東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第67話 宴会

「響! まだ出来ないのか!?」

 藍の叫び声が台所に木霊する。

「もう少し待って! ほら、出来た! 橙!」

「はい!」

 宴会当日。俺は博麗神社の台所で汗を流していた。

「ルーミア! 食べるなよ!」

「っ!? ど、どうしてわかったの!?」

 昨日、覚えたての魔眼が役に立った。ここからなら、博麗神社の中にいる人を探知できる。ほとんどが居間で大騒ぎしているが妖精やルーミアは何故かここに集まって来ていた。窮屈だ。

「チルノ! これに触って!」

「ん? いいよ!」

 笑顔でチルノが俺の差し出した熱々の豆腐に触る。

「これでよし! ありがと! 冷水に浸す時間が勿体なくてな!」

「弟様。交代です」

 そこで突然、咲夜が現れた。

「へ?」

「お嬢様からの命令ですので」

 そう言って野菜を一瞬にして切ってしまう。確かに咲夜の方がこう言った仕事は早いだろう。

「……じゃあ、まかせたわ」

「ええ」

 台所は咲夜に任せ、俺は妖精たちを連れて台所を後にした。

「……てか何で付いて来るの!?」

 我慢の限界に達し、振り返って叫んだ。

≪何となく~≫

「さいですか……」

 諦めました。

「おいーす」

「おお! お疲れ、美味しく頂いてるぜ!」

 居間に入ると魔理沙がいたのでその隣に座った。

「交代か?」

「ああ、咲夜とな」

 そう言いつつ、使われていない箸を持ち、から揚げを食べる。

「あ~、うめ~」

 自分で作った物だが、良い出来栄えだ。

「お前、料理得意なんだな。今度、教えてくれよ」

 俺の後に続いて、から揚げを口に放り込んだ魔理沙が頼んで来た。

「依頼としてならな。もちろん、友達だから安くしておくぜ?」

「なら、いいや」

「ちっ……」

 能力も使わず、ただ教えればいい簡単な依頼が入ると思ったが空振りに終わる。

「そんな事より、ほれ」

「さんきゅ」

 魔理沙が笑顔で空のコップを渡して来た。そして、俺が受け取ったコップに酒を注ぐ。

「ああ!? 俺、酒飲めないぞ!?」

「え? そうなのか?」

 驚いたようで魔理沙は目をぱちくりさせる。

「~♪」

 その後ろで黒い帽子に黄色のシャツ、緑色のスカートを着こんだ少女がニコニコしながら魔理沙のコップを別の物に変えた。

「この幻想郷で酒が飲めないのは駄目だぞ? 普通、こうやって飲むもんだ」

「あ……」

 少女が入れ替えたコップを乱暴に掴んで飲み干す魔理沙。

「ぐふっ……」

 そして、頭をテーブルに打ち付ける。相当、強い酒だったようだ。いつの間にかあのイタズラ少女は消えていた。

「お、おい?」

 魔理沙の肩を叩いて様子を伺う。

「……お前は」

「え?」

「お前は私の酒が飲めないのかああああああああっ!!」

 勢いよく顔を上げた魔理沙は叫んだ。

「お前の酒じゃなくても飲めないの!」

「……よし!」

 急に立ち上がる魔理沙。すぐに俺の腕を掴んだ。

「勝負だ!」

「……は?」

 腕を引っ張り、俺を立たせた魔理沙がそう宣言した。

「私が勝ったら酒、飲めよ?」

「俺が勝ったら?」

「私が酒を飲む」

「お前にデメリットないじゃないか!?」

 そう、叫ぶも魔理沙は気にしていないようで箒を持って縁側まで俺を引き摺る。

「霊夢~! 少し、荒れるかも!」

 魔理沙が霊夢に言った。

「後で直しなさいよ」

「お前も止めろっ!?」

 平然とお酒を飲んでいた霊夢にそう叫んだ所でとうとう、外に出てしまう。靴は縁側に置いてあったので何とか、靴下のまま地面を踏む事は免れた。

「……今、思ったけどお前って押しに弱いよな?」

「う、うるせー!」

 その場の空気を読んでいるだけだ。宴会に出席している人のほとんどが俺と魔理沙の戦いを見ようと酒を片手に縁側に座っている。断りにくくて仕方ない。

「お兄様! 頑張って!」

 フランの声援が聞こえて来るがただ、溜息しか出て来なかった。

「勝負は墜落した方の負けでどうだ?」

「……俺に変身しろ、と?」

「じゃないと弾幕ごっこ出来ないだろ? 仕方ない3回、被弾した方の負けな」

 この大勢の前でコスプレするのは抵抗がある。いや、はっきり言うと嫌だ。

(まぁ、コスプレしなくても……)

「じゃあ、スタート!」

 箒に跨り、魔理沙が叫んだ。フラフラと上昇して行く。相当、酔っているらしい。

「……」

「おい? どうした? 能力、使わないなら私から行くぞ!」

 俺が動かないのを不審に思ったらしい。魔理沙はそう言って、色とりどりの星をばら撒く。

(そう言えば……昨日、霊夢からあれ、貰ったよな)

 魔眼を発動し、星の流れを視る。このままでは緑の星にぶつかってしまう。それを回避する為に前に走り出した。

「やる気になったか」

 上で魔理沙が呟いているが無視。

「つまり、俺がするべき事は――」

 星の下を走り抜けた俺は茂みの中にダイブする。

「あ!? 逃げるのか!?」

(ちげーよ)

 ちょっと、準備が必要なだけだ。

 

 

 

 

 

 俺が茂みの中に隠れてから20分が過ぎた。

「そこか!」

 茂みが動いた所に星弾を撃つ魔理沙だったが、そこに俺はいない。

「魔理沙!」

 そこで博麗神社の縁側からパチュリーの声が聞こえた。何を言うつもりなのだろうか。

「何だ?」

「彼、魔眼持ってるから茂みの中からでも貴女の事は見えてると思うわよ~!」

 少し、遠いので大きめの声でパチュリーが忠告する。

「ま、魔眼!?」

「そう言うのは普通、教えないだろうが!!」

 魔理沙が目を見開いた時、俺の声が境内に響き渡った。

「後ろ!?」

 魔理沙はいち早く反応し後ろを向き、驚愕する。

 

 

 

 俺が真っ白な小ぶりの鎌を持って魔理沙の首を刈ろうと飛んで来ていたからだ。

 

 

 

「ぬおっ!?」

 魔理沙は咄嗟に箒を操って鎌を躱す。その拍子に帽子が切れてしまう。

「ちっ……」

 空中で態勢を立て直し、魔理沙と対峙する。鎌を維持するのは神力を無駄遣いしてしまうので消した。

「な、何なんだよ!? その鎌はっ!」

「神力で作った鎌だ」

 合成霊力でも飛ぶ事が出来るのを先ほど知り、今こうしている。

「し、神力って……何で人間のお前がそんなものを?」

 酔いもすっかり吹き飛んだ魔理沙は戸惑いながら問いかけて来た。

「秘密だ」

 魂の事はまだ、言うつもりはない。そう言い捨てた俺は新たに作っておいたスペルを宣言する。

「雷刃『ライトニングナイフ』!」

 神力でナイフを俺の周りにいくつも創造し、それに雷を纏わせる。

「行けっ!」

 一気に魔理沙に向けて射出した。

「よっ!」

 しかし、魔理沙は簡単にナイフを躱しスペルカードを取り出した。

「魔符『スターダストレヴァリエ』!」

 発動すると魔理沙の周りから大量の星弾が俺を襲う。だが、俺には探知の魔眼がある。左目で軌道を視て、躱した。

「なかなかやるじゃん」

 最初は驚いていた魔理沙だったが今は弾幕ごっこを楽しんでいるようだ。

「うるせー」

 左目が痛い。魔眼を使いすぎたらしい。今思えば、ルーミアにつまみ食いされてからずっと、魔眼を使いっぱなしだ。まだ、慣れていないから限界が来てしまったようだ。

「お? 左目の色が戻ったな?」

「まぁな。雷輪『ライトニングリング』!」

 スペルを取り出して、宣言。右手首と左手首に雷の輪が装備された。

「え?」

「はい、被弾」

 一瞬にして魔理沙の背後に回り、首筋に弱めに弾を当てた。

「え? え? えええええ!?」

 振り返った魔理沙は目を大きく見開く。

「後、2回」

「お、お前……瞬間移動、出来るのか?」

「ばーか。瞬間移動じゃねーよ」

 その時、両腕と両足の筋肉が破裂して血が飛び散った。

「うおっ!?」

「まぁ、肉体強化だ。で、これがデメリット」

 雅と戦った時はもっと後になって破裂したが、あれから改良し自分のタイミングで破裂させる事が出来るようになった。破裂させない方がいいのだが、それは無理だったのだ。

「だ、大丈夫なのか?」

「おう」

 合成霊力を流して傷を癒した。

「……なら、遠慮なしだな!」

 八卦炉を取り出し、魔理沙がニヤリと笑う。俺と魔理沙の距離は約5メートル。あまりにも近すぎる。

「まずっ――」

「恋符『マスタースパーク』!」

 視界が極太レーザーで遮られた。

「くそっ!」

 両腕を同時に突き出し、2発の雷撃を撃ち出す。だが、レーザーの前では焼け石に水だ。俺はレーザーに飲み込まれた。

 


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