仮面ライダー Chronicle×World   作:曉天

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スカイ・映画『1号』・V3の発言の解釈。


第十節 開戦

 筑波洋が眼を開けると、視界いっぱいに、永遠の暗闇が広がっていた。

 どうやら、自分は、その暗闇の中に浮かんでいるらしい。

 

 洋の身体には、重力低減装置が組み込まれている。

 

 洋は、大学のハングライダー部の活動中に、ネオショッカーに追われている志度敬太郎博士を助け出した。

 優秀な科学者であった志度は、ネオショッカーに技術提供をしていたが、組織の目的が人類の大量虐殺である事を知り、脱走。その志度を、ネオショッカーの戦闘員、アリコマンドたちが追跡していたのである。

 

 この光景を、洋は上空から発見し、志度を助けるべく降り立った。

 

 志度を匿う洋であったが、部活の仲間たちはこの報復に殺され、洋も亦、ネオショッカーの改造人間ガメレオジンによって殺害される。

 

 志度は、自分を助けようとした勇敢な青年の生命を救うべく、彼に改造手術を施して延命させる事を、日本支部に就任したゼネラルモンスターに懇願した。

 ゼネラルモンスターの指示により、筑波洋は、重力低減装置を組み込んだ、空挺強化改造人間兵士――空飛ぶ改造人間として、蘇ったのである。

 

 イナゴの特性を機械で再現した肉体となって復活した洋は、ネオショッカーの目的を知り、人間の自由と平和の為に、彼らと戦う事を決意する。

 

 志度敬太郎は、城北大学に籍を置いていた頃、緑川博や神啓太郎から聞かされていた、人類統制を目論む秘密結社と、その企みと戦う戦士になぞらえて、筑波洋に仮面ライダーの名前を贈ったのである。

 

 そうして筑波洋は、空を飛ぶ仮面ライダー――スカイライダーとなったのであった。

 

 その日から、洋は、ネオショッカーと長きに渡る戦いを続けて来た。

 

 遥かなる戦いの道を踏み越えて、洋は、それらの決着を付けるべく命を懸けた。

 

 ネオショッカーの大幹部であったゼネラルモンスター、続いて現れた魔人提督らの度重なる作戦失敗に業を煮やし、とうとうネオショッカー大首領が自ら動き出した。

 ネオショッカー大首領は、巨大な、翼を持った蜥蜴のような姿をしている。

 その大首領が、酸素破壊爆弾を用いて、地球上の酸素を全て消し去り、あらゆる生物を死滅させる、最後の作戦を発動しようとしたのである。

 

 ネオショッカー最後の作戦を阻止すべく、世界中に散らばっていた仮面ライダーたちが日本に集結した。

 

 そんな中、筑波洋は、幼い頃に死んだと思っていた、ネオショッカーに囚われていた母を救出したが、大首領直轄のドクロ暗殺隊により、再会を果たした母を殺される。

 

 母は、大首領のお側役を任されており、彼女の口から大首領の弱点が右足の裏にあると聞かされた洋は、その巨獣に苦戦する七人の仮面ライダーの許に急ぎ、敵の首魁に重傷を負わせる。

 

 最後の力を振り絞り、大首領は、空中に浮かべた酸素破壊爆弾を、自らの手で起動させようとした。

 

 その時、スカイライダーは、重力低減装置を使って、ネオショッカー大首領と酸素破壊爆弾を、自ら諸共宇宙空間に放り出して地球を守ろうと考えた。

 だが、その為には、スカイライダー一人の力では足りなかった。

 そこで、八人の仮面ライダーは協力し、自分たちのエネルギーを共鳴させる事によって、セイリング・ジャンプの能力を底上げしたのである。

 

 空高く舞い上がった巨竜を、極限まで重力を減少させた空間で包み込んだ八人ライダーは、そのまま大気圏を超えて、大首領を地球から追放。

 

 自分たちの生命を犠牲にし、地球を守ったのである。

 

 改造人間とは言っても、宇宙空間での活動が出来るようには、設計されていない。

 最新型のスカイライダーでさえそうなのだから、一九七一年という過去に造られた第一号や第二号、生体改造を加えたのみのアマゾンライダーには、耐えられる筈もなかった。

 可能性があるとすれば、深海開発用改造人間として造られたXライダーだが、パーフェクターは酸素供給器であり、太陽光や風、電磁波から動力源を造り出すエネルギー・クロス装置を用いても、体内ボンベの酸素のみでは、地球に帰還する事は出来ないであろう。

 

 それが分かっていても、ライダーたちは、セイリング・ジャンプを敢行した。

 そして、今、八人の改造人間たちは、宇宙空間を漂っているのである。

 

 生命の灯火が消えようとする、そのほんの一瞬だけ、自分は意識を取り戻した――

 

 洋は、大気圏を越える際の摩擦でぼろぼろになった強化服の内側で、そう思った。

 

 だが、そうではないようであった。

 意識を取り戻して数分が経ったが、洋の意識は、まだはっきりとしていた。

 

 これは⁉

 

 洋は、天然の無重力空間の中で、顔を横に動かした。

 セイリング・ジャンプの時とは違い、自分のいる空間の全ての重力が、弱い。

 ちょっとした動きで、ふわふわと、別方向へ進んでしまう。

 

 無重力を持て余す洋は、自分の周りに、同じようにぐったりとした様子で浮かんでいる、七人のライダーたちを発見した。

 宇宙空間に投げ出されても、自分たちは、ばらばらにはならなかったのだ。

 

 どうした事か――

 

 すると、その内の一人が、洋・スカイライダーに手を伸ばして来た。

 緑色の鱗の隙間から覗く、赤い血の流れと、鋭い爪とヒレ。

 この宇宙空間での生存が、最も不可能と思われた、アマゾンであった。

 

 ――洋。

 

 アマゾンが、洋の手を掴み、その身体を引き寄せた。

 獣の顔を、イナゴの仮面の横に付ける。

 

 ――俺、守った。

 

 アマゾンの声が、触れ合った仮面を震わせて、伝わって来た。

 

 アマゾンが言うには、セイリング・ジャンプで宇宙に飛び立つ寸前、アマゾンは、ギギとガガの二つの腕輪の力で、自分たちの周辺に酸素を集結させ、地球を脱して大首領を滅ぼすと共に、エネルギー・フィールドを展開して、その中を酸素で満たした、との事だ。

 インカの秘宝が持つ、神秘の超パワーの為せる業であった。

 

 しかし、八人の心を一つにして行なうセイリング・ジャンプに際して、それ以外の事に集中力を裂く事は難しく、八人を狭い空間に閉じ込める事しか出来なかった。

 

 僅かに寿命が延びたに過ぎない――

 

 しかし、順次、何れも損傷は酷かったものの、ライダーたちが眼を覚ましてゆくと、本郷と結城が、或る提案をした。

 

 本郷が、ギギ・ガガの腕輪が造り出した空間の外を指差した。

 自分たちは、どうやらまだ衛星軌道上におり、そこを幸運にも、人工衛星が通り掛かったのだ。

 本郷と結城の提案は、その人工衛星の部品を使って自分たちの壊れた部分を修理し、その衛星が落下する時まで機能を停止させて置いて、地球に帰還する時を待とうというものであった。

 

 強化改造人間には、生命活動が一時的に停止しても、エネルギー補給を受ける事で、全ての機能を再起動させるシステムが組み込まれていた。

 

 本郷猛・仮面ライダー第一号の場合は、人工心臓が止まり、脳に血液を送れなくなっても、タイフーンが回転しさえすれば、再び覚醒する事が出来る。

 

 彼らの身体を流れる血液は、やはり人工のものであるが、改造人間としての機能が正常に働けば浄化され、例えば、体内に取り込んだ毒素を分解する事が出来ると、風見志郎・V3が証言した事もあった。

 

 そしてアマゾンも、古代インカの二つの腕輪に蓄えられたエネルギーで、自分の肉体を保護する事が出来るのだ。

 

 こうして、その人工衛星に取り付き、壊れた身体を補修した仮面ライダーたちは、やがて来る帰還の日に、自分たち戦士の存在が必要ではなくなる平和な世界があると信じて、眠りに就いた。

 

 洋は、遠退く意識の中で、誰にともなく訊いた。

 

 ――君たちは、何処に落ちたい……?

 

 

 

 しかし、彼らが再び地球の大地を踏むその時になっても、人類は争いをやめず、飢餓を除かず、地獄の使者たちも変わらずに跋扈していたのであった。

 

 

 

 

 

 海から、崖を遡って来る潮風に髪を揺らしながら、茂は、蒼い鎧の改造人間を見つめていた。

 

 「仮面ライダーだと⁉」

 

 その問いに、黒井響一郎・仮面ライダー第三号は、蒼いクラッシャーを引いた。

 

 「だが、勘違いするな。俺は、ショッカーの改造人間……」

 

 黒井ライダーが、茂に歩み寄る

 

 「貴様らを斃し、仮面ライダー第一号を、俺の前に引き摺り出してやる」

 

 第三号はそう言い、ガードレールの向こうに立っている茂に殴り掛かった。

 茂は、ガードレールを左手で掴みながら、右半身を反らした。

 片手と、片足だけで、崖っぷちに自分を固定するその胸の前を、黒井のパンチが通り過ぎてゆく。

 

 茂は身体を引き戻し、右の拳で、第三号のコンバーター・ラングを打ち付けた。

 重厚な金属音は、茂のグローブの内側の手が、人工骨格の上に更に金属のパーツを被せている事の証明だ。茂の両手は、コイル・アームと呼ばれるもので、擦り合わせる事で電気を発生させる。

 

 黒井はそのパンチを受けて僅かに後退するが、茂と同じように片手でガードレールを掴み、空いた左手で拳を打ち込んでゆく。

 

 ガードレールを挟んで、茂と黒井の戦いが始まった。

 

 黒井のパンチを、茂が右腕で弾く。

 ガードレールを飛び越えて、安全な足場を確保しようとするも、黒井は左腕を広げて、茂を通せんぼしてしまった。

 

 ガードレールのふちに掛けかけた脚を引っ込め、今度は下を潜ろうとする。

 すると黒井は、茂が脚を潜らせようとした地点に、ブーツを踏み下ろした。

 素早く引き戻さなければ、脛の中頃から折られていただろう。

 

 「ちぃっ」

 

 茂は舌を鳴らしながら身体を起こし、両手でガードレールを掴んだ。

 そうして身体を縮め、両足でガードレールの表面を踏み、後方に跳ぶ。

 

 トライサイクロンが打ち込んだミサイルが、未だ道路を燃やしている、崖の下に身を投げた。

 

 黒井はガードレールを越えて、重力に任せて落下するままの茂に、空中でマウントを獲ろうとした。

 だが、掴み掛かろうとした茂の身体が、ふっと消失した。

 

 「何⁉」

 

 すると、黒井の視界がかげった。

 振り返れば、ストロング・ゼクターに背中を掴まれた茂が、第三号ライダーのバックを獲っている。

 

 絶縁材のグローブは既に外され、その左手が、空中で身体を半回転させた黒井のマフラーを掴んでいた。

 こうした場合に備え、マフラーはアースになって、電流を散らす素材で出来ている。

 

 だが、茂はそんな事知るものかと、右の拳を打ち下ろして来た。

 

 黒井が頭を傾ける。

 パンチ自体は外れたが、茂の両手は、パンチの勢いで擦り合わされていた。

 顔のすぐ傍、Cアイの眼の前で、蒼い稲妻がスパークする。

 咄嗟に視界を封じていなければ、素面のままで瞼を閉じた程度の対策では、その電光によって、黒井の優れた視力は失われていただろう。

 

 勿論、黒井を失明させる事も、茂の狙いでなかった。

 

 両手に流れるプラスとマイナスの電流が重なり合い、ベルト・エレクトラーが起動する。

 それを受けて、ストロング・ゼクターが展開し、茂の身体に被さった。

 三〇〇キロの超強化服が、黒井の身体に圧し掛かる。

 

 弾かれるようにして、二人は離れた。

 

 燃える道路に着地する仮面ライダー第三号を、城茂は、再びさっきの崖の上から、見下ろしていた。

 

 稲妻を纏った、深紅の胸をそびやかす、カブト虫の戦士――

 

 仮面ライダーストロンガーの緑の眼が、ぎらりと輝いた。

 

 

 

 

 

 「へぇ……」

 

 仮面ライダー・筑波洋は、地上の空に浮かぶスカイサイクロンの姿を見下ろして、息を漏らした。

 

 ショッカーの紋章が刻まれたプロペラ機は、仮面ライダー第四号・松本克己の傍に着陸し、静かにエンジンを唸らせている。

 

 「君も、空を飛ぶ仮面ライダーか」

 「そうだ」

 

 克己はそう言って、スカイサイクロンの翼に飛び乗り、スカイライダーを見上げた。

 

 第四号が、九〇キロにも満たない体重に飛行をさせる為に、数トンのマシンを用いなければならない所、スカイライダーは自分の周囲の重力を減少させる事で浮遊する。

 余計なものを削ぎ落として宙を舞う筑波洋と、自分の身体に別のものを継ぎ足して空を飛ぶ松本克己のその在り方は、合理性や効率を求める人間と、足りないものを自ら生み出してゆくヒトとのそれに相応するように思われた。

 

 「言葉は要らない。お前を斃し、捕らえる事が、この俺の使命だ」

 

 克己は、スカイサイクロンに脳波を送り、コックピットを開かせ、乗り込んだ。

 シートベルトを着用し、操縦桿を握った。

 プロペラが回り、バーニアが火を噴く。

 

 スカイサイクロンは、普通の自動車ではタイヤを取られて、まともに進む事も出来ない塩の地面を走り始め、その加速で先端を持ち上げると、一気に空へと舞い上がった。

 

 外見は旧式ながらも、その技術は、最新の軍用機のそれにも劣らない。

 

 巨大な鉄の塊が、蒼い地上から、蒼い天空へと伸び上がってゆく。

 見えない坂を駆け上がってゆくように上昇したスカイサイクロンは、天地に掛かった楕円を描くように身を翻し、空中に留まっていた筑波洋・スカイライダーに襲い掛かった。

 

 仮面ライダー・筑波洋は、頭上から迫り来るスカイサイクロンの更に上に跳び、天上に向けている腹を眺めた。

 

 スカイサイクロンの機銃が太陽を睨み、スカイライダーに向けて発砲した。

 戦闘機の腹を蹴破ろうとしていたスカイライダーは、スカイサイクロンの銃弾から逃れる。

 

 機関砲は、しかし、スカイライダーを追って回転し、スカイサイクロンはその間に体勢を整えてしまう。

 

 地面と平行に滑空するスカイライダーを、スカイサイクロンが追う。

 地上の蒼穹が、大きく波打ち、水飛沫と塩の粉末を舞い上げた。

 

 白く透き通った霧が、スカイライダーとスカイサイクロンを包み込む。

 その霧の中で、ライダーとマシンは縦横無尽に飛び回り、頭上を、腹の下を、バックを獲ろうと、互いに牽制し合った。

 しかし、洋がスカイサイクロンの底部を獲れば、克己は翼でスカイライダーを払い落とそうとする。

 

 第四号がスカイライダーに近距離で機銃を放てば、洋は身を翻して操縦席を狙う。

 赤いマフラーが尾を引き、鈍い色の翼が風を切る。

 

 真っ蒼な世界に映り込む、改造人間と戦闘機が描き出す軌跡は、恰も蛇と鷲との交わりであった。

 

 天地の双龍のまぐわいは、果てる事なく続くかのように思われた。




ギギ・ガガの腕輪がキングストーン並みとか言う話を何処かで聞いた。

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