仮面ライダー Chronicle×World   作:曉天

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第二十八節 是十

 眼を覚ました時、さくらはぎょっとした。

 自分の身体の感覚が、全く存在しなかったからである。

 

 眠っている間、変な姿勢でいた為に、或る部分の血流が滞っていた、というような話ではない。

 若し、肉体から魂が抜け出し、天を浮遊するようになったら、このように感じるかもしれなかった。

 

 眼の前には、暗がりが広がっていた。

 しかし、その暗がりの中で、さくらの眼は良く見えた。

 

 ガラスのように磨き抜かれた壁に囲まれた、決して広くはない部屋だ。

 眼の前に扉があり、その細かいモールドまで、良く観察出来た。

 

 眼を、閉じたり開けたり、してみる。

 意思よりも動作は遅れたが、出来た。

 これで、瞼の感覚が戻って来た。

 

 それから、白い紙に垂らしたインクが、じわじわと広がってゆくように、顔、頸、胸、腕、胴、脚……と、感覚が取り戻されてゆく。

 

 それにしても、身体が妙に重い事に変わりはなかったが、自分が、両腕を左右に広げられ、足をぴったりとくっ付けられて、磔に近いような姿勢である事が分かって来た。

 

 眼球を動かしてみる。

 自分の鼻の頭が少し見え、突き出している筈の胸が、黒いプレートで押さえ付けられているのが見えた。

 どうやら、拘束具のようなものを、二重に取り付けられているらしかった。

 両側に眼を動かしてみれば、横に伸ばされた腕にも、同じく二重の拘束が施されている。

 身体にぴたりとフィットする黒い拘束具の上に、壁に身体を固定する器具が設置されているのだ。

 

 その、自分を磔にしている壁は、他の壁とは別に造られているらしく、背中から、ごぅん、ごぅん、という、機械の振動が聞こえて来る。

 

 磔と言えば、どうしても思い出してしまうのが、デッドライオンの曼陀羅だ。

 生死の交差する悪魔の曼陀羅の中心の片割れとして、自分は選ばれた。

 中尊を為すもう一つは、デッドライオンという名の、蠱毒であった。

 

 蠱毒とは、巫蟲法の一種であり、壺や亀などに詰めた小動物に共食いをさせ、生き残った一匹を神として祀る事で、息災や不幸を齎す呪術の一種である。

 この方法によって創られたものに、肉体と、組織の幹部という地位を与えたのが、デッドライオンであった。

 

 組織の名は、ブラックサタン。

 やはり巨大な蠱毒に、ショッカー首領がコンタクトを取って、彼らをサタン虫と称し、世界征服の礎としようとしたのである。

 

 このブラックサタンは仮面ライダーストロンガーによって滅ぼされたのだが、生き延びたデッドライオンは、デルザー軍団の生き残りである暗黒大将軍と組んで再起を図った。

 その際に、理不尽に殺された人間の怨霊が籠った内臓や、生命の象徴である和合液、男女の混合によって振動する感情エネルギーを、強い身体を持つさくらを媒介に、デッドライオンの本体に注ぎ込もうとしたのである。

 

 結果としてその企みは、ストロンガーを始めとする仮面ライダーたちによって滅ぼされた。

 

 だが、さくらにはさくらで、あの時の後遺症が残っている。

 と言うのも、デッドライオンは曼陀羅の儀式が失敗した後、配下の改造魔虫らを取り込んで改造魔神デッドコンドルに進化したが、本来、あの姿は曼陀羅の儀式によって変身するものであった。

 この儀式の中心に、途中まで加えられてしまっていたさくらの身体には、曼陀羅が呼び起こした餓蟲――世界に遍満するエネルギーが注がれており、それが残留しているのだ。

 

 人の感情で、善にも悪にも変化するエネルギーであるが、恐怖や悪意で以て変質したこの力は、さくらに暴力的なパワーを与えてしまっていた。

 滾々と湧き上がる、力への欲求にも似たものだ。

 単に、武道や格闘技の本質を極めたいという、知的に偏った欲求ではない。

 他人を、自らの力でねじ伏せたいという、恐るべき暴力欲だ。

 

 これを、どうにか、他人を理不尽に傷付ける事なく生かすべく、剣呑な案件を扱う私立探偵として身を立てた。

 

 だから、今回のような、魔蛇団と鬼花組のように武力で以て事を解決したいと考える団体は、さくらにとっては清涼剤のようなものであったのだ。

 そして、山口真美との決着を付けた直後に現れた、あの柔術使いの女……

 

 と、眼の前の扉が、左右にスライドして開いた。

 現れたのは、マヤであった。

 露出度の高い、金色のドレスを纏っている。

 

 「元気してた? さくら……」

 「――深雪」

 

 さくらが言った。

 マヤは、にぃと唇を吊り上げる。

 

 「記憶は消した筈だけどね……」

 「どうして忘れていたのか、分からないよ」

 

 星河深雪――

 

 さくらが、マヤの姿を思い出す時、それはこの名前であった。

 

 城南大学に在籍していたさくらは、或る時、ブラジルからの帰国子女であるという星河深雪と友人になった。

 形骸化した武道に疑問を抱いていたさくらは、深雪から、ブラジルにある“バリツゥズ”というジュージュツに興味を持ち、空手の総合化、即ち、

  打

  投

  極

 を遍く修める事の出来る武術に、傾倒していったのである。

 

 後に、“バリツゥズ”はバーリ・トゥード(ポルトガル語で“何でもあり”)というルールの格闘技である事を知り、ジュージュツとは明治時代に前田光世(コンデ=コマ)が伝えた嘉納流柔術=柔道である事が分かった。

 

 格闘技を通じて友人となったさくらと深雪であったが、深雪は、デッドライオンの曼陀羅を造り上げる為の猟奇殺人に巻き込まれて死んでしまった――と、思っていた。

 だが、蓋を開けてみれば、深雪は生きており、さくらの記憶を奪い取って姿を消した。

 

 その深雪・マヤが、今度は敵として、さくらの前に立ちはだかったのだ。

 

 「あの技……」

 「え?」

 「私を殺した、あれは……」

 

 さくらは、自分がマヤによって殺された瞬間を覚えていた。

 打ち込んだ拳を払われ、頚椎を掌底の一撃でねじられ、投げ飛ばされて、蹴り込まれた。

 それで、ねじられた頸から、地面に落下し、恐らくは死んだのである。

 

 くすり、

 

 と、マヤは笑った。

 

 「相変わらずの、空手バカ……」

 「――」

 「あれは、赤心少林拳の応用よ」

 「少林拳?」

 「ええ。所謂、少林寺拳法が出来上がる前に、中国に渡った或る男が体系化させた技術……」

 

少林拳と、少林寺拳法は、異なるものだ。

 

 少林拳は、中国は嵩山、少林寺で、僧侶たちの易筋行として学ばれたものである。

 少林寺拳法は、中国禅宗を参拝する為に少林寺を訪れた際の記録を見た日本の武道家が、戦後日本復興のきっかけとすべく武道を知る為、中国に渡って修行し、日本で道場を開いたものである。

 

 武道家の一人として、それ位の事は知っている。

 特に少林寺拳法は、フル・コンタクト空手と同時期に出て来たようなものである。

 

 だが、赤心少林拳の名前は、憶えがなかった。

 

 マヤは、その場で、一つ、套路の表演をやった。

 套路とは、中国拳法の型である。

 

 先ずは、持ち上げた右腕を、腹の前に倒した左腕の手の甲に載せる。

 これが基本の構えだ。

 

 そこから、前に出ながら、両腕を内回しに持ち上げた。

 これで、左右からの攻撃を弾く事が出来る。

 

 次に、もう一度両腕で円を描きながら、最初の構えに戻った。

 戻ったと言っても、右腕の角度は真っ直ぐにする。その時に、インパクトの為の加速をした。

 これは、前腕で横からの攻撃と受けると共に、相手の顎を虎口で打つ事が出来る。

 

 又、この際には右足を持ち上げており、重心を右側に傾けている。

 傾いた重心に逆らわず、右側に倒れてゆき、右足で震脚を用いた。

 ゆるり、と、落ちたにも拘らず、踏み込みの際には、床が大きく踏み鳴らされた。

 ここで、沈墜勁が用いられた。

 落下のパワーが、右側に突き出した掌に乗って、打ち出されている。

 と共に、肘を曲げた左腕は肩のラインに浮き上がっていた。

 右側に打ち出したパワーに対する、バランサーの役割を果たしているのだ。

 

 そして、この勢いを殺さないまま、身体をたわめる勢いで回転し、旋風脚――跳び後ろ廻し蹴りを、繰り出した。

 

 着地した時には、左右を逆に変えて、最初と同じ基本の構えに戻っている。

 

 さくらを打倒した、一連の流れであった。

 

 ひと時たりとも留まる事なく、螺旋を描いて、マヤの身体が躍動した。

 それは、最初の動きを、次の動作が後から押し出す事で、威力を段々と増してゆく、対数螺旋のようなものであった。

 音が、交差する瞬間に倍増し、その倍増した音が更に交差して膨張するように。

 

 「子供みたいに、眼をきらきらさせちゃって……」

 

 さくらの顔に、マヤが見せた赤心少林拳の套路に、喜悦が浮かんでいた。

 

 「そ、それより……」

 

 さくらは咳払いをして、マヤに顔を向けた。

 

 「これは、どういう事なの⁉」

 「漸く緊張感が出て来たわね」

 「深雪!」

 「残念ながら、私は星河深雪じゃないわ」

 「え?」

 「あれは、言うなれば世を忍ぶ仮の姿……私の趣味よ」

 「しゅ、趣味?」

 「ええ。或る時はカー・レーサーのファン、或る時は旧組織の残党、或る時はブラジルからの帰国子女、或る時は有髪の尼僧、かくしてその実態は……」

 「――」

 「世界征服を目論む秘密結社・ショッカーの最高幹部……」

 「――」

 「尤も、マヤと言う名前でさえ、借り物だけどね」

 「マヤ……?」

 「でも、“始まりの女”だなんて呼び難いでしょう? イヴ……は、兎も角、ガイアなんて、何となくいかつ過ぎ……」

 「――」

 「だから、元からいたマヤって女の子の名前を借りているのよ」

 

 可愛くて良いでしょう――と、マヤは微笑んだ。

 

 「それで、ショッカーとやらの最高幹部さまが、この私に、何の用?」

 「――貴女が、欲しい」

 

 マヤは、さくらの前に立つと、鼻の頭同士が触れ合うような距離で、囁いた。

 長い舌が生み出す甘い声が、とろりと、さくらの中に入り込んだ。

 

 「はぁ⁉」

 「貴女の素晴らしい肉体が、欲しいのよ」

 

 マヤの蛇のような指が、さくらの頬を撫でる。

 

 「何言って……」

 「初めて会った時から、ずぅっと思っていたわ。戯れとは言え、貴女のような強い肉体に出会えた事は、私にとって、この上のない幸運……」

 

 そう言うと、マヤは、やおらドレスを脱ぎ始めた。

 決して背は高くないのに、前に大きく張り出した胸、括れた腰、膨らんだ尻……と、奇跡のようなバランスの上に成り立つ身体を眼の前に寄越されて、さくらは思わず眼を反らしそうになる。

 

 しかし、その胴体を見て、ぎょっとなった。

 

 マヤの腹部の肉が、黒ずんでいた。

 単に、色素の問題ではない。

 腐敗しているのだ。

 その腐敗した腹部から、植物の蔓のようなものが生えていた。

 毒々しい紫色の蕾が、蔓のあちこちに生み出されている。

 

 「マヤの儀式は知っているかしら」

 「マヤ?」

 「マヤ文明……ユカタン半島に繁栄したメソ・アメリカの古代文明よ」

 「知らない」

 「その基本となるのは、聖体拝領」

 「聖体拝領?」

 「言葉自体はキリスト教辺りのものだけどね。優れた者……例えばその一族を束ねる長や、優秀な戦士が死んだ時、その血肉を喰らう事で、彼らの地位を継承するの」

 「人を、喰らう⁉」

 「そう……そして私は、そうやって生き延びて来た」

 「え⁉」

 「気の遠くなるような時をね」

 「――」

 「若い肉体を捧げさせる事で、この美しさと生命を保って生きて来たのよ」

 「――」

 「貴女は驚くでしょうね、四〇年位前、この姿の私が、日本にいた事を知れば」

 

 玄又山の事だ。

 中国から帰国した樹海と、彼に弟子入りを志願した花房次郎、そして、時同じくして秋田を訪れた氷室五郎と黒沼親子。

 この際に、空海が唐で記し、円仁が日本に持ち込んだ『景郷玄書』と、氷室――後の黒沼鉄鬼(外鬼)・テラーマクロに殺された黒沼陽子の頭部を持ち帰っている。

 

 「けれど、一〇年近く前……」

 「――」

 「彼らが、私の許から、あれを奪い取った事から、この現象は始まったわ……」

 「彼ら? あれって?」

 「ショッカーは、ククルカンを奪ったのよ」

 「ククルカン?」

 

 その名には、憶えがあった。

 翼ある蛇――マヤ文明でいう最高神だ。

 アステカ文明に、ケツァルコアトルという同義の名を持った王もいる。

 

 「尤もショッカーは、あの子の事をピラザウルスだなんて呼んでいたけどね」

 「――」

 

 さくらには、それが何の事か、分からない。

 しかし、最高神の名を持つ何かが奪われたとなれば、儀式によって生命を永らえて来た彼女の事、篤い信仰心が、ショッカーを許せぬ筈だ。

 

 「私はショッカーに潜入し、彼らに従いながらククルカンを探した……と、まぁ、この辺りの話はどうでも良いわ」

 

 何れ、この事については何処かで記す事になるだろう。

 しかし今は、単なる昔話でしかない。

 

 「私の生命は、ククルカンの加護と、聖体拝領(いけにえ)の儀式によって永らえていた……その片方が失われれば、私の生命のバランスが崩れるのも当然よね」

 「それで、その……」

 

 さくらは、マヤの腹部に眼をやり、反らした。

 ずくずくに腐敗した女の肉から、植物が蔓を生やしているというのは、見るに堪え難い光景だ。

 

 「だから、ずっと欲しかった」

 「――」

 「強い肉体が――決して朽ちる事のない女の身体が」

 「――」

 「けれど、強いと言うだけならいざ知らず、不壊の肉体など存在しないわ」

 「――」

 「だから、私が欲しいのは、貴女だったのよ、さくら」

 「何故⁉」

 「強化改造人間の手術に耐える事が出来る強い肉体――貴女はそれを持っていた」

 「強化改造人間?」

 「仮面ライダーよ」

 「――!」

 「貴女はもう覚えていないだろうけれど、その身体は死した後、機械を埋め込まれ、脳を除く九九パーセントの改造手術を受けたパーフェクト・サイボーグとなっているわ」

 「な……」

 「私の肉体として相応しい器に、造り変えられているのよ……」

 

 マヤはさくらの顔を両手で包み込み、唇を寄せた。

 さくらは顔を背けようとするが、脳と神経の接続が切られたかのように、動けない。

 

 マヤが、さくらの唇に、自分の唇を押し込んでゆく。

 そして、その長い舌を、さくらの口の中に挿し込んでいった。

 抵抗しようとするさくらの舌に、マヤの舌が絡み付き、ねじ込んでしまう。

 

 と、不意にマヤの黒い瞳が、瞼の上に消えた。

 マヤの身体が、びくびくと、痙攣する。

 頬が膨らみ、さくらの唇との間から、血がこぼれた。

 膨らんだマヤの頬が、内側からぐりぐりと陥没と隆起を繰り返す。

 

 そうして、マヤの口の中から、さくらの口の中に、何ものかが入り込んでいった。

 

 マヤが、長い接吻を終える。

 と、脱力して、その場に崩れ落ちてしまった。

 直後、腹部の腐敗が急速に進行し、全身を黒く染め上げてしまう。

 残ったのは、毒々しい果実だけであった。

 

 一方、さくらの唇から、ちろちろと動く尻尾が覗いていた。

 蛇のそれに似ている。

 蛇は、さくらの抵抗をものともせずに彼女の中に潜り込むと、そのまま口蓋から脳幹に向けて駆け上がってゆく。

 

 そして、機械の頭蓋骨(九九パーセント)の中に納められた、残る前田さくら(一パーセント)を、蛇は喰らい尽してしまい、とぐろを巻いた自らの身体を代わりに納めてしまった。

 

 表情を失ったさくらは、暫く、そのままであったが、やがて眼に光を灯した。

 片方の眼が、赤く染まっている。

 顔を上げたさくらは、蛇の笑みを浮かべると、拘束具を一気に引き千切った。

 黒い強化服を装着し、その脳を“始まりの女”に乗っ取られたさくらが、そこに立っていた。

 

 「最後の者、か」

 

 いきなり、そのように声を掛けられた。

 いつの間にか、チェン=マオ――ショッカー首領がそこにいた。

 チェン=マオは、かつてマヤであったものが残した、毒々しい果実を拾い上げ、躊躇う事なく、口に運んだ。

 

 もにゅり、

 むにゅり、

 

 と、咀嚼する。

 紫色の皮から、薄い桜色の果肉が剥き出していた。

 それを嚥下すると、袈裟の裾で、口元を拭った。

 

 「ええ……」

 

 さくらの身体をしたそれが、チェン=マオの言葉に頷いた。

 マヤの口調であった。

 

 「九つの戦士は、この身体の基礎たるべく生まれた、言わばプロト・タイプ……」

 「思えば、生体改造人間も、強化改造人間も、主が提案したものであったか」

 「そうだったわね」

 「マヤ・インカに伝わる改造技術を、イワン=タワノビッチに再現させたも……」

 「私よ」

 「緑川博を唆し、強化改造人間という流れを作らせたも」

 「そういう事」

 「全ては、この為であったかよ」

 「それはちょっと、違うわ」

 「違う?」

 「この朽ちぬ身体も、所詮は手段の一つ……」

 「そうであったな」

 「私の目的は、一つだけ」

 「聞き及んでおる」

 「――ねぇ、大首領……」

 

 さくら・マヤは、ふと思い立ったように訊いた。

 

 「私が、この計画を思い付いたのは、貴方に触れてからの事なのだけれど……」

 「そうだったか」

 「――若しかして、ククルカンを奪ったのは……」

 「さてな」

 「――」

 「それより、“財団”なる組織が動いておる。マヤ、奴らにちょっかいを出される前に、仮面ライダー共を集めねばならなのではないか」

 「……そうね」

 

 さくら・マヤは、顎を引き、その部屋から出てゆこうとする。

 と、不意に立ち止まって、

 

 「出来ればこの姿にも、名前が欲しいわね」

 「そうだな」

 「最後の者、と、貴方はさっき言ったわね」

 「うむ」

 

 最後を表す文字は、Zである。

 そして、完全な女性原理である、イヴ・ガイア・始まりの女であるマヤを表すのならば、雌性染色体にあるXが相応しい。

 

 「そうであるなら、きっとこれは……」

 

 

 

 

 

 立花オート・ショップ前――

 

 店の前には、仮面ライダー第一号、第二号、Xライダーが立ち、その後ろに、立花藤兵衛、吉塚、相澤が並んでいる。

 彼らと向き合っているのは、黒い強化服に身を包んだサイボーグ忍者であるが、本郷ライダーの技を受けて破壊された仮面の奥には、前田さくらの顔があった。

 

 「ど、どうしてさくらさんが……」

 

 吉塚が、黒い仮面の奥から現れた、尊敬する先輩の顔に驚いている。

 

 「君は――」

 

 彼女と面識のある敬介・Xライダーも、それは同じであった。

 と、さくらの顔が、蛇の笑みを浮かべた。

 

 「仮面ライダーの皆さま方……」

 「む」

 「貴方たちのお仲間が、南米でお待ちよ」

 「何⁉」

 「一文字隼人、貴方がかつて破壊したショッカー基地の、更に奥深くで、亡霊たちが待っているわ」

 

 そう言ったかと思うと、サイボーグ忍者は、バックルのホログラム投影装置を起動させた。

 黒い強化服の輪郭が、陽炎のように歪み、姿を消す。

 これでは、本郷でも探知し切れない。

 

 「ちぃ……」

 

 一文字ライダーが、赤い拳を、掌に打ち付けた。

 本郷たちが、仮面を外してゆく。

 

 「お、おいおい、どういう事なんだ、一体……」

 

 藤兵衛が、泣き出しそうな顔で、本郷たちの許へと駆け寄って来た。

 本郷は、改造手術の痕が残る顔で、恩師を見つめ、一文字と敬介を見やった。

 

 「おやっさん、実は――」




ピラザウルスは架空の生物←これは面白くいじれる設定。

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