ほぼ同時に飛び上がった私たちはまずは小手調べと言わんばかりにお互いに霊力を込めた『博麗のお札』を投げた。お札は私と『万屋』の中間地点ですれ違い、投げた相手へと迫る。このまま動かなければ当たってしまうので素直に右に移動。『万屋』も私と同じように私から見て左へ避けた。
「ッ……」
しかし、私を追いかけるようにお札は右へと進路を変える。どうやら、『万屋』の投げたお札には追尾性能が付いていたらしい。即座にお札を投げ、ぶつけて相殺する。
「おっと」
もちろん、私もお札に追尾性能を付けていたが『万屋』もお札を投げてやり過ごした。
つまり、私たちはお互いに追尾性能付きのお札を投げ、右に避けようとし、相手のお札に追尾性能が付いていることに気づき、お札を投げて対処したのである。
「……」
たった一度の攻防。しかし、私たちの動きを止めるには十分なやり取りだった。先ほど、『万屋』は『博麗の巫女』の息子だと言っていたが、私にできることは相手にもできると思った方が良さそうである。
問題は『万屋』がどの結界が得意か。私は『守りの結界』が得意だが、霊奈は『攻めの結界』。師匠は『援護の結界』が得意だった。得意な結界によって戦い方も変わる。
(……それなら)
「霊符『夢想封印』!」
先手必勝。『万屋』の実力を図るためのスペルカードを使用。これで倒せたならそれでいいし、倒せなくとも彼の情報を少しでも得られる。
「霊楯『五芒星結界―ダブル―』!」
「え……」
だが、私がスペルカードを使用すると同時に『万屋』もスペルを使用した。そのスペル名を聞いて思わず目を見開いてしまう。そんな驚いている間にも私のスペルは発動し、周囲に8つの巨大な霊弾が出現。
そして、『万屋』が真上に10枚のお札を投げ、術式を構築する。5枚のお札が結合してできた2枚の星型の結界が彼の左右に移動した。
8つの巨大な霊弾が一斉に飛び出し、『万屋』へと飛翔するがそれを邪魔するように星型の結界が霊弾を受け止めてしまう。星型の結界は全く傷ついていなかった。
相手の出方を窺うために使用したスペルだったが手加減はしていない。それだけあの結界が頑丈ということだろう。
「その、結界……」
いや、そんなことよりも私は気になることがあった。
『五芒星結界』は私と霊奈の師匠――『博麗 霊魔』が使用していた結界だ。もちろん、私も霊奈も師匠から習ったため、術式を組み上げることは可能である。しかし、あれほど師匠の『五芒星結界』を彷彿とさせるものは私たちでは作れない。
「あなた、まさか師匠の……」
「……いいのか? 俺のスペルはまだ
「ッ!」
私の言葉を遮るように彼が組み上げた2枚の星型の結界が回転し始める。そして、回転速度が高すぎて星が円盤に見えるようになった瞬間、結界の側面から無数の霊弾が射出された。
「くっ」
彼が使用したスペルは防御用ではなく、ちゃんとした攻撃スペルだったらしい。回転する星の5つの頂点から霊弾を発射しているのだろう。2枚の結界から霊弾が放たれ、すぐに私の目の前が埋め尽くされる。慌てて早苗のアミュレットを起動し、自動的に『博麗のお札』を射出するように調整して回避に専念。
だが、私が移動すると同時に2枚の結界も追いかけるように移動し始めた。先に仕掛けたのは私なのに気づけば一気に攻防が逆転している。
(とにかく今はあれを何とかしないと!)
博麗の直感を駆使して霊弾の動きを先読みし、何とか躱しながら突破方法を探る。
この霊弾は2枚の星型の結界から放たれている。だから、あの結界を破壊すればブレイクできるはずだ。しかし、あれは『夢想封印』をいとも容易く受け止めた頑丈な結界。闇雲に――今も早苗のアミュレットが星型の結界を攻撃しているが片方の結界がお札を防ぎ、もう片方が霊弾をばら撒いている。
星型の結界は私に向かって霊弾を撃つ時、必ず側面を向けなければならない。おそらく、側面は正面よりも柔らかいのでそこを攻撃すればいいのだが、それをもう一方の結界が防ぐ。もちろん、『万屋』を攻撃しようとすれば2枚の結界が邪魔する。
「ホントに、早苗から借りてよかったわ!」
霊弾を躱しながら早苗のアミュレットの設定を変更。通常弾から
早苗のアミュレットから放たれる『博麗のお札』が片方の結界を狙い始めた。もちろん、それをもう片方の結界が守るために追尾機能の付いたお札を正面で受け止める。そして、その隙に私は受け止めている結界の真下へ移動し、数枚のお札を連続で投げた。もちろん、それも守られていた結界が即座に移動して防ぐ。
これで2枚の結界の動きを止めることができた。あとは――。
「――ここッ!」
私は能力を使い、一瞬にしてアミュレットのお札を受け止めている結界の真上に瞬間移動し、連続でお札を投擲。やはり、側面への攻撃には弱かったのか、やっと星型の結界を壊すことができた。
片方の結界を破壊できたのならあとは消化試合だ。早苗のアミュレットの設定を変更し、それを星型の結界が受け止めている隙に再び側面から攻撃してスペルをブレイク。
まだ1枚目のスペルカードなのにここまで手古摺るとは思わなかった。やはり、『万屋』は相当な実力者だ。簡単に退治はさせてくれなさそうである。
(それに……)
彼は名乗った時、『博麗の巫女』の息子、と言った。誰の息子なのか気になっていたが、あの星型の結界を見ればすぐにわかる。
『万屋』、『音無 響』は私の師匠である『博麗 霊魔』の息子だ。
「もう1枚くらいスペルカードは使わせられると思ったが……そういえばスペルの枚数とか制限するか?」
破壊された星型の結界の残骸が落ちていくのを見届けた『万屋』が問いかけてくる。すぐに弾幕ごっこが始まってしまったため、その辺りのルールは決めていなかった。
「……いいえ、今回は無制限でいきましょう」
「じゃあ、負けの条件は?」
「どちらかが気絶、もしくは負けを認めるまで」
彼からは霊力以外の力を感じる。つまり、手数は私の何倍もあると考えていいはずだ。
きっと、私はスペルカードの枚数を制限した方が有利なのだろう。
でも、それは嫌だった。正々堂々戦いたいとか、私が納得できないとか。色々な理由はあるけれど――私はおそらく、楽しんでいる。彼との弾幕ごっこを。
だから、早く終わらせたくなかった。己の持っている全てを使って『万屋』と戦ってみたかった。
「よし、乗った」
そして、それは彼も同じだったようで次のスペルカードを用意しながら笑う。それに倣うように私も笑いながらスペルカードを構えた。
「それじゃあ、改めて――」
「――弾幕ごっこの始まりね」
今までの攻防は言ってしまえば準備運動。彼の実力はあんなものではない。私もまだ彼の期待に応えていない。
そして――。
「拳術『ショットガンフォース』、蹴術『マグナムフォース』」
「夢符『二重結界』」
彼は両手両足に妖力を纏わせ、私は二重の結界を展開する。
先ほどは私から攻撃したので今度はその逆。お互いに相手の考えていることが手に取るようにわかるため、特に相談もせずに私たちは自然と攻守を入れ替えた。
――私があなたを思い出すまで、あなたを理解するまでこの戦いは終わらない。