仮面ライダー Chronicle×World   作:曉天

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序章 予感―オーバーロードの惑星―
第一節 翼ある蛇の王


骸の山であった。

 

そこには、無数の屍が積まれている。

 

どれも、普通の人間のそれではなかった。

 

昆虫のような頭をしている。

鎧を纏っているものもあった。

 

一体、幾つの死体が、そこに重ねられているのか、数える気にもならなかった。

 

空は黒い。

月や、星の明かりさえもない。

 

唯、闇であった。

 

その異形の者たちの身体から溢れた血液が、大河となり、大地を覆い尽くしていた。

 

その真ん中に、一つの影が立っている。

 

これも亦、異形であった。

 

人間のプロポーションを持ちながら、とても、人とは思われない姿であった。

 

全身が黒い。

黒いが、それは皮膚ではない。

 

鱗であった。

黒い、鉄のような鱗が、その肉体を覆っているのだ。

 

地面に、三つの指が喰い込んでいた。

脛は、皮膚が角質化したようであった。

 

巨大な手に、巨大な爪が伸びている。

五指だ。

 

腕の小指側に、膜がある。

羽毛の生え揃った膜であった。

その膜は、脇腹から腕に掛けて、張るのであろう。

背中を、白いマントのように覆う翼は、広げればかなりの大きさになると思われた。

 

その翼の下から、長い尻尾が垂れていた。

 

太い頸の上に、大きな頭が乗っている。

人の顔を、歪に変形させたような形であった。

 

鼻から下顎に掛けて、前方にせり出している。

鼻は広がっていて、平らになっていた。

唇が存在せず、口を開けば、剥き出しの歯茎と、ナイフのような牙が見えた。

眼が、顔の横にある。

瞼はない。

黄色く濁っていた。

 

額から、天に向かって、尖った鱗が伸びている。

 

それは、翼からすると、鳥のようだ。

しかし、その尻尾や顔立ちは、蛇だ。

 

翼ある蛇――

鳥類と蛇の二つの特性を、人間の肉体に埋め込んだもの――

 

そのように見えた。

 

翼ある蛇の王が、屍の山の上に佇んでいた。

 

何をするでもない。

唯、虚空を眺めていた。

 

闇夜だ。

血の大地だ。

 

孤独に立つ異形の影には、そこはかとない哀しみが宿っているようにも見えた。

 

その怪人に向かって、一人の男が、歩みを進めていた。

 

金の髪の男であった。

銀色の鎧を纏っている。

白いマントを、闇の中にたなびかせていた。

 

異形の戦士が流した血の川を、具足が踏み締めて行く。

 

鋭い眼光は、左右で色が異なっていた。

 

男が、異形と対峙していた。

 

男の顔には、怒りが張り付けられていた。

眉を寄せ、歯を喰い縛っている。

 

男を眺める異形は、表情を変えない。

変わる表情がないのか、或いは、男に対して何の感慨も沸かないのか。

 

「お前は……」

 

男が言った。

怒りや、怨みや、憎しみを、必死で押し殺そうとしている。

咽喉の奥から迸り出そうな、負の慟哭を、意思の力で抑えていた。

 

その為、引き絞るような、低い声になっていた。

 

異形が、動いた。

 

 

とん、

 

 

と、地面に転がっていた骸を蹴って、跳躍する。

 

翼を広げた。

白い翼から、白い羽根が雨に変わる。

 

黒い空に、白と黒の異形が浮かび上がっていた。

 

男は、その異形の怪人を睨み上げると、マントを外側に振り払った。

 

その腰に、いつの間にか、ベルトが巻かれている。

大きなバックルには、オレンジ色の錠前が填められていた。

その左側に、金色の鍵が挿してある。

右側には、刃が備え付けられていた。

 

「――絶対、許さねぇ!」

 

男は叫んだ。

 

その身体を、光が包み込んだ。

 

その光に怯む事なく、異形が、男に向かって蹴り込んで来た。

あの爪で引っ掛かれれば、骨まで引き剥がされてしまうであろう。

男の纏った鎧とて、同じ事であった。

 

だが、男は異形に向かって、その腕を振り上げた。

 

 

がきっ――

 

 

と、鉄と鉄の噛み合う音がした。

 

異形が跳ね返された。

再び、骸の山に着地する。

 

その視線が持ち上がる。

光を放った、鎧の男を見たのだ。

 

だが、男は、先程までのものとは異なる鎧を身に着けていた。

 

胸のプレートは、更にぶ厚くなっている。

マントも、外側は黒く、内側は炎のような赤に変わっていた。

手に、何処から取り出したものか、一振りの銃剣を握っていた。

 

そして何より、仮面を纏っていた。

細い三日月と、丸い暈の兜飾り。

七色のバイザー。

 

「行くぞ――」

 

鎧を纏った男が、深く、腰を落とした。

左肩を前に出し、刀――無双セイバーを、右上に構えた。

 

鎧の男――鎧武(がいむ)に変身した葛葉(かずらば)紘汰(こうた)は、異形目掛けて駆け出していた。

 

異形も、紘汰に躍り掛かって来る。

 

紘汰が、無双セイバーを袈裟掛けに振り下ろした。

翼ある蛇は、左腕を持ち上げて、前腕で防いだ。

 

金属質な音が響いた。

鱗は体毛が変質したものと見えるが、それにしても、無双セイバーを弾く程の硬度を持っていたのである。

 

刃が翻る。

続いて紘汰は、異形の腹部に、真横から剣を叩き付けて行った。

 

弾く。

鱗には傷一つ付いていない。

 

「うらぁっ!」

 

蹴った。

鉄の靴底が、異形の腹に吸い込まれて行き、その身体を後退させた。

 

怨めしそうに、鎧武を睨む。

 

紘汰は、無双セイバーのトリガーを引き、翼ある蛇の怪人に、銃撃を浴びせた。

 

光弾が直撃する。

 

しかし、鱗が少し焦げた程度であった。

 

「何――」

 

打撃としてのダメージはあるようだが、貫通所か、出血にも至らない。

 

――今度は、こちらの番だ。

 

とでも言うように、異形が、牙を剥いた。

 

地面すれすれを、滑るようにして、紘汰に肉薄して来た。

紘汰は、刃を擦り上げるように、蛇の頭部を斬り付けて行く。

だが、怪人は頸を傾けて、刃を通り過ぎさせ、左の爪を、鎧武の太腿に叩き付けて来た。

 

「ぐ――ぁ!」

 

鎧の身体が、宙に浮き、回転させられてしまった。

受け身を取って起き上がる。

 

その顔面に、異形の脛がぶつかって来る。

パルプアイにひびが入った。

 

体勢を立て直そうとする紘汰であったが、翼ある蛇は、大きな掌を顔に押し付けて来た。

爪が、銀の兜に喰い込んで、亀裂を奔らせた。

 

「離しやがれっ!」

 

紘汰が、剣を投げ捨て、両手で、異形の腕を掴む。

 

蛇の左腕が、紘汰の両腕の隙間から入り込んで、胸元を叩いた。

 

凄まじい衝撃であった。

一瞬、呼吸が出来なくなった。

 

その間に、翼ある蛇の怪人は、紘汰の胸に、幾つものパンチをぶちかまして来た。

紘汰の手が、怪人の腕から滑る。

 

抵抗する力がなくなった――

 

異形は、そのように思ったのか、更に牙を剥いてみせた。

 

しかし、紘汰の左手が、バックルの横に刺さった黄金の鍵――極ロックシードを捻っていた。

 

すると、異形の背後から、突如として出現した槍が、異形の背中を貫いていた。

 

赤い舌を伸ばして、悲鳴を上げる。

肋骨の下に、銀色の穂先が突き出していた。

 

影松と呼ばれる槍である。

 

紘汰は、掴む力の緩んだ怪人の手を振りほどくと、パンチを胸に叩き込んで、後退させた。

 

異形は、身体に刺さった影松を引き抜こうとする。

しかし、その前に、紘汰は同じように鍵を捻る。

 

数度――

 

と、異形の頭上の空間が歪んだ。

 

そこから、無数の影松が姿を現し、異形の全身を貫いてしまった。

ハリネズミのような姿になった。

しかし、先端は全て、怪人の身体を突き刺して、血に濡れているのである。

 

紘汰は、影松を出現させたのと同じように、白い突撃槍・バナスピアーを召喚した。

それを構えつつ、左手で、戦極ドライバーのカッティングブレードを倒した。

 

「――っらぁ!」

 

バナスピアーの先端が、地面に潜り込む。

 

すると、黄金に輝くエネルギーが、大地より湧き出して来て、翼ある蛇の怪人の肉体を抑え込んだ。

 

白い槍から手を放し、先程投げた無双セイバーと、手元に呼び寄せた火縄大橙DJ銃を合体させ、大剣モードにする。

 

バックルから、カチドキロックシードを外して、大剣にセットした。

腰に、大剣を溜める。

 

「せいっ――」

 

オレンジ、黄色、紫、緑、赤、黒、茶、金――

 

様々な色が、火縄大橙DJ銃大剣モードの刃に宿る。

 

 

ずぅ、

 

 

と、剣が持つパワーが、強大化した。

 

「――はぁぁっ!」

 

気合一閃、大剣が怪人の頭部に向かって振り下ろされ、大地ごと、異形を両断した。

 

紘汰は、自らの斬撃が生み出したエネルギーの余波を浴び、マントをなびかせる。

銀色の装甲が、光の照り返しを浴びていた。

 

――やった、か?

 

心の中で呟く。

 

と――

 

その炎の中から、黒いものが伸びて来た。

 

何⁉

 

仮面の内側で、眼を剥く紘汰。

 

その身体に、爆死したと思われていた異形の尾が、巻き付いた。

植物の蔓のように、無数に、であった。

 

紘汰の身体はあっと言う間に絡め取られてしまった。

 

脱出しようとするも、鎧武のパワーでは、その尾を断ち切れない。

アームズウェポンを召喚しようにも、極ロックシードに手が伸びなかった。

そして、オーバーロードとしての力――ヘルヘイムの植物を操作しようにも、この場所には、新しい生命が生まれる土壌がなかった。

 

鎧が軋む。

その内側で、異形と化した紘汰自身の身体が、苛烈な締め付けに力を奪われていた。

 

炎の中から、翼ある蛇の怪人が、歩み寄って来る。

 

ぺりぺりと、焼け爛れた鱗が、頭部から剥がれ落ちて行った。

その内側から、無傷の、より高度を増した鱗と翼を纏った怪人が、姿を現す。

 

翼ある蛇の王は、抵抗出来ない紘汰に歩み寄ると、その顎を大きく広げた――


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