仮面ライダー Chronicle×World   作:曉天

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第四十一節 独善/滅尽

 一人の、少年がいた。

 少年には、夢があった。

 かつて、父が語った夢だ。

 

 地球の人口は増加の一途を辿り、それに比例して、資源は枯渇してゆく。

 数少ない食糧を巡って、人々は争い合う事であろう。

 

 それを阻止する為に、人間は、やがて宇宙へ繰り出す事となる――

 

 そのような夢を聞いて、少年は育った。

 

 自分には時間がないと、父は言った。

 だから代わりに、その夢を継いで欲しいと。

 

 あの広い空の向こう側、未知の大宇宙へとその手を伸ばす事を、少年は誓った。

 

 一人の、男がいた。

 男には、夢があった。

 かつて、父から受け継いだ夢だ。

 

 

 

 

 

 玄海は、その男の事を思い出していた。

 玄海の顔に、鉄鬼の肘打ちが降って来る。

 

 幼くして両親を失くした少年は、養父の勧めで、赤心少林拳の門を叩いた。

 玄海の潰れた鼻から、血が噴き出す。

 

 しかし、夢の指標を失った少年の心は荒れ、喧嘩を繰り返すようになった。

 玄海は鉄鬼の脇腹に貫手を刺し込み、上になった鉄鬼を押し飛ばす。

 

 どうすれば良いのか分からない――父から継いだ夢を、少年は持て余していた。

 転がった鉄鬼の胸に、足刀を落としてゆく。

 

 玄海は、宇宙科学者のヘンリー博士とのコンタクトを取った。ヘンリー博士は、少年の父親の親友であった。

 鉄鬼は玄海の蹴り足を脇に挟み込むと、両脚を玄海の脚に絡めてゆき、投げ飛ばしながら、膝を極めようとする。

 

 ヘンリー博士は、少年がそれに相応しい年齢になり、それに見合った学力を身に着けたその時に、アメリカの研究所に迎え入れる事を約束した。

 玄海は身体を捻って鉄鬼の手を逃れ、落下しざまに、膝を鉄鬼の胸に押し付けてゆく。

 

 それから、少年は勉強や運動に気真面目に取り組み、若くして赤心少林拳の継承者として目される程にまでなった。玄海流は、拳禅一如、拳法と仏道の両部不二であった。

 胸を圧迫された鉄鬼が、血を吐き、その血が玄海の顔に絡まった。玄海の片脚に鉄鬼は両脚を巻き付け、ポジションの上下はあれど、優劣はない形態に入る。

 

 約束の日が来た。しかし、少年は玄海の後を継ぐ事を、誰からも期待されていた。彼の幼い頃からの親友たちも、それは同じ事であった。

 玄海が掌底で鉄鬼の顔面を殴ると、鉄鬼は拳で玄海の脇腹を叩く。玄海はその腕を取って、逆十字に入ろうとしたが、鉄鬼は身体を跳ね上げて拳に縦の弧を描かせた。

 

 継ぐと誓った夢があった。少年は――男は、幼い頃からの約束を守る為、玄海や親友たちに背中を向けて、海の向こうへと去って行った。

 玄海の脛に、鉄鬼の拳がぶち当たる。脛骨に亀裂が入ったのが分かった。玄海は鉄鬼の腕を巻き込んで回転し、その肘関節を引き千切る。

 

 男の夢を、知らない親友たちではなかった。しかし、彼を傍で支えると、そのように思っていた彼女は、男が自分の夢を優先した事を裏切りと断じた。

 玄海と鉄鬼は、唸りながら、互いに離れ、立ち上がる。玄海の左脚は次の蹴りで自壊し、鉄鬼は右腕を力なく垂らしている。

 

 その時から、支えるべき者に眼の前から去られた時から、彼女は、玄海流を弟に任せ、自分は外道拳たる黒沼流を選んだ。自らの迷いを断つ為に――

 

 「……強いなぁ」

 

 玄海は、小さく唇を動かした。

 

 「何?」

 

 鉄鬼が首を傾げる。

 

 「羨ましいよ、鉄鬼」

 「何だと?」

 「どうして、黒沼流は、そんなに強いんだ?」

 「玄海⁉」

 「私も、一也も、弁慶も……迷って、悩んで、今がある」

 「――」

 「この悩みを振り切る法を知っても、振り切る果を得られないでいる……」

 「――」

 「鉄鬼、君にはそれが出来るのだろう? だから、樹海老師を殺せたのか?」

 「玄海……」

 「義経も……」

 「よせ、玄海!」

 

 鉄鬼は鋭く吼え、玄海の顔に拳を打ち込んでゆく。

 玄海は、顔を傾けて拳を躱し、突っ込んで来た鉄鬼の鳩尾に、掌底を当てた。

 

 

 吩――

    把!

 

 

 玄海が飛ばした気を、鉄鬼は後方に跳ぶ事で受け流した。そうしなければ、身体の中に起こった波紋が、内臓を尽く傷付けていた。

 

 鉄鬼が顔を上げる。

 使えない右腕を垂らしたまま、左の拳を突き出して来た。

 

 玄海は、半身ではなくなっている。

 真正面を、鉄鬼に向けていた。

 両腕を軽く持ち上げている以外は、正中線の急所に、何処へでも攻撃が入りそうだ。

 

 「教えてくれ、鉄鬼」

 「やめよ、玄海」

 

 玄海が、じわりと前に出た。

 鉄鬼が、そろそろと後退る。

 

 「どうすれば、この迷いを捨てられるのだ」

 「やめよと言っているのだ、玄海……」

 

 玄海の眼が、真っ直ぐに鉄鬼を見つめていた。

 

 蒼い空のような色だ。

 緑の大地のような声だ。

 赤い砂塵のような香りだ。

 銀の機械のような言葉だ。

 金の心が現れているようであった。

 

 「鉄鬼、どうすれば私は、“死にたくない”と答える私を、割り切れるのだ⁉」

 「――っ」

 「教えてくれ、鉄鬼。この世界の虚ろさを割り切れる術を、教えてくれ!」

 「それ以上、言うな、玄海!」

 

 鉄鬼が、獣のように咆哮して、玄海に躍り掛かった。

 拳を撃ち出す左腕に、瘤がこんもりと膨れ上がり、血管が千切れんばかりに浮かび上がった。

 

 玄海の両手が、緩やかに、艶やか、自身の心臓を守るように胸の前に持ち上がった。

 

 梅花――

 

 一瞬、白い花びらが開き、鉄鬼の拳を受け流した。

 そのがら空きになった胸に、玄海の蹴りが炸裂した。

 

 今度は、気を受け流す事は出来なかった。

 鉄鬼は、その身体にもろに発勁を浴び、数メートルは後方に吹き飛ばされた。

 地面を、毬のようにぽんと跳ねる巨体。

 鉄鬼は、全身に行き渡った気の破壊力に、血みどろになり、その場に伏せた。

 

 彼が、暫くの時間を置いてとは言え立ち上がれたのは、玄海の脚が、自分自身の蹴りの威力に耐えられずに折れ、気が僅かに弱まった為だ。

 

 鉄鬼の拳にひびを入れられていた脛が折れた事で、脚部に集中していた気が分散し、玄海の身体に逆流していた。

 

 その為、玄海は、脚が折れた以上に、立ち上がる事が出来なかったのだ。

 

 この様子を見守っていた鴉が、不気味に鳴いた。

 闇を連れて来るかのような、おぞましい声であった。

 何かを祝福するかのように翼を広げ、羽根を落としながら、鴉は飛び去ってゆく。

 

 鉄鬼は、黒い羽根を掴みながら立ち上がると、血涙と鼻血と喀血痕と内出血の証を刻み込んだ身体で、倒れた玄海に歩み寄った。

 玄海も、顔に痣や血の痕を浮かび上がらせている。

 

 「俺の勝ちだ……玄海」

 「そのようだなぁ」

 「“火の車”について記した粘土板は、貰うぞ」

 「――」

 「何処にあるかは、察しが付く……」

 

 鉄鬼はそう言って、踵を返した。

 

 「玄海」

 

 肩越しに、そのように声を掛けて来る。

 

 「俺も同じだ……」

 「同じ?」

 「俺は、まだ、死にたくない……」

 「――」

 「お前のように、強く、美しくなるまでは、死んでも死に切れぬ……」

 「やめてくれ、鉄鬼。私は、そんな器ではない」

 「お前がそう思うのなら……」

 

 鉄鬼は、玄海を振り返り、言った。

 

 「俺を殺しに来い」

 「君を?」

 「そうだ。お前が迷っているのなら、俺が道しるべになってやる。お前がどうすれば良いのか分からぬなら、この俺を殺しに来い。俺とお前は同じだ。同じ答えを得たのだ。だから俺は正しい。しかし、お前は自分を正しくないと言う。ならばどちらが正しいのか、殺し合いだ」

 「――鉄鬼……」

 「もう、鉄鬼ではない。師を殺した俺は、外道よ。黒沼鉄鬼はあの日、赤心少林拳に背いた日に死んだ。俺は外道の鬼――黒沼外鬼だ」

 

 鉄鬼は――否、外鬼は、そうして、母屋へと向かった。

 玄海は、素直な男だ。少し探せば、何処に“火の車”の粘土板があるかは、すぐに分かる。

 

 「俺はお前から答えを得た。その答えの故に、俺は、“火の車”を欲するのだ。お前に、お前自身を否定する意志があるのならば、俺の独善(ドグマ)を殺しに来い、玄海よ」

 

 鴉の羽根を舞い散らして、黒沼外鬼は、玄海の前から去ってゆく。

 

 玄海。

 外鬼。

 

 やがて二人は、一人の男を挟み、再び対峙する事となる。

 

 その男の名は、沖一也。

 父の夢を継ぎ、宇宙へと飛び出そうとする男――

 仮面ライダースーパー1の、味方と、敵として……。

 

 

 

 

 

 大きなシリンダーの中に、一人の男が浮かんでいた。

 両耳と、四肢のない男である。

 

 緑の液体に満たされたシリンダーの中で眠る男は、全身の体毛を剃られており、その肉体は若々しくリフレッシュされていた。

 又、耳を失くした頭の横と、肩、股の両脇には、機械のジョイントが設けられている。

 

 眠っているようだが、その眉間には深い皺が刻まれていた。

 悪夢が、その閉じた瞼の裏側で、繰り返されているのであろうか。

 

 この男の入れられたシリンダーを管理する施設を、赤いスーツの機械人形たちが、忙しなく駆け回っている。

 首から下は、ドグマファイターと同じであったが、鉄仮面を被っている。

 彼らが、シリンダーの内部の液体の成分や水圧などを、男の覚醒に相応しい状態に保ち、その為の準備をしているのであった。

 

 全身から、歯車が回り、金属が擦れ合う音を響かせながら作業をする鉄仮面のファイターたちの奥に、玉座が設けられていた。

 豪奢な椅子に、一つの人型が、座っていた。

 銀色の鎧である。

 しかし、その鎧には、兜はあっても面当てはなく、あったとすればそこにはめ込むべき面当てが覆う顔がなかった。

 

 虚ろな鎧であった。

 この虚ろな鎧を、四人の男女が囲んでいる。

 

 一人は、黒いマントを羽織った、レオタード姿の、黒沼陽子だ。

 もう一人は、顔に蝶のマスクを被った、ピンク色のタイツの女。

 骸骨のようなもので頭を覆った、大柄な男。

 ぼさぼさの髪から髭までが真っ白い、小柄な老人。

 

 彼らは、あのシリンダーの中の男が、この鎧を纏って眼を覚ます時を、待っているのだ。

 

 と、その作業中のファイターたちの間を通って、一人の女がやって来た。

 僧衣の女である。

 黒く艶めく髪を垂らし、ぽってりとした唇で微笑む、尼としては余りにも艶めかし過ぎる女――マヤであった。

 

 その右肩には、赤い眼をした黒い鴉が、静かに留まっていた。

 

 「調子は良さそうね、陽子さん」

 

 マヤが、鼻に掛かった声で言った。

 

 「ええ、お蔭さまで」

 

 陽子はそう言って、

 

 「それと、今は、魔女参謀と名乗っているわ」

 

 と、訂正した。

 

 「それは失礼、魔女参謀」

 

 マヤが、小さく頭を下げる。

 

 「こちらは?」

 

 マヤが、他の三名について、訊いた。

 魔女参謀は、一人ずつ示してゆきながら、名を告げさせた。

 

 蝶のマスクの女が、妖怪王女。

 骸骨の被り物の男が、鬼火指令。

 総白髪の老人が、幽霊博士。

 

 それぞれ、木、火、金の霊玉に集った怨霊たちが実体化した怪物らの擬態である。

 

 「貴女には、感謝しているわ」

 

 魔女参謀が言った。

 

 「あの玄叉山で、氷室五郎に殺された私を、生き返らせてくれた事……」

 「生き返らせた訳じゃないわ。身体を与えただけ」

 

 ふふん、と、マヤは笑った。

 

 戦後間もなく、父・大三郎と共に、陽子は『景郷玄書』の記述から玄叉山に眠る黄金を探して、偶然出会った氷室五郎と共に東北へ向かった。

 

 そこで、陽子は氷室を誑かし、黄金を親子で独り占めしようとしたのだが、この事が氷室の怨みを買って彼に首を斬り落とされてしまう。

 

 その首級を回収したのが、マヤであった。

 マヤは、ショッカー設立以前に回収していた陽子の首に、長い時間を掛けて巫蟲法を施していた。

 

 陽子の首を、様々な虫を詰めた瓶に保存し、何と驚いた頃に生き延びた蛾の幼虫を蟲毒として祀り、三〇年の時を超えて、改造人間として転生させた。

 

 それが、魔女参謀――マジョリンガである。

 

 マジョリンガの本体は、陽子の頭のみで、その身体は別人のものだ。

 

 「父についても、お礼をさせて貰うわ」

 

 魔女参謀は、玉座に腰掛けた鎧を見て、言った。

 この鎧――正確に言うのならば、高性能な義肢である。

 ショッカーの本部に残された様々なデータから造り出したもので、シリンダーの男――黒沼大三郎・香坂健太郎の、失った手足を補う為のものである。

 

 普段から、あの多頭の蛇の姿でいる事は、大きな負担になる。それは魔女参謀らも同じ事であり、その為に、擬態を作らせたのだ。

 

 「気に入って頂けたなら、良かったわ」

 

 マヤが言った。

 

 と、その黒い瞳が、妖怪王女の足が、小さくステップを踏んでいるのを見付けた。

 すると、妖怪王女はいきなり、

 

 「あーあ」

 

 と言って、伸びをし始めた。

 

 「ねぇ、まだ調整は終わらないのぉ? いつまでもこうして待ってるの、飽きちゃったわ」

 

 そんな事を言い始めた。

 マヤが、子供っぽい妖怪王女の言動に、流石に眼を丸くしていると、

 

 「ふん、これだから女という奴は!」

 

 鬼火指令と紹介された男が、怒ったように吐き捨てた。

 

 「全くじゃ、今日日の若い者は、我慢というものを知らぬわい」

 

 鬼火指令に便乗するように、幽霊博士が呟く。

 

 「何ですって⁉ あんたたちこそ……」

 

 妖怪王女は、ヒステリーを起こしたように、男性陣二人に向かって声を荒げる。

 鬼火と幽霊も、王女の言葉に益々苛立ったのか、大声で論争を始めた。

 

 「えぇい、やめんか、お前たち!」

 

 マヤの前で感謝を述べていた魔女参謀であったが、口喧嘩をおっ始めた同胞たちを諌めようと声を上げ、しかし、彼らからの罵倒の飛び火を受けて、彼女まで口喧嘩に巻き込まれる事となった。

 

 マヤは、暫くその光景を眺めていたが、やがて、楽しそうに笑い声を上げた。

 

 「面白いのね、貴方たち……」

 

 マヤがそう言うと、四人は我に返って、

 

 「も、申し訳ありません!」

 

 と、魔女参謀が頭を下げた。

 

 「ほら、あんたたちもだよ!」

 

 他の三人に言うと、妖怪王女は拗ねた様子で、鬼火指令は腹立たしい様子でそれぞれ謝罪の言葉を口にせず、幽霊博士のみが卑屈ながら、

 

 「済まんかったのぅ」

 

 と、言う。

 が、その視線がマヤの、僧衣越しでもわかる恵体を舐めるようになぞっていた事から、反省の色がない事は、すぐに分かった。

 

 マヤが、その視線さえも、楽しそうに受け止めていると、施設内にファンファーレが鳴り響いた。

 

 ファイターがやって来て、魔女参謀に、黒沼・香坂の覚醒の準備が済んだ事を、知らせた。

 

 シリンダーから水が抜かれる。

 その手前に用意されたベッドに、黒沼・香坂の身体が運ばれ、ファイターたちが水を拭く。特に、ジョイント部分は念入りであった。

 

 まだ眠っている黒沼・香坂の身体を、神輿に乗せ、玉座に向けて運んでゆく。

 自然と神輿を担ぐファイターらに、道が開けられた。

 

 神輿には、黒沼・香坂の他、唯一残った“木”の剣が添えられていた。

 

 玉座の鎧の胴体部分を、魔女参謀が展開する。

 玉座に到達した神輿から、ファイターたちが恭しく黒沼・香坂の身体を持ち上げ、鎧の空洞部分にはめ込んだ。

 鎧の前を閉じ、両肩と両脚のジョイントを接続する。

 兜を被らせると、耳のジョイントが、鎧と繋がった。

 

 「マヤさま」

 

 魔女参謀が、神輿から受け取った“木”の剣を、マヤに手渡した。

 

 「この“稲妻電光剣”で、父を――元帥閣下のお目覚めを、お手伝い下さい」

 「稲妻電光剣?」

 「はい。我らの守り刀です」

 

 マヤが“木”の剣――稲妻電光剣を受け取ると、魔女参謀ら四人は、玉座の左右に広がり、跪いた。

 

 マヤは僧衣を脱ぎ捨て、露出の高い、金のドレス姿になった。肩に留まっていた鴉も、一旦、その場を離れた。

 

 そうして、剣を胸の前に構え、口の中で何事かを呟く。

 呪文のような呟きに呼応して、剣が光を帯び始めた。

 

 マヤの額に第三の眼が開き、剣の輝きと同時に、ひときわ強い光を放つ。

 すると、稲妻電光剣から雷光が迸り、銀の鎧に吸い込まれて行った。

 

 電撃を全身に浴び、眼を瞑った黒沼・香坂の顔が苦痛に歪められる。

 顔の皮膚から、色素が抜けてゆき、その代わりに、歌舞伎の隈取にも似たラインが浮かび上がって来た。

 

 マヤが、剣からの放電をやめる。

 

 暫く、鎧から白い煙を上げているばかりであった黒沼・香坂だったが、やがて、その機械の指が動き始める。

 ぎろりと、凄まじい怨みの籠った眼が見開かれた。

 その覚醒を讃嘆するファンファーレを、ファイターたちが奏で上げる。

 

 「我は、悪魔元帥……」

 

 黒沼・香坂は、最後の記憶を頼りに、呟いた。

 

 「我が娘・陽子の仇、ドグマ王国のテラーマクロ……そして、我が一族と、息子・シンタ、娘・チエの仇、仮面ライダーを抹殺する為に、ここに生まれ変わった」

 

 その宣言に、魔女参謀が眼を潤ませる。

 しかし、すぐに表情を引き締めた。

 

 「元帥閣下……」

 「陽子か……」

 「黒沼陽子は、死にました。これよりは、魔女参謀とお呼び下さい。そして、これに連なりますは――」

 「妖怪王女」

 

 その正体は、サタンドール。

 殺されたチエの頭部と融合した人形である。

 

 「鬼火指令」

 

 その正体は、オニビビンバ。

 村人たちの怨霊と、ゾゾンガーの大砲が合体した。

 

 「幽霊博士に御座います」

 

 その正体は、ゴールドゴースト。

 “金”の霊玉を中心とした、怨念の集合体である。

 

 「そして……」

 

 マヤが、稲妻電光剣の柄を、悪魔元帥に向けた。

 まだ身体に不慣れなのか、ゆっくりと腕を持ち上げ、悪魔元帥はその柄を握った。

 

 「私は、貴方たちに名を与える者……」

 「名を?」

 「ええ。貴方たちは――そうね、ドグマを滅尽(ほろぼ)す者で……ジンドグマ」

 

 マヤは、言った。

 稲妻電光剣を受け取ると共に、マヤが連れて来た鴉が、悪魔元帥の肩に留まった。




これにて、第五章(やたらと長かった)は終了となります。
次回からの第六章が、昭和ライダー篇の最終章となります(その後に転章がありますが)。

本章と同じく、又、暫く時間が掛かる事になるかもしれませんが、気長にお待ち下されば幸いです。

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