東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第93話 声

「……なるほど。それなら、すぐに響を復活させる事が出来るってわけだ」

「確かに回復チームを早苗に任せた方がいいわね。この中で一番、詳しいし」

 本体がいると思われる方向に向かっている間に私は魔理沙、咲夜、妖夢に具体的に作戦を伝えていた。魔理沙と咲夜はすんなり、納得した様子だったが妖夢がまだ首を傾げていた。

「何?」

「いえ……それについては納得したんですが、私が用意したあれは?」

 どうやら、妖夢は私が用意して、と頼んだ物の使いどころを疑問に思っているらしい。

「使うと思ったからよ」

「勘ですか?」

「勘よ」

「……まぁ、それほど大きい物でもなかったですし、幽々子様にもちゃんと許可を取ったので大丈夫だと思います」

 二人にしかわからない会話にはてな顔になる魔理沙と咲夜。

「じゃあ、こっちの作戦を言うわね。相手は妖怪。それも一斉に襲って来るわ。更に蘇生能力を持っている。さっきも言ったと思うけど多分、私たちはガス欠を起こすわ」

「それはわかるんだけどさ? もっと、大人数で戦った方がよかったんじゃないか?」

「魔理沙。貴女は普段の弾幕ごっこでどんな感じで戦ってる?」

 質問して来た魔理沙に聞き返す。

「え? そりゃ、星弾をばら撒く……そうか、お互いの弾幕が邪魔し合っちゃうな」

「そう言う事。普段、私たちは弾幕を放って戦う。1対1の時はいいわ。相手の弾幕に集中すればいいんだから。でも、今回はそうはいかない」

「妖怪たちと大乱戦ですもんね。妖怪の攻撃に加え、味方の放った弾幕も避けないといけない」

 妖夢が代わりに言ってくれる。

「霊夢はホーミングするし、魔理沙のレーザー攻撃は一直線上にいなければ当たらない。私のナイフも時間を止めれば自由に操作できる。妖夢に関しては剣で直接攻撃だものね」

 つまり、私たちは弾幕と言ってもある程度、コントロール出来るメンバーなのだ。

「納得してくれた? 出来るだけスペルは温存して通常弾で攻撃。ピンチになった時に使って。後、魔理沙は出来るだけ星弾は撃たないように。他の2人も星弾には注意しておいて。フォーメーションは魔理沙と妖夢が前。私と咲夜が後ろで援護ね」

「「「了解!」」」

 作戦会議が終わった所で目の前に妖怪の大群が出現した。

「まずは本体まで全力で行くわ! スペルの準備はいい?」

 スペルカードを取り出した後に問いかけるがそれは必要なかったらしい。魔理沙は八卦炉を。咲夜はナイフ。妖夢は抜刀して同時に頷いた。

「神霊『夢想封印 瞬』!」「恋符『マスタースパーク』!」「幻符『殺人ドール』!」「人符『現世斬』!」

 4枚のスペルカードが発動する。実は私の勘はこの後の事を予知していなかった。何が起こるかわからない。響が関わるといつもそうだ。勘が働く時と働かない時がある。普通なら不安になるが今回は嬉しかった。努力をすれば未来が開けると信じられるから。

 

 

 

 

 

 ――……。

 

 何だろう。声が聞こえる。

 

 ――響。

 

 俺の名前だ。声にも聞き覚えがある。でも、どこで聞いたかわからない。ずっと、昔。俺がまだ小さかった頃?

 

 ――起きて、響。

 

 無理だ。体が重くて言う事を聞かないんだ。きっと、鎌を振りすぎて地力を全部失ってしまったから。

 

 ――大丈夫。今、皆が必死になって貴方を助けようとしているから

 

 どうして、そんな事がわかるの? お前は誰なんだよ?

 

 ――……いずれ、わかります。そして、一つだけ報告があります。

 

 報告?

 

 ――はい、私は今まで貴方の中にいました。

 

 俺の中? 魂って事? あのアパートには吸血鬼たちしかいないと思ってたけど。

 

 ――魂にではありません。心にです。

 

 心? 魂と同じじゃないの?

 

 ――う~ん、どうなんでしょう? 近所みたいなものです。

 

 アパートの隣に建っている民家って事?

 

 ――まぁ、そんな感じです。

 

 アバウトだな……。

 

 ――し、仕方ないでしょう! 私にもあまり、理解は出来ないんですから!

 

 それで? 報告って何?

 

 ――はい、今まで私は貴方の心の中で見守っていました。でも、それも今日までです。

 

 え?

 

 ――偶にですが、私は心の中で貴方の事を助けていました。霊力についてだけですが……。

 

 霊力? じゃあ、俺が霊力を持っていたのは……。

 

 ――ぶっちゃけると私がいたからです。

 

 お前が消えたら霊力もなくなっちゃうのか!?

 

 ――それは心配ありません。貴方は限界を超えて目覚めたのです。やっと、開花したのです。

 

 漫画でよくありそうな展開だな。

 

 ――全くその通りです。貴方はベタな覚醒をしたのです。

 

 所々に棘があるんだけど……。

 

 ――気にしてはいけません。こういう喋り方なんですから。話が逸れました。もう貴方は私の力がなくても生きていけます。なので、最後のお別れを言いに来ました。

 

 最後のお別れ?

 

 ――はい……私は貴方の心から消えます。そうすれば、霊力を今まで以上に扱えるようになるでしょう。このまま、霊力を使ってしまうと今度は貴方自身の霊力と私の霊力が邪魔し合ってしまうのです。

 

 だから、消えるって?

 

 ――はい。

 

 いいじゃん。いれば。

 

 ――……はい?

 

 何も消えなくたっていいよ。今更、霊力同士が邪魔し合って今まで以上に使える量が減っても指輪の力があればどうにか出来るし。

 

 ――私は貴方を邪魔してしまうんですよ!?

 

 だから、気にするなって。今まで心の中で頑張ってくれてたんだろ? なら、今度は休憩してろよ。俺が頑張る姿でも見てさ。

 

 ――……で、ですが。

 

 迷うなら行動しろ。それが俺のモットーでね。お前もそうすればいい。消えたい? それとも、残りたい?

 

 ――出来れば、残りたいですが……。

 

 なら、消えるな。俺の心にいろ。消えるなんて勿体ないだろ? 俺の事は気にすんなって。

 

 ――しかし、もう私がいた心には入れません……私が飛び出したのと同時に消えてしまいましたから。

 

 え!? 消えて大丈夫なのか?

 

 ――あ、それは大丈夫です。心と言う名のただの空洞ですから。

 

 よかった……なら、心がないなら魂にでもいればいいじゃん。部屋なら余ってるし。

 ――本当にいいんですか? 霊力が……。

 

 ああ、もう! しつこいな! 俺が良いって言ってんだから! いいんだよ!!

 

 ――は、はい!? では、お言葉に甘えて残らせていただきます!!

 

 うん。それでいい……で? 話を戻すけど誰?

 

 ――言ったでしょう? その内、わかります。これだけは覚えていて。響。私はいつも、貴方の傍にいますよ。

 

 え? あ、おい! ちょっと待って!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あれが本体?」

 咲夜が目を見開いて他の皆に確認を取った。

「みたいね……」

 霊夢も驚きを隠せない様子で頷く。その前には巨大な物体がいた。まるで、太りすぎて動けなくなった人間のようだ。だが、大きさが人間のそれを凌駕している。高さは周りの木より少し、低い。それでも3メートルはある。横は7メートル。でかすぎる。その周りには200を超える妖怪たちがこちらを睨んでいた。

「まさに化け物だな……」

「化け物と言うよりもデブですね。幽霊を溜め込み過ぎたんでしょうか?」

 魔理沙と妖夢が冷や汗を流す。予想以上だったらしい。

「本体も蘇生出来ると考えて……あれを何千回倒せばいいのかしら?」

 咲夜は冗談を言うように皆に聞いた。さすが、吸血鬼の館で働くメイド長と言ったところか。

「倒さなくていいの。きっと、あの本体は攻撃出来ないのよ。だから、あんなに妖怪を作った」

「じゃあ、周りの雑魚を吹き飛ばせばいいんだな?」「じゃあ、周りの雑魚を斬ればいいんですね?」

 魔理沙はニヤリと笑いながら、妖夢は剣を構えながら言う。

「ええ。さっきも言ったけど出来るだけ力を使わないで。目の前にいる敵にダメージを与えればいいから」

 霊夢もお札を取り出す。それを見た妖怪たちは吠えながら4人に向かって突進して来た。時間稼ぎと言う先の見えない戦いなのにも関わらず、霊夢たちは絶望していなかった。響が起きると信じているから。そして、この異変を解決してくれると疑ってなかったから。

 


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