今週から『東方楽曲伝』、更新再開します。
(とは、言ったものの……)
私はアミュレットからお札を連射しながら『万屋』の動きを観察する。今のところ、彼は霊力、魔力、妖力、神力を使用していた。神力で創った刃を髪に纏わせたり、妖力をジェット噴射させて高速移動したりとコントロール面に関してもずば抜けている。
だからこそ、彼の戦い方が未だに見えない。いや、できることが多すぎて戦い方の本質がわからないのだ。
魔理沙なら星の魔法。
咲夜なら時間停止とナイフ。
妖夢なら剣術。
弾幕ごっこを嗜んでいる人のほとんどは自分の長所を活かすスペルカードを作っている。私だって結界を主とした戦法だ。そのため、少し戦えばある程度、戦術を立てられる。
それなのに私以上にスペルカードを使用しているはずの『万屋』のそれは全く予想できない。勝てるビジョンが見えない。
少しでもいいから何か、ヒントを。そう思いながらお札を連射する。
「……様子見をするならそろそろいかせてもらう」
だが、私の思考は読まれていたようで『万屋』は私のお札を躱しながら新たにスペルカードを2枚、取り出す。慌ててその場で急停止し、すぐに反撃できるようにスペルカードを構えた。
「まずは……こいつだ。式神『リーマ』!」
「全く、どうしてこんなことになってるのかなぁ!」
彼がスペルカードを使用すると彼の傍に見た目は私と同じくらいの女の子が現れた。彼女の気配は妖怪のそれと同じだ。どうやら、『万屋』は人間の身でありながら妖怪を式神にしているらしい。
「成り行きだ。悪いがちょっと付き合ってくれ」
「はいはい、わかってるって。じゃあ、さっさとやっちゃいましょう」
呆れながらもリーマと呼ばれた妖怪は少女の姿から大人へと変化する。その瞬間、彼女から感じる妖力も大きくなったので何か能力を使ったのかもしれない。
「――ッ!?」
だが、その瞬間、『万屋』から混ざり合った力が溢れる。その大きさに私は思わず、目を見開いてしまった。大気がビリビリと震え、まるで重力が何倍にも大きくなったように体にプレッシャーが襲い掛かる。
(これが、彼の本気?)
今までの戦いは彼にとってお遊び程度でしかなかったのだろう。そもそも先ほど使用したスペルカードも弾幕ごっこ用に調整されたものかもしれない。だから、たった数秒で筋肉が破裂した。あまりにも強力な効果だからこそ、数秒でブレイクされるように。
「「四神憑依」」
私が呆気に取られていると『万屋』とその式神が同時にスペルを宣言する。すると、リーマの体は粒子へと変わり、『万屋』へと吸収された。
「
そして、彼は白黒の鎧を身に纏っていた。顔もトラを模したフルフェイスのヘルメットを装着している。なにより目立つのは彼の首に巻かれた白と黒のマフラーだった。バタバタとなびいている右側が白、左側が黒になっている。その姿は香霖堂で見かけた変身ヒーローみたいだと呑気な感想が頭に浮かんだ。
だが、彼から感じ取れる地力の大きさはあまりにも強大だった。それこそ弾幕ごっこでは考えられないほどの地力を内包している。
「……っと」
変身を終えた彼の目の前に新たなスペルカードが出現し、『万屋』はそれを掴む。あれほど強大な地力を持っているのならさぞ強力なスペルなのだろう。
(……そう、だからこそ、付け入る隙がある)
弾幕ごっこは種族間の優劣をなくし、公平に勝ち負けを決めるために作ったものだ。先ほどのスペルカードのようにデメリットも存在するはず。そこを付くしかない。
「要塞『巌窟王の脱獄劇』」
「……え?」
彼がスペルカードを宣言した瞬間、私が何故か岩に囲まれていた。周囲を見渡しても『万屋』の姿はない。まさか、これは耐久スペル?
そう思った刹那、私を取り囲む岩から無数の弾が射出され、私へと迫る。慌てて飛翔し、それを回避した。
耐久スペルは簡単にいえば一定時間、弾を避け続けることを強制するスペルカードだ。こちらの攻撃が届かないとわかっているので避けることに集中できる。
「でも、この弾量はッ」
思わず、悪態を漏らしてしまう。私は今、全方位を岩に囲まれている。そして、その岩肌全てから弾が射出されているのだから弾数も必然的に増えるため、このままではあまりの物量に逃げ場を失い、被弾してしまうだろう。
「ちっ」
駄目だ、冷静になれ。弾幕ごっこの性質上、絶対に攻略できないスペルはない。物量が多い場合、制限時間が設けられているか、特定の躱し方がある。しかし、弾の軌道を見るに特定の法則で動いているわけではない。完全にランダムだ。数分ほど回避しているが終わる気配もなく、制限時間もそれなりに長いのだろう。では、このスペルはどう、攻略するのか?
(探すべきなのは……安置!)
このスペルの攻略法は無数の弾を回避しながら安置を探すこと。だからこそ、最初は物量も少なく、安置を探しやすくしているのだろう。不幸なことに私は最初の内に安置を見つけることができなかったのでこうやって苦しめられている。完全な初見殺し。
だが、そんなスペルだからこそ、攻略法は意外なところに存在している。たとえば――スペル名。
(巌窟王は小説のタイトルだったはず。内容は……)
人里にある貸本屋で前に見かけたことがある。難しそうな本だったので読むことはなかったが、小鈴ちゃんが力説していた。
巌窟王の主人公は簡単にいえば無実の罪で投獄され、何年もかけて脱獄。その後、自身を陥れた相手に復讐していくストーリーだったはずだ。確か脱獄した方法は――。
(――手を貸してくれた神父の死体と入れ替わった)
神父の死体と入れ替わり、海に投げ捨てられたことで巌窟王の主人公は脱獄に成功した。きっと、このスペルもそのストーリーに基づいた攻略法があるはずだ。あるはずなのだが、最初に見渡した時に海は存在していなかった。じゃあ、死体がどこかに置いてある? いいや、それはあり得ない。
もっと考えろ。何か見落としているはずだ。絶対に、攻略法は――。
「――そっか」
そう呟いた後、すぐに私は急降下する。上、下、左右、前、後ろ。ありとあらゆる方向から飛んでくる弾を回避しながらどんどん落ちていく。地表付近へ辿り着き、今度は地面すれすれを低空飛行しながら目的の場所を探す。
(……あった!)
弾と弾の間から見えたのは海へと繋がるトンネル。まるで、私を呼ぶように水面がキラキラと日差しを反射していた。
巌窟王の主人公は何年にも渡って投獄されている。だからこそ、最初は
「ッ……」
右へ左へ弾を避けながらトンネルを潜り、海へと出た。そして、私を閉じ込めていた岩はまるで蜃気楼のように消えてしまう。それを見届けながら私は再び上昇してすでに元の姿に戻っていた『万屋』の前に辿り着く。どうやら、『
「式神『弥生』」
「次は私の番だね」
だが、安心したつかの間、また別の式神を呼び出す。今度の式神――弥生は普通の妖怪とは違い、妙な気配をしていた。これは、竜?
「「四神憑依」」
まずい、と思った時には遅かった。彼らは先ほどと同じようにスペルを使用した。私の予感が正しければ――。
「
――今度の相手は