東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第74話 辻斬り

 守矢神社の依頼を受けた次の日、俺は代金を貰った後に次の依頼場所に向かっていた。

(に、しても……昨日は疲れた)

『まぁ、そうでしょうね?』

 頭の中で吸血鬼が呆れたように言った。

(う、うるさいなー)

『だって、貴方がサボらなかったらあんな事にはならなかったでしょ?』

「うっ……」

 昨日、俺はトールと魂を交換し、早苗たちへの説明を任せた。そのせいでトールが俺の能力名をばらしそうになったのだ。いや、一文字だけ言ってしまったが。

(まぁ、あれだけならばれないだろ)

『……そうね』

 そこまで言って吸血鬼との通信が切れる。

「はぁ……」

 また、溜息を吐いてしまった。それからすぐにスキホを開いて依頼の内容を確認する。

「挨拶、か」

 内容は『挨拶しに来い』との事。まぁ、人里で話を聞くに結構、有名な場所らしい。スキホで幻想郷の地図を出し、それとにらめっこしながら俺は飛行を続けた。

 

 

 

 

 

 

「さむっ……」

 どうやら、依頼場所は冥界。『白玉楼』と呼ばれる場所らしい。長い長い階段を上りきった俺は大きな門の前で寒さに震えていた。

(早く入って温かい物でも貰おっかな……)

 挨拶に来た方が要求するのもどうかと思うが、この際気にしていられない。早速、大きな門を叩いた。

「ごめんくださ~い!」

 元々、静かな場所だったので俺の声が木霊する。

「……あれ?」

 しかし、誰も出て来ない。もう一度、叩くが応答はなかった。

「おでかけ中か?」

 ならば、依頼は後日に回そう。そう考え、俺は踵を返す。その時――。

 

 

 

「ッ!?」

 

 

 

 左肩に尋常じゃないほどの衝撃が襲い、そのまま俺の体は大きな門に叩き付けられた。

「ぐっ……」

 それからすぐに左肩に激痛が走る。見ると、肩から先がなかった。痛みには慣れていたため、叫びはしなかったが顔が歪む。

「な、何が……」

 とにかく、左腕を回収しなければならない。前を見ると血だまりの中に俺の左腕がポツンと落ちていた。左肩を押さえながら、立ち上がって左腕を取りに行く。

「させません」

「え?」

 もう少しで左腕に届くと言う所で女の子の声が耳元で聞こえた。そして、キラリと何かが光る。

(まずっ……)

 本能的にそう感じ取った俺は無理矢理、体を捻った。先ほどまで俺の体があった場所を刃が高速で通る。バランスを崩しながらも左腕を掴んでその場を離れた。

「はぁ……はぁ……」

 わかった事が一つ。俺は襲われたのだ。それを証明するように緑のワンピースを着た銀髪の少女が刀を持ってこちらを睨んでいた。

「いきなり、何すんだよ!」

 立ち上がってその少女に向かって叫ぶ。

「あなたから変な力を感じました。そんな人を通すわけにはいきません!」

 少女は更にもう一本、刀を鞘から抜いて俺の方を向けて振りかざす。その隙に左腕を傷口に当て、霊力を流しくっつけた。

「白玉楼の庭師。魂魄 妖夢。あなたを斬ります」

 そう言って、2本の刀を構える妖夢。これはあれだ。

「逃げる事は出来ない。戦闘イベントだな……」

 呟いた矢先、妖夢が一気に距離を詰め、2本同時に俺の頭を狙って振り降ろした。

「神鎌『雷神白鎌創』!」

 小ぶりの白い鎌を出現させ、2本の刀を柄で受け止める。

「くっ……」

 妖夢の一撃が予想以上に重く、柄を支える両手が痺れた。一瞬、顔を歪ませる妖夢だったがすぐに離れ、姿勢を低くし2本の刀を鞘に収める。

「人符『現世斬』!」

 そしてスペルを唱えた瞬間、妖夢は俺の懐に潜り込んだ。『ミドルフィンガーリング』のおかげで感覚は鋭くなった俺は一瞬にして状況を把握し、鎌を離した。痺れる両手を制服のポケットに突っ込む。取り出した物は――博麗のお札だ。

「霊盾『五芒星結界』!」

 俺の手から離れた鎌が消えると同時に目の前に星型の結界が出現。

「無駄です!」

 しかし、妖夢は結界を気にせず2本の刀を横に一閃。『居合』だ。妖夢の刀と俺の結界がぶつかった。その時、金属同士がぶつかり合うような高音が響き渡る。だが、妖夢の刀は結界に邪魔され、その場で制止。いや、まだ振り抜いていないから安心出来ない。

(まずい……)

 結界に皹が入ったのに気付いた俺は後ろに下がろうと足を動かした。

「え?」

 背中が何かにぶつかる。後ろを見ると大きな門がそこに佇んでいた。どうやら、知らず知らず、俺は追い詰められていたらしい。

「はああああああああっ!!」

 前で妖夢の絶叫が聞こえた矢先、結界が砕けた。その衝撃波が俺と門を襲う。

「がぁっ!?」

 衝撃で地面が抉れ、その破片が俺の腹や腕、足に衝突し激痛が走る。

(こ、このままじゃ……)

 焦ったが、急に後ろにあった支えがなくなり後方に吹き飛ばされた。門が衝撃波に耐えられず、破壊されてしまったようだ。地面をゴロゴロと転がり、なんとか妖夢との距離を離そうとする。

「逃がしません!」

 それに気付いた妖夢はまたもや、高速で距離を縮めて来た。

(せめて、制限さえなければっ……)

 前にあった宴会で俺の能力に制限がかけられた。合成出来る物はまだいいが、『五芒星結界』は著しく力が落ちた。この結界だけは霊力100%じゃないと作り出す事は出来ないのだ。そのせいで性能も落ちたし、一度に一個しか作れなくなった。

「人鬼『未来永劫斬』!」

 今度こそと妖夢が居合いの構えを取る。

「……霊盾『五芒星結界』!」

 ある事を思い付いた俺はもう一度、結界を貼った。

「それはもう通用しませんよ!」

 そう言い放った妖夢は結界とその後ろにいる俺ごと斬る勢いで刀を横に一閃する。

「そこっ!」

 叫んだ俺は姿勢を低くする。これを待っていたのだ。普通の人ならば、技を攻略されてしまったらその技を諦めるか強化させるはず。しかし、俺は違う。あえて、その技を出して普通、やらないような事をして相手を困惑させる。

「なっ!?」

 妖夢は結界と俺を斬るつもりで力を制御している。だが、そこにイレギュラーは発生すればどうだ。妖夢の技は勢い余って姿勢を低くした俺の上を通り過ぎて行った。そのまま、壁に激突する。

「ふぅ……」

 俺は自ら『五芒星結界』を消したのだ。結界を破壊するための力が余った妖夢は姿勢を低くした俺に刃を当てられず、このような結果になった。今の内にPSPとヘッドフォンをスキホから取り出しておく。さすがに指輪では妖夢には勝てない。

「再生っと」

 PSPを操作して曲を流そうとする。だが、それはかなわなかった。

「させない!」

 妖夢がいくつもの斬撃を飛ばして来たからだ。このままでは俺は斬撃に切り刻まれてしまう。

(まだ、完成してないけど……やるしかないか)

 コスプレする事を諦めた俺はPSPから指を離し、左目に集中する。

「魔法『探知魔眼』!」

 スペルカードを宣言し、魔眼を発動した。すぐに斬撃の軌道が読めるようになる。しかし、斬撃が多すぎて回避不可能。逃げる隙間さえないのだ。でも、俺は慌てずに両手を前に翳す。

 前の宴会から制限をかけられた俺はどうにかしてエネルギーを消費せずに攻撃出来る方法を探していた。

「集中しろ……」

 そして、見つけた。しかし、その技は技術が必要でまだ一度も成功していない。つまり、ぶっつけ本番。しかも、失敗すればスライスされると言うプレッシャーの中でだ。

(左目の魔力強化。両手に妖気を纏わせ、構える)

 頭の中で動作を復唱しながら、準備を続ける。準備はほんの数秒で終わった。後は行動あるのみ。まず、最初の斬撃が俺を襲う。その斬撃に右の掌を翳した。

「はっ――」

 斬撃と右手が触れた瞬間、『パンッ』と斬撃が吹き飛んだ。次々と迫り来る斬撃を両手で吹き飛ばしていく。

「う、嘘……」

 妖夢は唖然とその光景を見ていた。その間にも俺は斬撃を吹き飛ばしながら妖夢の方に近づく。

「く、くそっ!」

 それに気付いた妖夢は再び、斬撃を飛ばして来た。

「はぁ……はぁ……」

 息が荒くなる。この技は全神経を両手に集中しなければいけないのだ。精神的にきつい。

(それでも……)

 ここで諦めるわけにはいかない。諦めたらその先にあるのは死だ。

「う、うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 気合を入れる為に絶叫し、両腕を動かす。

「ぐっ……このっ!」

 やっと、妖夢の目の前に辿り着く。妖夢は焦りからか出鱈目に刀を振り降ろして来た。

「――」

 魔眼の能力により、それを察知した俺は刃を両手で弾く。妖夢の目が驚愕で大きく開かれる。そりゃそうだろう。こちらは素手なのに意図も簡単に弾かれてしまったのだから。

「拳術『ショットガンフォース』」

 少し、遅れたがスペルを唱え、右手をギュッと握って拳を作る。その拳を妖夢の鳩尾にトン、と軽く当てた。

「え……ッ!?」

 妖夢は最初、目を点にして困惑するが、その次の瞬間には思い切り後ろに吹き飛ばされ、何本もの木をへし折ったのち大きな枯れ木に衝突して止まる。そのまま、ぐったりとしてしまった。どうやら、気絶したらしい。

「……ふぅ、やっぱり駄目か」

 一見、俺の完全勝利に見える。しかし、それは違う。

「いつっ……」

 確かに斬撃を直撃する事はなかった。でも、掠っていたのだ。その証拠に両腕はズタズタに引き裂かれ、両手はもう使い物にならないほど切り刻まれていた。後ろを見ると左手の親指が転がっている。魔眼を解除し、すぐに霊力を流して再生。その間に妖夢を助けに俺は歩き始めていた。

「あらあら~? 妖夢、負けちゃったの?」

「っ!?」

 妖夢の前に来た時、後ろから声が聞こえた。俺は即座に振り返って構える。

「大丈夫よ。貴方とは戦うつもりはないわ」

 縁側でこちらを見ながら笑っている青い着物を着た女性がそう言った。

(今……俺の事、『貴方』って?)

 正直言ってあり得ない。自分で言っていて悲しくなるが絶対と言っていいほど俺は女と間違えられる。しかし、この女は俺を男と認識しているのだ。

「……そうかい」

 とりあえず、構えを解いた俺は妖夢をおんぶしてその女の元に歩み寄った。

 


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