東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第3章 ~魂喰~
第72話 大量の依頼状


 季節は冬。外の世界も幻想郷もすっかり雪景色となった。大学の推薦をちゃっかり、手に入れた俺は仕事を淡々と熟す毎日を過ごしている。だが、学校には毎日通っていた。

「響~。ここわかんない~」

「どれ?」

 理由は簡単。悟の受験勉強の手伝いだ。図書館は静かで勉強に集中しやすい。更に俺の学校の図書館は意外に本のジャンルが豊富で小難しい本だけではなく気軽に読めるライトノベルも大量に置いてあるのだ。これで俺が暇を持て余す事もない。暖房が効いており、ぬくぬくだから居心地がいい。それだけではない。

「お兄ちゃん! 今度はこっち、お願い!」

「望の次は私ね!」

 生徒以外でも入れるのだ。望も雅も今年、受験する。一緒に勉強した方が効率もいい。俺は3人の先生をしている状況だ。

「はいはい……」

 読んでいたライトノベルを閉じて、悟のノートを覗き込む。教科は数学だ。

「ああ、これは……この公式を当てはめて因数分解すればいいよ」

「インスウブンカイ?」

「おい、高校3年生」

「「インスウブンカイ?」」

「お前らもか!?」

 図書館に来てわかった事。こいつらはバカだ。

 

 

 

 

 

 

 仕事の方は最近、少なくなって来ている。1日、3件ほどだ。このままでは貯金が出来ない。その為、外の世界でも仕事を始めた。コンビニの店員だ。望と雅が寝た後にこっそり抜け出して仕事をしている。受験が終わったので精神的にも肉体的にも余裕があるのだ。それにそこの女店長が何故か俺の事を気に入り、優遇してくれるのでバイトも続けていられる。

「響ちゃん! 悪いんだけど次の日曜日、昼間出てくれない?」

「あ~……無理っす」

 丁度、幻想郷での仕事がある。

「うぅ~、そうだよね~。なら、柊! あんた、出なさい!」

「はぁ!? 店長、いきなり命令形になってるぜ!?」

 因みに柊は俺がバイトを始めた次の日に入って来た新人だ。

「いいの! 先輩が出られないなら後輩が出るしかないじゃない!」

「1日だけじゃん! 音無! お前からも言ってくれ!」

「その前にお前は俺より3つも下だ」

「そうだけど!」

 つまり、柊は望と同じ年だ。

「ほ~ら! 年上の言う事を聞きなさい!」

「今度の日曜日だけはマジで無理なんだ! 約束が……あいつの鉄拳が!?」

「……」

 柊は頭を抱えて叫んでいる。しかし、この男から変な力を感じる。前、通学路ですれ違ったあの男なのだ。

(望と同じ学校なんだよな……)

 望に聞こうにもバイトの事は秘密にしているので聞けない。その時、お客さんが入って来た音がした。

「いらっしゃいませ~」

 すぐに笑顔で入り口の方を見ながら挨拶。

「あれ? 望のお兄さん?」

 そこにいたのは築嶋さんだった。

「げっ!?」

 しかし、変な声を上げたのは俺ではなく柊だ。

「お、おい? どうしてお前がここに?」

「良いではないか。私がコンビニを利用したって」

「そ、そうだけど……ってここ、お前の家より遥かに遠いだろうが!?」

 どうやら、この二人は知り合いらしい。

「それはお前にも言える事だ」

 築嶋さんの口調がいつもと違う。いや、こっちの方が素なのだろう。

「柊にも?」

 意味が分からず、本人に向かって聞いてみた。

「あ、ああ……俺と望の家は隣同士なんだよ」

「隣?」

「私はりゅうきと幼馴染なんだ」

 確か柊の下の名前は『龍騎』。つまり、こいつの事だ。

「へ~。そうだったのか?」

「あ、ああ……それで何しに?」

「普通に買い物だ」

 そう言うと築嶋さんは奥の方に進んで行った。

「……」

 それにしても、築嶋さんからも柊と同じ力を持っているようだ。試しに魔眼で確かめたが、勘違いではない。だが、二人には違いがあった。柊の方は体の内側から漏れている。まるで、まだコントロール出来ていないような力。築嶋さんはきちんと体の周りに纏わせ、自分の身を守るように力をコントロールしている。つまり、自分自身の力を自覚しているのだ。

(じゃあ、柊は自分の力に気付いていないってか?)

 本人に聞きたくても知らないのでは意味がない。一つ、溜息を吐いて俺は裏に戻った。因みに日曜日の仕事の数は2件。本当に少なくなってしまった。少し、寂しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 前言撤回。俺のスキホに10件を超える依頼が来た。だが、それは後に回せるような内容だ。きっと、今日やるべき仕事がないのでこうやって、俺が選べるようにしたのだろう。

「えっと……じゃあ、これで」

 一番、気楽な依頼を選択。

「望、雅。行って来る」

「「いってらっしゃ~い!」」

 家を出る前に2人に声をかえて俺は仕事に出かけた。今日の依頼は守矢神社だ。

 

 

 

 

 

 

「早苗~」

 いつも通り、トイレから幻想郷にやって来た俺はスキマを使って守矢神社にスキップした。ここも例外なく、雪がつもっている。

「はいは~い! いらっしゃいませ~」

 母屋から出て来た早苗はニコニコしており、嬉しそうだった。

「何か嬉しい事あったの?」

「何言ってるんですか? 友達が家に遊びに来たら嬉しいじゃないですか~」

「いや、今日は依頼で……」

「そんな堅苦しい事はいいんですよ! どうぞどうぞ!」

 俺の背中を押す早苗。

「お、おい?」

「さぁさぁさぁ~!」

 聞いちゃいない。そのまま俺は母屋に入った。

「お、おじゃましま~す」

 居間に案内された俺はおどおどしく挨拶する。

「お? 来たね」

「え?」

 てっきり、早苗しかいないと思っていたのでびっくりしてしまった。

「いや~、この前の宴会はすごかったよ~!」

 卓袱台の近くに座っていたのはしめ縄を背負った女性と2つの小さな目が付いた帽子を被っている幼女。

「え、えっと……」

「あ、紹介しますね。こちらが神奈子様」

 女性の方に手を向けながら早苗が言う。

「よろしく」

「こちらは諏訪子様」

 今度は幼女を紹介した。

「よろしくね~!」

「あ、ああ……それにしても、どうして様?」

「はい、このお二方は神様なんですよ」

「なるほど、だからか」

 トールと同じような力を感じると思っていたのだ。納得した俺は神奈子の正面。諏訪子から見ると左側に座った。

「やっぱり、わかるかい?」

「そりゃ、毎日触れているからね」

「今日の依頼はそれについてだよ。普通の人間なのに神力を持っているなんてあり得ないから話を聞きたかったんだよね~」

 諏訪子が煎餅をバリバリと食べながら説明してくれる。

「私も気になっていたんです。狂気異変から力が混在していたのは知っていたですが、急に力を扱えるようになっていたので」

 お盆を持った早苗は諏訪子の正面に座り、俺に湯呑をくれた。

「さんきゅ。煎餅、貰うぞ」

「で? 教えてくれるのかい?」

「面倒」

 バリッと煎餅を噛み砕いて呟く。トールの話をするにはまず、魂の事から説明しなくてはいけない。

「これは依頼だよ? 万屋さん」

 諏訪子がニヤリと笑って言った。

「企業秘密です」

「あのスキマ妖怪に企業のへったくれもないと思うけど?」

 逃げた俺を追い込む神奈子。

『説明してやれ』

「……はぁ~」

 頭の中でトールの声が響いて思わず、溜息を吐いてしまった。一応、毎日吸血鬼たちとは会話している。それに最近になって向こうから気軽に話しかけてくれるようになって来たのだ。だが、今回ばかりは面倒だ。

『仕方ない奴じゃの……どれ、魂を交換せい』

「は?」

 急に目を見開いた俺を見て首を傾げる3人。

「ちょ、ちょっと待て。交換できるのか?」

『多分な。最初の内は我らとお主との結束はあまり強くなかった。しかし、最近になって会話もするようになり、一気に強まったらしくての』

「どうしたんですか? 響ちゃん?」

「ちょっと黙って」

「は、はい……」

 シュンとなってしまう早苗。それを神奈子と諏訪子が慰めていた。仲がいい。

「本当に出来るのか? そんな事」

『ああ、試してみる価値はあるじゃろう。スペルカードを用意せい』

「おう」

 ポケットに入っていたスキホを取り出して、番号を入力。すぐに3枚のスぺカと黒ペンが飛び出て来た。

「何を?」

 不意に神奈子が質問して来る。

「神力を持った奴と魂交換する。詳しくはそいつから聞け」

 スぺカを卓袱台に置いて、黒ペンのキャップを外す。

『我らの事を考えながらスペル名を記入。さすれば、出来るはずじゃ』

「了解」

 トールの指示に従って、ペンでスペル名をスぺカに書き殴った。

「魂交換?」

「ああ、俺の魂には俺の他に3つの魂が混在していて共存してるんだ。その中に神がいるんだよ……これでよし。行くぞ? トール」

『うむ』

「ちょっ!? トールってまさか!?」

 落ち込んでいた早苗が急にこちらを向いて驚愕していた。

「後はまかせた。魂神『トール』!」

 スペルを宣言。すると、意識が魂に吸引されるような感覚に陥り、目の前が真っ暗になった。

 


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