぴくり、と、その指が動いた。

 

モトクロスのレース・コース上に、一〇台のバイクが散乱している。

単に地面に倒れただけのものもあれば、ライトが真正面からの衝撃で砕かれ、タイヤが吹っ飛び、エンジンが爆発した――そのような姿のものもあった。

 

まるで事故現場であった。

 

そこには、黒いコスチュームの男たちが、倒れている。

バイクの下敷きになっている者もいた。

 

頸をねじ折られたり、腕や脚を明後日の方向に向けている遺体もあった。

身体の一部が千切れて、内側の、申し訳程度に埋め込まれたカーボンの骨格が剥き出しになっているものも、あった。

 

何れも、腰にベルトを巻いている。

鷲が翼を広げたバックルを付けていた。

 

全て、生命活動を停止している。

 

レースは行なわれていなかった。

マシンが走らなければ、そこは、只の荒野である。

風が吹き、茶色の土煙が上がるだけの場所であった。

 

黒い男たちと、マシンは、荒野に打ち棄てられているのだ。

 

その中で、唯一人だけ、風ではなく、自らの意思で以て、腕を動かす者があった。

 

上体を起こした。

 

黒い覆面を被っている。

 

右手を持ち上げて、手が動くかどうかを、確認した。

 

親指。

人差し指。

中指。

薬指。

小指。

 

拳を握る事も、開く事も、自由に出来た。

 

他の部分も、同じように、確認をした。

 

そうして、胸に、手を当てた。

そこだけ、異様に窪んでいる。

 

恐らく、胸骨が折れて、心臓が潰されている筈であった。

 

だが、黒い覆面の男は、生きている。

平然と、立ち上がってしまった。

 

男は、右手を咽喉元にやり、こりこりと、掌で骨を撫で上げた。

 

すると、男の口から、大量の空気が吐き出される。

息を吐き終えると、酸素をたっぷりと吸い込んだ。

 

と、へこんでいた胸が、盛り上がって来た。

 

胸のクレーターがなくなり、鍛えられた、男の胸板が出現した。

 

心臓が動き始めている。

 

男の手の動きからすると、胸骨が砕かれているという事も、ないようであった。

 

「チーター男に助けられたな」

 

男が言った。

 

「感謝するぜ、博士――」

 

覆面の男は、そう言いながら、マスクを剥ぎ取った。

 

ざんばら髪の、ぎらぎらとした眼の男の顔が、現れた。

すらりとした体躯ながら、引き締まった、逞しい筋肉を持っている。

 

その男の前に、何処からか、一人の老人が姿を見せた。

 

長い白髪。

ぞっくりと削れた頬。

白いスーツの上に、黒いマントを羽織っている。

 

肉の厚さ的には、ざんばら髪の男の方があるが、身長では一〇センチは大きかった。

 

死神博士――

 

ショッカーの大幹部である。

 

そして、黒いコスチュームの男たちは、ショッカーの戦闘員であった。

 

だが、このざんばらの男は、簡単な改造と、情報漏洩を防ぐ為の措置を施された戦闘員たちの中にあって、会話能力と、穿たれた胸骨を復元させる肉体を持っていた。

 

「身体の調子はどうかな、カツミ――」

 

死神博士が訊ねた。

 

「悪くない。何せ、あの本郷猛の一撃にも耐えたんだ」

 

カツミと呼ばれた男は、自分の胸を、拳で軽く叩いた。

 

直前に、本郷猛――ショッカーの科学の粋を集めた、強化改造人間計画の第一期として、唯一人だけ造られた、仮面ライダーのパンチを受けていた。

 

変身前であったが、それでも、戦闘員を倒すには充分の威力を持っている、本郷猛のとどめの一撃を受けて、生き延びたのだ。

 

チーター男――

 

死神博士が自ら手腕を振るった、改造人間である。

 

猫科動物に特有の、身体の柔軟性を、特性として組み込んでいる。

ゴムのように柔軟な筋肉と、蛇腹状の骨格で再現していた。

 

それと同じ機構が、このカツミには組み込まれているようであった。

 

どうも、只の戦闘員ではないらしい。

 

「気に入ってくれたようだな」

「ああ」

「だが、まだまだ、だ」

 

死神博士が、唸るように言った。

 

「カツミよ、お前には、まだ、更なるポテンシャルが秘めている」

 

それを聞いて、カツミは、愉快そうに笑った。

 

「知ってるさ、それ位の事は」

「あの女に眼を付けられた時は、どうなる事かと思ったぞ」

 

恨めしげに、死神博士が言う。

 

あの女――と、いうのは、つい先日、来日した女幹部・マヤの事だ。

 

最初は、以前、日本でピラザウルスの改造計画を指揮していた、同名の幹部かと勘違いしていたのだが、どうやら、そうではなかったらしい。

 

そのマヤに、カツミは、チーター男に備えられているのと、同じ機能を埋め込まれた。いや、マヤが、カツミにそういう手術をするように、死神博士に依頼したのである。

 

ショッカー内での権限は、最高幹部として同じ程の筈であったが、マヤのバックには、ショッカー首領が付いていたのである。

 

死神博士にとって、このカツミという男は、改造人間の素体として、虎の子であった。

 

チーター男が、幾ら、死神博士自身の作例だとしても、それと同じ肉体をカツミに与えよと命令される事は、屈辱であった。

 

本来ならば、このカツミ――自分の側近となり、同時に、戦闘面に於いて、誰よりもショッカーに貢献出来る可能性を秘めた男であったのだ。

 

第三の男――

 

死神博士は、カツミを、そう仕立てるべく育てていた。

 

かつて、二度に渡り、失敗を期している、改造人間計画。

 

強化改造人間計画の、第一期と第二期。

 

それに依って生み出された、強化改造人間第一号・仮面ライダー・本郷猛は、死神と共に執刀した、素体である本郷の恩師・緑川の手引きで、脱走された。その上、ショッカーの行動を、とことん阻もうとしている。

 

続く第二号は、六体の製造に成功していた。だが、その内の一体に、ショッカーを追っていた、フリーのカメラマンである一文字隼人を選んでしまった事が、失敗であったかもしれない。改造施設に乗り込んで来た仮面ライダー第一号が、改造を終えた一文字を、脳改造前に救出してしまったのだ。

 

その際に、成功体である五体の仮面ライダー第二号も、全て破壊されてしまった。

 

その後、本郷猛は、そのたびの失敗の責任を取ってヨーロッパ支部へと戻った死神博士を追い、スイスに飛んでいる。

 

本郷に代わって、日本の守りに就いたのが、瀕死の状態から回復した一文字隼人であった。

 

それから、日本の侵略は、大幅に遅れを生じる事になる。

様々な改造人間が倒され、幾つもの計画が潰えた。

 

サボテグロン

ピラザウルス

ヒトデンジャー

カニバブラー

ドクガンダー

アマゾニア

ムササビ―ドル

キノコモルグ

地獄サンダー

ムカデラス

モグラング

クラゲダール

ザンブロンゾ

アリガバリ

ドクダリアン

アルマジロング

ガマギラー

アリキメデス

エジプタス

トリカブト

エイキング――

 

そして遂には、中東から呼び寄せられた最高幹部の一人・ゾル大佐までもが、仮面ライ

ダーの為に、斃されてしまっている。

 

この上ない、眼の上のたん瘤であった。

 

彼らを始末するには、より強い改造人間が必要であった。

 

通常の改造人間では、難しい。

 

ならば――

 

強化改造人間計画第三期――

 

それが、始動しようとしていた。

 

だが、同じ轍を踏まぬようにしなくてはならない。

その為の、カツミであった。

 

というのも、カツミは、他の多くの改造人間と違って、脳改造を施していない。

 

ショッカーの目的は、世界征服である。

全ての人類を、ショッカー首領の許で管理する事であった。

 

現在、改造人間を用いて行なわれている破壊活動は、その為に必要な犠牲であった。

 

そのような事を行なうのに、普通に生活して来た人間では、精神が追い付かない。

故に、多くの改造人間には、脳に細工をして、ショッカーへの忠誠を誓わせている。

 

しかし、死神博士やゾル大佐、そして今は東南アジアにいる地獄大使などは、自らの意思で、ショッカーの為に行動している。

 

ゾル大佐は、ショッカーの原型となったナチス・ドイツの幹部であった。ナチスが解体され、その組織を乗っ取ったショッカー首領に、忠誠を誓ったのだ。

 

死神博士は、若くして亡くなった妹を蘇らせる技術を手にする為、ショッカーに与している。

 

地獄大使は、或る国の軍人であった。その国を独立させた手腕を見出されて、ショッカー首領に引き抜かれたのである。

 

そして、このカツミも同じく、自らショッカーと盃を交わした男であった。

 

第三の男――強化改造人間第三号となるのは、この松本(まつもと)克己(かつみ)であると、死神博士は、思っていた。


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