東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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ぜひ、皆さんも該当するBGMを再生しながらお読みください。


第64話 文化祭

 10月中旬、今日は待ちに待った文化祭だ。正午過ぎた辺りで俺と悟は模擬店で焼きそばを買って教室で食べていた。

 もちろん、今日が本番だ。しかし、3年生の発表は午後3時から行われる。更に俺たちのクラスは一番、最後で開演予定時間は6時。その頃には外は暗くなっているはずだ。因みに舞台発表は外で行われる。この学校の体育館は少し狭いのだ。

「いいのか? リハーサル、一回もやってないけど?」

 焼きそばを食べ終えた悟が聞いて来る。

「大丈夫だろ。お前こそ頼むぞ。俺が変身したキャラの紹介、出来るだけ早くスクリーンに映してくれ」

 結局、悟はステージにスクリーンを置き、そこにパソコンの中に作っておいた紹介文を映し出す事にした。だが、俺も悟も何に変身するか分からない為、ギクシャクするかもしれない。

「安心しろって」

 ニヤリと笑う悟。

「俺の東方の知識とお前とのコンビネーションがあればどうって事ねーよ」

 幼馴染だからこそわかる事がある。俺と悟だからこそ理解できる事だ。

「そうだな」

 だから、俺は笑って頷けた。

「……さて、そろそろ準備しないとな」

「ああ、まだ作業は残ってるみたいだし」

 今でも教室ではクラスの皆が作業に明け暮れている。俺と悟は一番、負担がかかるのでこうやってお昼を食べる事が許されているが他の皆は飲まず食わずで頑張ってくれていた。

「痛っ!」

 焼きそばが入っていたパックをゴミ箱に捨てた所でクラスの女子が悲鳴を上げた。どうやら、裁縫の針が指に刺さっていたらしい。

「どうした?」

 涙目になって指をくわえていた桜野に声をかける。

「え、えっと……針が指に」

「貸してみて」

 素早く彼女から針と布を奪い取り、その場に胡坐を掻いてチクチクと縫い始めた。

「す、すごい……」

 俺の手際の良さに桜野さんが舌を巻く。その様子を見ていた他のクラスメイトも感嘆の声を漏らす。

(……よし)

 誰にも見えないように布の下にこの前、パチュリーに教えて貰った小さな魔方陣を糸で描く。悪戯心って奴だ。

「ほい、出来た」

「あ、ありがとう」

「ゆっくりやれば大丈夫。時間もないから失敗しない事だけを考えてね」

「は、はい!」

 元気よく頷いて桜野さんが笑顔になる。

「うん。皆も手伝って欲しかったら言って。裁縫は得意だから」

「裁縫だけって……お前、家事全部出来るじゃん」

 そこで悟がツッコミを入れた。

「そうか?」

「ああ、前に喰わしてもらった料理……今でも忘れられねーぜ」

 と、涎を垂らしながら悟。

「いつのだよ……」

 悟には何度も食べさせた事がある。最近では仕事が忙しくて食べさせていないが。

「じゃあ、文化祭が終わったら喰わせてよ。もちろん、クラス全員に!」

 悟の提案にクラスメイトの目が輝き出す。

「え? いや、材料が……」

 何も用意していない。

≪行って来る!≫

 クラスの皆が一斉に立ち上がって教室を出て行こうとする。

「こらっ! まだ、終わってないだろうでしょうが! 行くなら俺が行くって!」

 幸い、皆から集めた経費は残っている。それで賄えば行けるはずだ。それに買い物をしながらメニューを考えたい。

「そうだな。俺と響で行って来るから皆、作業を「お前も作業しろっ」

 悟が一緒に来ようとしていたので頭を叩きながらツッコミを入れた。

「全く……わかったよ。で? 何をすれば?」

 渋々、頷いてくれた悟。

「家庭科室の予約を入れとけ。先生に頼めば行けるだろ」

「え? どうして家庭科室?」

「バカ。どこで料理すればいいんだよ」

「あ、なるほど……」

 そう頷いて悟は教室を出て行った。

「俺も行くか……」

 そう呟いて鞄の中に入っていたスキホを手に取り、クラス委員長から経費を貰ってから教室を出る。文化祭が終わるまで材料は簡易スキマに保存しておく。簡易スキマはそう言った傷みやすい食材も長時間、新鮮さを保ちながら保存できるのだ。本番まで後、5時間。少し、不安だが何とかなるような気がする。

 

 

 

 

 

 

「……いいか?」

 時刻は5時50分。

 舞台裏では円陣をクラスメイト全員で組む。その真ん中には俺がいた。

「やる事が決まってから1か月が過ぎた。その間、皆は一生懸命になって自分たちに割り当てられた仕事を熟して来た。まぁ、直前になって悟が無理を言ってさっきまで作業する事になったけどね」

 そこで数人が小さく笑った。

「でも、それすらも乗り越えたんだ。きっと、上手く行く。いや、上手くやってみせる。皆の努力を無駄にはしない」

 舞台に立つのは俺だ。成功するか失敗するか、全ては俺にかかっている。

「何言ってんだ。俺もだろ? スクリーン出すキャラを間違えればそこでおじゃんだ」

 後ろから悟の声が聞こえた。

「……そうだな。皆は俺のパフォーマンスを楽しんでくれ。そして、成功したら皆で楽しく打ち上げをしよう!」

≪おー!≫

 俺の掛け声に合わせてクラスメイトが声を上げる。

「じゃあ、行って来る!」

 円陣から抜け出し俺はヘッドフォンを首にかけて、左腕にホルスターを取り付けた。

 

 

 

 

 

 

『最後は3年C組の発表です。お願いします』

「はい!」

 アナウンスに返事をしてステージに立つ。ステージにはスタンドマイクが一本。そこからマイクを引き抜いてポンポンと叩き、マイクテストを行う。

「皆さん! こんばんは! 3年C組の音無 響です!」

 最後と言うだけあってお客さんは大勢いた。少し、緊張して来る。

「え~、俺たちの発表は『手品』です。ここで一つ、お願いがあります。手品と言うだけあってタネも仕掛けももちろん、あります。ですが手品が終わっても一切、詳細は明かしません。皆さんからの質問にも答えられないと思いますのであしからず」

 これは紫に絶対に言えと命令された。こうやって『これにはタネも仕掛けもある』と先入観を植え付けるのだ。そうすれば、俺には異能の力がある事も誰も幻想郷が本当にあるとも思うまい。

「今から披露するのは『早着替え』です。なお、手品をするのは俺一人です。何かしらのアクシデントがあるかもしれませんが最後まで見て行ってください!」

 ここでお客さんから盛大な拍手が起こる。

「手品を披露する前に一つ、質問です。この中で『東方project』を知ってる人はいますか?」

 ちらほらと手が挙がるがやはり、知っている人は少ないらしい。

「これから着替えるのはその東方のキャラの衣装です。俺の幼馴染が東方好きで仕方なく……」

 小さな笑い声が聞こえた。きっと、クラスメイト達だ。

「まぁ、知ってる人は少ないと思ったので後ろのスクリーンにキャラのシルエットと簡単なキャラ紹介を映しますので興味がある方はそちらにも注目してください」

 そこまで説明し舞台袖にいる悟に目配せする。

「……」

 悟は笑顔で一つ、頷いた。準備万端の合図だ。

「東方にはキャラにそれぞれテーマ曲がありまして、例えば……」

 そこで左腕のPSPを操作する。すると、会場に『少女綺想曲 ~ Dream Battle』。つまり、霊夢の曲が流れ出す。そして、すぐにスクリーンに霊夢の姿が映った。

「こちらは東方の主人公である博麗 霊夢と言うキャラです。このような感じでやって行きたいと思います」

 そこで首にかけておいたヘッドフォンを頭に装着。

「俺が変身するキャラは今からランダムで流れるテーマ曲に合わせます。因みに今回のテーマ曲は短くしてありますのでテンポよく着替えて行きます!」

 そこでマイクをスタンドに戻し、ヘッドフォンからピンマイクを伸ばす。こちらも軽くマイクテストを行ってから悟に合図を送った。

「では! 始めます!」

 先ほどまで流れていた曲がストップ。お客さんの方から声がなくなった。

「ラクトガール ~ 少女密室」

 頭に浮かび上がった曲名を呟いた途端、服が輝きパチュリーの服に変わった。客席からどよめきが湧く。スクリーンにパチュリーが写っていて安心した。

「一つ、言い忘れてました。変身するだけじゃ勿体ないので少し、パフォーマンスでもしましょう」

 そう言って空を浮いた。もちろん、紫にも許可を取ってある。やるなら、とことんやる。

「東方の世界にはスペルカードと言う物があります。俗に言う必殺技みたいなものです」

 舞台袖を見ると悟が口をあんぐりと開けていた。そりゃそうだろう。幼馴染が飛んでいるのだから。

「日符『ロイヤルフレア』!」

 悟を無視して正面を向き、スペルを宣言。次の瞬間、頭上に大きな火の弾が現れた。そろそろ曲が終わる。火の弾を真上に打ち上げ、俺もそれに続いた。照明係が慌てて俺の後を追って来る。

「広有射怪鳥事 ~ Till When?」

 そこで曲が終わり、いつかの刀を2本所持している緑のワンピースに変わった。

「はぁっ!!」

すぐに刀を引き抜いて火の弾を4つに叩き斬る。斬られた火の弾は爆発を起こして消滅した。お客さんに見えやすいように下降する。

「吃驚させてすみません。ですが、これは手品なので安心してください。皆さんの安全は守りますので」

 刀を鞘に収めながら言う。

「亡き王女の為のセプテット」

 レミリアの衣装に変わった。すぐに漆黒の翼を大きく広げ、お客さんにアピールする。

「神槍『スピア・ザ・グングニル』!」

 残り時間が少なくなったあたりで紅い槍を出現させた。槍を持ったまま空高く舞い上がる。

「いっけ!」

 いいところで槍を真下に投擲。槍が学校のグラウンドに向かって突進する。俺も急降下し槍を追い抜いた。

「U.N.オーエンは彼女なのか?」

 お客さんが悲鳴を上げている上で俺はフランの衣装を身に纏った。

 


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