東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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2020年最後の更新です。
今年は何度も更新延期してしまい、申し訳ございませんでした。
ですが、来年は作者である私がVTuberになる予定ですので
もしかしたら更新も度々延期してしまうかもしれません。
『東方楽曲伝』後日談もそろそろ完結が見えてきましたが、
これからもよろしくお願いします。


EX26

 それはあまりにも突然訪れた。いつものように目を覚まし、隣に彼がいないことに少しだけ違和感を覚えながら居間へと向かう。そこで優雅にお茶を飲んでいたのは師匠ではなく、私をここに連れてきた紫だった。

「あら、おはよう」

「……おはよう」

「ほら、早く着替えて来なさい。今日から本格的に修行が始まるから」

「……え?」

 色々聞きたいことはあったがいつまでも寝間着のままで聞くことではないのですぐに着替えに部屋へと戻った。

「それで修行の内容なのだけど」

 着替えた後、居間で朝ご飯を食べながら紫から修行について説明される。寝起きのせいで碌に話の内容を理解していなかったが、とりあえず言われたことをすればいいらしい。

「それじゃ、霊魔が帰ってきたら早速始めましょう」

「師匠どこか行ってるの?」

「ええ」

 起きてから師匠と***ちゃんの姿が見えず、ずっと気になっていたので質問すると彼女は微笑みながらコトン、と湯飲みをちゃぶ台に置いた。

「やっとあの子の面倒を見てくれる人を見つけたらしいの。だから、今、その人たちのところへ預けに行ってるのよ」

「面倒? 預けに?」

 その言葉を聞いた瞬間、嫌な予感が私の頭を過ぎる。きっと、私が修行をしている間だけだ。だから、夜になれば***ちゃんは帰ってくる。一緒にいられる時間は短くなるけれど晩御飯や寝る時はきっと――。

「きちんとお別れさせられなくてごめんなさいね。急遽、もう一人一緒に修行する子が増えることになったのよ。さすがに霊魔でも修行をしながら3人も子供の面倒を見るのは大変だから今日からあの子は別のところで暮らすの」

 お別れ? 別のところで暮らす?

 それではもう二度と***ちゃんと会えないみたいな言い方ではないか。だって、あの子は師匠の子供だ。師匠と一緒に暮らしていればいつか会えるに決まっている。

「……」

 ああ、駄目だ。わかってしまう。理解してしまう。『博麗の巫女』特有の直感が問答無用に真実を突き付けてくる。

 

 

 

 もう、***ちゃんには会えない。

 

 

 

「あ、帰って来たみたい。ほら、早く食べちゃいなさい」

「……」

「……霊夢?」

 私の様子がおかしいことに気付いたのか、首を傾げる紫。私はそれに対して何でもないと黙って首を横に振った。

 そして、その日から私は『博麗の巫女』になるために修行に明け暮れる毎日を送った。だが、どうしても真剣に修行に取り組むことができず、言われたことを適当にこなすだけ。それがいつしか当たり前になり、私は今の私になった。

 修行はせず、真面目に神社を立て直さず、直感やセンスに頼るだけの天才肌。

 その根底は――おそらく、勝手に***ちゃんから引き剥がした大人に対する抵抗心だったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イライラする。

 

 

 

 

「霊符『博麗幻影』!」

 私を中心にお札がばら撒かれ、響に向かって一斉に動き出す。更に追い打ちをかけるように大きな陰陽玉も作り出し、彼の行く手を阻むように射出する。

「……」

 彼はそれを見ても特に表情を動かさず、冷静にお札をかいくぐり、陰陽玉を白黒の鎌で両断。その瞬間、直感に従ってその場で急降下すると目の前を透明な何かが通り過ぎていった。おそらく、鎌を振るった時に透明な斬撃も一緒に放っていたのだろう。

 

 

 

 

 イライラする。

 

 

 

 

 

「神籤『反則結界』!」

 スペルカードがブレイクすると同時に次のスペルを使用。前のスペルと同じように私を中心にお札をばら撒くがその密度は先ほどに比べ、あまりに薄い。響も難なく回避した。

「おっと」

 だが、回避した直後、響の真後ろでお札がその場で停滞する。まさか動きを止めるとは思わなかったようで振り返った響は思わずと言った様子で声を漏らした。

 その間にも私はどんどんお札を放つ。響も躱すが彼の背後に次から次へとお札が停滞し続け、自然と私と響の距離は縮まっていく。

(ここっ!)

 お札を放つのを止めた私は即座に霊弾へと切り替え、響に向かって連射した。彼もいくつも放たれる霊弾を躱すがさすがに至近距離で放たれるそれらを処理しきれなかったのか鎌を振るって数発の霊弾を弾き飛ばす。だが、それだけだ。全ての霊弾をやり過ごした響は後ろに停滞していたお札がなくなっていることに気付き、すぐに私から距離を取る。これでも駄目なのか。

 

 

 

 

 

 イライラする。

 

 

 

 

 

「大結界『博麗弾幕結界』!」

 衝動に任せて次のスペルカードを使う。このスペルは私が持っている中でもトップクラスで難易度が難しいスペルだ。さすがの響でも簡単に攻略はできないだろう。

「……」

 しかし、私の予想とは裏腹に響は白黒の鎌を変形させ、巨大な盾にする。翼、腕輪、鎌とあの武器は様々な物に変形できるようだ。だが、盾はあくまで前方からの攻撃しか守れない。『大結界』は響の前後から弾幕が襲うスペルだ。

 そして、響は白黒の盾で前から飛んできた弾幕を受け止め――周囲に凄まじい衝撃波を放った。その衝撃で彼の背後の弾幕すらもあらぬ方向へ吹き飛んでいく。

「はぁ!?」

 出鱈目な攻略法に私は思わず叫んでしまう。それからも彼は襲ってくる弾幕を盾で受け止め、その度に周囲の全てを弾き飛ばしていく。

 どんなに私が攻撃しても彼は色々な手を使って攻略してしまう。それが気に喰わなかった。本当にイライラする。

(どうして、通じないの!)

 このイライラを解消するためには響を倒さなくてはならない。だが、どんなに攻撃しても通用しなかった。それのせいで更にイライラが募っていく。

「それはさすがに卑怯でしょ!」

「これが一番被害の少ない変形なんだよ」

 そう言いながらもバン、バンと何度も衝撃波を発生させる響。よく見れば少しずつ白黒の盾が赤熱しているようで衝撃波を放つ度に熱を持つのかもしれない。それにしてもあの盾が最も被害の少ない――おそらく攻撃力の低い変形なのだろうか、にわかには信じられないほどあの衝撃波は凄まじい威力だった。

「本当に出鱈目な人なんだから!」

 おそらくあの盾の弱点は熱を持つこと。何度も攻撃すればあの盾は使えなくなるかもしれない。そうしようと思ったが、その前に私のスペルがブレイクし、響も盾を構えるのを止めた。

 まだだ。まだ霊力も、お札も、スペルカードも、気力も尽きていない。だから、私はまだ戦える。まだ、なのに。

 

 

 

 

 

 

 どうして、こんなに焦っているのだろう。まるで、王手された王将。詰み、そう告げられたような。私の直感が早く決着を付けろと急かし続けていた。

 

 

 

 

 

 そして――。

 

 

 

 

 

「そろそろ終わらせようか」

 ――それを証明するように響は赤熱した盾から白黒の弓を手にした。

 

 

 

 

 

 

「『風弓』」

 

 

 

 

 

 彼の弓はその声に応えるようにそれは唸り声を上げ、暴風が私の巫女服を激しく揺らした。


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