仮面ライダー Chronicle×World   作:曉天

131 / 140
第二十節 双風

 ウルガが、V3から距離を取った。

 怪訝そうな顔をする風見の眉間で、Oシグナルが激しく点滅する。

 

 身体を半回転させながら体勢を深く沈めたV3の頭上を、仮面ライダー第四号・松本克己が駆け抜けていった。

 更に続けて、ライダーマン・結城丈二が、風見の横手をすり抜けてゆく。

 

 克己・四号を、まだ信頼し切る事が出来ない風見であったが、恐らく結城が手術したのであろう彼の左腕と、ライダーマンが四号ライダーと共にウルガの許へ向かった事から、共闘の続行を認めている。

 

 そして自分は、バッファルと対峙している、黒井ライダーの許へと走った。

 

 ライダーマンのロープ・アームで、無様に転がされたバッファルは、すぐに立ち上がって、黒井ライダーに襲い掛かっていた。

 そこに風見・V3が乱入する。

 

 二人の三号とバッファル。

 二人の四号とウルガが、それぞれ対峙する事となった。

 

 

 

 「見る眼がない……」

 

 くっくっ、と、ウルガが牙の間から笑いを漏らした。

 ライダーマン・結城丈二に対するものであった。

 彼が、克己の左腕を修理した事へのものである。

 

 克己の経歴は、ウルガも分かっている。

 強化改造人間として、マヤが最も重要視していた自由意思を奪われている事も、だ。

 そして、それ以前に、黒井響一郎の妻と息子を殺している事も、知っている。

 

 如何に強力な改造人間を相手取る為とは言え、その克己の破損部位を直してしまった結城丈二は、何ともお人好しで、人を見る眼がない。

 

 そのような嘲弄などものともせず、結城と克己は、ウルガに対して一時的なタッグを組む。

 

 ウルガとバッファルの事は、風見と結城よりも、黒井と克己の方が知っている。

 だからこその、仮面ライダーとショッカーの共闘だ。

 

 風見と結城が、ウルガかバッファルのどちらかを倒したとして、残った一方と、ショッカー側のダブルライダーに協力されては、疲弊したV3とライダーマンで、二対三の戦いになる。

 

 監視の意味合いも、この急造タッグには込められていた。

 

 「があっ!」

 

 ウルガが、衝撃波を放った。

 ライダーマンと四号ライダーが、それぞれ左右に展開し、その中心を見えないパワーが削ってゆく。

 

 ライダーマンは、ウルガの左側から、四号ライダーは、ウルガの右側から攻めた。

 

 結城は、アタッチメントをパワー・アームに付け替え、打ち上げるフックの軌道で、ウルガのボディを狙う。

 克己は跳躍すると、空中でバーニアや各部の排風口から風を噴射して加速し、拳を打ち下ろしていった。

 

 パワー・アームを受ければ、克己に背中を向ける。

 四号のパンチをガードすれば、結城に背中を見せる事になる。

 

 ウルガは動かなかった。

 その背中で、ぐりぐりと柱が動き、迫り来る二人のライダーに向けて衝撃波が打ち込まれた。

 

 地面に打ち付けられるライダーマンと、更に上昇させられる四号。

 

 ウルガは、結城・ライダーマンに飛び掛かった。

 前後の肢の爪を振り下ろして来るウルガを、ライダーマンは横に転がって躱した。

 

 砂が舞い上がる。

 その砂塵の奥から、ウルガが右腕を叩き付けて来た。

 

 結城は身体を屈めて、ラリアットをやり過ごす。

 パワー・アームで、振り抜いた腕の付け根を狙った。

 

 ウルガは、右側に衝撃波を放って、くるりと左側に半回転する。

 左のバック・ブローがライダーマンを襲い、接近して来た克己・四号の右のパンチを、右手で受け止めた。

 

 「ふんっ」

 

 四号ライダーに、真正面から、衝撃波を打ち込んだ。

 銅色のコンバーター・ラングが、眼に見えて陥没した。

 後ろに下がろうとする克己の拳に、ウルガの爪が喰い込んで離さない。

 更に数度に渡って、四号のボディに、衝撃波が叩き込まれた。

 よろめく克己の懐に入り、ウルガは克己を投げ飛ばした。

 ライダーマンに向かって、である。

 

 克己ライダーを受け止めたライダーマン諸共、衝撃波で吹っ飛ばす。

 砂の上を転がる、二人の四号。

 駄目押しの指向性衝撃波が、ライダーマンと四号ライダーを襲う。

 

 吹き飛ばされる二人――しかし、ウルガも、転倒した。

 

 「何⁉」

 

 尻餅を付くウルガ。

 その足首に、ライダーマンの右腕から伸びたロープが絡み付いていた。

 

 すぐにほどこうとするウルガであったが、その前に、ライダーマンがロープ・アームを手前に引っ張った。

 堪えるウルガ。

 右腕の先から伸びるロープを、右肩と左手で引っ張り上げる結城。

 そのロープに、克己が両手を添えて、思い切り、手前に引いた。

 

 「うぉっ!」

 

 ウルガの身体が浮かび上がった。

 空中のウルガに、克己が躍り掛かってゆく。

 浮かび上がるウルガの上にまで飛び上がり、縦のフックを鳩尾に入れた。

 そのまま地面に落下させ、膝を押し当てる。

 

 「ぅおらぁっ!」

 

 雨のように、拳を叩き込んでゆく。

 銅色の拳が、何度も、何発も、ウルガの顔と言わず、胸と言わず、叩き込まれていった。

 ガードをしても、そのガードの上から、鉄のパンチを入れて来る。

 

 「しぃえぁっ!」

 

 最後のパンチを入れようとする。

 だが、克己の身体は揺らぎ、その拳はウルガの顔の横に落ちた。

 

 ウルガが、逆関節の両脚を使って、マウントを獲られた状態でありながら、克己の腰を捕らえていたのだ。

 異形のクローズド・ガードであった。

 

 腰をひねって克己の体勢を崩し、更に、ライダーマンがウルガの足首に巻き付けていたロープを使って、克己ライダーを緊縛しようとする。

 

 「いかん!」

 

 結城が、ロープを引き戻した。

 自由になったウルガが、克己に組み付いた。

 両肩を、両手で押さえ、地面に押し付ける。

 克己ライダーが、ウルガの胴体に膝を当て、空間を作った。

 

 「無駄だ!」

 

 柱の先端が、身体の下の四号を睨む。

 その前に、克己はウルガのせり出した顔面を右手で掴み、左手は腰に回して、ベルトを掴んでいた。

 

 「ぬっ」

 

 克己は足の踏み込みと腰を跳ね上げる力を使って、その場でウルガと共に裏返った。

 ウルガの顔と腰に両手、ボディに膝がある。

 その状態から、裂帛の気合と共に、跳躍した。

 月面宙返りだ。

 

 三点ドロップ――

 

 しかし、ウルガは落下直前に衝撃波を地面に放ち、一瞬、浮遊した。

 その一瞬を使って、両手で克己を弾き、難を逃れる。

 

 だが、宙へ浮かんだ克己の手に、ロープが絡み付いた。

 ライダーマンは、四号ライダーを空中で旋回させると、ぱっとロープを手放させた。

 

 克己・仮面ライダー四号が、空中で激しく回転しながら、ウルガに蹴り込んでゆく。

 その両脚を胸まで引き上げ、旋回と回転によって加速した勢いで、三度、同時にキックが放たれていた。

 右足、左足、そして、右足。

 

 ライダー大回転三段キックだ。

 

 ブーツに仕込まれたスプリングが、何倍にも増幅された衝撃をウルガに与え、そのダメージはベルトに組み込まれた爆弾を作動させる。

 

 「くぅぅぅあああああっ!」

 

 ウルガは、激痛に呻きながらも、柱を体内に戻し、自分の胴体に向かって、衝撃波を放つ。

 ウルガの腹が突き破れ、ショッカーの紋章が刻まれたベルトが、機械の内臓と共に弾き飛ばされた。

 

 改造人間の技術を抹消する為の爆弾が、虚空で爆発する。

 

 内臓をぼろぼろとこぼれさせ、体重を大きく減らしたウルガが、爆風によって砂塵と共に舞い上がった。

 改造人間の状態を維持する事も出来ず、かと言って、人間の姿への擬態も出来ず、獣と人との間の、中途半端な姿で、ウルガは惨めに転がった。

 

 

 

 

 

 バッファルのパンチが、V3の顔を狙った。

 

 右。

 左。

 右。

 

 それを、ダッキングで躱して、今度は風見の方からパンチを繰り出してゆく。

 

 左。

 右。

 左。

 

 横手から、黒井ライダーが飛び掛かる。

 黒井ライダーと組んだバッファルは、その自慢のパワーで、黒井・三号を投げ飛ばす。

 投げられながら、寝技に持ち込もうとするのを、翼を使って逃れた。

 

 空中へ逃げるバッファルに、風見・V3が追いすがる。

 それを、旋回して躱してしまうバッファル。

 

 「ちぃ」

 

 着地するV3と、彼に立ち並ぶ三号を、バッファルが空中から見下ろしている。

 

 コンドルの改造人間であるバッファルにとって、飛蝗や蜻蛉をイメージした改造人間は、所詮、虫けらでしかない。

 猛禽の翼と爪の前に、昆虫は翻弄され、捕らえられるしかないのである。

 

 それでも、足場が砂地でさえなければ、風見や黒井の方が有利な筈であった。

 

 バッファルが、空中から襲い掛かる。

 斜めに落下して来るのを、横に飛び退いて回避する。

 

 身体をひねったバッファルは、黒井に狙いを付けた。

 指揮棒が、伸び上がる音色を率いて空を切るような流麗させ、バッファルの武骨な身体が黒井ライダーに急接近する。

 胴体に、がっちりと組み付いた。

 そのまま、黒井・三号を捕らえて、上昇する。

 

 三号ライダーは、バッファルに肘を打ち入れるが、間合いがなくては威力もない。

 

 高く上り詰めたバッファルは、頭を地面に向け、急降下を始めた。

 そうして、自分に影響が及ばず、且つ、相手が受け身を取れない高度で、黒井ライダーを地面に放り投げた。

 

 三号の蒼いボディが、流星のように光って、砂の地面に勢い良く潜り込んでいた。

 咄嗟に頭部を庇ったから良いものの、黒井ライダーは、頭から地面に突っ込んだ。

 黒い強化服と、蒼いブーツが、黄土色の地面から生えている、奇妙な光景が出来上がる。

 

 黒井を放り投げたバッファルは、今度はV3に視線を向けた。

 

 その視界の隅で、ハリケーンが、V3に向かって来ている。

 バッファルの判断は素早く、風見・V3ではなく、無人で迫るマシンに向かった。

 

 風見が気付いた時には遅く、バッファルは、V3を援護する為に駆け付けて来たハリケーンに跨り、アクセルを吹かしていた。

 前輪を持ち上げて、V3を轢き飛ばそうとする。

 

 風見が回避すると、ターンしてV3に向き直り、その眼の前で、ハリケーンの計器類に鉄槌を打ち下ろしていった。

 ハンドルを引き抜き、フォークを切り飛ばし、カウルをめちゃくちゃに破壊した。

 

 「貴様⁉」

 

 風見が、動揺して、声を上げる。

 

 サスペンションを引き抜いたバッファルは、スクラップ同然のハリケーンを、自らの腕力を誇示するように頭上に持ち上げ、V3目掛けて放り投げた。

 

 風見の眼の前に、ダブルライダーから譲り受けた愛車が、ぼろぼろの姿で打ち棄てられた。

 

 風見の動揺は、二つ、あった。

 一つは、不利な足場を覆すべく、ハリケーンを使ったジャンプが出来なくなった事。

 一つは、自分が改造人間となって蘇ってから、長年に渡って共に戦って来た愛馬が、見るも無残な姿にされてしまった事。

 

 その動揺の隙を狙って、バッファルが襲い掛かった。

 跳び蹴りで、斜め上から襲撃する。

 

 それを、十字受けでブロックした。

 バッファルはV3のガードを足場に跳び、空中で体勢を変えると、再び飛び付いて来る。

 そのバッファルに、砂地から帰還した黒井・三号が、跳び突きを放ってゆく。

 バッファルは躱し、黒井の背中を蹴り付けた。

 

 風見の傍に着地しつつ、バッファルに眼を向ける黒井。

 

 「おい……」

 

 と、風見が黒井に呼び掛けた

 Oシグナルの点滅は、二人の間にメッセージの交換があった事を意味する。

 三号ライダーが、蒼いクラッシャーを手前に引いた。

 赤と青、二つの仮面が、バッファルを睨んだ。

 

 同時に駆け出してゆく。

 真正面から、だ。

 

 小細工をされれば、バッファルも、小細工をする。

 けれど、真っ直ぐ挑んで来る相手には、真っ直ぐ戦わねばならない。

 

 V3のパンチを躱して、ローキック。

 三号の蹴りをガードし、裏拳。

 バッファルの腕を、黒井が獲った。

 腕に腕を絡めてゆくのを、力で振りほどく。

 

 V3は、投げられる三号の背に手をやって、跳び箱に対してするように跳び越え、バッファルに向けて足を薙いだ。

 

 肘でブロック。

 すぐにパンチで反撃する。

 黒井が、タックルにゆく。

 がぶって、堪えた。

 

 黒井ライダーはバッファルの股間に腕を差し込み、もう片方の手で相手の左手を引っ張って、斜めに投げた。

 

 翼を動かす事で、加速。

 投げ落とされるタイミングを狂わせたバッファルは、無事に着地し、三号ライダーの仮面を掌底で叩いた。

 後ろのV3に、踵を跳ね上げてゆく。

 

 風見は身体を沈め、肩で、蹴りを受けた。

 鉄と鉄が弾ける音。

 強化スプリング筋肉が、バッファルの足を弾いた。

 

 バッファㇽが、軸足で、V3を蹴り上げる。

 そのまま、後方に、飛翔しようとする。

 ふわりと、バッファルが舞い上がった。

 舞い上がるバッファルの足を、風見・V3が掴もうとする。

 

 間に合わない。

 

 ここで下手にジャンプすれば、それは、風見の体勢を崩し、バッファルに隙を見せる事になる。

 

 高く舞うバッファル。

 

 しかし風見の狙いは、バッファルの飛翔を妨げる事ではない。

 腕を、折り畳んだ。

 肩を向けている。

 

 V3の、その肩に向かって、黒井ライダーが跳んでいた。

 折り畳んだ両足を、V3の肩に乗せ、身体を跳ね上げた。

 

 下から、V3・三号・バッファルの順で、斜めに一直線になっている。

 

 ライダー三号が、V3の肩を、強く蹴り出した。

 三号のスプリング・シューズと、V3の強化スプリング筋肉が作用し合って、黒井響一郎・仮面ライダー第三号の身体が、バッファルよりも更に高い位置へと上昇した。

 

 三号を見上げるバッファルは、太陽の光に眼をやられた。

 

 黄金色の惑星を背に受けて、反転したライダー三号が、強烈なキックを放つ。

 バッファルの翼が、根元から、叩き折られた。

 

 バッファㇽが落下し、黒井ライダーが着地した。

 

 

 ――進化による淘汰を、この地球上のあらゆる生命体は遂げて来た。

 その原型は、幾許も残っていない。

 

 哺乳類。

 魚類。

 鳥類。

 

 しかし、昆虫類のみは、生まれたその時より、淘汰の必要がない姿であるものも、いた。

 こと、生存という事に掛けて、小さき虫は、大空の覇者に勝るのである。 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。