東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第90話 魂狩り

「少し待ってください。整理します。貴方の言う事が正しければ……あの妖怪たちは魂を媒体とする事によって蘇生出来る。そして、貴方は小町の……いえ、死神の鎌を使えば魂を刈り取る事が出来る……そう言いたいのですね?」

「……少し違うかな? 小町、鎌を貸してくれ」

「あ、ああ……」

 何とか立ち上がって小町から鎌を受け取る。先ほどと同じように邪悪なオーラが発生した。

「た、確かに……黒い力を感じますね」

 映姫が呟くが無視して、近くの木の前まで移動する。

「せーのっ!」

 鎌を横薙ぎに振って木に傷を付けた。

「「なっ!?」」

 突然の行動に吃驚する2人。だが、俺はそれを無視して木を観察する。

「なるほど……映姫、魂を刈り取られた木はどうなるか知ってるか?」

「え? そうですね……枯れるか、腐る。もしくは灰になる。言えるのはただではすまないでしょう」

「じゃあ、これは魂が刈り取られていると言えるか?」

 俺が傷を付けた木は枯れもせず、腐りもせず、灰にもなっていない。

「……言えないですね」

「つまりだ。この鎌の力は弱いんだ。きっと、不安定な魂しか刈り取れない」

「不安定?」

 小町が傷ついた木を触りながら聞く。

「例えば……何かに貼り付けたとか」

「……あの妖怪たちの事ですね」

 映姫がいると話がスムーズになって助かる。

「ああ、あの妖怪たちの体は土で出来ていた。となると本体は土を固めてあの不気味な形を作り、そこに集めた魂を1つだけ貼り付けたんだ。そしてある程度、自我を持たせ幽霊を食べさせて魂を集めていた」

「多分、本体にそう言った能力があるみたいですね。ですが、どうして貴方が死神の鎌を持つと力が生まれるんですか?」

「俺がそう言う能力だからだよ」

 能力名は紫に口止めされていて言えない。それを察したのか映姫は追究する事はなかった。

「で? これからどうするつもり?」

「小町の鎌を借りてあの妖怪たちの魂を狩る」

「その鎌を振るう度に力を持って行かれるんだろ? あんたも無事じゃすまされないはずだ」

 小町の言う通りだ。一振りで雅を5回、召喚出来るほどの量を吸い取られる。すぐに倒れるはずだ。

「でも、やるしかないんだ……このまま、幽霊を食べ尽くされたら今度は人間が襲われるかもしれない。そうすれば、人里は壊滅だ」

 ただでさえ、倒しにくいのに普通の人間が太刀打ちできるわけがない。

「そりゃそうだけど……」

「それに妖怪たちは細い魂の糸で繋がってる。普通なら見えないけど俺の魔眼なら見えるんだ」

「つまり、妖怪を倒すついでに本体の居場所を突き止めると言いたいんですね?」

 映姫の言葉に頷いて答える。

「まぁ、今日はさすがに疲れて無理だ。明日からやるわ。小町、鎌借りていいか?」

「いいけど……無理はしないように」

「おう」

 小町の鎌をスキホに仕舞って、俺は重たい体に鞭を打って空を飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……あ、く」

 上手く呼吸が出来ない。鎌の柄を地面に突き刺し、何とか倒れないように努力する。

 あれから3日が経った。その中で俺は数えきれないほどの妖怪を狩った。

「大丈夫?」

「ま、まだまだ……だ」

 後ろにいた小町が心配そうにしている。俺の事が気になって一昨日から付き添っているのだ。

「くそ……本体まで近づけない」

 俺の予想では妖怪たちは俺に近づかない物だと思っていた。彼らにとって俺の力は一撃必殺。鎌の刃に当たるだけ――いや、掠るだけで死んでしまう。そんな相手の前に誰が好き好んで出て来るか。そう、考えていた。

(……本体に俺の能力がバレたか)

 だが、俺が本体のいる方に近づけば近づくほど妖怪とのエンカウント率が上がって行くのだ。本体が俺の事を近づけさせないようにしているとしか考えられない。そのせいで俺の体は限界に達していた。

「ほら、今日はもう休め」

「あ、ああ……」

 俺は今、博麗神社に泊まっている。外の世界に帰る為には紫の衣装を着なければならない。だが、帰る頃には能力すら使えないほど地力を消費していた。つまり、帰れない。それが判明した夜、望に電話して急遽、出張する事になったと報告したのだ。望は疑っていたが、何とか信じてくれたようでこちらの世界に滞在する事になった。

「う……」

 帰ろうとしたが、緊張の糸が途切れてしまったらしく俺は地面に倒れる。雪が冷たい。

「きょ、響!? だから、そんなに無茶するから!」

 慌てて小町が駆け寄って来ようと足を動かす。この2日間で何度も俺は倒れた。その度に2時間ほど休憩して動けるようになったらまた、鎌を振るう。自分でも思う。無茶をし過ぎていると。

「す、すまん……」

 走って来る小町に謝ったその時、魔眼がこちらに向かって来る生物の反応をキャッチした。

「小町! ストップ!!」

「え?」

 俺の叫びに吃驚したのか肩を震わせてから小町は足を止める。そして、俺たちの間に30を超える妖怪が飛び込んで来た。あのまま走っていたら小町は妖怪に襲われていただろう。

「邪魔だよ!!」

 弾幕を放って向かって来る妖怪を牽制する小町。あれでは能力を使う暇さえない。

「くそっ……」

 震える足を叩いて無理矢理動かし、重たい腕に霊力を流して鎌を持ち上げる。

「「「ガバッ!!」」」

 3体同時に妖怪が体当たりして来た。それを鎌の刃で受け止めて魂を狩る。この鎌は振るった回数ではなく刈り取った魂の数によって吸い取る地力の量が変化するらしい。1回で大量の魂を刈り取ったからと言って吸い取られる地力の量に変動がないのだ。

「ぐっ……」

 目の前が霞む。本当にやばい。『魂絶』の使用後と同じ感覚。左目の魔眼が解けそうになり、慌てて魔力を注ぐ。でも、妖怪たちは待ってくれない。次々と俺に飛びかかって来る。ここで倒れたら俺は殺されて魂を吸収されてしまう。

(小町は!?)

 チラリと横目で見るとまだ、耐えている。能力と弾幕を上手く使い分けて妖怪を翻弄していた。

「グガッ!」

「しまっ――」

 余所見をしている所を突かれ、5匹の妖怪にそれぞれ、右腕、左腹、左足、左肩、右脇腹を噛まれてしまった。

「~~~~ッ!!?」

 鋭い痛みに唇を噛んで何とか、悲鳴を上げるのを抑える。今、悲鳴を上げてしまったら小町の意識をこちらに向けてしまう。そうすれば、彼女も俺と同じように妖怪たちの攻撃を受けてしまうだろう。それに噛まれたぐらいで俺は死なない。噛み千切られても数少ない霊力を駆使して再生させればいいのだ。俺はそう、高を括っていた。

「ッ!?」

 まずは左足に噛み付いている妖怪の魂を刈り取ろうと目を下に向けた瞬間、魔眼があり得ない反応を感知する。

(こ、こいつらまさかっ!?)

 5匹の妖怪の口に何かエネルギーが充電されていく。外からではなく内側から。こいつらのエネルギーと言えば――。

「くそったれがっ!!」

 急いで振りほどこうと足掻くが今までの疲労が溜まっていて出来ない。出鱈目に鎌を振り回すが妖怪たちはそれを華麗に回避する。その間にもどんどんと充電が進む。このままではまずい。妖怪たちが俺の前に立ち塞がったのは本体を守る為ではなかった。妖怪たちの目的は最初からこれだったのだ。

「響!?」

 魔眼を使わなくても妖怪たちの口の中が白く光るのが見えた。その光を見たのか小町が俺の名前を叫ぶ。そして――。

 

 

 

 ――俺の体の中に妖怪たちの口から一つずつ、魂が撃ち込まれた。

 

 

 

「……」

 一瞬の静寂。まるで、何もなかったかのような静けさ。それも長くは持たない。魂を撃ち込まれた俺の体はその威力に耐え切れず、内側から血を噴き出す。

(前にもこんな事があったな……)

 不思議なほど冷静な俺の頭には狂気が俺の体を内側から引き裂いた記憶が蘇っていた。俺の血がゆっくりと飛んで行く。妖怪たちはすでに土になっていた。きっと、魂を撃ち込んだ時に体が耐え切れなかったのだろう。

「やっち……まっ、たか……」

 もっと、小町の言う事を聞いておけばよかったと後悔する。小町は最初から言っていたではないか。『無理をするな』と。でも、俺はそれを無視した。その結果がこれだ。

「きょ、響!!!」

 妖怪と妖怪の隙間から手を伸ばしていた小町を見つけた。もう、声が出なかったので口だけを動かす。『ゴメン』。

 俺は膝から崩れ落ちて地面に倒れる前に意識を手放した。

 


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