「「はぁ……はぁ……」」
喉を鳴らして威嚇するリーダーの前で俺と小町は息を荒くしていた。
「なぁ? あいつ、何回死んだ?」
「5回目から数えてないよ……」
俺の問いかけにうんざりした様子で答える小町。俺が覚えている限りでは7回だ。
「神鎌『雷神白鎌創』……」
覇気のない声でスペルを発動するが神力が足りず、鎌がすぐに崩れてしまう。
「ガルッ!!」
「しまっ――」
鎌の方に気を取られているとリーダーが俺の懐に潜り込んで来た。
「はぁ!」
小町の放った弾幕がリーダーの腹に当たり、俺の右側を通り過ぎていく。
「さんきゅ」
「大丈夫かい?」
汗が顎から垂れている俺を見て小町が心配そうに聞いて来た。
「正直言って限界……そっちは?」
「まだ、余裕はあるけどあたい一人じゃどうにか出来る相手じゃないね」
「となれば」
「まぁ、そう言う事だね」
やる事が決まった直後、リーダーが部下たちに命令。幽霊を全て、食べ終えたようだ。これから部下たちも俺たちを襲いに来るだろう。
「「戦略的撤退!!」」
襲われる前に小町の能力を使って逃げた。
「――なるほど、それでそんなに疲れているのですね」
三途の川の近くで映姫に報告し終え、閻魔はそう呟いた。
「ああ、気味の悪い相手だった」
なにせ生き返るのだ。
「私も聞いた事がありませんね」
映姫が首を傾げながら呟く。
「……」
「響、どうしたですか?」
俺が浮かない表情を見て映姫が質問した。
「いや……何となく、違和感が」
リーダーが生き返った時、必ず白い何かが出て来て破裂していたのだ。それに他の妖怪たちにも該当するのだが、目に見えない本当に細い糸が森の中から伸びていた。俺はそれを魔眼で確認していたのだ。その事を二人に話す。
「俺の考えだと多分、アリスの人形みたいに遠くから操っていたんだと思う。アリス、わかるか?」
「宴会に行った時に何回か話した事がありますので大丈夫です。つまり、貴方たちが戦っていた妖怪は本体ではなく人形のような何かで本体は別にいる、と?」
「ああ……それと幽霊を食べていた理由もわかったかもしれない」
「理由?」
首を傾げた小町。
「あいつらは蘇生能力を持っているのは確かだ。でも、その蘇生には生贄が必要なんだと思う。その生贄が――」
「「幽霊」」
二人の言葉に頷く。あの白い光は幽霊だったのだ。
「幽霊1匹に付き、1回の蘇生が可能になる。白い光が必ず1つしか破裂しなかったからな」
この推測は間違っているかもしれないが今の俺は指輪を右中指に付けているおかげで直感力が大幅にアップしている。きっと、合っているはずだ。
その時、発動したままだった魔眼が何かを察知する。
「で、その妖怪が……」
懐からお札を5枚、空中に放り投げ、振り向きながら印を結ぶ。
「ここに来やがった!!」
「キャウッ!?」
『五芒星』で突進して来た妖怪を弾き飛ばす。防がれると思っていなかったのか妖怪は簡単に地面に倒れ、慌てて離れていった。
「あれが……ですか?」
映姫が険しい表情で妖怪を睨む。妖怪の数は7匹。先ほどは10匹以上いたので別の群れらしい。
「ああ、映姫と小町は弾幕で。隙を突いて俺は至近距離から攻撃するでいい?」
「あんた、体力は?」
「……まぁ、頑張るさ」
幽香との戦いで指輪の力を開放したのと『ブースト』のせいで体はまだ本調子じゃない。それをさっきの戦いで実感していた。それでも、ここは三途の川。その川を渡る為に幽霊たちが集まって来るのだ。
「黙って幽霊たちを食べさせるわけにはいかないだろ?」
「そりゃ助かる。これ以上、あいつらに残機増やさせるわけにもいかないからね」
「そう言うこった。神鎌『雷神白鎌創』!」
話している間に回復した神力で鎌を創造する。その瞬間、小町と映姫がほぼ同時に弾幕を放った。妖怪たちはジャンプして躱す。弾幕が地面にぶつかった時、積もっていた雪が舞う。
(そこだ!)
足の筋肉に霊力を注ぎ、脚力を水増しさせた。雪煙を突き抜けて着地する直前だった妖怪の腹を鎌で切り裂く。だが――。
「なっ!?」
妖怪に触れた瞬間、鎌が粉々に砕けてしまったのだ。鎌の強度が落ちていたのも確かだが、それ以上に妖怪が硬すぎる。
「二人とも! こいつら、相当な量の幽霊を喰ってる!」
先ほどのリーダーの3倍は強い。バックステップで距離を取ろうとするがそれを妖怪たちは許さなかった。
「ッ!?」
7匹の内、3匹が俺に飛びかかって来たのだ。速すぎる。
(逃げきれない!?)
背中に冷や汗が流れた。『五芒星』を使用しているので霊力の消費が激しい今、怪我をしてしまうと治せない可能性が出て来る。そうなれば、俺は――。
「「響!」」
小町と映姫の声が聞こえたと思ったら、2種類の弾幕が3匹の妖怪を吹き飛ばす。
「ありがと!」
お礼を言いつつ、『五芒星』で二人に迫っていた妖怪を弾く。
「神鎌『雷神白鎌創』!」
鎌で攻撃してしまうと破壊される。ならば、間接的に攻撃すればいい。小町の弾幕がヒットし怯んでいる妖怪に向かって鎌を横薙ぎに振るった。
「雷音『ライトニングブーム』!」
雷を纏ったソニックブームは妖怪に直撃する。
「?」
だが、全くと言っていいほど効いていない。妖怪も首を傾げている。
(霊力は『五芒星』。魔力は『魔眼』。妖力はさっきの『拳術』。神力は『鎌』。くそ……使いすぎだ)
「バルうぅ!!」
頭の中で悪態を吐いていると4匹の妖怪が俺をターゲットにしたようで走って来ていた。一番、倒しやすいと判断したのだろう。
「妖撃『妖怪の咆哮』!」
両手を筒状にして口の前に置き、一気に妖力を噴き出す。
「喰らいなさいっ!」
それに加えて映姫の弾幕も妖怪たちを襲う。前と横から攻撃を喰らった4匹の妖怪はかなり遠くまで飛ばされた。
「グルゥ!!」
俺の背後から2匹の妖怪が唸りながら飛んだ。あの4匹は囮だったのだ。
「――っ」
『五芒星』も間に合わない。振り返る頃には妖怪たちの牙は俺の肉を噛み千切っている。万事休すだ。
「そうはさせないよ」
だが、突如現れた小町が俺の手を握って能力を発動。2つの牙は空を切る事となる。
「よっと、ギリギリだったね。怪我は?」
小町が俺の顔を覗き込みながら問いかけて来た。その後ろに最後の妖怪の姿が見えたので『五芒星』で防いだ。
「お、ありがと」
「こっちこそ、何回も助けてくれて……」
ここまで来ると俺は足手まといだ。ろくに攻撃も出来ない。それでいて自衛も不安定。
「いや、この結界のおかげで攻撃しやすいよ」
「そう言ってくれると助かる……に、してもどうするか」
小町は今も弾幕を放って妖怪たちを近づけさせないようにしていた。『五芒星』は映姫を守っている。
「攻撃方法かい?」
「ああ、すぐに鎌も壊れるし地力はそろそろなくなる」
指輪の制限を解除するか考える。でも、すぐに否定した。今の体で指輪の力を開放してもすぐに体が悲鳴を上げるだろう。それに『ブースト』系を使ってしまえば動けなくなる。そうすれば今以上に小町と映姫に迷惑をかける事になるのも明確だ。
「……核があれば少しはマシになる?」
「核?」
「あたいの鎌に響の力を纏わせればさっきの白い鎌より頑丈になるかって事さ」
確かにそうすれば強度は上がる。普通のコンクリートと鉄筋コンクリートみたいな違いだ。
「でも、もし壊れちゃったら……」
「気にするほどの物じゃないよ。ただの飾りだし。この鎌には何の能力もないからね」
笑顔で手に持っていた鎌を差し出す小町。
「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて」
申し訳なさが心を貫くが俺はしっかり、鎌を受け取った。その刹那――。
「……え?」
何の力もない鎌が急に邪悪な力を放出し始めたのだ。
「それじゃあたいは映姫様の方に行くよ」
小町はそれに気づかず、離れた。
(何だ……これは?)
魔眼もこの力を察知している。禍々しい負のオーラ。まるで、ゲームのラスボスが使うような魔剣。呪われた武器のようだった。神力を纏わせると共鳴するように力が増幅する。
「ガゥル!」
俺はそれから怯えるように目を背け、こちらに向かって来る妖怪たちを視界に捉えた