そろそろEXも終わりが見えてきましたが、今年も『東方楽曲伝』をよろしくお願いします。
あ、VTuberになりました。
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「ぐっ……」
彼の弓から放たれる強風に吹き飛ばされそうに慌てて態勢を立て直す。バタバタと巫女服がなびき、バランスを取るのが難しい。だが、これはあくまでもスペル発動時の予備動作だ。まだ、弾幕を放ってすらいないのである。
しかし、それ以上に私を驚かせたのはスペルを発動した瞬間、彼の体から漏れる地力が今までと比べものにならないほど膨れ上がったのだ。その大きさと密度は『
(それに……)
『風弓』を発動する前、彼は『そろそろ終わりにする』と言った。きっと、あの弓は彼にとってよほど自信のある武器なのだろう。それは彼から溢れ出る地力が証明していた。
「あら、弓だけ? 矢は忘れてきたのかしら?」
それでも私はここで負けるわけにはいかない。相変わらず、直感がガンガンと警告を鳴らしているが、それを面に出さないように皮肉をぶつけた。
「……」
それに対し、響は何も言わずに白黒の弓を左手に持ち、空いた右手に青白い矢を生成。なるほど、魔力の矢なら矢切れを起こすことなく、無限に攻撃することができる。私にとっては厄介極まりない矢切れ対策だ。
そのまま生成した青白い矢を弓に番え、限界まで引き絞る。もちろん、鏃は私を見ていた。それも響は少しずつ魔力を注入しているのか、矢の輝きがどんどん強くなっていく。だが、私と彼との距離は決して近くはないため、矢が放たれてから躱すことぐらい――。
「――ッ!?」
その輝きが最高点に達した刹那、私は本能に従って首を右へ傾けた。そして、遅れて左頬が仄かに熱を持つ。おそるおそる左手でその部分に触れると生暖かい液体が頬を流れていた。左手を見てそれが血であることにやっと気づく。
(何も、見えなかった……)
これでも弾幕を躱すために動体視力には自信があった。それなのに矢が飛んでくるところはおろか矢を放つのさえ視認できなかったのである。弾幕ごっこで当たりどころが悪ければ血を流すことはあった。だが、『風弓』は明らかに過剰だ。やはり、『
「……」
「ちょっとッ!」
彼もそのことはわかっているはずなのに特に何も言わずに再び青白い矢を生成して弓に番えた。先ほどは直感のおかげで何とか回避できたが、あれを何度も放たれたらいつかは直撃する。もし、このまま戦い続ければ彼の言うとおり、
(でも、これは……)
念のために右手に持ったスペルカードを強く握りしめ、冷や汗を流しながら彼の動向をジッと観察する。そして、彼は弓に番えた矢の先端を突然、真上に向け、放つ。青白い矢がロケットのように上空へと飛んでいく。
「何を……ちょっ!?」
矢が消えていったのを見届け、何も起こらなかったので視線を彼に戻すとすでに矢の装填が終わっており、いつでも放つことが出来る状態だった。慌てて、その場で急上昇する私の真下を矢が通り過ぎていく。どうやら、矢に込める魔力の量を減らしたようで今度は何とか目で捉えることができた。
だが、頭の中で鳴り響く警告は一向に消えない。今度は右へバレルロールの要領で移動し、次の矢を躱す。駄目だ、止まっていたらすぐに標準を合わせられる。移動し続けて何とか隙を突いて攻撃をしなければ『風弓』を止めることはできない。
そんなことを考えながらも響は矢を何度も放ち続け、その全てを紙一重でやり過ごす。弾幕ならまだしも矢は基本的に点の攻撃である。高速で動き回る目標に当てるのは至難の業。それなのに彼は的確に私を狙い続け、あろうことか私の動きを予測し、先回りするように矢を放つ始末。本当にこの人は出鱈目すぎる。
(でも、私だって最後まで)
どう動いても動きを予測されるのなら少しでも私が有利になるように動くしかない。そう判断した私はすぐに急降下した。
矢が私の巫女服を掠り、ビリっと音を立てながら破けた。『風弓』を使われる前からすでにボロボロだったのだ。今更、巫女服が破れようと構わない。
今度は髪の毛の数本が矢の勢いで千切れる。鋭い微かな痛みが頭部を襲うが、無視して下へ。もう少し、あとちょっとで――と、いうところで思わず体が跳ねてしまうほどの悪寒が私の背筋を襲う。後ろを見なくてもわかる、響が私を狙っているのだ。でも、なんとか間に合った。
「来いッ!」
私は地面に落ちていたお祓い棒を操作し、地面に落ちていたそれは糸で引っ張られたように私の手元へ戻ってくる。このためにお祓い棒に限界まで霊力を込めていたのだ。
そのまま振り向きざまにお祓い棒を横薙ぎに振るって矢を弾き飛ば――そうとするが、あまりの威力に私の体ごと吹き飛ばされてしまった。だが、何とかやり過ごすことができた上に武器も拾うことができたのだ。ここから――。
「……嘘、でしょ」
上にいる響へ視線を向ければ私の視界に入ったのは彼ではなく、今まさに私へと降り注ごうとする青白い矢の弾幕だった。おそらく、ロケットのように上空へ放った矢が空中で分離し、雨のように落ちてきたらしい。唯一の救いは勢いがなくなっているようでそこまで速くないことか。
(いや、それでもこの数は……)
人間は雨を躱すことができない。それは数が多すぎるから一粒躱そうと体を動かしてもその先に別の雨粒があるからだ。
この矢の雨も同じ。躱そうとすれば別の矢が私を貫くだろう。ならば、やることは一つ。真っ向からの正面突破のみ。
「はぁッ!」
お祓い棒を振るっていくつかの矢をまとめてへし折る。早苗のアミュレットもフル稼働で矢をどんどん撃ち落としていく。だが、あまりにも数が多く、早苗のアミュレットの片方が矢の直撃を受け、そのまま墜落。もう片方のそれも数秒遅れて落ちていった。
だが、そのおかげで矢の雨の隙間から響の姿を発見する。彼は何故か白黒の弓を構えておらず、ジッと私を見つめていた。もう新しい矢を放つ必要はない、ということだろうか。そんな考えが頭を過ぎった瞬間、今までに積もりに積もった苛立ちがピークを迎える。
「絶対に許さ――」
その言葉は最後まで言うことができなかった。矢の雨をやり過ごし、お祓い棒で響を殴ろうと振り上げた瞬間、ガツンと頭を金槌で殴られたような衝撃を受けたのだ。
なんだ、何をされた?
矢の雨はやり過ごしたと思ったが、見落としがあったのだろうか。
それとも、また私の知らない、覚えていない攻撃を仕掛けてきたのか。
いや、違う。これは私の直感だ。
あまりにも強すぎる警告に強制的に意識をそちらに向けられたのだ。じゃあ、これほどの警告を出すほど今の私は絶体絶命なのかと言われれば首を傾げてしまう。
矢の雨はやり過ごした。
響は弓を降ろしている。
新たな攻撃をされた様子もない。
そう思っていた刹那、いきなり目の前――いや、私を取り囲むように青白い矢が現れた。この矢は、一体どこから現れた? いつの間に射られた? 集中するあまり、動体視力が極限にまで高められているのか、そのおかげで私を取り囲む矢羽から後方へ突風が吹き荒れているのを見つけた。
ああ、そうか。だから、『風弓』。風の弓。あの白黒の弓は射った矢に風を付与する武器なのだろう。そして、風を付与された矢は射られた後も風を操って方向を操作することができる。
きっと、響は最初からこれを狙っていたのだ。矢を放ち、私がそれを躱す。そして、私の認識外へ飛んだ後、風を操って待機させ、私が隙を見せたところで囲む。
それに加え、矢の配置があまりにも厄介だった。先ほどの矢の雨と同様、1本の矢を躱そうとすれば別の矢が私の体を捉えるようになっている。そして、全ての矢が風を付与されているから勢いは落ちるどころか、射られた時よりも増していた。生半可なスペルカードでは矢を捌き切れない。
「……」
どう足掻いても避けられない攻撃。完全な詰み。だから、『風弓』を使われる前に倒せと直感は告げていたのだ。使われた時点で私は負けていた。
悔しい。こんな状態に追い込まれてしまった自分が情けない。なにより、思いきり彼の顔面を殴れなかったことに腹が立つ。
認めよう、この勝負、完全に私の負けだ。ここまでされては敵うわけがない。響の方が一枚どころではなく、何枚も上手だった。
でも、この試合は勝たせてもらう。
これが私の奥義。
「『夢想天生』」
右手に握りしめたスペルカードを発動すると私は文字通り、世界から浮いた。