東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第68話 乱入

「はぁ……はぁ……」

「お~! 生きてる」

「殺す気か!?」

 両腕をクロスして何とか、耐えた俺だったが被弾した事には変わりない。それよりも、両腕に大やけどを負ってしまった。制服は紫の能力のおかげですぐに再生するので心配しなくていいが霊力の消費が激しい。

「いや~、お前なら何とか出来そうじゃん?」

「無理だよ。さすがに……」

 あそこで神力を駆使して結界を貼っても突き破られる。逆に結界の破片が俺の体を襲う可能性があったのだ。霊力を流し、火傷を治す。

「これでお互い、1回ずつ被弾したな」

「そうだな。まぁ、まだどっちが勝つかわからないってところだ」

 そう言って、ほぼ同時にスペルを取り出す。

「恋符『ノンディレクショナルレーザー』!」

 魔理沙の方がスペルを唱えるのが速く、細いレーザーを何本も回転させながら撃って来た。

「妖撃『妖怪の咆哮』!」

 急いで宣言し、両手を筒のように丸めて右手を口にくっつけて、その前に左手を添えるように口元に寄せる。指輪を使って、両手に妖気を纏わせ威力を高めた。そして、悲鳴としか言えない絶叫を発する。

「なっ!?」

 その叫びに吃驚した魔理沙は箒から両手を離し、耳を覆った。俺の叫びに乗って妖気が勢いよく撃ち出され、レーザーを吹き飛ばす。

「雷雨『ライトニングシャワー』!」

 向こうに隙が出来た今がチャンスだ。スペルを発動し、小さな雷弾をこれでもかと出現させて魔理沙に向かって放出する。

「ちょっ!? 鬼畜だろ!!」

 まだ、フラフラしていた魔理沙だったが箒を器用に操り、全ての雷弾を躱した。

「雷撃『サンダードリル』!」

 それでもこちらは攻撃を続ける。雷を纏った大きなドリルが魔理沙に突進した。

「魔砲『ファイナルスパーク』!」

 八卦炉を取り出し、『マスタースパーク』よりも強力なレーザーがドリルを粉々に砕く。

「続けて! 恋符『マスタースパーク――』」

 レーザーの放出をやめた魔理沙は俺に向かって八卦炉を構える。もう、唱えたはずの『マスタースパーク』。つまり、同じスペルをもう一度使うのだ。

「それはルール違反じゃ!?」

「『――のような懐中電灯』!」

 しかし、魔理沙はレーザーではなくただの懐中電灯を使って俺の目を潰しに来た。

「くっ!?」

 その罠にまんまとハマった俺は左腕で目を庇ってしまう。

「彗星『ブレイジングスター』!」

「ぐふっ……」

 八卦炉を箒の後方に撃ちながら魔理沙が俺にぶつかって来た。そのまま俺は境内に叩き付けられる。

「い、今のってありかよ……」

 体のあちこちが痛い。特に腹と背中。

「これでとどめだ!」

 こちらの態勢を立て直させる前に魔理沙が勝負を決めに来た。

(仕方ない……使ってみるか!)

 今、使おうとしている物は未完成だ。失敗すればそのまま被弾する。成功すればまだ、この戦いが続く。

「恋心『ダブルスパーク』!」「光撃『眩い光』!」

 魔理沙が2本のレーザーを撃ち出した瞬間に俺の体から懐中電灯を遥かに凌駕する閃光が放たれた。せめて、これを使っているのを見られない為の目くらまし。

「はぁ……はぁ……」

「な、何をしたんだ?」

 目を庇っていた魔理沙が俺の両端にいつの間にか生まれていたクレーターを見て、驚愕していた。つまり、俺はあの2本のレーザーを弾いたのだ。縁側の方でも騒がしくなっている。

「ちょ、ちょっとな……」

 そろそろ限界だ。そりゃそうだ。前よりは力を表に出せるようになったとは言え、まだ弾幕ごっこを最後までやり切れるほどではない。

「まぁ、被弾数はお前が2回。こっちは1回だ。こっちが有利なのは変わらない」

「ほざいてろ」

 絶対に酒は飲みたくない。がくがくする足に鞭を打って、立ち上がりスペルを構える。

「行くぞ!」

「来れるものなら来てみな!」

 通常弾である星弾をばら撒いた魔理沙。俺は指輪で少なくなった霊力を水増しさせ、飛び上がった。

「神箱『ゴッドキューブ』!」

 そして、立方体の結界を貼り全弾、防ぐ。

「うわっ!? 卑怯じゃないか!」

「お前に言われたくねーよ!」

 魔理沙までもう少しと言うところで『神箱』が時間切れになる。だが、これで十分だ。

「合成『混合弾幕』!!」

 指輪が今までにないほど輝く。次の瞬間には俺が撃った大量の霊弾、魔弾、妖弾、神弾がお互いにぶつかり、引き寄せ合い、時には合体して魔理沙に突っ込む。

「のわっ!?」

 さすがの魔理沙でもこの弾幕は躱せず、被弾した。しかし、すぐに全ての弾が消えてしまう。俺に限界が訪れたのだ。

「こ、これで……互角だ」

「まぁな。でも、お前はフラフラ。それに比べて私はまだまだ行ける。勝負、あったな」

 ニヤニヤ笑う魔理沙。悔しいが、魔理沙の言う通りだ。

 だが、その刹那――魔理沙は何者かに吹き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

「頑張ってるわね」

 私の隣で紫がお酒を飲みながら呟く。丁度、響が『神箱』で魔理沙に近づいている所だった。

「そうね……それにしても本当に力、少ないわ」

「何言ってるの? あれでも増えた方でしょ?」

「まぁ……そうなんだけど、何か茂みから出て来た辺りからすでに他の力より霊力は少なかったけど?」

 響は霊力だけ少ないのだろうか。

「いえ、そんな事はないはずよ?」

「……ああ、なるほど。使ったのね」

 響が魔理沙に向かって大量の弾幕を貼った時にわかった。

「何を使ったの?」

「昨日ね。渡したのよ」

「渡した?」

「ええ、それは――」

 言おうとした時、境内で爆発音が轟く。また、境内に穴が開いた。

「ま、魔理沙!?」

 しかし、響の叫び声でただ事ではないとわかり、上を見た。

「あらあら? お酒でも飲んだのかしら?」

「……悠長な事、言ってる場合じゃないわよ」

 そこで私はコップを傾ける。

「それにしては落ち着いてるじゃない?」

「響には奥の手があるからね」

 そう言って私は魔理沙を吹き飛ばした犯人――フランをちらっと見た。

 

 

 

 

 

 

 

「ま、魔理沙!?」

「魔理沙ばっかりずるい~! ヒック……私もお兄様と遊ぶの~!!」

 しゃっくりをしながらフランが文句を言う。

「お、お前……酒、飲んだか?」

「飲んだけど酔ってないよ~! んふふふふ~!」

「顔を紅くして何を言うかこの泥酔吸血鬼が!」

 どうやら、フランはお酒に弱いらしい。ベロベロだ。

「よ~し! お兄様! 一緒に遊ぼうよ!」

「お前とは平和的に遊びたいの!」

 魔理沙の方を見ると地面に転がって目を回しているが、外傷はないようだ。何とか、間に合ったらしい。

「ん~? お兄様、魔理沙を助けたの?」

「まぁ、あいつは人間だからさすがにこの高さから落ちたら怪我は免れないだろうしね」

「じゃあ、まだ戦えるんだね? 助けられる余裕はあるんだもん!」

 ニコニコしてフランは言う。

「……ああ! もう、知らないからな!」

「全力でかかって来てね!」

(まず……フランの気を紛らわせないと)

 この技は準備に時間がかかりすぎる。何とかして時間稼ぎをしなければいけない。

「禁忌『レーヴァテイン』!」

 目を輝かせて炎の剣を左手に握ってこちらに飛んで来るフラン。

「ゴメン、フラン」

「何で謝るの?」

 首を傾げるがフランの勢いは変わらない。いや、どんどんスピードが上っている。

「今のお前を止めるにはお前を傷つけるしかないんだ……」

「え?」

 至近距離になってやっと、フランがキョトンとした。

「神鎌『雷神白鎌創』」

 スペルを唱え、右手に現れた小ぶりの真っ白な鎌を構える。

「フラン……覚悟はいいか?」

「それはもちろんだよ!!」

 フランが剣を振りかぶった。それに合わせて鎌を下から突き上げる。剣と鎌がぶつかり合い、甲高い音を轟かせた。

「うわっ! お兄様、本当に強くなったね!」

「妹になめられるのは何か、イラッてするな」

 すぐにフランは距離を取って、炎の剣を伸ばす。急いで鎌を構え直し、柄で剣を弾く。

「どこで鎌の使い方を?」

「わからん!」

 霊力を爆発させ、一気にフランの懐に潜り込む。目を見開いたフランだったが、冷静に剣を突き出して来た。それを鎌の刃で受け止める。

「えいっ!」

「ぐ……」

 しかし、剣を力いっぱい押して俺の鎌を弾き飛ばすフラン。そのまま、俺の胸を切り裂いた。懐に入れておいた1枚のスペルが宙を舞う。

(やべっ……)

 今、落ちたスペルカードはもしかしたら今回の作戦で使う物かもしれない。

「くそっ!」

 目の前が霞んで来る。霊力を無理やり製造し、胸の傷を治す。その中で急降下し、スペルをキャッチした。

「……え?」

 俺はそのスペルを見て目が点になった。

 


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